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第95話 マルスヒ平原での戦い 5

 ーーーメビルト視点ーーー


「状況を報告せよ」


「はっ! 負傷者が157人です、死者が75人!」

「兵糧はまだ1ヶ月分はあります!」

「パストーレ軍、陣を2つに分けて布陣しております!」


「…………」


 我輩は兵からの報告を聞いていた


 ルーツを撤退させて6日……

 そろそろ援軍が来るはずなのだが……


「少し厳しくないか?」


 ケーニッヒが言う……

 ルーツを撤退させて少し経った時に、村の救援を果たして戻ってきた

 ケーニッヒが突撃してこなければ我輩も危なかった


「そうだな……ヘルドがユルクルを負傷させたそうだが、ブライとナルールの2人も残っている……今はにらみ合いをしているが……次はいつ攻めてくるか……」


 この6日の間に2回交戦した

 戦力でも数でも不利な我輩達は防戦しか出来ない

 援軍が来なければ我等も敗北するな


「兵達の士気も低い……ここは放棄するべきじゃないのか?」


 ケーニッヒが言う


「それはならん、ここをパストーレに奪われればマール、リユ、ガガルガ……3つの都が狙われる」

「籠城は?」

「今の消耗した兵力でか?」

「……それもそうか」


 我輩達に後退は無いのだ


「メビルト様! 援軍です! メット様とレルガ様が到着しました!」

「本当か! 助かった!」


 兵の報告を聞いて我輩は振り返る

 少ししてから見慣れた顔が現れた


「メビルトさん! 無事か!」

「間に合ったのか!?」


 レルガとメットだ

 あぁ、頼もしいなぁ


「あぁ、間に合ったぞ、よく来てくれた! レルガも来てくれたのか」

「オーシャンにも報告は来てるからな……それと吉報だ」

「んっ?」


 レルガがニヤリと笑う


「カイト様がカイナスに勝利したぞ、今は帰還してる途中の筈だ……数日待てば援軍が来るはずだぞ」

「おお! そうか! カイト様が勝ったか!!」


 これで残す東方の敵はパストーレだけだ


「それで状況は?」


 我輩は2人に状況を説明する

 説明を聞いた2人から連れてきた兵の人数を聞く


 そしてわかるオーシャン軍の兵数は15,000人

 パストーレ軍の兵数は少なく見ても40,000人はいる


「兵の差が大きいな……せめて2万人居れば……いや、無い物ねだりはするべきではないか」


 レルガはそう言うと武器の手入れをする


「そうだな、とにかく今は休んでいろ……パストーレが動いたら我輩達も動くぞ」

『了解!』


 ……そう言えばこの面子は久しぶりだな……マールマールがあった頃は良くこうして話していたな


「…………」


 絶対に勝たなくてはな……


 ・・・・・・・・


 レルガ達が到着してから2日後


「パストーレ軍が動き始めました!」


 兵からの報告を聞き、我輩達も動く


「我輩とレルガで迎え撃つ、ケーニッヒとメットは本陣を任せるぞ」

「ああ、行ってこいメビルト!」


 メットが答える


 我輩とレルガは各々5,000の兵を引き連れて出陣する



「ユルクル……復活してやがる」


 レルガが望遠鏡を覗きながら呟く

 そして我輩に望遠鏡を投げて渡す

 我輩は望遠鏡を受け取り、覗く


 前に見えるパストーレ軍はどうやら3つの軍に分かれてる様だ


 我輩から見て、左からナルール、ユルクル、ブライの並びだ

 兵数は……計30,000とみた方が良さそうだな


 10,000対30,000

 兵器もない状況だと絶望的な差だ


 しかし、抑えなければならない……更に援軍が来るまで……1日でも長く


「レルガ、ブライの相手を任せても良いか?」

「正直厳しいけど……やりますよ」

「頼む、我輩はナルールとユルクルの相手をする」


 兵力差があろうと……敵将を討てば勝てる

 ここが、我輩の死地となるやもしれんな


『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 パストーレ軍が突撃を開始した


「……行くぞ!! 我等に……オーシャンに勝利を!!」

『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 我輩達も突撃を開始した


 ドンドン迫るパストーレ軍

 回り込み等の動きは無いか……なら全力で目の前の敵を討つ!


