表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/290

第68話 少女と兵士 3

 いつまでも続くと思ってた

 ずっと苦しむと思ってた

 その時にあの人は来てくれた


 私を抱き締めるあの人が、とても輝いて見えました



 ・・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー



「以上が、俺とサルリラの昔の出来事です……」


 ヘルドが話してくれた過去

 俺はそれを聞いて言葉を失っていた


「…………」


 ヤバい、予想以上に重くて言葉が浮かばない

 子供の頃の事だから、漏らしてその片付けの世話をしたとかその程度だと思ってた


「成る程ね……前から彼女には羞恥心が無いと思ってたけど……それが原因かもしれない」


 ルーツが言う


「どういうことだ?」


 ヘルドがルーツを睨む


「恐らく、賊に乱暴された彼女は歪んでしまったんじゃないのかな? なんていうか……女性として1番辛い事を経験したから……大体の事はどうでも良くなった……とでも言うのかな?」


 つまり裸を見られたりするのは何ともないと?


「彼女が何故ベルからサルリラと名前を変えたのか、あの実力はどうやって身に付けたのか、今は男性恐怖症も克服しているみたいだし、わからないことが多いけど。数年の間に色々頑張ったのは予想できるね」

「確かにな……」


 並大抵の努力じゃ無理だ

 それこそ、死に物狂いで己を研いたのだと思う


「んっ? てかその努力の理由って……」

「ですよね?」


 俺とルーツはヘルドを見る


「ど、どういう意味だ?」


 ヘルドは困惑している


「お前に会う為だからじゃないのか?」


 俺が言う


「なっ!?」


 驚くヘルド


 だってそうだろ?


 名前を変えたのは理由がわからないけど

 強くなったのは仕官する為だろうし……

 男性恐怖症を克服したのも軍は男が多いから、克服しないと仕官出来ないからだし


 そもそもアイツはオーシャンに仕官したいと旅をして来た

 民を大事にするからっと言っていたが……もしかしたらヘルドに会う為に来たのかもしれない


 それに……


「アイツ、初めて会った時からヘルドの事を旦那と呼んでいた、俺達には普通なのにヘルドだけな」


 これってやっぱり特別に想ってるからじゃないのか?


「そ、そうでしょうか?」


 ヘルドは?が頭に浮かんでいる


「さっさと告白したら?」


 ルーツが言う


「それが出来たら苦労しない!!」


 だろうな……サルリラがベルだと知らない時に告白してたら、それはサルリラに惚れたからだとわかる

 でも、ベルだと知った後に告白したら?

 サルリラはヘルドが昔の事に責任を感じて、告白してきたんだと思うかもしれない

 ヘルドはそれが嫌なんだな……

 でもな、ヘルド……


「俺もさっさと告白した方が良いと思うぞ?」

「カイト様!?」


 ヘルドが俺を見る


「ヘルド、お前らしくないぞ? 戦でも止めないとガンガン攻めるお前だ、告白もガンガンいけよ、サルリラが勘違いしてもガンガンいけよ、好きなんだろ? その気持ちをサルリラがわかってくれるまでガンガンいけ!!」

「!?……サルリラがわかるまで……」

「ああ! あっ、でも振られたときは諦めろよ?」


 気持ちがわかってもらえないからガンガンいくのと

 気持ちを拒否されてるのにガンガンいくのは違うからな?


「……」


 ヘルドが考え込む


「まあ、頑張れ」


 大したアドバイスなんて出来そうになかった

 俺に出来るのは応援するくらいだ……頼りないな、俺


 ・・・・・・・・・


 ーーーサルリラ視点ーーー


「公衆浴場の話は聞いていましたが……」

「凄いっすね」


 あっしとティンク様は噂の公衆浴場を見に行った

 といっても建物の外で客の行列を見ているだけっすけどね


「都の人以外にも来てるんですよね?」

「なんか話だと、他の村からマールまで運ぶ馬車があるらしいっす」


 それで他の村の人も公衆浴場を利用しにやって来ているっす

 凄いっすね……


「入れるなら入って色々と見たかったのですが……」

「命令すれば入れるんじゃないっすか?」


 ティンク様はカイト様の奥様っす!

