第86話 東も動く
カイト達がオーシャンを出発して3日後
ーーーパストーレーーー
「それは本当か?」
「はい! しっかりと確認しました! カイト・オーシャンは兵を連れてカイナスに向かいました」
テリアンヌは兵の報告を聞いていた
「……ふぅ、数日前の戦といい……カイナスは同盟をなんだと思っているのか……」
まあ、期待してなかったがね
そう呟くテリアンヌ
「ユルクル」
「はっ!」
「ナルールとブライと一緒に5万の兵を連れてオーシャンを攻めてくれ」
「畏まりました……必ずや領土を奪って」
「いや、無理はしなくていい……奪えそうなら奪い、負けそうなら逃げろ……お前達を失えばパストーレは終わりだからな」
「テリアンヌ様……」
「本当なら私も共に行きたいが……まだ領主として未熟な私が動くわけにはいかないからな」
そう言ってテリアンヌは水を飲む
「テリアンヌ様、あなた様はメルノユ様を越える名主になられますよ」
ユルクルはそう言って玉座の間を出た
「……ふっ」
テリアンヌは軽く笑い、ユルクルを見送った
・・・・・・・・・
「ふふ、あれから3年……ついに、ついにやり返す時がきた!!」
ナルールが闘志を燃やす
「落ち着けナルール……また負けるぞ?」
ユルクルがナルールに言う
「き、貴様!! それを言うな!!」
ナルールがユルクルに怒鳴る
「喧しいぞ! お前達は昔から変わらんな!!」
そんな2人を怒鳴る老兵
ブライ……オルベリンと何度も戦い生き残った男だ
「もうすぐ貴様らは40になるのだろうが! 少しは落ち着きを持たんか!」
「歳の話はやめろブライ!! 貴様だって78だろうが! 引退したらどうだ?」
ナルールがブライに言う
「貴様らがもう少し頼れるような将ならとっくに引退しとるわ!! 全く、いつまで経っても未熟な奴ばかりじゃわい!」
「出た出た、年寄りのぼやき!!」
騒ぐ2人
「……そろそろ行きましょうか?」
ユルクルが言うと
『ああ……』
2人は騒ぐのをピタリと止めた
そしてパストーレの3人は兵を連れてオーシャンに向かった
・・・・・・・・
ーーーマルスヒ平原ーーー
オーシャンとパストーレの国境付近にある平原
そこにオーシャンの軍が布陣していた
大きく分けて3つの陣
北にバルセとボゾゾ
北西にルーツとメビルト
西にヘルドとケーニッヒ
それぞれ2万の兵を連れている
総勢6万の兵
そして今は北西の陣にバルセとヘルドが訪ねていた
「ここに布陣して3日……どう思います?」
ルーツが聞く
「もう7日は様子を見た方が良いだろうな」
バルセが答える
「こっちから攻めれないってのが面倒だな」
ヘルドが言う
「オーシャンから攻めるのと、パストーレに攻められたからやり返したっていうのだと、後者の方が印象が良いからな、我慢するしかないだろう」
ルーツが言う
「てかヘルド、サルリラはどうした? 夫婦で戦うと思ってたが」
そしてヘルドに聞く
「ああ、サルリラは今は戦えない」
「そうなのか?」
「ああ、妊娠してるからな」
『…………』
ルーツとバルセがヘルドを見て黙る
ドゴ!