 お互いに突撃を開始して2分後


『わぁぁぁぁぁ!!』

『うぉぉぉぉ!!』



 両軍が激突した


 ・・・・・・・・・・


「メビルトォォォ!!」


 ナルールが我輩に突撃してくる


「来るか!! ナルール!」


 ギィン!


 我輩の剣とナルールの槍がぶつかり合う


 ナルールの槍を受け流しながら距離を詰める


 そして我輩はナルールの胴体を狙って剣を振る


 ガッ!


「くっ!」


 我輩の剣はナルールの鎧に弾かれる

 やはり、鎧ごと斬るのは厳しいか


「おらぁ!!」


 ナルールは弾かれて隙ができた我輩の心臓を狙って槍を突く


「ふっ!」

 チッ!


 我輩は左腕の籠手で槍を逸らす


「ちっ!」


 舌打ちするナルール


「ナルール、加勢しますよ!」


 ユルクルが槍を振る


 我輩は剣を使ってユルクルの槍を受け流す


 ナルールとユルクル

 2人の槍を受け止め、流し、反撃する

 それを繰り返す


 ……どれだけ時間が経った?

 数分か? 数十分か?

 体力の消耗を感じながら耐える


「ちっ! 相変わらず耐える奴だな!」


 ナルールが面倒そうに言う


「これが我輩の得意分野でな!!」


 耐える戦い……時間を稼ぐ戦い……これが我輩の戦い方だ


「て、敵軍だぁぁぁ!!」


 パストーレの兵の1人が叫んだ


「んぁ!?」


 ナルールが我輩を凝視しながら叫ぶ


「北からオーシャン軍が現れました!!」


 北……そうか、ガガルガからの援軍か!!


「こんな時にかよ!!」

「ナルール、北のオーシャン軍は任せました! メビルトは私が相手をします!」

「ちっ! わかったよ!!」


 ナルールが北に向かっていった


「メビルト、これは貴方の狙い通りで?」

「さあ、どうだろうな!!」


 我輩はユルクルの槍を剣で受け止めた


 ・・・・・・・・・


 ーーーナルール視点ーーー


 あぁ、ウザい!

 バルセの野郎! 一旦逃げたんならもう来るなよ!!


「見えた! アイツらだな!」


 俺は増援のオーシャン軍に兵達と一緒に突撃する


「おら! 散れ散れ! 雑魚どもが!!」


 俺はオーシャンの兵達を槍で次々と仕留める



「敵将は何処だ!! 出てこい!!」


 さっさと仕留めて戻らなければな!


「くっ!」


 1人の男が前に出てきた


「貴様は? まさか貴様が将なのか?」


 こんな弱そうな奴が?


「我が名はヤンカ! オーシャン軍の将だ!」


 …………


「将ねぇ、そんな素人だとわかる剣の握り方でか?」

「っ!!」

「はっ! オーシャンも人手不足と見た!! 戦えない奴を出すとはな!!」


 俺は馬を走らせる


「さっさと死ねぇ!!」

「ぐっ!」


 ガキィン!!


 むっ! ヤンカの奴が咄嗟に前に出した剣に槍が当たって狙いがずれたか


「うわぁぁぁ!?」


 しかしそれでも結果は大して変わらない

 ヤンカは剣を弾き飛ばされて落馬した

 必死に後退りしているが、槍を投げて突き刺せば終わりだ!


「戦場に出た以上、死は常に覚悟していろ!!」


 ブン!


 俺は槍をヤンカに投げる


「ひぃ!?」


 ビュン!

 カン!


「むっ!?」


 俺の投げた槍が別の投げられた槍に弾かれた


「間に合いましたか!」

「ヤンカ大丈夫か!」


 女と……若造?


「ああ、ユリウス様! ティール! た、助かった!!」


 ティール!?

