第84話 カイナス戦 民を救え
ーーーカイト視点ーーー
オーシャンを出発して4日
国境を越えてカイナスに入った
目指すはメールノ平原、カイナス軍はそこに布陣している筈だ
「ここからメールノ平原にはどれくらいかかる?」
俺がオルベリンに聞く
「そうですなぁ……この行軍速度なら3日程かと」
「3日か……少し早いか?」
ブルムン達の準備が出来ているのか……厳しいかな
「2日くらい野営で時間を潰すか?」
「それは流石に厳しいのでは?」
「だよなぁ……」
まあ取り敢えず進軍するか、早く着いたら布陣して警戒してるって感じで……
「カイト様!」
物見で先に進んでいた兵が戻ってきた
「どうした?」
「この先の村が賊に襲われています!」
「またか! ガガルガでも同じことがあったよな!」
なに? 戦を始めたら賊が暴れる決まりでもあるのか?
「カイトさまぁぁぁ!!」
他の兵が戻ってきた
「今度はなんだ!?」
「北の方向に村を襲撃しようとする賊の集団を見つけました!!」
おいおい!
「カイト様!!」
南の方から兵が来る
「……もう予想できるが……なんだ!」
「賊が……」
「くそっ!! 治安悪すぎだろ!!」
ふざけるな!! ふざけるな!!
「見捨てますか?」
オルベリンが聞いてくる
「それが出来たらこうして頭を抱えたりしないって!! 軍を分けるぞ!」
俺は将を集める
「俺とオルベリンはこのまま真っ直ぐ進む! ユリウスとティールは北の賊の集団を潰せ! アルスはルミルとレムレと一緒に南の賊を殲滅!! 終わったらメールノ平原を目指してくれ!」
「わかったよ兄さん!」
アルスが答える
「兵はどう分けますか?」
ティールが聞く
「俺とオルベリンの部隊は2,000 お前達は4,000だ! もし道中に村があったら食糧を配って、賊が居たら問答無用で潰せ!!」
殺せとは言わない
捕まえるだけでもいい、そこは任せる
こうして俺達は軍を3つに分けた
・・・・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
「よっし! 賊発見!」
「1,000人くらいですかね……賊にしては大規模ですね」
ティールが望遠鏡で賊を見る
「こっちは4,000だ! 怯むことはない!」
「そうですね……しかし万が一もあります、ここは2つに分けて挟撃しましょう」
「わかった!」
ティールが2,000の兵と共に賊の前方に進み、立ち塞がる
僕はその間に残りの兵と共に賊の後方に向かう
目的地にたどり着いた時には交戦する音が聞こえてきた
「よし、全軍! 突撃!!」
『うぉぉぉぉ!!』
一気に駆ける
「な、なんだ!?」
「後ろからもか!?」
「くそ! なんでオーシャンの奴等が居るんだ!!」
賊が混乱している
僕達はそんなの気にせずに攻撃を開始する
「はぁ!」
ブン!
ザシュ!
「ぐぎぃ!」
人数が4倍も違うからかあっという間に賊を殲滅した
50人くらいの賊を捕らえた
「よし、このまま目的地まで連行するか」
「そうですね、後はカイト様に裁いてもらいましょう」
「んじゃ、このままメールノ平原を目指すか!」
僕達は進軍を再開した
・・・・・・・・・
ーーーアルス視点ーーー
「随分と賊が多いんだな、カイナスは」
僕が呟く
「巡回の兵士なんて居ませんからね、ケーミストが領主になってから酷い状態だって話は……子供の頃から聞いてました」
「見たこと無いが、聞いた話だとケーミストは本当にどうしようもない男なんだな」
なんでそこまで自分勝手にできるのか……どんな神経してるんだろうね
「…………」
「ルミル? どうした?」
さっきから黙ってるけど……
「いえ、何でもないです」
「何でもないって顔じゃないぞ?」
ルミルを見ると明らかに怒ってる……ていうか苛々している
「……すいません、さっきから潰れた畑や小屋を見かけてつい……」
そういえば土山や崩壊した建物が有ったな……
「賊の犯行かな」
僕が言うと
「それはわからないです……でも、許せません」
「そうだな!」
僕は前を見る
村が見えてきた
煙が出ている……家を燃やされてる!?
「急ぐぞ!!」
・・・・・・・
「ひゃぁぁぁはぁぁぁぁ!!」
「食い物を寄越せぇぇぇ!!」
「あ、ありません! 食べ物も、水も、ありません!」
「んなわけねえだろ!! 探せぇぇぇぇ!!」
『ひゃっはぁぁ!!』
そんな大声が聞こえる
「そこまでだ! 賊共が!」
「んあ?」
僕は馬で賊と襲われていた男性の間に割り込む
そして馬を降りる
「なんだ小僧? このバッヅ様に言ったのかぁ?」
「そのつもりだが?」
「かっ! ふざけた小僧だ! なあお前らぁ!!」
バッヅが叫ぶ……しかし誰も返事をしない
「んぁ?」
バッヅが振り返る
「コイツらあんたの子分? 弱すぎるんだけど?」
「なっ!?」
そこには賊数人の死体とルミルが立っていた
僕は見たぞ、賊達の首を斧で斬り落とすルミルの姿を……
「な、な!?」
驚いているバッヅ
「さて、後はお前だけみたいだが?」
「ふ、ふざけるな!」
バッヅが後退る
そっちにはルミルが居るぞ?
