第82話 下準備
翌日
「……んっ」
外から入ってくる太陽の光で目が覚める
あー、カーテン閉めずに寝ちゃったか……
まあ開けてても部屋を覗ける場所なんてないから、気にしなくて良いが……
「すぅ……すぅ……」
右を見るとティンクが眠っている
……裸で
俺も裸だ
まあ、なんだ……うん
遂にっていうか……とうとうっていうか
うん、俺とティンクは一線を越えた訳で……
「…………あぁ、なんか後半は無理をさせた気がする」
勢いっていうか……止まらなかったというか
し、仕方ないじゃないか!
月明かりに照らされた乱れるティンクが魅力的過ぎたんだ!
うん、仕方ない!
…………辛いようだったら謝っておこう
「…………」
俺は時計を見る
大きな柱時計だ
まあ鳴ったりはしないがな
時間は……おぅ、8時か……だいぶ寝てたな
多分レリスは玉座の間に居るし、兵達も勤務を交代している時間だな
まあ、俺は本当は時間を気にしなくて良いんだけどね!
いつも早く玉座に居るのは、ただの習慣みたいなものだし!
何か俺が必要なときは前みたいに兵が呼びに来るからな
だからこのままティンクと一緒に二度寝をしてもいいし
何だったらまた夫婦の営みをしてもいいのだ!!
…………
「って、そんな訳にもいかないよな」
今はオーシャンにとって重要な時期だ
ただでさえ俺の負傷で皆が混乱していたんだ、ちゃんと働かないとな!
「んん……カイト……さん?」
「おはようティンク」
「おはよう……ございます……」
寝ぼけてるのか目を擦りながら起き上がるティンク
そして……
「……あっ」
俺を見て、自分の格好を見て
昨日の事を思い出したのか真っ赤になる
「調子はどうだい?」
「その……少し、恥ずかしいです」
俯くティンク
しかしすぐに顔を上げる
「あ、あのカイトさん! わ、わたしはどうでしたか?」
「どうでしたかって聞かれても……」
「カイトさんを満足させられましたか?」
「あのなティンク……そういうのは考えなくて良いんだぞ?」
「で、でも……」
不安そうなティンク
あー、俺に嫌われたと勘違いしてた時の顔だこれ
「ふぅ……ティンク」
俺はティンクを抱き締める
「…………」
ティンクは大人しく抱き締められる
「君との行為は……その……凄く良かった、出来るなら今夜も相手をしてほしい」
「は、はい!」
ティンクが頷く
その時にプルンっと少し揺れた彼女の胸を見て
今夜は胸を愛でまくろう
そう思った
・・・・・・・・・
バスローブを羽織って自室の向かいにある浴場に夫婦で入る
「まだ休んでて良かったんだぞ? 身体ダルいだろ?」
慣れないことをしたのだから疲れてるはずだ
「大丈夫です! それに……甘えられるうちに甘えたいので」
そう言ってティンクは俺の右腕に抱きつく
このままドッキングに取り掛かりたい欲望を抑えながら浴室に入り、身体を清める
洗ったり洗われたりしてね
……うん、ティンク……今夜は寝かせないからな?
・・・・・・・
入浴を終えて、身体を拭いて服を着る
朝食を済ませて俺は玉座に
ティンクは庭園に行った
玉座の間について玉座に座る
「おはようございますカイト様」
「おはようレリス」
挨拶を済ませる
「おや? 昨夜はお楽しみでしたね」
「…………」
俺は無言でレリスを見る
えっ? 何? バレてるの?