 聞いたことがある……ガガルガで1番の実力者だと……まさか女だとはな……まあそんな事はどうでもいい


 俺は槍を兵から受けとる


「ティール! 俺と一騎討ちだ!!」

 俺が叫ぶ


「望むところです!」


 ティールが前に出た


「ティール!」

「ユリウス様、貴方は兵を連れてメビルト殿の援護を!」

「……わかった!」


「お前達! 俺は良いからユルクルの方に行け!」


 俺は自分の兵に指示を出す


 ティールと戦うんだ……増援を止めるのは無理だと判断した

 ユルクルには頑張ってもらうしかないな


「オーシャンの将、ティール……参る!!」

「パストーレの将、ナルール! いくぞ!!」


 ・・・・・・・・・


 ーーーユリウス視点ーーー


「メビルト!」

「ユリウスか!」


 メビルトは僕を見ずに答える


 戦ってる相手もメビルトに集中してるのか僕を見ない


「加勢する!」

「助かるが、我輩はいい! それよりも南の方でレルガがブライと交戦している! そっちの加勢をしてくれ!」

「わかった!」


 見たところメビルトの方が優勢だ

 僕はメビルトの指示に従う


 一応、連れてきた兵の半分はここに残すけどな!


 僕は更に南に向かう


 そして……


「なんじゃ、また雑魚か」

「ぐっ!」


 矢が数本刺さって苦戦しているレルガ

 それと……少し傷を負っている老将……あれがブライ!!


「レルガ! 加勢する!」

「ユリウス! お前が来たってことは」

「ああ、もう皆近くに来てる!!」


 いや、本当は知らないけど……そう答えた方が士気が上がるだろ?



「ユリウス……ほう、お前がバルセの後継者か!」

「そう言うお前はブライか?」


 一応聞く


「如何にも! 儂はブライ! パストーレの将じゃあ!!」


 そう言って挨拶代わりに矢を射るブライ

 

 パシッ!


「ほう! やるのお!」


 僕は飛んできた矢を掴んで止める


「叔父上とボゾゾの仕返しをさせてもらう!!」


 僕は剣を振る


「面白い! 受けてやるわい!」


 ブライも剣を取り出す


 僕とブライの剣がぶつかり合った



 ・・・・・・・・・・


 マルスヒ平原では激しい戦いが繰り広げられた


 北側ではティールとナルールが一騎討ちを繰り広げ


 東側ではメビルトがユルクルに対して優位に戦っていた


 南側ではレルガとユリウスがブライを相手に苦戦していた


 全体的な戦況は互角だった


 そう……互角だったのだ


『化物』が現れるまでは



 ゾクッ!


 1人の兵士が悪寒を感じる


 ゾクッ!

 ゾワッ!

 ブルッ!


 そこから色んなパストーレの兵達が身体を震わせた


 震えながら……西の方を見る別の兵士


「あ……あぁ……」


 顔色が真っ青になる兵士も現れる

 そして……1人の兵士が叫んだ


「オ、オルベリンだぁぁぁぁぁぁ!!?」


 その叫びは戦場に響いた

 いや、実際にはその兵士の叫びは遠くまでは届いていない

 しかし、付近の別の兵士達が同じように叫んだのだ


「う、うわぁぁぁ!!?」

「ば、化物!!」

「た、助けてくれぇぇぇ!!」


 そんな悲鳴が戦場に拡がる

 そして全ての人間が……化物の襲来を知る



「ちっ! オルベリンが来たのか! ティール! 決着はお預けだ!!」


 ナルールは素早くユルクルの元に向かう


「あ~来ちゃったか……これは無理だな」


 メビルトと戦っていたユルクルはメビルトから距離を取る

 そして近くの兵に叫ぶ


「全軍撤退!! 帰りますよ!!」


 それを聞いた兵達は撤退を開始した


「ほぉ、来たかオルベリン!!」


 一方、ブライは愉快そうに言った


「お主ら! 撤退じゃ! 殿は儂に任せて撤退せえ!」


 近くの兵に伝えると、ブライはユリウスとレルガを無視して馬を走らせた



 パストーレ軍は素早く動いた

 化物の襲来を知ると素早く撤退を開始した



「オーシャンの将! オルベリン! 援軍に参った!!」


 オルベリンが名乗りを挙げる頃には、パストーレの兵達は殆んど撤退していた


「…………」


 メビルトはその光景を見て、オルベリンという存在に頼もしいという気持ちと、恐怖の気持ちを持つのだった



 ・・・・・・・・・


 ーーーブライ視点ーーー


 儂等の兵は殆んど撤退を終えたか!

 仕事が早いのは良いことじゃ!

 これで……心置きなく戦える!!


