第87話 カイナス戦 策始動
メールノ平原に到着して1日が経過した
俺は陣の奥で偵察の報告を聞く、側にはルミルとレムレが居る
偵察の報告でカイナスの戦力を把握した
「てことは、今見えてるカイナス軍は第1軍団で、ブルムンが大将なんだな……どうりで俺達が確認できる筈なのに攻めてこない訳だ」
ブルムンは恐らく俺の合図を待っているな
「夜の間に少しずつ進軍はしているみたいですね、昨日より陣が前進してます」
レムレが言う
望遠鏡無しでもハッキリ見えてるレムレだからわかるんだろうな
「合図はいつ出すのですか?」
ルミルが聞く
「そうだな、出来れば……後3日は時間を稼ぎたい……」
ティールとオルベリンに出した作戦が上手くいくには時間がいる……
「3日……厳しくないですか? ブルムンはともかく、他の軍やケーミストが突撃を指示すれば……」
「その時はその時で早いが合図を出すしかないな……俺達が負けることは無い」
「だ、断言しますね……」
不安そうなルミル
「ああ、断言する、俺達は必ず勝てる……理由は合図を出したらわかるさ……レムレ、ブルムンに密偵を送ってくれ、後3日……時間を稼いでくれと」
「はい!」
レムレが指示を出しに出た
「さてと、ルミル、君はアルスと一緒に半分の兵と一緒に北に移動してくれないか?」
「北にですか?」
「南でもいいぞ? カイナス軍から見てこの陣と左右に分かれてくれればいい」
「えっと、なぜですか?」
「合図を分かりやすくするためだ、1ヶ所より2ヶ所で出せば良く見えるだろう?」
「わかりました!!」
「あ、それと!」
「はい?」
「アルスに言っててくれ、『合図を出したらカイナス軍を良く見ておけと』」
「はい!!」
ルミルも出ていった
「ふぅ……さてと」
俺は地図を拡げる
「ここがメールノ平原……そこから北西に『ペリー』の都」
地図を指でなぞる
「更に南西に『パサルリ』」
スーと辿る
「そこから北西に『ナルンカ』、西に『ランドル』」
指でなぞる、パサルリからなら両方同じくらいの距離だ
「そして西にゲルナル……」
…………
「よし! 気合いをいれるか!!」
ケーミストの野郎に報いを受けさせる!!
・・・・・・・・
ーーーブルムン視点ーーー
「ブルムン様!」
「んっ?」
兵が自分に話しかける
「オーシャンの軍が見えてきましたが……どうしますか?」
「まだまだ待機、合図を待つぞ、ヒヒ!」
さて、合図はいつ来るか……んっ?
「誰だ?」
自分は後ろを見る
そこには男が立っていた
あ、こいつは……
自分はその男を知っている
「お久しぶりです、ブルムン様」
その男はオーシャンから自分にカイト様の密書を持ってきたあの男だ
「用件は?」
この男が来たと言うことはカイト様の連絡だろう
「こちらを……」
男が髪の中から小さく丸めた筒を取り出す
筒を受け取り、中身を取り出すと小さな紙が入っていた
紙を拡げる
『3日ほど時間をかけて進軍してほしい、その後、こちらに突撃せよ』
「ヒヒ、了解」
ペンを持ってこさせてインクをつけ
紙の裏に書く
そして筒に戻して男に渡す
「では、これにて」
「ああ」
男はスッと出ていった
「ヒヒ……ヒヒヒヒヒヒ!!」
3日後……それで全てが終わる!
ケーミストの独裁も!
飢えた暮らしも!
怯える日々も!!
「ヒーヒヒヒヒヒヒヒ!!」
「ブルムン様ご機嫌だな」
「当たり前だろ? やっと解放されるんだぞ?」
「あの人かなり苦労してたからな……ご機嫌とりとかで」
・・・・・・・・
ーーーケーミストの陣ーーー
「遅い……」
ケーミストはイライラしていた
「ケ、ケーミスト様?」
「遅すぎる! オーシャンの奴等はまだ来ぬのか!?」
バン!と机を殴るケーミスト
「ま、まだ報告は来ておりません!!」
兵が怯えながら答える
「むううう!! おい! 誰かブルムンの所まで行ってどういうことか聞いてこい!!」
兵は戸惑う
何をどう聞くのかわからないのだ
「早く行ってこい!!」
「は、はい!!」
しかし行かないとケーミストの機嫌は更に悪くなる
それを知っているから兵は走る
「早く儂の前に小僧を連れてこい!!」
怒鳴るケーミスト
自分は何かするわけでもない
ただ怒鳴るだけだ
・・・・・・・・・
2日後
ケーミストの元に兵が戻ってきた
「ケーミスト様! オーシャンの軍が見えました!!」
「何!?」
「ブルムン様から『準備が整い次第、突撃する』と伝言が」
「そうか! なら早くしろ!!」
ケーミストの機嫌が良くなる
ケーミストはワインを飲みながら椅子に座る
『自分はこうしているだけでいい』……ケーミストはそう思っていた
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「よし、お前達! 準備はいいか?」
『はっ!!』
あれから3日経った
アルスの方も準備が出来ていると報告が来た
俺は望遠鏡でブルムンの軍を見る
大分近付いた場所に布陣していたから良く見える
そろそろ突撃を開始するだろうな
俺は左右に立つレムレとユリウスを交互に見る
「2人とも、これから起きる事を良く見ておけよ? 部下や民を蔑ろにしたらどうなるかってのが良くわかるからな」
「はい!!」
「了解!」
2人が元気良く返事をする
うんうん、良いぞ!
