第92話 マルスヒ平原での戦い 2
ーーーアルス視点ーーー
兄さん達と別れてからヘイナスを目指した僕とルミル
4日程かかってヘイナスに到着した
「アルス様がいらっしゃたぞぉぉ!!」
「門を開けるんだ!!」
外壁の兵が叫ぶ
開く外門
ヘイナスに入る
「……何て言うか、予想よりも元気だ……」
「戦意は失ってませんね」
僕とルミルは兵達を見ながら話す
敗走した後だから、凹んでたりすると思ったんだけど……
「ルミル、僕はヘルドに会ってくる、君は兵の再編を任せていいかい?」
「はい! 任せてください!!」
僕はルミルに兵を任せて城に入る
・・・・・・・
メイドや警備の兵にヘルドの居場所を聞くと
「ヘルド様なら、医務室の方にいらっしゃいます」
「医務室だな」
僕は医務室に向かう
医務室の前に着き、扉を開ける
「ヘルド、怪我は大丈夫……か……」
中に入るとベッドの上でサルリラがヘルドに覆い被さっていた
服は着てるが……顔は密着してる
どう見てもキスしてるな
……うん
「また後で来るから程ほどにな?」
「ま、待ってください!!」
「邪魔して悪かったな、玉座の間に居るから終わったら教えて」
「大丈夫っす! 大丈夫っすから!!」
2人に止められる
「本当に? 大丈夫? 盛り上がってたんだろ?」
「しないっすよ!? 子供がいるんっすっから!!」
そう言ってサルリラは自分のお腹を撫でる
「えっ? そうなの?」
僕はサルリラの腹部を見る
……うーん、服越しだからか、よくわからないが……
まあ、こういうなら確かなんだろうな
「じゃあ遠慮なくお邪魔させてもらうよ」
僕は椅子をベッドの側に運んで座る
そしてヘルドを見る
「……重傷だね」
「情けない……」
ヘルドは身体中に包帯を巻いている
僅かに見える肌の様子を見るに……
「火傷?」
「ええ、軽いやつですけどね、医者が言うには2ヶ月は冷やすそうで……完治するには1年かかると……」
ため息を吐くヘルド
凹んでるな
「1年か……まあ仕方ないよ、ムリして悪化したら最悪だし……それで? マルスヒ平原で何があったの? 火傷したってことは火で何かあったの?」
「ええ、完全にやられましたよ」
僕はヘルドから話を聞く
・・・・・・・・・
ーーーヘルド視点ーーー
俺達はパストーレ軍が向かってくるのを確認して
進軍を開始する
「ルーツ達も進んでいるな……よし、足並みを揃えて向かうぞ!!」
突出しないように速度を合わせる
この3方向からの攻撃は同時にやるから意味がある
ルーツはそう言っていた
「ヘ、ヘルド様!!」
1人の兵が騒ぎだす
「どうした?」
俺が兵を見ると
「あ、あそこ! 煙が!!」
兵は南の方向を指差す
俺はその方向を見る
「……黒煙?」
もくもく、と黒煙が昇っていた
「……おい、ケーニッヒ」
「……なに?」
「あっちには……確か村があったよな?」
「ああ……あったな」
『…………』
つまり……村が襲撃されてるってことだ!!
「ど、どうする?」
ケーニッヒが俺を見る
「ケーニッヒ、村に兵の一部を連れて救援に行ってくれ!」
「良いのか? パストーレの連中を相手にするなら全員居た方が……」
「その為に村を見捨てるのか? 俺はそんな事は出来ない!!」
「…………わかった、行ってくる……死ぬなよ!!」
ケーニッヒが数百人の兵を連れて村に向かった
「ヘルド様! パストーレ軍も動き始めました!」
兵の報告
望遠鏡を使い、パストーレ軍を見る
「向こうも3方向に分かれるか」
各々の軍団に各々で対処する
囲まれてでの交戦よりはマシと判断したな
さて……俺の相手は……
「あれは……ユルクルか」
昔、戦った事がある……結構厄介な相手だ
「他に将は……居ないみたいだな」
兵の数で僅かに不利か……
それなら俺が勝てばいい……
俺は前に出る
ユルクルも前に出てくる
「やあ、久し振りだねヘルド」
友人に会うかのように声をかけてくる
「ああ、6年ぶりか?」
俺は槍を構える
「マールマールの防衛戦の時だから……うん、それくらいだね」
あの時は、ユルクルがマールマールへの援軍としてやって来たんだよな……
メビルトと組んで突撃してきて……オルベリンが居なかったら俺は死んでたな
「人が忙しいときに攻めてくるのは卑怯じゃないのか?」
俺がユルクルに言う
「いやいや、相手が驚異なら卑怯だとは言えないよ、オーシャンははっきり言って驚異だからね……ここで削れるだけ削らないと」
ユルクルも槍を構えた
「そうかい!」
パシン!
俺は手綱を叩いて馬を走らせる
「はは!」
ユルクルも馬を走らせる
ドンドン近付く俺とユルクル
ギィン!
