第73話 正解などは無い事
ルスーンに連れられて商人街を歩く俺達
「薬屋に雑貨……宿屋も此処ですか……診療所もありますね」
レリスが店を見ている
「診療所は他の地区にもありますよ、怪我や病気は怖いですから」
「お、酒場にレストランもここか」
「旅人が利用しやすいように宿屋の側に建てました」
これなら飲み過ぎても直ぐに宿に戻れるな!
「んっ? カ、カジノ……」
レリスが少し豪華な建物を見る
確かに看板にはカジノと書いている
「娯楽は必要ですよ、賭け事は良いですよ~? 利益が出やすいですからね♪」
……それイカサマして出してないよな? 程ほどにしてくれよ?
「そういえば、南の住宅街にも店が無かったか?」
「はい、ここまで来るのがキツいと言う意見もあったので、簡易な物ですが住宅街にも店を建てました、必要最低限な物はそっちで買えます」
つまり商人街はデパートとかで、住宅街の店はコンビニみたいなもんか?
「カイトさん、カイトさん!」
「んっ? どうしたティンク?」
ティンクが俺の手を引く
「あれ何ですか?」
「あれ?」
俺はティンクが指差す建物を見る
「…………」
えっと……看板にはウサギの絵が描かれている
そして周りにはハートのマーク
…………
「なあ、あれって……」
俺はルスーンを見る
「えっ? 娼館ですけど?」
いや、その当たり前みたいだろって顔やめろ
「何故建てた!?」
「必要だからです、欲は発散させないと!」
「せめて奥の方に建てるだろ! 何でこんな手前に……」
「奥の方だと客が少なかったんですよ、萎縮したみたいで……」
…………
「大丈夫なのか? 苦情とか来ないのか?」
「今のところは大丈夫ですね、寧ろ評判です」
うそぉ……
「娼館?」
ティンクは娼館を知らないようだ……聞き覚えの無い単語に首をかしげている
娼館が何か……教えるべきか?
……教えるべきだな、ティンクは子作りの事も知ってるし……興味本位で店に行かれたら嫌だからな
「娼館ってのはな……」
俺は屈んでティンクの耳に顔を近づけ
娼館の事をヒソヒソと説明する
「っ!?」
ボンッ! そんな音が聞こえた気がした
ティンクの顔が赤くなる
そうだよね、恥ずかしいよね
「あ、あの……カイトさん」
「んっ?」
ティンクが不安そうに俺を見る
「私はいつでも大丈夫ですからね? 娼館は利用しないで下さいね?」
「いや大丈夫だから!?」
娼館とか利用する勇気もないし
そんな勇気が有れば魔法使いにはなっていない
取り敢えずティンクの頭を撫でておく
こうして商人街を歩いた
東の外壁まで辿り着いたから城に戻るために来た道を歩く
俺を先頭に右隣にティンク
後ろでレリスとルスーンが何かを話し合っている
これからの事を話しているんだろうなぁ
時間も結構経ったし、そろそろ城に入るか
いったいどうなっているのか……楽しみだ!
「んっ?」
「…………」
歩いていたら前に子供が立っていた
他の民は道を開けるが、子供は俺を見て動かない
まあ子供が退く必要はないな、俺達が避けて通ればいいだけだ
そう思っていたら
「うわぁぁぁぁ!」
子供がこっちに向けて何かを投げた
「ティンク!」
「きゃっ!」
俺は咄嗟にティンクを後ろに引き、ティンクを庇うようにする
ガッ!
「っ!」
何かが俺の額の右上に当たる
上に跳ねて落ちる物を俺は見る
……石? 子供の掌くらいの大きさだ
あれ? これってなにもしなかったら、誰にも当たらなかった?
「貴様何をしている!!」
レリスが叫ぶ
少し離れた場所で巡回していた兵が走ってきて子供を取り押さえた
「カイトさん!? ち、血が!」
「えっ? うわ……」
額を触るとヌルッとした感触
そして触った右手にはベットリと血が付いていた
結構出てるな!?
ティンクがハンカチを俺の額に当てようと背伸びする
……俺は少し屈む
「このガキが!」
「自分が何をしたかわかってるのか!!」
兵達が子供を怒鳴る
しかし子供は俺を睨んだままだ
「こいつ!」
兵の1人が子供を蹴ろうと足を後ろに動かす
おいおい! 相手は子供だぞ!?
