表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/288

第8話 『化物』オルベリン

今回の話はオルベリン視点となります


 


 3千の兵を連れ、ワシはカイナスに向かう


「カイト様は何故カイナスの要請を受けたのでしょうか?」


 兵の1人がワシに問う


「坊っちゃんは先を見ておるのだ……ワシ等の活躍によってカイナスに勝利を贈る、そうすれば僅かだがオーシャンの領土が増える」


 領土が増えればそれだけ出来ることが増える


「領土が増えるだけですか?」

「更に坊っちゃんはカイナスにもう1つの条件を付けておる、この戦が終わった後にオーシャン領を攻めない条件だ」


 これによってカイナスは数ヶ月程はオーシャンを攻める事は出来ん

 条約は絶対だ


「カイナスが攻めないからって何か変わるんでしょうか?」

「愚か者、パストーレとは停戦、カイナスが攻めてこない、ガガルガは戦で疲弊……ここまで言えばわかるだろう?」

「……つまりマールマール以外は攻めてくることは無いって事ですか?」

「そうだ、恐らく坊っちゃんはその僅かな時間を狙っておる……お主らも覚悟しておけよ?戻ったら直ぐにマールマールとの戦じゃ!」


 マールマールを(くだ)せばオーシャンは他の領に負けぬ領になる

 かつてのオーシャン領に近付ける……


「…………くっ!」


 目頭が熱くなる!

 あの小さかった坊っちゃんが……今や立派な領主に!!

 ベルドルト様!貴方様の息子は立派になられましたぞ!!


「オルベリン様!?泣かれておるのですか!?」


「泣いてなどおらん!!これは心の汗じゃ!!」


 このオルベリン!必ずや勝利を!!



 ・・・・・・・


 5日程の行軍の末、ワシらはカイナス軍の本陣にたどり着いた


「皆はここで待て、ワシは領主殿に挨拶をしてくる」


「はっ!お気をつけを!!」



 ワシは本陣の出入り口を見張ってる2人の兵に近寄り、馬を降りる


「何者だ!!」

「オーシャン家に仕える将『オルベリン』と申す、援軍の要請を受け、参陣した」

「オルベリン!?……しょ、少々お待ちを!!おい!」

「はい!」


 兵の1人が本陣の奥に向かう


 暫くして戻ってきた


「失礼しましたオルベリン殿!!奥で『ケーミスト』様がお待ちです!どうぞお通り下さい!」


 兵が道を開ける


「うむ」


 ワシは本陣の奥に向かった



 ・・・・・・


 奥では数人の男が居た


 目の前に豚のように醜く肥えた男

 カイナス領の領主『ケーミスト・カイナス』

 ……どうすればああも醜くなれるのか……坊っちゃんはああならないように食事には気をつけてもらわねばな!


「オルベリンか!()()オルベリンか!!オーシャンの若造は己の立場がわかっているな!!」


 ……ふむ、ここでこの男を殺すのは容易いが……坊っちゃんはそれを望んではおるまい……耐えるか……


「ケーミスト様、それ以上は失礼ですよ」


 ゲルドがケーミストに耳打ちする


「構うものか!!領土の一部を分けてやるのだ!これぐらい言わせろ!!」


 ……この豚が


「コホン、失礼したオルベリン殿、貴方の参戦、心強く思う」


 ゲルドがワシの前に立ち、握手を求める


「ふむ……よろしく頼む」


 ワシは握手に応じる……


 ギュウ!!


「っ!!…………その、主が申し訳ない……今は怒りを静めて欲しい」


 ボソリと周りに聞こえぬ様に呟くゲルド……こやつも苦労しておるようだな……当たるのは間違いだな


「うむ、そうさせてもらおう……すまぬな」


「いえ……しかし本当に強い……とても老人とは思えませんね」

「70年は鍛えておるからな」


 さて、雑談はここまでじゃ


「ケーミスト殿、ワシらはどうすれば良いのか、指示を頂けぬか?」


「うむ!オルベリンにはガガルガの所有する砦を攻めてもらいたい」

「ふむ……どこの砦ですかな?」

「どこでもよい!!」


 ……なに?


「好きな砦を攻めよ!ガガルガの連中を荒らしまくるのだ!!」

「…………」


 ……本気で言っておるのか?


 ワシはゲルドや周りの将を見る


『………………………』


 全員が「またか……」っと呆れた表情だ


「…………」

「どうした?何故黙っておる?」


 誰もこの男に兵法は戦術を教えなかったのか?


「では……好きなように動かせてもらいましょう……ゲルド殿、地図を頂けぬか?」

「こちらに……」


 本当に苦労しておるのだな……同情するわい



 ・・・・・・・


「オルベリン様!どうなりましたか?」


「我々は自由に砦を攻める事になっておる……」


 ワシは地図を広げる……

 ほう、印が付いておるな……青がカイナス軍の兵が居るところ、赤がガガルガ軍の兵が居るところか……

 ゲルド……主は『あれ』だが、あやつは有能だな……あの男がカイナスを支えておると見た


「ふむ……このベイル砦を落とせば有利に戦が進むな……」


 戦線を前に動かせる

 ガガルガの本陣に迫れるな


「諸君!体調はどうだ?戦えるか!」

『はい!戦えます!!』

「ならば出陣だ!!我等の武をガガルガの連中に見せつけるぞ!!」

『おおおおおおお!!』



 ・・・・・・


 2日かけて進軍する


 ベイル砦が見えてきた


「ふむ、兵は200といった所か」

「一気に攻めますか?」


 兵達はやる気に満ちておる


「万が一があっては困る……200程度ならワシ1人で充分じゃ」


 ワシは槍を構える

 腰にある剣は……使うか?