お互いの槍がぶつかり合う
「じゃあ死合おうか!!」
「上等!!」
ユルクルが左手で持つ槍を横に振る
俺は馬を後退させる
槍の先端が俺の腹部の目の前を通り過ぎる
すぐに馬を前進させる
「ふっ!」
ユルクルの喉を狙って槍を突く
「っと!」
ユルクルが身体をそらして槍を避ける
「はは! また強くなってるじゃないか!!」
「そりゃどうも!」
余裕な態度がイラつく
だが、これは挑発だ……乗るなよ俺!
「……ふむ」
ユルクルが俺を見て思案する
誘いに乗らないから作戦を考えてるのか?
「随分と臆病になりましたね? 昔の貴方ならもっと攻めてくるのに」
「俺も成長したって事だろ!」
もう突っ込むだけが能じゃねえんだよ!
「成長ねぇ……あ、そっかぁ!」
ポン! とユルクルは手を叩いた
「臣下は主に似ると何処かで聞きましたよ!」
そして楽しそうに言った
「君の主のカイト・オーシャンは、臆病者って事だね!」
…………
「ユルクル……今の言葉を取り消せ」
「おや? どうしたのかな? 事実を言われて気に障った?」
「もう一度だけ言う……取り消せ」
「断る、臆病者に臆病者と言って何が悪いんだい?」
ブチッ!
「後悔させてやる!! ユルクルゥ!!」
俺は馬を走らせる
「おっと!! きたきた!!」
キィン!
俺の槍を受け止めるユルクル
「その口を二度と開かなくしてやる!」
「はは、怒ってるね!」
俺の振る槍を受け止め続けるユルクル
「っと! 流石に厳しいか!」
そう言ってユルクルは後退を始めた
「待て!! 逃げるな!!」
俺はユルクルを追う
途中で俺を止めようとしてくるパストーレの兵を槍で殺しながら突き進む
もう少しでユルクルに追い付く
そんな時に……
「ヒヒーン!!」
「ぬぉ!?」
馬が足を滑らせて転ける
落馬した俺は勢いを利用してすぐに立ち上がる
「んっ? なんだこれ?」
地面を転がったのだが……濡れていた
雨は最近降っていないのに……
俺は身体に着いた泥を見る……この匂い……酒か?
「よし、上手くいきましたね」
ユルクルが馬を止めて振り返る
「ユルクル!」
ええい! こんなの気にしてられるか!!
俺はユルクルに突っ込む
「今だ! 火矢を放て!!」
「!?」
その掛け声を聞いて俺は止まってしまう
ヒュン! ヒュン!
飛んで来る火矢
火矢は俺の側に突き刺さる
そこから一気に火が燃え広がり、俺の身体にも火が移る
「ぐぁぁぁぁぁ!!?」
炎の熱が、痛みが全身を駆け巡る
「そのまま焼け死んで下さい」
ユルクルの声……
どうする? このままじゃ本当に焼け死ぬ
……水! 水は無いのか!?
視界が霞む
「ぐ……うぉぉぉぉ!!」
「なっ!?」
水が無い……どうやら俺はこのまま焼け死ぬみたいだ
それなら……せめてユルクルだけでも殺そう
主を侮辱されたんだ、このままになんてできるかよ!!
俺は槍をぶん投げる
ドスッ!
「が、ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ユルクルの叫び声
何処かに刺さったみたいだな
俺はそのまま倒れる
あー、くそ……もう動けない……
「か、かは! くっ! 全軍後退!」
ユルクルの苦しそうな声
ポッ
んっ? なんだ?
ポッ、ポッ
そんな音が聞こえる
「馬鹿な! なんでこんな時に!!」
少し遠いがユルクルの声が聞こえた
ザァァァァ!!
あ、冷たい……これは……まさか……雨か?
シュゥゥゥゥ……
火が消えていくのがわかる
冷たい雨が気持ちいい
俺……助かったのか?
・・・・・・・・・・
ーーーアルス視点ーーー
「雨に救われたんだな」
「ええ、その後、駆けつけた兵に運ばれてヘイナスまで戻りました」
ヘルドは頭を下げる
「申し訳ありません……挑発だとわかっていたのに……抑えきれずに……」
「気にするなヘルド……僕も兄さんをバカにされたら怒るさ」
それにしても……村を襲撃したのは何者なんだ?
ヘルドは知らないみたいだ……ケーニッヒなら知ってるかもしれないが
「取り敢えず事情はわかった……じゃあ僕達はマルスヒに向かうよ」
「それなら俺も!」
「馬鹿か!! そんな状態で動こうとするな!!」
僕はヘルドに怒鳴る
「ヘルド、お前がやることは先ずは身体を治すことだ! いいな?」
「しかし……」
「お前が死んだりしたらサルリラと子供が悲しむぞ?」
「っ……」
ヘルドがサルリラを見る
そしてサルリラのお腹を見る
「…………わかりました、アルス様……後は頼みます」
「ああ!!」
こうして僕とルミルはマルスヒ平原に向かう事になった
兄さんもきっとこうするよね?
よし! 早く行こう!!
オルベリン達も向かってる筈だからね!!