「いでぇ!?」
ルーツがヘルドの足を蹴る
「お前! そういうことは早く言え!!」
「産まれてからで良いかと思って……」
「良くないからな!? 祝いの品も用意してないから!!」
「わ、悪い……」
「戻ったら何か送るからな……それで? 何ヵ月なんだ?」
「5ヶ月だ」
「ほお、5ヶ月か」
バルセが自分の髭を撫でる
「やっと悪阻が落ち着いて来たそうだ、今はゆっくりと休ませている」
「それが良いだろうな……そうか、子か……」
「そう言えばバルセ殿は子は居ないので?」
ルーツがバルセに聞く
「私の子か……居たのだがな……死産だった……妻もそれから身体を壊して逝ってしまった……だからユリウスを我が子のように育てたのだ」
「それは……その、辛いことを聞いてしまい申し訳ありません……」
「俺も無神経だったな……」
「そんな暗い顔をしないでくれ、もう30年も前の事だ、もう吹っ切れたよ」
ふっと笑うバルセ
「さて、そろそろ作戦を決めないか?」
バルセが言う
「そうですね、といっても単純な事しか出来ませんよ」
ルーツが地図を拡げる
「パストーレの軍が来たら我々も前進、囲うように進軍して3方向から攻める……今の戦力ならこれが最善かと」
「ふむ」
「それだとお前の軍がキツくないか? 戦力的に」
「メビルトが頑張りますし、私も色々用意していますよ」
そう言ってルーツは机の上に球体の物を置く
「これは?」
ヘルドが手に取る
「爆弾」
「ばくっ!?」
「っと!」
驚いて爆弾を落とすヘルド
それをキャッチするルーツ
「最近やっと生産できましてね、いざというときは敵に向けてドカンとしようかと」
「ほお……」
感心するバルセ
「おま! そんなの持ち歩くな!!」
「いやいや、流石に持ち歩くのは戦時の時くらいだって、誤爆とかしたくないしな……それに威力も殆んど無いぞ? デカい音がするだけの爆弾だ」
そう言ってルーツはその場にいる全員に耳を塞ぐようにいってから爆弾を投げる
ボムッ!
『ーーーっ!!』
耳を塞いでもわかる爆音
「な、なんなんだ今のは!?」
「ご無事ですか!!」
「敵襲で!?」
陣の外から兵達がやって来た
「あー大丈夫です、ただの爆弾の披露ですから」
「……それ大丈夫っと言って良いのですか?」
兵達は『なんだよ』って顔で持ち場に戻る
「とまあこんな風に色々と利用しますので暫くは耐えれますよ……状況によっては救援を頼みますが」
そう言ってルーツは爆弾を仕舞う
これで話し合いは終った
ヘルドもバルセもそれぞれの陣に戻る
ーーーバルセの陣ーーー
「バルセ、てき、まだ?」
ボゾゾが武器を磨きながらバルセに聞く
「ああ、まだだ……ボゾゾ、貴殿の武勇を頼りにしているぞ!」
「まかせろ、バルセも、まもる、カイトさま、まもる!」
ドン!っと地面にバルディッシュを叩き付けるボゾゾ
地面が抉れる
「てき、たおす!!」
「た、頼もしいな……」
ーーールーツの陣ーーー
「パストーレか……ナルールはともかく、ブライ、ユルクル、『マーレス』あたりが来たら厄介だな」
メビルトが言う
「こっちにも武人は3人も居ますよ、勝ち目はあります、最悪の場合は援軍を呼べばメットやヤンカが兵を連れて来ますよ」
念には念を入れているルーツ
「さて……パストーレは動くか……動いたらどうくるか……」
ルーツはパストーレのある南東を見つめるのだった
ーーーヘルドの陣ーーー
「ケーニッヒ、お前がパストーレの将ならどう動く?」
「んっ? まあ総力を集めてオーシャンの……ガガルガかマール辺りを攻めるかな……特にマールを落とせばオーシャンの都がすぐ近くだし……カイナス攻めで兵も少ないだろうから落とすのも容易いだろうし」
「だよな……挟撃はあると思うか?」
「……難しいと思うが? 少数の兵なら見つからずに移動できるかもしれないが……軍団で動いたら流石にバレるぞ? その為の砦だし」
「お前は眠り薬を飲まされて負けたけどな」
「……あ、あれからは気を付けてるからな!?」
「ははは! とにかく、見張りはしっかりと! だな」
「望遠鏡があるから見張りもしやすい……シャンバル様々だな」
そう言って2人は東を見るのだった
もうひとつの戦いが……まもなく始まる