第78話 パレミル平原での戦い 1
5日程の行軍でパレミル平原に到着した
カイナス軍の姿はまだ見えない
「大分早く到着したな」
「道を整備した甲斐がありましたな」
戦がなかった去年は主に道の整備をした
道を広くしたり、新しい道を作ったり
道を広くすれば行軍の隊列を増やせて、軍の列が短くなるから移動時間が短縮される
3列の5人並びよりも
5列の3人並びの方が短いってイメージしてくれたらわかると思う
そんな感じでパレミル平原に到着したのだ
「ふむ、ここなら見通しも良いな……ここに布陣するか……」
「兄さん、東と西にも布陣しておいた方が良くない?」
「んっ? 兵力を分散するのか?」
俺はアレスを見る
「敵は大軍だし、1万だと纏まっていても変わらないよ……だから3つに分けて、どれかの陣を囮にして敵を挟撃する方が良いと思うんだ」
「ふむ……」
確かに、アルスの考えもわかる
うーん……でもなぁ……それだと敵も軍を分けて全部を一気に襲ってきたら終わりなんだよな……
でもアルスのせっかくの提案を無下にしたくはないしなぁ……
「ワシは反対です」
「オルベリン?」
オルベリンが反対した
アルスに意見するなんて、珍しいな……
いや、今回は戦だ、歴戦の将であるオルベリンは今回の戦ではアルスの案では勝ち目がないと判断したのか?
「なんで?」
アルスがオルベリンに聞く
「アルス様の案を採用するにしても兵が少なすぎます、少なくとも敵軍の半分の兵力がないと包み込まれて殲滅されるだけです」
「それなら陣を離せば!」
「そうすれば襲われた陣の救援に間に合わず、挟撃になりませんな」
「っ!……それなら……それなら……」
アルスは必死に考える
「アルス様、初陣で坊っちゃんの役に立とうと思うその気持ちは立派です、しかしまだ貴方様は戦を知りませぬ、無理はせず……先ずはやれることをして戦を知っていきましょう、まだ若いのですから! 戦など何度もあるのです!」
オルベリンがアルスの頭を撫でる
「……うん、そうだね、ゴメン兄さん、無理な案を出して」
アルスが俺に頭を下げる
「いや、そうやって考えてくれるのは嬉しいぞ? これからもドンドン提案してくれ! 良い案なら採用するからな!」
「うん!!」
「よし、ならアルス……先ずは布陣の指揮をしてきてくれ」
「わかったよ兄さん!!」
アルスは兵達の所に向かった
「助かったよオルベリン」
「いえ、それでどうなさいますか?」
オルベリンは全てを知ってるからな
今回の戦をどう動くかを聞いてくる
「相手の動きによるな……ブルムンがどうするかだ……それによってはオルベリンに暴れてもらうかもしれないな」
「ふむ……それでしたら万全にするためにある程度の兵に事情を話して、動いてもらいますかな」
「ああ、人選はオルベリンに任せるよ」
「お任せを!!」
さて……カイナスの軍が来るのを待つかな……
・・・・・・・・・
ーーークラフト視点ーーー
「前方にオーシャン軍が見えました!!」
物見の兵からの報告
「兵の数は?」
オレは兵に聞く
「1万程かと……」
「1万? 随分と少ないな……」
兵を集められなかったのか?
「それと……オルベリンの姿がありました」
「……」
オレは爪を噛む
オルベリンか……奴が居るなら1万の少数も納得だ
あの男は1人で何万の兵に匹敵する化物だ……ガガルガとの戦で援軍として来たとき……間近でアイツの戦いを見て俺は恐怖した……
血、血、血
アイツに挑んだ者は一瞬で血を吹き出すだけのモノになる
「どうする……」
「ヒヒ、悩んでるね」
ブルムンがオレの隣に来る
「ブルムン……何か策があるのか?」
いつもみたいに不気味に笑うブルムン
余裕があるように見えるが?
「どう思う? ヒヒヒ!」
「わからん」
「だろうね!」
ブルムンはオーシャンの陣の方を見る
「…………ヒヒ!」
そして不気味に笑うと馬に跨がった
「おい! ブルムン!」
何をするつもりだ?
「今からパーツ君と2千の兵で突撃してくる、オルベリンはまあうまく交わすさ!」
「はぁ!? そんな無茶をする気か!?」
「無茶? 相手は1万と老いぼれ、何を怯える? ヒヒヒ! まあ見てなって! 結果は出すから! ヒヒヒヒヒ! ごほごほ!?」
噎せながら言うなよ
「ブルムンさん! 準備できました!」
パーツがやって来る
「おいパーツ! オマエもこんな作戦は止めろ! 死ぬだけだ!」
「死にませんって……それにクラフトさん、このままボーとしてたらかき集めた兵糧も尽きますし……何も出来ずに帰ったら……それこそケーミスト様に処刑されますよ?」
「っ!」
「じゃあ行ってきます!」
「待て! おいパーツ! ブルムン!!」
2人はオレの制止を無視して
『突撃!!』
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』
僅かな兵と共に突っ込んでいった
・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「カイナス軍が動きました!!」
「おっ、来たか!」
布陣して3日……やっとカイナス軍が来た
「よっ!」
俺は馬を走らせて前に行く
そして望遠鏡を覗く
「向かってくる兵は……5万から考えたら少数か……3千くらいか?」
先頭はブルムン……お! 近くにパーツも居るな!
