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第96話 化物と呼ばれた男 1

 暗い


 暗い


 光が届かない所


 物心がついた時には


 既にそこで暮らしてた


 ・・・・・・・・・


 ーーーオルベリン視点ーーー



 ここは?


 とても懐かしい気持ちになる裏路地


 周りには懐かしい顔触れ


 そして……ああ、ここは……



「やぁ、君がオルベリン?」


 木箱に座っていた俺に男が話しかけてくる

 歳は同じくらいだろう


 ああ、この方は


「そうだが? てめぇは貴族か? そんなやつが何のようだ?」

「初めまして、私は『アルガン・オーシャン』、君を私兵として雇いたくて訪ねたんだ……話を聞いてくれるかな?」


 これが……出会いだった



 ・・・・・・・・


「むぅ……」


 目が覚める


 ここは……何処だ?


 ワシが周りを見回すと


「あっ!」


 メイドがワシを見て驚き


「オ、オルベリン様が起きられました!!」


 そう言って部屋を飛び出した


 少しふらつく身体で立ち上がり

 窓から外を見る


「……ここは……マールか」


 この部屋はマールの城の医務室か?


 ワシは何故こんなところで寝ていたんだ?


 確かマルスヒ平原に居て……それから……


 ドドドドド!!


「むっ?」


 床が揺れる

 そして近付く足音


 バン!


 扉が開かれる


「オルベリン!! 目を覚ましたか!!」


 坊っちゃんが叫ぶ


「何で起きてるんだ!? 横になってなよ!?」


 アルス様に言われ


「オルベリン様! こちらです!」

「足下に気を付けてください」


 ルミルとレムレに手を引かれベッドに戻された


「意識はハッキリしてるのか?」


 ユリウスに顔を覗かれ


「心配しやしたよ」


 シャルスに言われた


「ぼ、坊っちゃん……いったい何事ですかな?」


 ワシが聞くと


「お前は倒れたんだ! 覚えてないのか?」


 ……そうか……そう言えばそうだったような……


「むぅ……」


 軽い目眩に襲われる


「っと、騒ぎすぎたな……オルベリン、まだ休んでろ、数日したらオーシャンに戻るからな?」

「……ふむ、ではお言葉に甘えさせてもらいますか」


 ワシは横になる……するとすぐに意識が遠退いた


 ・・・・・・・・


「断る!」


「なんでさぁ!?」


 俺はアルガンの誘いを拒否する


「はっきり言うが俺は貴族が嫌いだ!! 俺達貧民街の奴等を食い物にしやがって! しかもオーシャンだぁ? 領主だったら尚更だ!! この街を見ろ!! お前達が贅沢してる間にドンドン死んでいくんだよ!!」


 俺の住処の隣に住んでた『ゴード』は、貴族の馬車に轢かれて死んだ!


 向かいの『ベックス』は貴族に汚いからと斬り捨てられた!!