 オーシャンではかなりの地位っすよ!

 兵や従業員に命令すれば入れるっすよ!


「いえ、そんな事はしません、他の人の迷惑ですし……」

「そうっすか、まあ大丈夫っすよ! 城にも大きな浴場があるっす! スッゴく広いっすよ!!」

「そうなのですか!? 楽しみです!」


 ティンク様は眼を輝かせたっす


 ・・・・・・・・


 街を歩いて色々見た後

 あっし達は広場で休憩してるっす


「凄い街ですね」

「公衆浴場が人を集めてるんっすね」

 公衆浴場から近くの店まで、まるで祭の様な人だかりだったっす


「ティンク様、喉が渇いたりとかしてるっすか?」

「私は大丈夫ですよ?」


 それならいいんっすけど


「そろそろ城に行くっすかね?」


 空は夕方で赤いっす

 

 ・・・・・・・・・


「わぁぁぁぁ!」


 城に行って、あっしもティンク様は浴場に来たっす


 大きなお風呂にティンク様は驚いているっす


「凄いです! 広くて、泳げそうです!」

「やっぱりそう思うっすよね?」


 あっし達は身体を洗うっす


「…………」

「どうしたっすか?」


 ティンク様があっしを見てるっす


「どうしたらサルリラさんみたいに大きくなれますか?」


 そう言ってティンク様は自分の胸を撫でるっす


「うーん、あっしも何かした訳じゃないっすからね……勝手になったとしか言えないっす」

「そうですか……」

「どうしたんっすか? カイト様が大きい方が良いとでも言ったっすか?」


 あの方はそんなの気にしないと思ってたっす


「あ、いえ……そうではないのですが」

「?」

「男性は大きい方を好むと聞いたので……」

「人によると思うっすよ?」


 あっしはティンク様の胸を見るっす


「てか、ティンク様の胸は年齢を考えると……普通か少し大きいくらいじゃないっすか?」


 確か13歳っすよね?

 あっしも13の時はこのくらいだったような……


「それに大きくても良いことなんて無いっすよ? 胸当てを着けないと揺れて痛いっす、それに邪魔っすよ?」

「うぅ……それでも羨ましいです……」


 フニフニ

 ティンク様があっしの胸を触るっす


「これからっすよ、これから」


 あっしはティンク様の頭を撫でるっす

 ……さわり心地良いっすね?



 ・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


 ヘルドとの相談を終えて歩いていたら、ティンクとサルリラが街から帰ってきた


 公衆浴場の人だかりや初めて見る物に興奮したのかテンションが高いティンク

 そんなティンクはサルリラに連れられて浴場に向かった


 色々と新鮮な気持ちなんだろうなぁ……


 さて、ヘルドに告白することを勧めたのだから機会を作らないといけない……

 今回の視察は基本どっちかが俺とティンクの護衛につかないといけない

 2人共が護衛から解放されてるのは俺とティンクが都の城で寝るときくらいだ

 城なら兵が護衛できるしな


 あとは……俺が玉座に居て、ティンクに他の護衛をつけてる時とかか……


「今回の視察の間に機会が作れるか?」


 どうにかしないとな……


 ・・・・・・・・・


 それから数日経ったが……中々機会が作れなかった

 ヘルドがコッソリとサルリラを連れて二人っきりになる、なんて事もなかった


 任務に忠実と言うべきか、ヘタレと言うべきか

 いやヘルドは真面目なだけだ、そうに違いない


 そして今、俺達はガガルガに来ていた


「お久しぶりですな、カイト殿」


 玉座の間でバルセに会う

 玉座から立ち上がって譲ろうとしたバルセを止めて、話を続ける


「ああ、久しぶりだなバルセ、調子はどうだ?」

「好調ですな……ユリウスは元気にしてますか?」


 ユリウスが心配なんだな


「ああ、元気だぞ、よく女性にナンパしているのをどうにかしたいくらいだ」

「そうですか……全く、人見知りを治すために始めた事を……」

「えっ?」


 人見知りを? てかアイツ人見知りしてたの?