「ついてますよ」
レリスは自分の首筋をトントンと指で叩いてから手鏡を俺に渡す
「……わぉ」
手鏡で見ると確かについていた、ティンクにつけられた愛の証明だ
まあ俺もティンクの身体中につけたのだが……
「隠した方がいいよな?」
「そうですね、スカーフでも巻きますか? それとも包帯……」
「任せる」
「では包帯にしましょう」
レリスは近くのメイドに包帯を持ってくるように指示を出す
「それにしても、やっと跡継ぎ様が見れそうですね」
ニヤニヤしながらレリスが言ってくる
「ま、まあな……なんか色々と気苦労をかけたみたいだな」
「えぇ、やはり跡継ぎ様が居ないのは大変ですからね……」
「俺に何かあった時の話は決まってたろ?」
俺はレリスを見る
もし、俺が死んだらアルスがオーシャンの領主になる
そうするように、アルスとレリスとオルベリンに話している
「それで……状況は?」
俺はレリスを見る
「ブルムン殿からの連絡はまだありません」
「そっか……まあそろそろゲルナルに着いた頃だろうしな……」
ふむ……
「レリス、他の都に連絡を」
「なんと用件を?」
「余ってる食糧を集めてオーシャンに輸送してくれってな」
「畏まりました」
・・・・・・・
ーーーブルムン視点ーーー
パレミル平原でカイトとの話を終えて
自分達はゲルナルに帰還した
玉座の間にてケーミストを待つ
「だ、大丈夫ですよね?」
パーツが不安そうだ
「ヒヒ、任せろ」
ご機嫌とりなら得意だ
「がははは! 戻ってきたか!!」
ケーミストがやって来て玉座に座る
「ヒヒ、ただいま帰還しました」
自分達は膝をつく
「うむ、それで? オーシャンの都は奪えたんだろうな?」
ケーミストが自分を見る
「いえ、都はとても頑丈な造りとなっておりまして、兵が足りません……そう判断しました、ヒヒ!」
「なんだと? つまり失敗したのか!!」
怒鳴るケーミスト
「ケーミスト様、落ち着いて下さい……報告は終わっておりません」
「むぅ……」
「どこかに隙がないか探してる最中に、新しい都……『オーシャン』に運び込まれる大量の食糧を奪いました」
「ほぅ! 食糧を奪ったのか!」
「はい、荷車10台分です! これほどの食糧があれば暫くは困らないかと」
「そうかそうか!!」
食糧を奪ったと聞いて機嫌が良くなるケーミスト
「しかし、それではオーシャンを奪うことは出来ないって事では?」
ゴルースが口を挟む
「う、うむ、それはどうするつもりだ!」
それを聞いて怒鳴るケーミスト
「ご安心を、しっかりと考えております……というのも奪った食糧はオーシャンにとっては重要だったようで……偵察からの報告ではカイナスに軍を動かすとの事です、ヒヒヒ!」
「……つまりどういうことだ?」
わからないのか……ほんとうに無能だ
「迫ってくるオーシャンの軍を、我等カイナスの大軍で殲滅するのです! オーシャンの軍など容易く屠れるでしょう! ヒヒヒヒヒ!!」
「そうか……そうか!! そうだな! 良くやったブルムン!!」
この男は簡単にのせられる
「ささ、ケーミスト様! 早速準備をするべきかと! 全ての都から兵を集めましょう!」
「うむ、そうしよう! 布陣は……」
「『メールノ平原』が地理的に望ましいでしょう! 広く! 見張らしも良く! オーシャンの軍が必ず通る場所です!」
こうしてカイナス軍の総力がメールノ平原に集まることになった
・・・・・・・・
ーーーゲルド視点ーーー
ケーミスト様にゲルナルを追い出された小生
しかし、小生はそれでも出来ることをやっていた
他の都を転々とし、賊を討伐したり
他の領まで行き、食糧を買い集めて民に配ったり
この2年はそうやって過ごしていた
「ゲルド様! ケーミスト様からの手紙が来ました」
「むっ?」
今も都の1つで食糧を配っていたら兵が駆け寄ってきた
小生が何処の都に居るかはブルムン達には話していたからな
そこら辺から聞いて来たのだろうな
「手紙は?」
「こちらです」
「ふむ……」
確かにケーミスト様の文字だ
何々?
