第94話 マルスヒ平原での戦い 4
ーーーカイト視点ーーー
「成る程な……村の襲撃と突然の雨……」
俺はルーツから話を聞いていた
「はい、村の襲撃は賊の仕業だと報告を聞きました」
「パストーレが賊を利用したって可能性は?」
「それはわかりません……ですがその可能性は低いかと、パストーレの位置と賊の住処は離れてますから、我々の目を盗んで賊を利用するのは厳しいかと」
そうだよな……パストーレがオーシャン領に入るにはどうしてもマルスヒ平原を通る必要がある
あそこにも砦があるから兵に見張りは常にさせている
もし怪しい奴が現れたら直ぐに連絡が来るからな……
賊が村を襲ったのは偶然と考えるしかないな
「それに雨か……」
雨ならたまに降るから珍しくはないんだが……
「そのせいで火薬が湿気って……折角の爆弾がパーですよ」
爆弾、それが武力の低いルーツが敵と戦う為に用意した武器だ
それが使えなくなった……ルーツは戦えなくなったって事だな
「本当にパストーレに都合が良いことばかりだな……」
なに? 幸運なの? 超級の幸運なの?
「それで、ルーツはさがっていたのに負傷したのか?」
「はい……私達が交戦したのはナルールの軍だったのですが……」
・・・・・・・・・
ーーールーツ視点ーーー
「報告です! ヘルド様が敗走しました!!」
「っ!?」
その報告を聞いて私は驚く
……ヘルドが負けた?
「あ、相手は誰でした?」
「ユルクルです! 敵の策にかかり、火計を受けたとの事です!」
「ユルクルか……」
アイツならヘルドとの相性は最悪だ……
武勇に特化した相手ならヘルドなら勝ってくれるが……知勇に優れた相手はヘルドには役不足だ……
私なら……なんとか出来たかも知れないが……
「くっ! ヘルドの容態は?」
「火傷が酷く、戦闘は不可能との事でヘイナスまで撤退するそうです」
「そうですか……ケーニッヒは?」
「近くの村が襲撃されてるそうで、その救援に向かってます!」
「わかりました……」
あの黒煙は私も気になってました……ヘルドはその対処にケーニッヒと兵を向かわせたと……自分の戦力が減るのも承知で……
「ユルクルは? こっちに向かってきてますか?」
「いえ! ヘルド様との交戦で負傷したようで後退しました!」
「そうですか……」
ヘルドもただでは負けないって事ですね
「しかし、一部の敵兵がこちらに向かってるとの事です!」
「仕方ないですね……ユルクルの軍も相手をしないといけないようだ!」
兵に指示を出さないと……
「申し上げます!!」
別の兵がやって来た
「どうしました?」
「バルセ様の軍がブライと交戦! 一部の敵兵がこちらに向かってきてます」
「っ!! ブライめ! オルベリン以外は眼中にないか!」
バルセ殿やボゾゾを嘗めてるな!
しかし三方向からの敵兵を相手にしないといけない
「ナルールはメビルトが抑えてくれてますが……挟撃されたら流石に厳しいですよね……」
どうする? 私達も撤退するべきか?
1度都に戻って援軍を要請し、再び交戦……
「いや、厳しいですね」
殿を務める者達が無事だとは思えない……
少なくともブライと交戦してるバルセ殿の軍と村を救援するために離れてるケーニッヒが危険だ
「私が戦えれば……くっ! なんでこんな時に雨が降るかな!!」
取り敢えず、メビルトに敵兵が来ることを伝えないと!!