そう思っていたら
『オオオオオオオ!!』
遠くからの叫び声
土煙が見える
第1軍団が突撃を開始した
「きたきたきた!!」
俺は望遠鏡で様子を見る
「お、第2軍団も来たか!!」
ドンドン迫ってくる……
第1軍団と第2軍団……40,000の突撃は迫力があるな
「合図はまだですか?!」
レムレが俺を見る
「まだだ!!」
もう少し近づける
ドドドド!!
そんな音が聞こえ始めた
あと数分で第1軍団がここにたどり着く
「合図は!?」
ユリウスが聞く
「……待て!!」
俺は望遠鏡で第2軍団の更に奥を見る
頼む……来てくれよ……
「お! 見えた!!」
第2軍団も突撃したから来ると思った! 第3軍団も突撃を開始していた!
ケーミストの第4軍団は見えない……アイツの事だ、第4軍団は動いていないのだろう!
つまり第4軍団は第3軍団からかなり離れている!
第1軍団が後1分くらいでここに着く、そんな距離まで来ていた
「カイト様!!」
レムレが叫ぶ
「ああ! 今だ! 旗を上げろ!!」
『オオオオオオオ!!』
兵達が旗を上げる
水龍を描いた旗……オーシャンの旗だ
遅れてアルスの陣も同じ旗を上げたのを望遠鏡で確認する
これで……これで終わりだ
カイナスとの戦はな
戦っていうのもおかしいか?
戦ってないし……まあ形式上は戦って事で!
・・・・・・・
ーーーブルムン視点ーーー
「来た! 合図!! ヒヒ!!」
自分の目に確りと映る、オーシャンの旗!
何本も立つ、水龍を描いた旗!!
「全軍反転!! ケーミストを襲撃するぞ!! 奴の独裁を終らせる!! ヒヒヒヒヒ!!」
『ウォォォォォ!!』
自分は馬を振り向かせて、走らせる
パーツとカーシウスの部隊も自分と同じように反転した
・・・・・・・・
ーーーケーミスト視点ーーー
「まだか……まだ小僧は捕らえられないのか!」
儂はワインを飲む
まったく! あの無能どもが!!
「ケ、ケーミストさまぁぁぁぁ!!」
兵が走ってくる
「なんだ!」
儂は兵を見る
「む、謀叛です!! オーシャンに寝返りました!!」
「なにぃ!? 誰が寝返った! どこの馬鹿だ!!」
「ブルムン様です!!」
「ブルムンだと? ……おのれ、あの無能が!! 主を裏切るか!! パーツとカーシウスはどうした!!」
「パーツ様もカーシウス様もブルムン様と同調して寝返りました!」
「っ!?」
あの……無能どもがあああああああ!!
「第2軍団で奴等を殺せぇぇぇぇ!!」
儂は叫ぶ
ブルムン! パーツ! カーシウス!! 貴様らの一族! 皆殺しにしてやるわぁぁぁぁ!!
「申し上げます!!」
別の兵が入ってきた
「謀叛です!」
「ブルムンの事なら聞いたわぁ!!」
「ちがいます! ブルムン様だけではありません!!」
「なに?」
「第2軍団のグラドス様、クラフト様、ペンテリウス様も寝返りました!!」
「なっ!?」
な、なんだと!?
ふ、ふざけるな!?
「し、失礼します!」
更に別の兵がやってきた
こいつはゴルースの兵!?
「第3軍団のリード・ルーフ様とマリアット様が寝返りました! ゴルース様が挟撃にあい、敗北! 捕らわれました!!」
「!?」
「申し上げます!!」
更に別の兵が……ま、まさか……
「バルンス様とヤムカ様の軍がこちらに突撃してきております!! 更に前方から第3軍団がこちらに突撃してきております!! ど、どうしますか!!」
…………どうなっている
「な、何故だ? 何故だぁぁぁ!!」
ゴルース以外の将が全員寝返っただと!?
何故そんな事になる!?
どいつもこいつも!! 主を裏切りおって!!
「儂は逃げる! 貴様らは奴等を足止めしろ!!」
儂は陣を出て馬に乗る
そしてメールノ平原から逃げ出した
都だ! 都に着けば儂の親衛隊がおる!!
奴等の一族を人質にすればまだ勝機はある!!
・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
合図を出してブルムン達がケーミストに向けて突撃したのを確認してから俺達は陣を片付けた
「本当に僕達は戦わないんですね……」
レムレが言う
「ああ、言ったろ? 絶対に負けないって」
「ブルムン達だけで勝てるんですか?」
ユリウスが言う
あ、ユリウス達は知らないよな
「ブルムン達だけじゃないぞ? 他の将達も俺に寝返ってる」
『……えっ?』
2人が俺を見る
「ゴルース以外の将が全員寝返ってるぞ? ケーミストの味方はゴルースと親衛隊だけだ……他の将は家族を人質にされてるから従ってるだけだからな……ケーミストに対する忠誠心なんて皆無だ」
忠誠心は驚異の0だ
真っ赤な数字のオンパレードだな
あれだけ嫌われるってある意味凄いぞ?
「つ、つまり……?」
レムレが俺を見る
「これからケーミストは無駄な逃走をするって事だ……ゴルースの軍団が壊滅した頃に、ケーミストは皆の寝返りを知るだろうしな、道中の都に逃げ込もうとするが……さて、ケーミストはゲルナルまで辿り着けるかな?」
だから第3軍団が第4軍団から離れるのを待ったんだ
俺は周りを見渡す
よし、陣は片付いたな
「レムレ、ユリウス、俺達も追うぞ! あ、シャルス! アルス達に追撃の指示を伝えてくれ」
「はいよ!!」
シャルスがアルスの陣に向かう
……馬より速いなあいつ
「よし! 行くぞぉぉぉぉ!!」
俺は馬に跨がり駆け出す
ケーミストを追い詰めるぞ!!