「オルベリン!! 決着を着けようぞ!!」

「ブライか!! 受けてたとう!!」


 儂は剣を振る

 オルベリンも槍を振る



 ガキィン!!


 お互いの得物がぶつかる


 ……?


「むっ?」


 ……これは……


「なっ!? オルベリンの一撃を……受け止めた!?」


 メビルトが驚いているが……驚くことではあるまいに


「ふん!」


 オルベリンが更に槍を振る


「かぁ!」


 儂は剣を使い、受け流す

 剣からは火花が散る


 キィィィィ!!


 キィン!



「…………」


 やはり……やはりそうか


 儂はオルベリンに背を向ける


「むっ! どうしたブライ! 決着を着けるのではないのか!!」

「ふん! そうしようと思ったが! 興が冷めたわ!! 退かせてもらう!!」


 儂は撤退する

 既にパストーレの軍は撤退を終えていた



 ・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー



 俺がマルスヒ平原に到着する頃には全てが終わっていた


 メビルトを始めとした将達に迎えられながら本陣に入る


 本陣には援軍として向かわせたオルベリンや、ガガルガに行っていたユリウス達に、ヘイナスに行っていたアルス達もいた


 アルスが到着した時にはもう終わってたらしくて、アルスは不貞腐れていた


「状況は?」


 俺は馬から降りてメビルトに話を聞く


「はっ! 2日前に援軍の到着にてパストーレ軍は撤退しました、昨日アルス様の軍が到着されて、今日に到ります……現在はパストーレ軍が完全に撤退したのを確認している途中です」


「そっか……被害は?」

「死傷者が600程です」

「……死者は丁重に弔ってくれ」

「はっ!」


 それにしても600人か……ルーツ達の時の犠牲も考えたらもっと多いよな


 暫くは戦は出来ない……


 悔しいが……結果的に見れば俺達の敗北だ

 軍備を整えるのに時間が掛かるからな

 パストーレは時間を勝ち取ったのだ……


 ・・・・・・・・・


 更に3日後


 ーーーパストーレーーー


「それは本当かブライ?」


「ええ、間違いありませぬ」


 ブライは主であるテリアンヌに報告をしていた


「それは信用できるのか?」


 テリアンヌの問い


「儂の長年の経験が確信しております」


 ブライは自信満々に答えた


「しかし……相手は『化物』だぞ?」

「皆はそう言って怯えておるが、あやつも人間なのですよ」

「そ、そっか……」

「間違いありませぬ、オルベリンはーーーーーー」



 ・・・・・・


 ーーーオルベリン視点ーーー


「はいはい撤収撤収!」


 パストーレ軍が完全に撤退したのを確認できた

 ワシらは陣を片付け、帰還する準備を整える


「はぁ!? ヘルドが!? マジか!?」


 少し離れた所で坊っちゃんがアルス様と話をしておられる

 ほお、サルリラが妊娠したか……祝いせんとな


「ヘルドがねぇ……」

「お、お祝いしないと!」


 ユリウスやルミルとレムレ等も話に加わっている

 ……随分と若手も育ってきたな


「…………」


 ふと、頭をよぎった


 ワシ、ヘルド、ルーツ……3人しか将が居なかったあの頃

 サルリラが加わり、マールマールに勝利し……


 そして……今は東方を制圧しようとしている


 本当に……本当に坊っちゃんは成長された、立派になられた


 先々代の『アルガン』様、先代のベルドルト様

 お二方にも果たせなかった事を……坊っちゃんが果たそうとしている


 今の坊っちゃんなら……何の心配も無い

 パストーレを攻略し……いずれはこの大陸を…………



 ーーーカイト視点ーーー


 ドサッ!


 そんな音が聞こえた


「うん?」


 俺は音のした方を見る


「…………」

「オルベリン?」


 そこにはオルベリンが倒れていた


「えっ? はっ?」


 俺はオルベリンの側に行く

 アルス達も気付いてオルベリンの側に行く


「…………」


「オルベリン? おい! オルベリン!!」


「…………」


 返事はない

 呼吸はしているが……意識は無い


「嘘だろ! おい! 誰か! 軍医を連れてこい!!」


 俺は不安感を感じながら叫ぶのだった




 ・・・・・・・・・・・


 ブライはテリアンヌに言った



「オルベリンはーーーーーーーーー
















 間もなく死ぬでしょう

























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