「私兵だぁ? そんなものを作る余裕があるならもっと治安を良くしろ!!」


「うっ、普通に正論で言い返せない……うーん、私も何とかしたいんだけど……そこまでの権力はまだ無いんだよね……三男(さんなん)だし」


「ならこの話はここまでだ! ほら帰れ帰れ! ここにいたら狩られるぞ!」


 俺はアルガンを追い返す


「わかったよ、今日は帰るよ……また明日来るから!!」

「来るな!!」


 それからもアルガンは本当に毎日やって来た……


 春も


「だから頼むよぉ」

「断る!」


 夏も


「給料とか凄く出せるようにするからさ! 待遇も良くするし!」

「知らねえっつうの!」


 秋も


「見てみて! 任された村で良い山菜が採れたんだ!! 皆で食べよう!」

「俺は食わんぞ!?」


 冬も


「さぶぶぶぶぶぶぶ!?」

「おまっ!? 風邪引くぞ!? ここの寒さ嘗めんな!?」


 本当に毎日やって来た

 しつこかったな……


 ・・・・・・・・


 2年……初めて会ったあの日から2年も経った

 アルガンは毎日かかさずやって来た


「それでそのハゲ野郎に言ったのさ、光ってるのは頭だけにしろってね!!」

『ギャハハハハハハ!!』


「…………」


 アルガンはいつの間に貧民街の連中に馴染んでいた

 貧民街でアルガンを知らない奴は居ないってくらいにな


「お前……本当にしつこいな」

「だって君を諦めきれないからね」


 2人っきりになった時に、俺はアルガンと話していた


「……なんで俺なんだ? お前が任されてる村や配下の兵にも強い奴はいるだろ」

「なんでって……うーん、君が強くて、頼りになって、優しい人だからかな?」

「俺が優しい? 何言ってんだ? 優しい奴は盗みなんかしねえよ」


 俺は……俺達は貴族から盗みを働いて暮らしている

 世の中から見たら犯罪者の悪人だ

 そんな奴を優しいとは……ふざけてる


「優しいよ、だって君は悪どい事しかしてない貴族しか狙ってないし……手に入れたお金も人の為に使ってる……私は知ってるんだよ? 君が孤児院や他の人達に儲けを全部渡してるの」

「……調べたのか?」

「そう思う?」

「…………」


 俺は俯く


「オルベリン、君は凄く強い……でも、このままじゃ駄目だと思うんだ……君は表に出るべきだ、だから私と……」

「断る……俺はここが気に入ってるんだ……俺は産まれたときからここに居んだよ……」

「…………私は諦めないよ、いつまでも君を誘うから」

「……勝手にしろ」


 アルガンは帰っていった


「全く……」


 俺はアルガンの背を見送る……完全に見えなくなってから、自分の寝床に戻る


 その時……


「オルベリン! 大変だ!!」

「んっ? 『シュル』? どうした?」


 弟分のシュルが走ってきた


「『メアリー』が……メアリーが!!」


 メアリー……まだ10歳の妹分だ


「メアリーがどうした?」

「いいから来て!!」


 シュルに引っ張られる


 ・・・・・・・・


「あ、オルベリン!」


 貧民街の連中が集まっていた


「メアリーがどうした?」


 俺は皆を掻き分けながら進む

 そしてメアリーの寝床を見る


「……はぁ……はぁ」


 そこには真っ赤になって、苦しそうにしているメアリーが寝ていた


「メアリー!? 熱っ!?」


 メアリーに触れるととても熱かった……ただの熱よりも酷い


「どうしたんだメアリー!!」


 俺が聞くとシュルが答える


「朝から咳しててさ、さっき倒れて……それで……ああ! オルベリンどうしよう! メアリー死んじまうのか!?」

「バカ言うな! 死なせてたまるか!!」


 俺はメアリーをおんぶする


「医者に見せる!!」

「み、診てくれるのか? 貧民街の住人を?」

「何件か貸しがある奴がいる! そいつらなら!!」


 俺は急いで歩く

 本当は走りたいが……揺らしたらいけない気がしたから急いで歩く


 そして病院に向かう


 ・・・・・・・


「ふざけるな!! なんで診ない!!」

「オルベリン、あんたには貸しがあるが……それとこれは別だ、俺も長く医者をしているが……助かる見込みが無い奴を診る気はない」

「お前医者だろ!? なんとかしてくれよ!!」

「無理だ……じゃあな!」


 バン!

 扉を閉められる……


 アイツが最後だった……全員がメアリーの診察を拒否したのだ

 もうメアリーは助からない……そう言って……


「くそ……くそ……」


 もう周りは真っ暗だ

 俺の背で苦しそうにしているメアリー


 俺は……こんな女の子も助けられないのか……


「他の医者に……金を用意すれば……」


 俺は歩く……諦めることなんか出来ずに医者を訪ねる


 しかし他の医者も拒否してきた……

 貧民街の住人だから

 金がないから

 俺を恨んでるから


 理由は様々だ……

 そして……この街の最後の医者にも拒否された


「…………ちくしょう」


 もう……打つ手が無い……


 諦めるしか無いのか?


「メアリー……すまない……俺がもっと早く気付いていれば」


 お前の病気が酷くなる前に気付けていればこんな事には……

 情けなくて涙が出てきた


「……リン!」


「……あっ?」


 聞き覚えのある声が聞こえた?

