第88話 カイナス戦 追い詰められる男
ーーーケーミスト視点ーーー
メールノ平原から逃げ出し、ペリーを目指す
夜になり周りは暗い
「はぁ! はぁ!」
何故だ! 何故儂が追われなければならない!!
「おのれ、おのれぇぇ!!」
裏切り者どもめ!!
必ず後悔させてやる!
そう言えばブルムンには娘が居たな……
奴の前で親衛隊に犯させるか?
そうすれば奴も後悔するだろう!
それだけじゃない! 他の連中の身内も苦しめてやる!
儂を苦しめた報いを受けさせなくては気がすまん!!
「見えた!」
ペリーの都!
先ずはここで親衛隊の一部を回収するか
確かカーシウスとペンテリウスの一族もここに居たな
カーシウスには妹が居たか……裸にして首吊りにしておくか!
「儂だ! 門を開けろ!!」
ペリーの門前に着いた儂は叫ぶ
さっさと開けろ!!
「おやおや? どこのどなたかな?」
外壁の上から男が出てくる
儂の配下の『バックル』……ペリーの防衛を任せた将だ
「バックル! 儂だ! ケーミストだ! 門を開けろ!!」
「おやおや? ケーミスト様はメールノ平原に居るのでは?」
「現にここに居るではないか!! 開けろ!!」
「断る!」
な、なにぃ!?
「ふ、ふざけるな! 主の命令が聞けないのか!!」
「おやおや? 貴方はこれが見えないので? おい! 松明を増やせ!」
バックルの指示で兵達が松明を灯す
……なっ!!
「な、何故オーシャンの旗がある!?」
「おやおや? 理解できないので? ペリーは既にオーシャンの都になったのですよ?」
「ふ、ふざけるな!! そんな事が認められるか!」
「あんたにそんな権限は無いぞ? あ、それと親衛隊は全員捕らえたから……ここで死ねや」
バックルが腕を振る
すると兵達が矢を射ってくる
「ちぃ!」
儂は馬を走らせる
くそ! ペリーは駄目だ!
パサルリに向かう!
・・・・・・・・・
ーーー2日後の夜ーーー
道中の村で民から食糧を奪う
元々、食糧は儂のだ! お前達に食わせるのは勿体ない!!
パサルリが見えた
「はぁ、はぁ」
疲れた……ワインを飲みながら眠りたい
「儂だ! 開けろ!!」
門の前で叫ぶ
ゴゴゴゴゴゴ!!
門が開く
そうだ、さっさと開けろ!
「んっ?」
門が開くと向こう側に人影がある
「やっと来ましたか……待ちくたびれましたよ」
そう言って馬に乗った人影が走ってくる
ある程度近付くと顔が見えた
見覚えのない顔
「女? 誰だ貴様!」
「オーシャンの将、ティール……ケーミスト、貴様の首をもらおう」
ティ、ティールだとぉ!?
「ば、ばかな!? 何故ここにいる!?」
何故オーシャンの将がパサルリから出てくる!?
「何故? 簡単なことですよ、パサルリはオーシャンの物になりました、そして私はお前を待っていた……」
ティールが槍を振り回す
「以前の戦で殺された同胞の仇……とらせてもらいましょう!!」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
儂は馬を走らせる
ティール、アイツに勝てるわけがない!
逃げるんだ! 安全な所まで!!
・・・・・・・・・・
「はぁ……はぁ……」
メールノ平原を出てからどれくらい経った?
「何故……どこもかしこも落ちている!!」
ナルンカも、ランドルもオーシャンの手に落ちていた
何故だ!! あの小僧の軍に何故負けている!!
「腹が……減った……」
くそ、あの民どもが!
食糧を寄越せと言ったら襲いかかってきおって!
儂のお蔭で生きていられるというに!!
「見えた……ゲルナル!」
ゲルド!
奴ならオーシャンの奴等に負けることはない!
やっと、やっと休める……
「儂だ! 開門しろ!!」
門の前で叫ぶ
喉が痛い
「…………」
外壁の上からゲルドが出てきた
「ゲルド! 門を開けろ!!」
「……わかりました、おい! 門を開けろ!」
ゲルドが兵に指示を出す
門が開く
よしよし、それでいい
ああ、やっと休める……
儂は門をくぐる
「な、なんだこれは!?」
門をくぐると兵達が儂に弓を構えていた
「よく、ここまで戻れましたね、しかし終わりです」
「どういうことだゲルド!!」
「こういうことだ」
後ろから声がした
こ、この声は……
「オ、オルベリン!?」
振り返るとオルベリンが立っていた
ど、どこから現れた!!
「な、何故貴様がここに!」
「察せないのか? 他の都を追い返されて来たのだろう?」
「!?」
なっ……なっ!