『 ゲルド
まもなくオーシャンとの戦が始まる
他の将達の懇願を聞き入れて、貴様をゲルナルに呼び戻すことにする
すぐに帰還しろ』
「……オーシャンとの戦」
随分と急だな……これは何かありそうだ……
「君」
「はっ!」
「モルスを連れてきてくれないか? ゲルナルに帰還する」
「了解しました!!」
ブルムンかグラドスあたりに聞いてみるとするか
小生達はこうしてゲルナルに帰還した
・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
数日……ティンクと交わってから数日経った
1度すればもう我慢なんてしない
この数日は毎晩愛し合ったりしていた
い、今まで我慢してたからな、多少はな?
そんな俺の所に密書が届いた
ブルムンからだ
『機は熟せり』
「よし……レリス! 全員を集めろ!」
「はっ!」
俺は将達を呼び寄せる
少ししてから玉座の間に皆が集まる
アルス
オルベリン
レルガ
ユリウス
ティール
ルミル
レムレ
ルスーン
更にこの数日の間に呼び寄せた
ヘルド
ルーツ
バルセ
都を任せてる彼等もここにいる
「さて、前から準備していた対カイナスの策が実った! これからカイナスを攻める!!」
『おお!』
歓声があがる
「といっても連れていく兵は1万程度だ」
「それで勝てるのですか?」
ルーツが言う
「勝てる! その為の策だ!」
俺が自信満々に答えるとルーツは納得した
「さて、連れていく将だが……オルベリンとティールは絶対に来てもらう……それとアルスとユリウスもだ!」
呼んだ将が前に出る
……んっ?
「ルミル、レムレ? どうした?」
呼んでない2人が前に出る
「カイト様! お願いします!」
「僕達もカイナスに行かせてください!!」
頭を下げる2人
2人の故郷は元々はカイナス領だった
ケーミストの独裁を何とかしたいって気持ちが強いのだろう
……いや、もしかして
「父親の仇を取りたいのか?」
『っ!』
2人の顔が強ばる
図星か
「そっか……仇討ちか……」
「駄目……ですか?」
レムレが俺を見る
「……復讐は何もうまない……なんて言葉は聞き飽きただろうな」
俺は玉座から立ち上がり
2人の前に行く
「あーだこーだと綺麗事を言ってお前達を止めることは容易い……だが敢えてそんな事はしない」
俺は2人の肩を掴む
「俺が聞くのは1つだけだ……『仇討ちを目的にするな!』だ、お前達はオーシャンの為に戦い、結果的に仇討ちをするだけだ……いいな?」
『はい!!』
2人が頷いた
「よし、呼ばれなかった将達は防衛を任せる……それと」
俺はヘルドとルーツとバルセを呼ぶ
「お前達は其々の都から兵を東に……パストーレ側の方に向けて出撃してくれ」
「むっ? パストーレも攻めるのですかな?」
バルセが聞く
「いや攻めない、警戒だけしてほしい……ケーミストは兎も角ゴルースは同盟を利用するだろうからな、同時に攻めようとする筈だ……カイナス側がそんな事考えてなくても、俺達がカイナスを攻めてると知ったらパストーレの『テリアンヌ』は攻めてくるだろうからな」
兵力が今のオーシャンと同じくらいのパストーレだ
今を逃したらパストーレはオーシャンに勝てないからな
「だからパストーレの国境を越えない所で布陣して、俺達の背後を守ってくれ」
「成る程、わかりました」
バルセが頷く
「要するにパストーレの奴等が攻めてきたら返り討ちにすれば良いって事ですね!」
ヘルドも理解したようだ
「ああ、頼んだぞ!」
・・・・・・・・・
庭園に顔を出す
ティンクとミルムを見つけて近付く
「あ、カイトさん!」
ティンクが俺に気づく
「ティンク、これからカイナスを攻めてくる、暫く留守にするが」
「わかりました……留守は任せてください!」
ティンクが答える
昔みたいな不安そうな表情は一切無い
……強くなったな
「じゃあ行ってくる!」
俺は抱きついてきていたミルムの頭を撫でながら言う
「はい!」
こうして俺達はカイナスに向けて進軍を開始した