第90話 憎悪の矛先
「離せ! 離さんか無礼者がぁぁ!!」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
少ししてからケーミストとゴルースが拘束された状態で連れてこられた
いやーケーミストは状況が理解できてないのか元気だな~
ゴルースは真っ青な顔してらあ
俺の少し前に来たところで膝をつかされる2人
ゴルースは兵1人で余裕だが、ケーミストは重いのか3人で連行していた
「さて、初めましてになるなケーミスト」
「貴様ぁ! カイト・オーシャン!!」
「こら暴れるな!」
「押さえろ!」
「このやろ!」
兵の2人が押さえつけ、1人が棒で足を殴る
バシッ!
バシッ!
バシッ!
数回殴り、耐えれなくなったのかケーミストは膝をついた
「もう話していいか?」
俺はケーミストを見る
黙ってるな……じゃあ話をしようかな
「お前は」
「貴方様に降ります!! どうか! どうか! お助けを!!」
「…………」
ゴルースに遮られた……
「あのさ、人の話はちゃんと聞けって両親に教わらなかったのか?」
「どうか! どうかぁぁぁ!」
「聞いてないか……」
先にコイツを黙らせるか
「ゴルース」
「は、はい!!」
「お前さぁ、昔俺に『青二才』とか言ってたよな? そんな奴にそんな媚びへつらって恥ずかしくないのか?」
「は、恥などありません! 貴方様こそ領主に相応しい御方です!!」
「『後悔するぞ小僧』とか言ってたよな?」
根に持ってるつもりはないが、よく覚えてるぞ?
「そ、それは……し、仕方なかったのです!! そうでもしないと私も処刑されていたので!!」
「ほぅ? つまり本心ではないと?」
「勿論です!! 誰がこのような愚か者に従いますか!! 己の身を守る為に仕方なく……仕方なくなのです!!」
叫ぶゴルース
「へぇ~そうなんだ~」
「必ず! 必ず! 貴方様に勝利をお届けします! ですのでどうか私を配下に!!」
「あのさゴルース……俺知ってるんだぞ?」
「な、何をですか?」
俺は紙の束から1枚抜き取る
「お前、随分といい思いをしてきてるな、ケーミストが独占した食糧の3分の1はお前が貰ってるなぁ……かなりの量だ、お前さ……この食糧を高値で売りまくったろ? 貴族とか金持ちにさあ」
「っ!」
青ざめるゴルース
「民を助け、導く筈の立場である癖にこんな事してさ、んで? 主が負けたらアッサリと見捨てて己の保身か? 随分と都合がいい頭してるな?」
「そ、そんな事! コイツらにも言えることではありませんか!!」
ゴルースが周りのカイナスの将達を見る
「コイツらも己の保身の為に主を裏切った!! 私だけではありません!!」
必死に叫ぶゴルース
「言うねゴルース、ヒヒヒ!」
ブルムンが笑いながら前に出る
「確かに自分達は保身の為に裏切った、だが……あんたとは違う、今のカイナスを変えたいって気持ちもあったのさ、ヒヒヒ!」
「そんなの詭弁だ!!」
「はいはい止め止め!」
2人を止める
そして俺はゴルースを見る
「ゴルース、彼等は戦をする前から俺の配下になっていた、勝てるかどうかもわからない戦の前にだ、それがお前との違いだ! 少なくともお前みたいに負けてからの命乞いで裏切った訳ではないぞ? 彼等はこれから民に償っていくつもりなんだからな」
「そ、それなら私も!!」
「いいぞ、お前に償う機会をやるよ」
「お、おおおお!!」
目を輝かせるゴルース
「食糧を独占した罪、民を蔑ろにした罪、あとはそうだな……なんか色々有りすぎて言うのめんどくさいな……」
俺は持っていた紙を投げる
ゴルースの悪行が一杯書いてて、読むのが面倒になった
「この色々な罪を……お前の命で償え」
「…………はい?」
理解できないって顔だな
「だから……処刑って事だ」
俺はゴルースを見ながら言う
「な、な、な!!」
「お前の罪は重いってことだよ」
いや冗談抜きで酷いからな?
お前の血は何色だぁぁぁ! って言いたいくらいだ
「い、嫌だ!! 処刑なんて嫌だぁぁぁぁ!!」
叫ぶゴルース
煩いな
「黙らせろ」
「はっ!」
ゴスッ!!
ドサッ!
兵がおもいっきりゴルースを殴って気絶させた
よし、静かになった
「さて、次はお前だなケーミスト」
「…………な」
「んっ?」
「ふざけるなぁぁぁぁ!! 何故だ!! 何故儂がこうなる!!」
暴れるケーミスト
さっきまで静かだったのはなんなんだよ?
やっと状況を理解したのか?