 周りを見渡すが誰もいない……もう深夜だから当たり前だ


「……ルベリン!!」


「……っ!?」


 今度は聞こえた! 声のした方を見る


「オルベリン!!」

「……アルガン?」


 アルガンが道の奥から走ってきた


「オルベリン!」


 アルガンが俺の前で止まり……叫んだ


「なんで私を頼らない!!」

「なっ!?」

「シュルから話は聞いた! 城に行くぞ! 私の担当医が居る!! 彼なら診てくれる!」

「……良いのか? 俺はお前を……」

「当たり前だろ!! メアリーが危ないのにそんな事気にするな!! 早く!」

「……すまない……すまない!!」


 ・・・・・・・


 領主の城でアルガンの担当医にメアリーを診せる


「ふぅ……」


 部屋から出てきた医者……『カックル』


「カックル、メアリーの容態は?」

「あれは難しいですね……取り敢えず解熱剤を飲ませました」

「っ!」


 難しい……つまりメアリーは助からないのか?


「そんなに酷いのか?」


 アルガンが聞く


「いえ、病気は大したことありませんよ……問題なのは栄養不足の方です……今の彼女には病気を治す程の体力がありません」

「そんな……」

「メアリー……くそっ!」


 俺もアルガンも落ち込む


「お二人とも何故そんなに落ち込んでるのです?」

「っ! 落ち込むに決まってるだろ! メアリーが助からないって聞いて落ち込まないわけ無いだろ!!」


 俺はカックルの胸ぐらを掴む


「はっ? 何故助からないって事になるんですか?」

『……えっ?』


 俺とアルガンは間抜けな声が出た

 俺はカックルを放す


「難しいとは言いましたが、助からないとは言ってませんよ?」

「な、治せるのか!?」

「言ったでしょ? 彼女には治す程の体力が無いって……なら体力をつければ良いだけです」


 カックルは服を整える


「解熱剤で熱を下げましたから、少ししたら意識が戻るでしょう……そうしたら食べ物を……そうですね、すりおろした林檎でも良いでしょう……取り敢えず何か食べさせます」


 カックルはアルガンの隣に座った


「そして熱が上がったら、また解熱剤を飲ませます……量は少しずつ減らしますけどね、これを繰り返して彼女に栄養を与えてから解熱剤を止めて、薬を飲ませていきます」


「つ、つまり?」


 アルガンが聞く


「時間は掛かりますが……治せますよ、彼女が途中で力尽きなければ……ですけどね」


「そ、そうか! 治せるんだな!!」

 俺はカックルの肩を掴む


「だから、彼女の、体力、が、問題、で、揺らすのやめろ!!」

「あ、悪い……」


「彼女が頑張れば治せます、何度も同じ事を言わせないでください」

「よ、良かった……本当に……良かった」


 俺は床に座り込む


「良かったなオルベリン……それでカックルから見てどれくらい時間がかかる?」

「そうですね……1ヶ月……いや、2ヶ月は掛かりますね、彼女に食欲が有るかどうかで変わります」

「成る程ね……じゃあ、オルベリン……メアリーは暫く預かるけど……君はどうする? 泊まる?」

「……良いのか?」

「良いよ、心配なんでしょ?」

「……助かる」



 ・・・・・・・・


 目が覚める


「……外は夜か」


 ワシは身体を起こす


「あ、起きましたか」

「ルーツか……」


 ルーツが椅子に座っていた……随分と重傷に見えるが……


「カイト様が言ってましたよ、パストーレを攻めるのは3ヶ月後、収穫を終えた後にするそうです」


「ほう……理由は聞いたのか?」

「兵糧の確保と、我々、将や兵達の治療です……カイナスの兵も連れての総力で攻めると」

「そうか……ならワシも早く回復せんとな」

「えぇ、そうしてください……じゃあ私は包帯を変えたので戻ります」

「うむ……すまんな」

「いいえ……では」


 ルーツは部屋を出ていった


「…………」


 ワシは再び横になる……


 そして……少しずつ眠りに落ちたのだった













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