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第67話少女と兵士 2

 毎日浴びせられる罵声

 自分をいたぶりながら笑う周りの男

 吐き気に襲われる


 誰か……私を殺してください……


 ・・・・・・・・・・


 ーーーヘルド視点ーーー


 焔暦134年 1月


「『カシウス』、マイルス村までどれくらいだ?」


 俺は同僚の兵士であるカシウスに話しかける


「もう少しで着くぞ」


 馬を走らせながらカシウスは答えた


 兵士として経験を積んでいた俺は、マイルスでの警護兵として派遣されることになった


 現地に居る兵と交代して、3ヶ月勤める

 3ヶ月後には別の村に派遣される

 こうすることで地形を把握したり、民の声を聞いたりする

 それがベルドルト様の考えだ……とはオルベリン将軍の話だ


「お、見えてきたぞ」


 カシウスが言う

 俺と数名の兵士も村を視界に入れた



 ・・・・・・・・・


「お疲れ!」

「ああ、お疲れ様!」


 現地に居た兵士と交代する

 彼らは兵舎で荷物を回収すると、俺達と入れ違うように馬で村を出ていった


 俺達は荷物を兵舎に置き、其々の役割を確認する


「それじゃ、ヘルドとカシウスは村の巡回だな」

「ああ、わかった」


 因みに他の役割は

 村の出入口の見張り

 村の周りを巡回

 兵舎で待機

 の3つだ


 つまり4つの役割がある、これを1週間毎に交代する


「ヘルド行こうぜ」

「そうだな」


 俺とカシウスは兵舎を出た



 村は平和そのものだった


 農作業をしてる者

 元気に走り回る子供

 井戸の側で話してるおばさん達


「平和だな」

「そうだな、戦も最近無いしな」


 俺の呟きにカシウスが答える


「だけど油断できないぜ? カイナスやマールマールがいつ攻めてくるかわからないんだからな」

「ああ、わかってる」


 特にカイナスだ

 数ヶ月前にベルドルト様に負けて領地を奪われたからな、取り戻そうと躍起だろうな


「そういえば、前の戦でお前敵将討ち取ったらしいな?」


 カシウスが俺を見る


「ああ、『ダリオン』って奴をな、俺が兵士だからか油断してたから……こう、ズバッと!」

「それならお前出世するんじゃないのか?」

「まさか、俺みたいな平民が出世出来るかよ」

「いやいや、ベルドルト様は身分とか関係なく評価するから! オルベリン将軍だって平民出身だって話だぞ?」

「そうなのか?……んっ?」


 俺は視線を移す


 少女が木の上を眺めていた


「どうした?」

「いや、あの子が何してるかって思ってな」

「んー? 木を見上げてるな」

「ちょっと見てくるかな」

「じゃあ、俺は先に行ってるから、追い付いてこいよ?」

「ああ」


 俺は少女に近寄る


「木を見上げてどうしたんだ?」

 俺は少女に声をかける


「猫!」


 少女は俺を見るとそう言った


「猫?」


 俺は木を見上げる


「ニャー」


 ああ、猫が枝に乗ってるな……なんだ? 登って降りれなくなったのか?


「助けたいのか?」

「うん、でも私登れないから……」

「任せろ」


 俺は木を登る

 木登りは得意なんでな


「ほら、こっち来い」

「ニャー!」


 猫が俺の方に走る


 ズルッ


「ニャー!?」


 しかし足を滑らせて枝から落ちる


「っと!」


 俺は木を蹴り、跳ぶ

 そして落ちる猫を受け止めて、着地した


「おお~!!」

「とまあ、こんな所か」


 少女が拍手する


 俺は猫を放す

 猫は走っていった


「おじさん凄い!」

「おじ!? 俺はまだ23だ!!」

「私からしたらおじさんだよ?」


 なんだとこらぁ!?


「なら覚えておけ!()()()()()だ! 23はまだな! いいな!?」

「気にしてるの?」


 やかましい!!


「なんて失礼なガキだ……」

「ガキじゃないもん! 『ベル』って名前があるもん!」

「そうかガキ」

「大人げないよおじさん!」

「おじさんじゃないっつーの!! おにいさんもしくはヘルドさんと呼べ!!」

「おじさーん!!」

「このガキ!」

「わー! にげろー!」


 ベルは走っていった

 全く! どんな教育されてるんだ!


 ・・・・・・・


 それがベルとの出会いだった


 それからもベルは俺の前に現れた


「おじさん暇なの?」

「暇に見えるのか?」

「見える!」

「暇じゃねえよ! 見ろ! この紙の山を!」

「おいおいヘルド、子供に怒鳴るなっての」


 兵舎待機でも絡まれたり


「馬乗りたーい! 乗せて乗せて!」

「駄目だ!」

「良いじゃないか、乗せてやれよ」


 村の周辺を巡回するときでも


「遊ぼ遊ぼ!」

「仕事中だ!」

「立ってるだけじゃん!」

「これも仕事なんだよ!」


 見張りの時も絡まれた


「お前なつかれてんだよ」


 カシウスに言われる


「勘弁してくれよ……」


 正直うんざりしていた


 そうして1ヶ月が経過した


 ・・・・・・・・


 2月


「失礼、ヘルドってのは?」


 兵士が兵舎に入ってきた


「俺だけど?」


 俺が答える


「ほぉ、お前か……ベルドルト様から呼び出しだ、ヘイナスまで来るように」

「ベルドルト様から!?」


 俺みたいな一兵士に領主様が直接!?

 な、何かやらかしたか?