「何故って、お前が負けたからじゃないのか?」
「何故儂が負ける!!」
「お前が部下や民を蔑ろにしたからだろ?」
「それがどうした!! 道具など壊れれば新しいのを使えばいいのだ!!」
「道具ねぇ……」
成る程な、コイツはクズだな
「あのさ、将も民も……俺達領主も人間なんだぞ? 道具なわけないだろ?」
「違うな!! 将も民も! 領主の欲を満たすための道具だ!! 働かせて働かせて、壊れたら取り替える! そうして儂の欲を満たすための存在だ!!」
「そんな考え方だから負けたんだぞ?」
「ふざけるな! 儂は天下をとる男だ! こんな事で死ねるかぁぁ!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐケーミスト
「貴様ら! 今すぐこの小僧を殺せ!! そうすれば裏切りの罪を許してやる!!」
『…………』
ほらほら、カイナスの将達が呆れた目で見てるぞ?
「オルベリン! 儂の配下になれ! 儂は天下をとる男! こんな小僧なぞ捨てろ!!」
「……貴様ぁ」
「オルベリン、待て」
剣を抜こうとするオルベリンを止める
危ない危ない……もう少し止めるのが遅かったらケーミストの首が飛んでたぞ?
ケーミストの処刑はオルベリンがやることじゃない
「小僧! どうだ? 今すぐ儂に謝り、儂の拘束をとけば許してやるぞ?」
「…………」
あーやっぱり駄目だな
ワケわからん、どんな思考回路してんのコイツ?
正直このまま喚いてるのを見ているのは不快なだけだな
「はぁ……処刑」
俺がそう言うと
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!! 何故だ! 何故儂が死なねばならんのだぁぁぁ!!」
「…………はぁ」
俺は立ち上がりケーミストの前に立つ
そして……
ドゴォ!
「ぐぉ!!」
「坊っちゃん!?」
俺はケーミストの顔面を蹴り飛ばした
後ろに倒れこむケーミスト
ゴスッ!!
俺はケーミストの顔を踏みつける
「ふざけてるのは貴様だろうが!! 貴様の欲の為にどれだけの者が死んだ? 貴様の我が儘でどれだけの者が処刑された? 何が天下をとる男だ! 領主として生きるからには死ぬ覚悟も決めていろ!! 」
「ぐぁぁぁ!!」
ケーミストの鼻から血が流れる
口からも血が垂れてきている
「痛いか? だが民達の痛みはこの程度じゃないぞ? 貴様の処刑は直ぐには終わらせない……おい!! なんか長く苦しむ処刑方法はあるか?」
俺は周りの将達に聞く
「はい!」
「はいユリウス!!」
「獄中で食事も水も与えずに衰弱させて、その後首吊り!!」
「民の受けた飢えの苦しみと首吊りの苦しみを与えるわけか!」
いいね!
「よろしいですか?」
「はいルミル!」
「火炙りとかどうでしょう? 煙で苦しむのと、炎で徐々に身体を焼くのはかなり辛いと聞きました」
「ケーミストの丸焼きだな、不味そうな名前だな……」
だが苦しむだろうな
「…………」
「えっと……マリアット?」
無言で挙手するマリアット
「…………磔」
「……磔? あー見せしめ?」
「(コクリ」
そうだな……民達の溜飲を下げるには良いかもしれない
今まで自分達を苦しめた男が磔にされるんだ……少しはスッキリしてくれる……か?
「他は?」
『…………』
他は無いか
「さて……どれを採用するか……」
俺は考える……足下でケーミストがもがくからもう一回踏みつけて
「よし! 決めた!!」
俺は処刑の指示を出した
・・・・・・・・・
ゲルナルの広場
そこではオーシャンの兵達が食糧を調理して、飢えていた民達に食事を与えていた
民達は久し振りの……本当に久し振りの食事に涙を流していた
一気にかきこむ子供
有り難そうに拝む老人
一口一口、味わっている女性
皆が思い思いに食事を楽しんでいた
「んっ? あれはなんだ?」
1人の男が城の方からやって来た兵達を見る
兵達が広場の中心でゴソゴソと何かを準備する
「なんだなんだ?」
「どうしたんだろ?」
民達が集まりだす
少ししてから
「降ろせ!! 降ろせぇぇぇ!!」
「嫌だ、嫌だぁぁぁぁ!!」
それぞれ丸太に縛り付けられたケーミストとゴルースが運ばれてきた
丸太が立てられ、磔にされる2人
丸太が固定され、1人の青年がやってくる
「おい、あの方は……」
「あの人がカイト様か?」
民達がざわつく
「カイト様? これは?」
広場で料理を配っていた兵がカイトに声をかけた
「ああ、これから説明する」
カイトは周りを見渡す
民が集まってくるのを確認し
「カイナスの民達よ!! 君達を苦しめたケーミストは磔にした!! これより1週間! コイツを磔にし、その後処刑する!!」
兵が立て札を持ってくる
立て札にはこう書いてる
『咎人、ここにあり』
それだけである
「さて、俺は戻る」
そう言ってカイトは城に戻った
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