つまりこの突撃は……
「オルベリン!!」
「はっ!」
俺はオルベリンを呼ぶ
「作戦その3だ!! 頼むぞ!」
「お任せを!!」
そう返事をすると、オルベリンは兵を連れて突撃していった
「兄さん!」
『カイト様!!』
オルベリンを見送っていたらアルスとルミルとレムレが来た
「んっ? どうした?」
「カイナス軍が来たんだよね? 僕達は行かなくていいの?」
アルスが聞く
「ああ、オルベリンに任せていいぞ」
「しかし相手は5万の大軍ですよね?」
ルミルが聞いてくる
「突撃してきたのは数千だ、オルベリンなら余裕だ」
「で、でもオルベリンさんも歳ですよ?」
レムレが言う
「大丈夫だ、そうだな……3人とも着いてきてくれ」
『?』
俺は3人を連れて、陣の奥に行く
陣の奥の椅子とテーブルが置いてある所に着く
ここで戦の状況を把握したり、作戦を話し合ったりする
「さて、取り敢えずルミルとレムレは俺の側に待機、アルスは俺の隣に座ってくれ」
俺は椅子に座りながら言う
「えっ? えっ?」
アルスは訳がわからないと顔に出しながら座る
「あ、そこの君、そこの砂時計を取ってくれる?」
「どうぞ!」
兵に30分の砂時計を取ってもらう
俺はその砂時計を逆さにして置く
「兄さん? 何してるの? こんな状況なのに!」
「落ち着けアルス、この砂が全部落ちるまでに全てわかるから」
「ええっ?」
アルスは首を傾げた
・・・・・・・・
ーーーオルベリン視点ーーー
突撃してきたカイナス軍と交戦する
「敵将は何処だ!! 出てこい!!」
ワシが叫ぶと
「ここだ!」
若い男が出てきた……恐らくパーツだろうな
「自分もいるぞ!! 久しぶりだなオルベリン! ヒヒ!」
ブルムンも出てきた
「ほぅ、お前達だけか? クラフトはどうした?」
「あんたに怯えて動けないでいるさ、ヒヒヒ!」
成る程な
「つまりお前達だけで良いんだな?」
ワシは槍を回す
「そういうこと!」
「行きます!」
ブルムンとパーツが突っ込んでくる
「ふん!!」
バキィ!
「っ!?」
「ヒャハ!?」
ワシは2人を槍で殴り、落馬させる
「流石化物、衰えを知らないね、ヒヒヒ!」
口内を切ったのか血を吐くブルムン
「少しは善戦したかった……」
パーツは悔しそうに言う
「ふむ……敵将は捕らえた!! お前たちも武器を捨てろ!!」
ワシは戦ってるカイナス兵に叫ぶ
『……………』
兵達はアッサリと武器を捨てた
これで任務完了だな……連れていくとするか
・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「………………」
砂時計の砂がもうすぐ無くなる
「うーん、そろそろだと思うが……」
俺は出入口を見る
「兄さん、そろそろ話してよ……」
待たされて不機嫌なアルス
すまんな、1から説明するのは大変なんだよ
「まあ待ってくれ……おっ!」
陣内が騒がしくなった
来たか!!
「坊っちゃん! ただいま戻りました!」
オルベリンがやって来る
砂時計の砂が落ちきった
「よし、予想通りだ!」
「オルベリン! 勝ったんだね!」
アルスが言う
「勝った……と言いますか……ふむ、入ってこい」
オルベリンが振り返って言う
……すると
「失礼します!」
「ヒヒヒ!」
パーツとブルムンが入ってきた
「なっ!?」
『!?』
アルスとルミルとレムレが構える
パーツとブルムンが拘束されてないからだ
まあ警戒するだろうな
「3人とも落ち着け」
「でも兄さん! オルベリン! どういうことだよ!!」
アルスもルミルもレムレも俺とオルベリンを交互に見る
「そうだな……簡単に言うと……」
俺は立ち上がって3人を見ながら言う
「コイツらは味方だ」
・・・・・・・・・
ーーークラフト視点ーーー
「報告します! ブルムン様とパーツ様がオルベリンと交戦! しかし……敗北し捕らわれました!!」
「くっ!!」
オレは兵の報告を聞いて俯く
「くそっ!!」
どうする? 退くか?
それとも全軍で突撃するか?
だが捕らわれた2人は……
「どうしたらいいんだよ!!」
こんな時……ゲルドが居てくれたら……
くそ、居ない奴のことなんか考えても仕方ない!
「退いて死ぬか、戦って死ぬか……それしかないのか?」
覚悟を決めるしかないのか?