表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/290

第80話 パレミル平原での戦い 3

 ーーークラフト視点ーーー


 どうすれば良いのか悩んだ

 退くか、攻めるか


 どっちにしても死ぬのなら……


「せめて! 武人として死にたい!!」


 オレは馬を走らせる

 目的はオーシャン軍に突撃して、捕縛されたブルムンとパーツの救出


 オルベリンも倒せたら良いが……それは無理だろうな


「クラフト様! オーシャン軍が!」


 兵が言う


「ああ! 見えてる!」


 オーシャン軍の方も騎馬部隊が突撃してきた

 んっ? 先頭を走ってるのは誰だ?

 オルベリンでもない、ヘルドでもない……見覚えの無い男だ


 その男の少し後方をオルベリンが走っている

 ……まさかアイツがカイト・オーシャンか?


「クラフト様! このままだと衝突します!」

「気にするな! 元々玉砕覚悟だ! このまま行くぞ!!」


 オレ達はオーシャン軍と交戦する


 オレはカイトらしき人物を斬り捨てようと剣を振る


 ギィン!


 鈍い音が響く


「…………」

「ちっ!」


 オレの剣は男の槍に受け止められていた

 馬を止める、突っ切りたかったが……難しそうだ


 兵達も止まってしまった……

 オレが止まったからか……いや違う


「ふん!」

「ひぃ!?」


 オルベリンだ……目の前にいる化物に兵達は怯えている

 これだから厄介なんだよ!


「おい! お前何者だ!」


 オレはオルベリンを警戒しながら、目の前でオレの剣に槍で競り合う男に言う


「我が名はアルス! アルス・オーシャンだ!!」


 ガッ!


 アルスが槍をそらし、オレの剣を流す

 オレは体勢を整える


「アルス? 聞いたこと無いな!」


 オーシャンを名乗るのならカイト・オーシャンの身内だろうな

 背丈は大きくない……成人したばかりってくらいか?

 フルフェイスの冑を被っているから顔が見えん


 こんな奴は無視してオーシャンの陣まで行きたいが……

 今、背中を見せたら確実に殺られるな

 先にこいつを始末するしかない!

 化物も近くにいるしな……なんでアイツは加勢しようとしないんだ?


「はぁ!」

「っと!」


 アルスの槍を避ける

 そしてオレはアルスの槍を掴み、引っ張る


 グッ!


「ふっ!」

「むっ?」


 普通突いた直後の槍を引っ張れば相手は前のめりになるのだが……

 コイツ、大分鍛えているな


「うおおおお!!」

「うぉ!?」


 アルスが槍をオレの方に振ろうと力む

 オレを落馬させる気か!

 っ! 力が……強い!


「くっ!」


 オレは身体をそらす

 ブン! とオレの目の前を槍が走る


 く、時間がかかるな……

 兵達もやっと動き始めた……


「はぁ!!」


 ブォン!!


『っ!?』


 オルベリンが槍を振るう

 槍を振って起こした風が、兵達を怯ませる


 ……いい加減にしろよお前ら!!


 オレはアルスから距離を取る


「お前ら! 化物に怯むな!」


 そして兵達を一喝


「し、しかし……」

「お前らよく考えろ!! このまま逃げ帰っても! 処刑されるだけだ! なら……化物に殺される覚悟で突っ込め!! どうせ死ぬんだからよ!!」


「そ、そうだ……」

「オイラ、どうせ死ぬなら誇り高く死ぬ!」

「化物がなんだ!」


「突撃!!」


『うおおおおおお!!』


 オレ達は突っ込む


「通すか!」


 アルスが身構えるが……


「お前の相手をしてる暇はもう無い!!」


 勢いがあるうちに決着をつけなければ!


 ギィン!

 キィィィィィィ!!


 アルスの槍を受け流して、横を走り抜ける


「しまっ!?」


「退けよ! 化物!!」


 オレは目の前のオルベリンに迫る

 一撃……一撃だけ入れば!!

 兵達の勢いも強くなる!!


「はあああ!」


 ガキィン!


 オレの剣がオルベリンの左肩に食い込む

 ……ガキィン?

 おい、オレは鎧の間接部分を狙った筈だぞ?

 そこなら脆いから剣で斬り落とせなくても、傷くらいはつけれるはずだろ?


「重いな……誇っても良い一撃だ……だが、ワシには効かんな!!」


 バキィ!


「なっ!?」


 オルベリンがオレの剣を破壊した

 まて、今どうやって破壊した!?


「ふん!」


「がっ!」


 オルベリンに首を掴まれた持ち上げられる

 馬が走り去り、オレは空中にぶら下がる


「ぐっ! がはっ!」


 苦しい! 呼吸が……


「もっと腕を磨け!!」

 

 ドゴン!