私は前線に向かう
・・・・・・・・
「ふん!」
「ぐぅ!」
前線に着くと兵達が戦っていた、メビルトもナルールと戦っており、優勢だった
「メビルト!」
「ルーツ!? どうしたのだ!?」
メビルトは私と話ながらナルールと戦う
余裕ありますね……
コッソリと敵兵の事を伝えたいのですが……それは無理ですね
仕方ない、ナルールにも伝わってしまいますが……
「ユルクルとブライの兵の一部がこちらに向かっています! このままでは三方向から挟撃されます!」
「っ! ヘルド達は殺られたのか!?」
「ヘルドは敗走、バルセ殿は未だに交戦中です!」
「そうか! ならさっさとこいつを片付ける!!」
ギィン!
「っと!!」
メビルトがナルールの槍を弾き飛ばす
ナルールは少し後退し、剣を抜く
「はっ! どうやらユルクルの考えた通りだな!」
そう叫ぶナルール
「なに?」
私はナルールを見る
「三対三の状況を作り、相手を見てから他の軍に兵を送る、そうすることで我等は優位に立てる! 癪だがアイツの策は成功したわけだ!!」
愉快そうに笑うナルール
「貴様を討てばその策も失敗となる!」
メビルトが叫ぶ
「俺が簡単に殺られると思うか?」
ビュン!っと剣を素振りするナルール
「これでも停戦の間に鍛えたからな……昔とは違うんだよ!! 今ならオルベリンにも負ける気がしない!!」
……いやそれは流石に言い過ぎだろ
ハッキリ言ってヘルドと互角か弱いくらいにしか感じない
「それは我輩も同じ事!」
そうだ、メビルトも遊んでいた訳ではない……
私の手助けをしながら、彼も己を磨いたのだ
今のメビルトならヘルドにも勝てる
「ルーツ! 我輩が敵を引き受ける! その間にマールから増援を頼む!」
「良いのか? 数日掛かるぞ?」
「構わない! 抑えてみせよう!!」
「わかった!」
私は馬を走らせる
「させるか! 弓兵!!」
ヒュンヒュン!
矢を射る音が後ろから聞こえてくる
ドスッ!
「うっ!」
私の左肩に矢が刺さる
ドスッ!
背中
ドスッ!
腰
ドスッ!
右の脹ら脛
それでも私は馬を走らせた
痛む身体をむち打ち、ずっと走らせた
夜も休まず、馬が倒れそうになれば道中の村で馬を買い変えて走る
そしてマールに到着し、直ぐにメットに兵を連れて出撃させた
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「そして私は傷の手当てをして今に至ります」
「ってことはルーツは戻ってきたばかりなのか?」
「そうですね……傷の手当てに1日かかりましたからね……その後、疲労から3日程意識を失っていて……恐らくメビルトは今もマルスヒ平原で戦ってるかと……」
そっか……だから慌ててた訳か
マルスヒ平原からマールまでの往復には時間がかかる
恐らくメットの軍はマルスヒ平原に到着したかしてないか……微妙だな
「私がもっと策を考えていれば……いや、もっと万全な状況を作っていれば……くっ!」
悔しそうなルーツ
「ルーツ、お前は悪くない……なんて言うのは甘過ぎるか、確かに勝てる状況を作るのがお前の役目だ……だから反省はしろ……でも後悔はするなよ? 今回の事で次はどうするべきかを学んだんだろ?」
「……はい、布陣してる間に罠を用意し、敵を誘導して罠に嵌めるべきでした」
「そうだな、そうする時間は有ったからな……なら次はそうしろ、それで……次は勝とうぜ」
「はい……必ず!」
ルーツの目に闘志が宿る
よし、元気になった
「取り敢えず後は任せろ、俺達がこれからマルスヒ平原に向かう」
「カイト様がですか?」
「あぁ、俺だけじゃないぞ? アルスやユリウス達も向かうだろうし……既にオルベリン達が向かってるからな……俺が着く頃には決着がついてるかもな」
「それは、頼もしいですね……」
ふふ、と笑うルーツ
「ああ、だからお前は安心して休んでろ……いいな?」
「はい……カイト様……ありがとうございます」
俺は部屋を出る
さて、レムレと合流してマルスヒ平原に向かうか