「ユリウスは昔は暗い性格でしてな……まあ幼いうちに両親を失ったのが原因ですが……どうにかしようと考えていたら、ユールがナンパを勧めてな」


 俺はユールを見る

 ユールは眼をそらした


「ナンパを始めてからは明るくなったのですが……やれやれ」

「そんな理由があったのならほうっといたほうが良さそうだな」


 もしかしたらヘイナスの土地に慣れようとしてるのかも知れないし


「あ、そうだ、ボゾゾは何処だ?」

「むっ? ボゾゾなら訓練所にて兵を鍛えておる筈です」

「そうか、ちょっとボゾゾを借りるぞ?」

「構いませんが……どうするので?」

「ティンク……俺の妻の護衛を頼もうかとね、2人にも後で紹介する」


 因みに今はヘルドとサルリラの2人と一緒に大広間で寛いでる……筈だ


 ボゾゾを俺とティンクの護衛につけて、2人に暇を与えようと思う

 てか、今じゃないとチャンスが作れそうにない……


 ・・・・・・・・


 ーーーサルリラ視点ーーー


 カイト様から暇を貰ったっす


『帰りもずっと護衛だろうし、今日くらいは2人共休んでくれ、護衛ならボゾゾに任せてくれ』

『ボゾゾ、ごえい、する』


 そんな風にいきなり言われて驚いたっすけど……言われてみれば確かに少しくたびれたっすね……


「サルリラ、良かったら街を見ていかないか?」


 旦那に誘われたっす

 断る理由なんかないっすね!


「見るっす!」


 あっしと旦那はガガルガの街を観光するっす


 ガガルガは近くに鉱山があるからか金属の加工が上手いっすね

 剣も頑丈な気がするっす……


「あ、これとか良さそうっすね」


 あっしは鍛冶屋で使いやすそうな斧を取るっす


「? サルリラは斧も使えたか?」

「あっしのじゃないっすよ、ルミルちゃんにあげるっす」


 今もオルベリンさんに鍛えられてる筈っす

 妹分っすからね、初陣用の武器をプレゼントするっす

 ヘイナスで手にはいる武器よりも上物っすからね!


「そうか……なら俺はレムレに弓でも買ってやるか……」

「レムレ君も良い腕してるっすからね~」


 あっしは前の狩りの時を思い出すっす

 鹿を一撃で仕留めて、凄かったっすね……

 弓……教えてもらうべきっすかね?


 そんな風に斧と弓を見ていたら夕方になったっす


 ・・・・・・・・・・


「城に戻る前に少しいいか?」


 旦那にそう言われて

 あっしと旦那はガガルガから少し離れた所にある高台に来たっす


「おぉ、良い眺めっすね!」


 夕焼けで、周りが真っ赤っす!

 旦那は側にある木にもたれ掛かってるっす


「…………」

「旦那? どうしたっすか?」


 さっきからあっしを見てるっすよ?


「あー、コホン……サルリラ、少し聞いて良いか?」

「……なんっすか?」


 旦那の目は真剣っす


「なんで名前を変えたんだ?」

「……昔の自分を捨てるためっす、成人した時にママに名付けて貰ったっすよ」

「そうか……」


 旦那が眼を閉じて思案してるっす


「旦那?」

「サルリラ、俺と結婚してくれないか?」

「…………えっ?」


 えっ? ちょっと待ってほしいっす?

 今なんて言ったっすか?

 あっしの耳はちゃんと聞いてたっすか?