 そしてオレは地面に叩き付けられた


 薄れていく意識

 その時オレが見たのは……


「ひっ!」

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」


 完全に戦意を失った兵達の姿だった……


 ・・・・・・・・・


 ーーーアルス視点ーーー


「…………」


 僕は気絶してるクラフトを見る


「くそ!」


 最後、クラフトは僕の槍を余裕で受け流した

 オルベリンが居なかったら本陣まで行かれたかもしれない


「アルス様……」


 オルベリンが僕を見る


「訓練みたいにはいかないんだね……」

「初陣にしては上出来だと思いますが?」

「慰めなんていいよ……兄さんに自信満々に言ったのに……結局勝てなかった……」

「アルス様、坊っちゃんの命令をお忘れですかな?」

「えっ?」

「『生きて戻ってこい』……坊っちゃんの命令はそれだけです、貴方様は無事、命を果たせましたぞ」

「……うん……うんそうだね……」


 確かに兄さんの命令は果たせた

 でも僕の胸のうちは悔しさでいっぱいだった


「オルベリン、オーシャンに帰ったらまた鍛えてよ」

「ええ、構いませんぞ!」


 次の機会で……勝ってみせる

 そして兄さんに堂々と報告できるようにしてみせる!!


 僕はそう決意して、ルミルやレムレと一緒に降伏した兵をまとめるのだった


 ・・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


 テントの中



「…………っ」


「お、気がついたか?」


 俺の前でクラフトの目が覚める

 椅子に縛り付けた状態のクラフト


「……お前が……カイト・オーシャンか?」


 まだ意識が朦朧としているのか、虚ろな目で俺を見るクラフト


「ああ、初めまして、俺がカイト・オーシャンだ」

「……はっ、予想よりも若いな……何故オレを殺さない?」


 意識がハッキリしてきたな


「去年から手紙を送ってたろ? お前に俺の仲間になってほしくてな……説得するために生かしてる」


 俺も兵が用意した椅子に座る

 俺の左隣にオルベリンが立つ


「ああ、あれか……本気だったのか……」

「俺はいつだって本気だが?」


 イタズラだと思ってたのか?


「…………」

「なあ、クラフト……ケーミストを裏切って俺の配下になってくれないか?」

「……断る」


 クラフトは弱々しく言った

 うーん、俺のカリスマが低いから断られるな……


「何故だ?」

「……主を裏切れない」

「嘘だな、迷ってる目をしてるぞ?」


 適当な事を言ってもわかるんだからな?


「…………」

「お前がケーミストを裏切れない理由を当ててやろうか?」


 アルス達が戦ってる間に、ブルムンやパーツからカイナスの将の話を聞いた


「家族が人質にされてるんだろ?」

「っ!?」


 クラフトが俺を睨んだ


 ケーミストは都中に私兵を配備していて、いつでも人を連行できる

 少しでもケーミストの機嫌を損ねたら、本人か身内が処刑される

 反乱でもしようものなら一族全員が問答無用で殺されるらしい


 だから将達はケーミストに逆らえないのだ


「それがわかってるんなら……無駄だとわかるだろ? オレは家族を死なせたくない……死ぬならオレだけだ」


「そうか……でもお前が死んだら誰がお前の家族を守るんだ?」

「っ……」


 ケーミストのことだから、クラフトが死んだらなんだかんだ理由を作って家族を処刑するだろう

 そして僅かな財産を奪うだろうな……理由を作って


「クラフト、何も今すぐ俺の配下になれとは言わないんだ」

「?」


 クラフトが首を傾げる


「おーい! 2人共! 入ってくれ」


「はい」

「ヒヒヒ!」


 パーツとブルムンが入ってくる


「お前ら!? 生きていたんだな!」


 クラフトの声が少し明るくなる


「クラフト、彼等は俺の説得に応じてくれた……」

「なに!? お前達……家族を殺されてもいいのか!?」


 クラフトが2人に怒鳴る


「良いわけ無いだろ?」


 ブルムンが言う……いつもの不気味な声じゃなくて……低い声で

 ……こわっ


「ヒヒ、取り敢えず落ち着いて聞きなよクラフト……」


 ブルムンがクラフトに話す

 さっき俺が2人に話した作戦を


 ・・・・・・・・


「……それは上手くいくのか?」


 クラフトが聞く


「お前達次第だ……上手くいけば、お前達の家族も守れる」


 俺は答える


「…………」


 クラフトは悩む


「なあクラフト……お前はこれからもケーミストに怯えたいのか?」

「…………」

「これからもケーミストのご機嫌取りをしたいのか?」

「…………」

「これからも飢えて暮らしたいのか?」

「……はぁ……わかったよ、折れてやる……その作戦に乗ってやるよ」

「本当だな!?」

「ああ、その代わり……失敗すると判断したらオレはお前を裏切るぞ?」

「なら成功するようにするさ!」


 兵に縄を解かせる


「はぁ……なんでこうなるかな……」


 頭を抱えるクラフト


「クラフトさん……が、頑張りましょう!」


 パーツが励ます


「じゃあブルムン、作戦通りに頼むよ」

「お任せを、ヒヒ!」

「……ところで兵達はどうした?」


 クラフトが聞いてくる


「んっ? 見てみる?」


 俺はテントの外を指差す


「?」


 クラフトがテントから出ると……


「うめぇ……うめぇよぉ」

「久し振り腹一杯まで食えるなんて……」

「お、おかわりして良いのか!?」


 そこには、食事を与えられて泣いてるカイナスの兵達の姿があった


「こんな……これだけの食糧があるのか!?」

「用意した食糧の2割は消費したぞ?」

「2わっ!?」


 クラフトの目が丸くなる

 そんなに驚くことか?