「くぅ!……」
キョロキョロと僕とルミルを交互に見るバッヅ
醜いなぁ……さっさと終わらせるかな
僕は槍を構える
「こ、この!」
バッヅは観念したのか斧を構える
来るか?
「動くなお前ら!!」
そんな大声が響く
「んっ?」
僕達は声のした方を見る
そこには……
「動くなよ! 動いたらこのガキが死ぬぞ!!」
「い、いや……」
賊が女の子の首にナイフを当てていた
「しまった、もう1人いたか……」
ルミルが賊を睨む
「はっはっ! いいぞ! 形勢逆転だな!!」
バッヅが僕を見る
さて、どうする? 女の子を見捨てるのは簡単だ
だって僕には無関係な子だから……後味は悪いけど悔やむかって聞かれたら別にって答える
だからって見捨てて良いわけじゃないんだけどね……
うーん……
僕が悩んでいたら
「あれ? どんな状況ですかこれ?」
レムレがやって来た、返り血が付いてるから他の賊を仕留めたのかな?
「レムレ! 女の子が人質にされてる!」
ルミルが簡単に伝える
「えっ? あっ……」
レムレが捕まってる女の子に気付く
「なんだ! まだ仲間が居たか! お前も動くな!!」
賊が叫ぶ
「…………」
レムレは少し考えた後
「ぼ、僕にはどうしようもない!! に、逃げるよ!!」
そう言って走り去った
『………………』
全員が黙る
「ぶっ! ひゃはははは! 見たか? 逃げたぞアイツ!!」
バッヅが笑う
「はははははは!!」
女の子を捕まえてる賊も笑う
逃げた?
レムレはそんな奴じゃないぞ?
……多分そろそろ……
ドス!
「うぎゃあ!?」
「きゃあ!!」
「やっぱりね……」
賊の腕に矢が刺さる
堪らず賊は女の子を放す
「う、うわぁぁぁん!!」
女の子が泣きながら僕の方に来る
「ま、待ちやがれぇ!!」
賊が女の子を追う
……が
ドス!
「ぎっ!」
左足
ドス!
「うぎゃ!」
右足
ドス!
「がぁぁぁぁぁぁ!?」
右の頬に矢が刺さる
立ち止まる賊
そして……
ドス!
「こぅ!?」
矢が賊のこめかみを貫いた
倒れる賊
「なっ!? なっ!?」
訳がわからないのか混乱してるバッヅ
その間に女の子を保護する
「さて……今度こそお前だけだな?」
「う、うぉぉぉぉぉぉ!!」
バッヅが斧を振り回して僕に突っ込んでくる
僕は女の子を僕の後ろに行かせて、槍を構える
狙うは一点……
「ふっ!」
僕は槍で突く
キィン!
「ぐぁ!?」
槍はバッヅの斧を捉えた
手が痺れたのか斧を手放すバッヅ
斧は飛んでいき、近くの木に刺さった
「な、なんでだぁ!?」
バッヅが痺れている手を見る
オルベリンの言った通りだな……
『武器を振り回す相手は、振り切った直後を攻めれば倒すのは容易い』
確かに……容易いな
「終わりだな!」
「うっ!」
僕の槍の先端がバッヅの眉間に当たる
「どうする? 降参する? それとも……死ぬ?」
「み、認めねえ! 俺様はバッヅ様だぞ!! 最強の男なんだぞ!?」
「最強って……その程度で良く言えるね……」
はっきり言ってユリウスの方が強かった
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!!」
バッヅが僕の槍を掴むそして槍を下げようとする
力比べか?
「俺様は……俺様はぁぁぁぁぁ!!」
「お前は格上と戦ったことが無いんだな、だから弱いんだよ」
僕は力を込めて突っ込む
バッヅの手を容易く滑る槍
そして……
ドスッ!
「ぐげぇ!?」
少し下がった槍はバッヅの喉を貫いた
・・・・・・・・・
「終わりました?」
レムレが民家の陰から出てきた
「そこから矢を放ったのか?」
「はい、あの家、反対側に大穴が空いてたので、そこから割れた窓に通してヒュン!っと」
本当……弓腕前すごいよなお前
僕はそう思いながら兵達に指示を出す
出した指示は
民の手当て
食糧の配給
建物の補修
残党が居ないかの調査だ
「これが終わったらメールノ平原への進軍を再開する!」
『はっ!!』
さてと……他の皆は上手く出来たんだろうか?
僕は空を見上げた