「ゲルドォォォ!! 貴様もか! 貴様も儂を裏切ったのかぁぁぁぁぁ!!」
「……はぁ、確かに小生は貴方を見限りましたが……小生達を先に裏切ったのは貴方ですよ?」
「な、なんだと!?」
「貴方の身勝手な行いでカイナスは衰退の一途を辿っています……領主なら、領を栄えさせなくてはならない……もう我慢の限界でした」
「ふ、ふざけるな! 領主が居るから領は成り立つのだ!! 他の事など知ったことか!!」
「どこまでも愚かな男だな」
オルベリンが言う
「なにぃ!!」
「貴様は何故こうなったか、まだ理解できておらんのか?」
オルベリンが詰め寄ってくる
「貴様が食糧を独占している間に、坊っちゃんは民を飢えから救おうと食糧を配った」
1歩近寄る
「貴様が民を虐殺してる時も、坊っちゃんは1人でも貴様から民を救おうと都や村を作った」
更に1歩
「貴様が贅沢をしている間に、坊っちゃんは私財を投じて薬を集めて、民の病を治療した」
更に1歩
儂の目の前に立つ
「貴様が怠惰に過ごしていたから、部下は貴様を見捨てたのだ! 未だにわからんか!!」
「がぁ!!」
首を掴まれて持ち上げられる
ぐぁ……なんだ!? これが、年寄りの力か!?
「か……か」
息が……できな……
「ケーミスト様、貴方がメールノ平原に向かう時にお聞きしましたよね? 民とは、国とは何か……あの時の返答によっては、小生は貴方と共に戦おうと思っておりました……しかし貴方は『道具』だと答えた……」
オルベリンが手を離す
「ぐふっ!」
儂は地面に倒れる
「ひ、ひっ!」
目の前に立つオルベリンとゲルド
儂は這いずって離れようとするが……
ガシッ!
「は、離せぇぇぇ!!」
兵達に捕まる
「小生達は『道具』ではない! 『意思』がある!…………貴方は領主の器ではなかったのですよ……牢に連れていけ」
『はっ!!』
「や、やめろ……離せ! 離せ無礼者ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
・・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「やっぱりケーミストはゲルナルに向かったか……」
ペリーに行って報告を聞き
パサルリでティールと合流
ナルンカで一泊して
ランドルで報告を聞いた
そして今はオーシャンの全軍とブルムンを含んだ数人のカイナスの将でゲルナルに馬で向かっている
「つまりティールとオルベリンは他の都に先に行って、ケーミストの親衛隊を捕まえていたって事か?」
「そうですよ」
ユリウスがティールから今回の作戦を聞いていた
カイナスの将がケーミストに従ってるのは人質がいたからだ
人質が解放されれば、彼等が従う理由はない
「ペリーとパサルリを私が、残りをオルベリンが担当しました……現地のカイナスの将との共闘でしたので大したことはなかったですね」
ティールはアッサリと言うが、かなり大変だったろうと俺は思う
戦が終わったら2人には特別休暇をあげよう
「ねえ兄さん、ケーミストはどうするの?」
アルスが聞いてくる
「どうするって?」
俺は並走するアルスを見る
「バルセの時みたいに配下にするの?」
不安そうなアルス
「なんだ? 配下にしたいのか?」
俺が聞くと
「そんな訳ない!! あの外道なんか!!」
「うぉ!?」
「あ、ごめん兄さん」
怒鳴られた……ちょっとショック
「いや、大丈夫だ……アルス、バルセの時はバルセが善政をしていて、有能な人間だったから俺は彼を配下にしたんだ……ケーミストが有能な人間に思えるか?」
「有能な人間だったら配下にするの?」
質問を質問で返された
少しは会話のキャッチボールをしてほしい
アルスもいっぱいいっぱいでそんな余裕は無いか
「有能な人間でも……配下にしようとは思わんな……アイツはやり過ぎた、信用も出来ないし……うん、濁すのはやめるか……俺はアイツを処刑するつもりだ」
後ろの方から視線を感じた
チラリと見るとレムレが俺を見ていた……
……聞こえてた?
「お前からも聞いたし、ブルムン達からも聞いた……アイツは生かしちゃいけない人間だ……非道な人間を寛大に許す、なんてのは俺には無理だな」
それに……
「約束もあるしな……」
「約束?」
「すぐわかるさ」
「また内緒にするんだね……」
「ごめんな、でも本当にすぐにわかるからさ」
「わかったよ……でも次は無理矢理でも聞き出すからね?」
「うわ、弟が怖いよー」
そんな風に話ながらゲルナルに向かい
翌日の昼にはゲルナルに到着したのだった