「オルベリン様お一人で?大丈夫なのですか?」

「かつては500の兵を1人で相手したものよ……ここで見ておれ、古き者の戦をな」

「あ、オルベリン様!」


 ワシは馬を走らせる



 ・・・・・・・・


「んっ?なんだ?おい!止まれ!!」


 兵の1人がワシに気付いて呼び掛ける

 止まれと言われて止まる者がおるか?


「ふん!」


 ドスッ!


「っ!?」


 すれ違い様に喉を槍で突き刺す


「くそ!敵か!」

「行動が遅い!」

 ビュン!

「がぁ!?」


 ワシは槍を振るい兵を殺す


「敵襲!!敵襲ぅぅぅ!!」


 ガンガンと警鐘が鳴る


「相手は爺1人だ!!」

「殺せ!!」


 兵達が襲いかかってくる


「少ないな!!挑むなら全員で来い!!」


 ビュン!


 ワシの槍の一振りで10人の兵を殺す


「うぉぉぉぉ!!」


「な、なんだこの爺!!」


 ワシは馬に乗ったまま砦に乗り込んだ


「ぎゃぁぁぁ!!」

「ひ、ひぃぃぃ!!」

「助けてくれぇ!!」


「敵を前にして逃げるとは……ガガルガの兵は臆病だな!!」


 ワシは逃げる兵や戦意が喪失した兵も関係なく殺す


「ば、化物だ……」

「ほう、そう呼ばれるのは久しいな……」


 ベルドルト様の片腕として戦った時もそう呼ばれたな

 おっと、懐かしんでる場合ではないな


「骨のあるやつは居らんのか!!」


「いい加減にしやがれぇ!!」


 他の兵よりも立派な鎧を着た男がワシの前に立つ


「ほぅ、お主がここの将か?」

「ガガルガの将!『ジュルン』!爺!覚悟しやがれ!!」


 ジュルンがフレイル型のモーニングスターを振り回す


「くらえ!!」

 鉄球が迫る


「ふん!」

 ワシは槍で鉄球を弾く


「かかったな!!」


 ジュルンがモーニングスターを引き、ワシの腕に鎖を絡めさせた


「ほぅ……」

 この男、中々の技巧派だな


「はっはぁ!あの爺は終わりだ!」

「ジュルン様!引きずり落としてくだせえ!!」


 周りの兵が歓喜する


「終わりだ!」


 ジュルンが鎖を掴み引っ張る


 グン!!


 ……………


「あ、あれ?」


 グイグイ!!


「……ジュルンと言ったか?お主の戦法は一対一なら確かに有効だ……だがな!」


 ワシは腕を引き上げる


 グイ!


「うぉ!?」


 ジュルンが引っ張られてワシの槍の射程内に引きずり込まれる


「相手がお主より強いと考えるべきだったな……」


 ワシは槍を持ち上げ


「や、やめ……」


 ドスッ!


 ジュルンの額に突き刺した



 ・・・・・・・


 ジュルン戦死

 その報が砦に一気に広まる


 こうなったら敵軍は終わりだ


 逃げ出す者

 降伏する者

 命乞いをする者


 戦おうとする者はこの砦にはもういない



「お見事ですオルベリン様!!」

「オルベリン様万歳!!」


 兵達が活気付く

 ワシの戦いから少しでも学んで欲しいものなんだがな



 ・・・・・・・


 ベイル砦を落とした事を知らせるために兵を2千人程を砦に残してワシは本陣に帰還した


「見事!見事だオルベリン!!」


 ケーミストが喜ぶ……なんだ?将達が全員おるが……戦っておらんのか?


「早速我が兵を送ろう!更なる活躍を期待している!!」


 ケーミストのその言葉を聞いたときだ



「申し上げます!!」


 カイナスの兵が入ってきた


「うむ?どうした?」


 ケーミストが兵を見る


「その、カイナスにはあまり関係ないのですが……」

「ワシか?」

 

 兵がワシを見る


「……マールマールがオーシャン領に進軍しました!!」


「!?」


 マールマールが!?

 何故今だ!?


「数はわかるのか?」


「4千です!!」


 4千か……今のオーシャン領に居る兵は2千と数百……


「おや?これは大変だな……」


 ケーミストが笑う……下卑た顔

 ……貴様か……貴様がマールマールに通じたな!!


 ワシが剣を抜こうとした時


「オルベリン殿!今すぐ戻るべきです!!」


 ゲルドがワシの腕を掴む


「ゲルド殿……」

「……貴方の活躍は必ず評価させます」


 ゲルドの目は真剣だ……恐らく本心から言っている……


 その目を見るとスッと頭に上った血が落ち着く


「いや、案ずることはない」


 そうだ、慌てることはない

 マールマールの兵は4千

 オーシャン領の今の兵力の倍だ

 そう……たった2倍の差だ


「たかが4千の兵など坊っちゃんなら容易く撃退するだろう……ワシはワシの役目を果たさせてもらおう」



 今の坊っちゃんなら大丈夫だ

 それにヘルドやルーツ……サルリラもおる

 レリスも坊っちゃんを支えるだろう

 何の心配もする必要はない



「次の砦を攻めさせてもらいましょう」


 ワシは本陣から出ようと歩き出す


「待つのだオルベリン!」

「何ですかな?」


 ケーミストが呼び止める


「お主の実力は良くわかった!どうだ?このまま俺の配下にならんか?」

「…………はぁ」


 ゲルドがため息を吐く

 もう諦めたような表情だ

 安心しろゲルド殿……暴れたりはせぬよ


「断らせてもらいます、我が主は『カイト・オーシャン』ただ一人!!」


 ワシはそう答えて本陣を後にした



 さて……ガガルガの兵を蹂躙させてもらおう!!








 







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