「だから、俺と結婚してくれないか?」

「……今、結婚って言ったっすよね?」

「ああ、言ったぞ」

「……あっしに?」

「ここには俺とお前と馬しか居ないが?」

「あ、えっと……」


 ……いきなりっすね

 でも……それって……


「旦那、あっしの事で責任を感じる必要なんて無いっすよ? 賊に汚されたっすけど……旦那が悪い訳じゃないっす……それにあっしを助けてくれたんっすから……」

「責任を感じて言っているんじゃない!」

「っ!?」


「サルリラ、俺はお前が好きだ、努力するお前が好きだ、兵達を鍛えるお前が好きだ、民の悩みを真剣に聞いているお前が好きだ、使用人達の手伝いをしてるお前が好きだ、戦うお前が好きだ、笑うお前が好きだ……言い出したらきりがないな、お前の全てが好きだ、愛している!」

「~~~っ!」


 顔が熱くなる

 で、でも……


「だ、駄目っすよ……あっし汚れてるっす」

「汚れてるとは思ってない」

「そ、それに旦那から見たらまだ子供だし……」

「歳なんか関係ないだろ?」

「で、でも……私は……」

「サルリラ……俺と結婚してくれ、『はい』か『いいえ』で答えてくれ」


 あっしの……私の答えは……


「……はい……結婚します!」


 そう答えたら……涙が溢れてきた


 ギュウと旦那に抱き締められる




『おじさんにまた会いたい……』

 そう思って方法を考えた……


『仕官したら会える!』

 そう決めてから自分を鍛えた


『今の私じゃ駄目だ!』

 だから旅人の詩人の喋り方を真似たっす


『ママ、新しい名前をつけて欲しいっす!』

 そして『ベル』から『サルリラ』になったっす


『行ってくるっす!』

 18になって旅に出たっす

 そして……カイト様に会って……


『カイト様? この女は?』

 おじさんに会えたっす


 あっしの事は覚えてないみたいっすね……


 カイト様から馬に乗ってるおじさんの後ろに座るように言われたっす

 おじさん……っていうのは流石に失礼になるっすよね?

 ヘルドさんって呼ぶのはなんか距離が離れてるみたいでイヤっす


 だから……


『うっす! 旦那! よろしくっす!』


 そうして旦那と呼ぶようになったっす


「旦那が、本当の旦那様になったっす!」

「ああ、そうだな……サルリラ、これを受け取ってくれ」

「……指輪っすか?」

「ペンダントは壊れたろ? 新しい御守りだ……それと、これからは俺がお前を守るからな」

「嬉しいっすけど……あっし、軍を辞めるつもりはないっすよ?」

「なら共に戦おう、俺の背中を任せる」

「任されるっす♪」


 こうして、あっしと旦那は婚約したっす

 周りはいつの間にか夜になってたっす


 ・・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


 夜になったら城にヘルドとサルリラが戻ってきた

 サルリラの左手の薬指には指輪があった


「どうやら、ちゃんと告白できたみたいだな」

「はい、その報告をと思いまして……」

「そっか、結婚式はいつするつもりだ? なんだったら街中で祝おうか?」

「いやそれは結構です、流石に見世物になりそうなので……」


 おい、その見世物にされたのがお前の目の前に居るんだが?


「だけど、2人が結ばれてよかったよかった……サルリラは今は城に住んでるが……ヘルドの屋敷に引っ越すのか?」

「そうなるっす!」

「そっか、なら連絡を送って引っ越しの手配しておこう」


 帰ったらそのまま屋敷に住めるようにな!


「ありがとうございますっす!」


「ふむ、じゃあ2人を同じ部屋にするかな」

『!?』


 2人の顔が赤くなる


「どうした? 少しでも一緒に居たいだろ?」

「あ、いえ、まあ……」

「そ、そうっすね……」

「なんだったら明日はまるまる休みにしてもいいぞ?」

『大丈夫です!!』


 同時に言われた

 てかサルリラの口調が……


 ヘルドとサルリラが結ばれた

 …………俺もヘルドを見習うべきなんだろうな……






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