「待て!」
「っ!?」
俺が止めると兵はバランスを崩して尻餅をついた
俺は傷口を押さえるティンクからハンカチを借りて、自分で押さえながら取り押さえられている子供に近寄る
「なんで石を投げて来たんだ?」
俺は屈んで子供に聞く
「お父さんの仇だ!!」
もがく子供
「仇?」
俺は首をかしげる
「返せ! 兵士だったお父さんを返せ!! それができないなら死んでしまえ!!」
「…………」
この都の住民は殆んどがカイナスからの移民だ
つまりこの子の父親はカイナスの兵……
「そういうことか……」
恐らくテラヘルでの戦いで、この子の父親は死んだのだろう
なんで死んだのかは知らないが……戦の原因は俺とケーミストだ
戦なんだから仕方ない、兵士なんだから覚悟していた
そんな事を言っても、子供にはよくわからないだろう
この子がわかってるのは、俺が父親の仇の1人ってことくらいか……
「離してやれ」
「はい? えっ? よろしいのですか?」
兵士の1人が聞いてくる
「ああ」
兵士が子供を解放する
立ち上がりながら俺を睨む子供
「坊や、俺が憎いか?」
「…………」
頷く子供
恨まれてるなぁ……
「そっか、でも今の坊やじゃ俺は殺せないぞ?」
「っ!」
悔しそうな子供
「だから強くなれ、俺を殺せるくらいにな……それと狙うなら俺だけにしろよ? 他人を巻き込むな……ほら、また捕まる前に行きなさい!」
逃げる子供
「何も処罰せずに逃がすのですか?」
レリスが俺の隣に来る
「ああ、子供が感情で動いただけだしな、この程度の怪我なら大事にする必要もないだろ」
「流石に今回のは見過ごせませんよ、優しいとかではなく……甘過ぎます」
レリスが俺を批難する
「レリス……あの子はまだ子供だぞ? 多分10にも満たない、そんな子が世の中の事を理解できてるか? 父親が死んだのは戦だから仕方ないと割り切れるか? 無理だろ?」
「それは……」
「俺を憎む事で生きる活力が湧くならそれでいいだろ……成長して世の中の事を理解して……前に歩いてもらえばいい」
「これからも狙われるかもしれませんよ? 成長してから襲ってくるかもしれませんよ?」
「その時はその時だ、それに俺には優秀な部下が多いからな、護衛もバッチリだろ?」
「その護衛が今外壁を見に行って離れてるのですが……」
「気にするな!」
「あ、あの! とにかく手当てしましょうよ!」
ティンクが俺の左手を握る
「出血が酷いですよ!」
言われて俺はハンカチを見てみる
血で真っ赤に染まっていた
「うわ、ティンクすまん、ハンカチをダメにした」
「ハンカチなんかよりカイトさんです! ルスーンさん! 診療所は何処ですか!?」
「ここからなら診療所より城の方が近いです!」
ルスーンが先導する
俺達はルスーンについていった
・・・・・・・・
城に入ると見物する間もなく医務室に連れていかれた
「ふむ、出血は多いですが、傷は大したことありませんね」
医者に診察されながらメイドに傷口を濡れた布で洗われる
「まあ、今日は入浴は控えて下さい、明日また傷を見ましょう」
そう言われて清潔な布を当てられて、包帯を巻かれた
そんな俺の血塗れな右手をティンクはずっと握っていた
・・・・・・・・
「何かあっては大変ですので城の案内は明日か明後日にしましょう」
ルスーンに言われて俺は自室に案内された
てか階段を登ろうとしたら凄いのに乗せられたのだが……それはまた今度にするか
俺は今、ティンクと一緒にベッドに腰掛けていた
俺の右隣にティンクが座っている
服はもう寝間着に着替えた……血も付いていたしな
先に来ていたヤンユや合流したオルベリンやレルガに心配されたが……大丈夫だと言っておいた
「カイトさん……大丈夫ですか?」
ティンクの右手が俺の頬に触れる
「ああ、医者も大したことないって言ったろ?」
俺は笑顔で答える
「いえ、怪我も心配ですけど……今心配なのはカイトさんの心の方です」
「……俺の心?」
何を言ってるんだ?
「カイトさん、ずっと手が震えてます……今も」
「えっ?」
俺はティンクに握られている右手を見る
確かに……震えていた
「あ、いや、これは……」
「ここには私しか居ませんから……無理しないで下さい」
そう言われて……
「む、無理なんて……して……な……っ!」
涙が出てきた
「ちがっ、俺は……」
石を投げられたから?
怪我をしたから?
だから俺は泣いている?
違う……
俺は恐れているのだ……自分が憎まれているという事実を
カイトとして生きる……マールマールを攻めたとき……それくらいから俺は覚悟していた筈なのに……
人を殺す覚悟をして、人に憎まれる覚悟もしていたのに!
今日……直接言われたのが堪える……
「カイトさん……大丈夫ですから……」
ティンクが俺を抱き締める
ティンクが俺の頭を撫でる
背中を優しくさする
とても……落ち着く
「俺は……ごめん、ティンク……暫く……このまま」
「はい……いつまでもこうしてます、カイトさんが元気になってもこうしてます」
・・・・・・・・
やっと涙が止まった
「悪い、カッコ悪いところ見せたな……」
「そんな事無いですよ? それにカイトさんはわたしを守ってくれました、カッコ悪くなんて無いですよ」
……そういえば、咄嗟にティンクを庇ってたな
何か投げられたって思ったら……本当身体が勝手に……
あれ? なんでそんな風に動けたんだ?
ティンクが怪我するかも知れないって思って……
それが……嫌で……
あれ?
胸の鼓動が高鳴る
「カイトさん?」
ティンクが俺を見る
何故か……ティンクの顔を直視できない!
「っ、あ、えと……」
顔が熱くなる
あれ、これって……まさか、これが?
「大丈夫ですか!? 顔が真っ赤になってますよ!?」
ティンクが俺の額に手を触れる
あ、ああ……
「す、凄い熱です! カイトさんもう休みましょう!?」
ティンクに軽く押されてベッドに横になる
俺を抱き締めるティンク
息が、み、乱れてくる!
「お休みなさい……」
チュッと頬にキスされる
頭の中がぐちゃぐちゃになる
あ、意識が……
これって、あれだよな?
恋心……だよな?
俺は……ティンクに………
………………………………恋をした