「オーシャンは毎年豊作だからな……有り余ってるんだよ、取り敢えず、詳しい話はブルムンから聞いてくれ」


 俺はそう言って3人から離れる



「坊っちゃん、本当に宜しいのですか? クラフトは裏切る可能性がありますが?」

「良いんだよ、彼も家族の為に戦ってるんだ……家族の為なら何でもする、そんな奴は嫌いじゃないからな」

 

 もし俺の誘いを断るなら処刑しないといけなかった……

 作戦話しちゃったからね……


「さて、オルベリン、被害は?」

「軽傷が数名程度です、完勝ですな」

「まあ、まともな戦いになってなかったからな」


 ブルムンもパーツも元々味方だったしな……


「カイトの旦那ぁ!!」

「んっ? どうしたシャルス?」


 シャルスが駆け寄ってきた


「陣の側で兵の1人が裸で倒れてました!」

「……はぁ?」


 えっ? なに? どういうこと?


「シャルス、もう一回言ってくれ」

「陣の側で兵の1人が裸で倒れてました!」


 全く同じトーンで言うシャルス


「なんだ? 酒でも飲んで泥酔してたのか?」

「違うんですって! なんか後ろから殴られて気絶させられたって!!」

「いつだ?」

「さっきらしいです!!」


「…………?」


 うーん? なんで殺されずに気絶なのか

 てか裸って事は服や鎧を奪われたのか?

 誰が? なんのために?


「カイト様!」


 そこに兵がやって来た

 盾をトレイの代わりにして3人分のスープを持ってきてくれた


「カ、カイト様もどうぞ!」

「ああ、ありがとう」


 そういえば俺も腹減ってきたな……スープを飲みながら兵を襲った奴を調べるとするかな


 俺はスープを受け取ろうと手を伸ばす


「むっ!?」

「危ない旦那!!」

「へっ?」


 グイッと後ろに引っ張られた

 俺は後ろに倒れる

 その時……俺の額を何かが斬りつけた


 目の前にナイフが見える

 血が付いてるな


 ガシャン!


 そんな音が響く

 盾が落ちる音だ

 スープが飛び散って、俺の足に少しかかる


 あれ? 何が起きてるんだ?


 ドン!

 背中に衝撃が走る


 今、地面に背中をぶつけた

 背中が痛い


 いや、それよりも額が痛い

 目の前が赤くなる

 これって……血?

 誰の?


 ……あ、俺のだ


 額が裂けてる

 …………ヤバいヤバいヤバい

 意識が追い付いてきた!


「ぐっ! がぁぁぁぁぁぁ!?」


 頭に走る激痛!

 今、理解した

 スープを運んできた兵が俺を殺そうとしたのだ

 俺の額にナイフを突き刺そうとしたのだ


 シャルスとオルベリンがそれを察知して俺を引っ張って倒したのだ

 どっちが引っ張ったのか知らないが……そのお蔭でナイフは俺の額に刺さらず、斬るだけで済んだ

 いや、それでもこれはヤバくないか?

 こんな出血してたら出血多量で死ぬんじゃないのか?


 痛い、痛い、痛い!!


「貴様ぁぁぁ!!」


 オルベリンの怒号


 オルベリンが剣で兵を斬ろうとする


「待で!!」


 俺は必死に叫んだ

 あれ? なんで俺は止めたんだ?

 こんな目にあわされたんだ……殺してしまっても良いはずなのに……


「坊っちゃん!?」


「待て……オル……ベリン」


 俺は額を押さえる


「何故、こんな、事を?」


 俺は兵を見る


「あ、あんたを殺さないと、み、皆処刑される! だ、だから!」


 ああ、こいつ、オーシャンの兵じゃないな

 カイナスの兵だ……

 そっか……兵は作戦も食糧の事も知らないからな

 このまま帰ったら処刑されると思って……オーシャンの兵から装備を奪って、変装して……俺に近付いて……はは、全く警戒してなかった


「……っ」

「ひぃ!?」


 俺はふらふらと立ち上がって男に近寄る


「安心しろ、お前も、お前の家族も、死なせないから……なっ?」

「あ、あぁぁぁぁぁ!!」


 男が泣き出す


「…………あ、やべ」


 意識が……


「坊っちゃん!? 坊っちゃん!!」

「旦那ぁぁぁ!!」


 俺を呼ぶ2人の声が遠のく


 俺……死ぬのか?


 ティンク……



















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