俺は城に戻る
城壁を上がり、上から広場の方を見る
遠いが様子は確認できる
さて、そろそろ始まるかな……
「お、やっぱりだな」
民の1人がケーミストに石を投げた
それを皮切りに次から次へとケーミストやゴルースに石が投げられる
「…………」
俺は城壁の上からその様子を見続ける
正直いい気分ではない……だが目に焼き付けないといけない
あれが1人の領主の結末なのだ
民を蔑ろにした領主の結末なのだ
「……ああならないようにしないとな」
民を安んじる
そんな領主になろう
・・・・・・・・・・
1週間、俺は将達と話し合いながら過ごした
内政をどうするか
都を誰に任せるか
取り敢えず決まったことはゲルドとモルスが俺と一緒にオーシャンに来る
戦力の強化だ、オーシャン領の中心であるオーシャンなら何処の援護にも行けるからな
そしてゲルナルはブルムンに任せた
彼には色々動いてもらったからな
最初に内応してもらって
そこから次に内応してくれそうな将を紹介してもらい
俺とブルムン、両方から説得して寝返させ
そしてまた次にとやっていた
彼のお蔭で全員を寝返させられたのだ
本当に助かった
それと城内を調べたら大量の財宝を見つけた
宝石やら金やら銀やら
こんなに貯めてどうすんだってくらいだ
民からかき集めた税をこんな事に使ったのかと呆れたが……
民に返そうにも誰がどれだけ奪われたかわからないからな
だから返還はしない
その代わり、カイナスの民達の税を20年程免除することにした
財宝を使えば税を徴収しなくても暮らしていけるからな
そして、俺は今、広場に来ている
『……………』
俺の前には磔にされたケーミストとゴルース
ボロボロになり、糞尿を垂らした姿だ
彼等の足下には大量の藁が敷き詰められている
そして周りを石で囲っている
「……これより、処刑を始める」
最早虫の息だけどな
「ルミル……レムレ」
『はい』
ルミルとレムレが松明を持っていく
2人が処刑を実行する……そういう約束をしていた
最初は断ろうと思ったが……覚悟を決めた眼を見たら……許可してしまった
そして松明を藁に投げ込む
藁が燃える
火はドンドン燃え上がる……
丸太も燃え始め、そして……
「がぁぁぁぁぁ!!?」
「熱い! 助け! ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
断末魔が響く……
目の前で燃えていく人間
「うわ……」
「っ!」
俺の側でアルスとユリウスが息をのむ
「2人とも、目をそらすな……目に焼き付けろ……これも領主の結末の1つだ」
俺は2人に言う
アルスは俺に何かあれば領主になる人間だ
ユリウスも領主を目指した人間だ
だから見るべきなんだ……
丸太が崩れる、落ちる2人
ドンドン燃えていく
人が燃える臭い
……キツいな
こうして……独裁をしていたケーミストは死んだ
ケーミストとゴルースの一族の処遇はブルムンに任せた
正直、全員処刑ってのは俺には言えなかった……
出来れば公正な処遇を頼むとは言ったが……どうなることやら
・・・・・・・
3日後
俺達はオーシャンに帰還する事にした
もう出来ることはやったしな!
「じゃあブルムン、後は任せた」
「お任せを、ヒヒ」
俺は用意された馬車に乗ろうと振り返る
「あ、カイト様」
「んっ?」
ブルムンに呼び止められた
「ゲルドの事、よろしくお願いします……アイツの本当の実力はとんでもないですから」
「……ああ、これから頼りにさせてもらうさ」
てかヒヒと笑わないんだな……ひょっとしてワザとあんな笑い方をしてたのか?
俺は馬車に乗り込む
「よし、出発だ!」
オルベリンが言う
オーシャンに帰ったら……ティンクとおもいっきりイチャイチャしよう
うん、あんな光景みたらね? ティンクの温もりが恋しいんだ
「っと!」
馬車が急に止まった
「どうした?」
俺が外に顔を出す
「兄さん、なんか前から兵が走ってくるんだ?」
「はっ?」
俺は馬車を降りる
そして前方を見る
人影が見える……馬に乗ってるのか?
「馬に乗ってますね」
レムレが言う……よく見えるな……
「それと……あの鎧はオーシャンの兵ですよ?」
「んん? 物見を出してたか?」
「出してない筈ですが?」
少し待つ
そして兵が到着する
少しボロボロだな
馬から降りて俺の前まで走ってくる
しかし、オルベリンが俺の前に立ち、兵を止める
……以前、変装されて殺されかけたからな、当然の警戒だな
「カイト様に伝達です!!」
「そこで言うのだ!」
オルベリンが答える
「で、では……すぅ」
兵が息を吸い
「マルスヒ平原にてルーツ様を始めとした軍団がパストーレの軍と交戦しました!」
「やっぱり攻めてきたか」
俺の予想は当たっていたな
「そして……ルーツ様達が……敗走しました!!」
「…………なん……だと?」
俺達は急いで帰還することにした