「行ってこいよヘルド」

「だが……」

「他の奴に代わりをやってもらうから行ってこいよ」

「……わかった」


 俺は馬の準備をするために兵舎を出た



「おじさん? 1人で村の周り見るの?」


 馬の準備をしていたらベルがやって来た


「んっ? いや、ベルドルト様……領主様からの呼び出しでヘイナスの都に今から行くんだ」

「へぇ~すぐ帰ってくるんだよね?」

「いやわからん、戻ってくるとは思うがな」

「……帰ったら遊んでくれる?」

「手が空いたらな」

「約束だよ!」

「はいはい……じゃあな!」


 俺は馬に乗って出発した

 この時……出発するのを遅らせていたら……


 ・・・・・・・・


 数日後


 ヘイナス城


 俺はヘイナス城の玉座の間についていた

 タイミングが悪く、ベルドルト様は不在だった……見張りの兵からもうすぐ戻ると言われたから待機している


「……んっ?」


 玉座の後ろで何か動いた?


 俺は玉座を見ていると


 ヒョコ

 っと子供が顔を出した


「…………」

「…………」


 俺と子供は目が合う


「……へへ」

 ニッと子供が笑うと玉座の後ろに隠れる

 かくれんぼか?


「カイト様! ここですか!!」


 そこに少年がやって来た

 成人したばかりってくらいか?


「あ、すみません、男の子を見ませんでしたか?」


 少年が俺に聞く


「多分玉座の後ろの子の事だろう?」


 俺は玉座を見る


「あそこか!」


 少年が玉座の後ろにまわる


「見つけましたよカイト様!」

「あ、ルーツ! 見つかった!」


 少年が男の子を捕まえた

 うん、カイト?……確かベルドルト様の息子の……


「あ、助かりました」

 カイト様を抱き抱えて歩くルーツと呼ばれた少年は、俺とすれ違うときにそう言って歩いていった


「バイバイ!」


 カイト様は俺に手を振る、俺も手を振っておく


 そこに


「ふむ、待たせたようだな」

「!?」


 いつの間にベルドルト様が玉座に座っていた

 あ、別の入り口が玉座の近くにあるのか……


 俺は膝をつく


「えっと……ヘルド参りました!」


 こ、これで良いのか?


「そう固くならなくていいぞ、気楽にしろ」


 ベルドルト様が微笑む

 気楽になんて出来るわけない


「は、はい……」


「それで、今回呼び出した用件だが……」

 い、いったい何なんだ……


「ヘルド、近々お前を将にしようと思う」

「……はい!?」


 変な声が出た


「前のカイナスとの戦でお前はダリオンを討ったそうだな? 私がそれを知ったのが最近でな、本来ならすぐに褒美をやるべきなのに、すまなかったな」

「い、いいいえ!だ、大丈夫でです!」


 頭を下げられた

 恐れ多い!!


「それで今の警護の仕事が終わり次第、お前を……むっ?」


 ベルドルト様が話を止める


「申し上げます!!」


 すると兵が玉座の間に駆け込んできた


「どうした?」

 ベルドルト様が聞く


「マ、マイルス村に賊が! 村は壊滅状態です!」

「!?」


 それを聴いた瞬間、俺は走っていた

 ベルドルト様が俺を呼んだ気がしたが気にせず走った


 頭には仲間の事やベルの事が浮かんでいた


 外に出て馬に跨がり、マイルスに向かう


 ・・・・・・・・・・


「なんだよこれ……」


 村に着いて俺は愕然とした

 建物は壊され、村人の死体が並べられている

 既に数人の兵が来ていた

 恐らく付近の村から救援に来てくれたのだろう

 賊は彼等が追い払ってくれたようだ


「なあ……生存者は?」

 俺は近くの兵に聞く


「んっ? 広間で治療を受けてるはずだが?」


 兵が答えた


「おーい、運ぶの手伝ってくれ!」


 他の兵の声

 そっちを見ると……


「カシウス!?」

「なんだ? お前の友人だったのか? 生き残った兵はこいつだけみたいだな」


 カシウスが運ばれていた

 俺が駆け寄ると


「ヘ……ルド……」

「おい、どうしたんだ! 俺が出てから何があった!」

「賊……が……悪……い……ベ……ル……」

「カシウス?……おい! カシウス!!」

「気絶してるぞ……」

「くそっ!」


 ベルがどうしたんだ!?

 俺は並べられた死体を見る

 ベルの死体は無い……広間にいるんじゃないのか!?


 俺は広間に向かう


「……これだけか? 助かったのはこれだけなのか?」


 そこには10人にも満たない人数の村人しか居なかった

 ベルの姿はない……


 まさか……まさか!!


「ヘルドさん!」


 ベルの母親が俺に気付く


「奥さん、ベルは?」

「ああ! ヘルドさん! ベルが、ベルが!!」



 ・・・・・・・・・


 ベルが賊に連れていかれた

 そう聞いた瞬間、俺は気が付いたら馬に乗っていた


「…………」


 不思議と頭がスッキリしている

 必要な情報が頭からドンドン出てくる


 村の付近には洞窟や小屋がある

 そこから村を襲った賊の人数を破壊された規模から予測して考える


 そして1番怪しい洞窟に真っ直ぐ向かう


 それが正解だった


 洞窟に賊が居た

 見張りが2人立っていたが俺は馬で突っ込む


「止まれ!」


 そう叫ぶ賊を無視して突っ込む


 ザシュ!

 ザクッ!


 剣で賊2人の首をはねる


 馬から降りて俺は洞窟に乗り込む


 途中で会う賊を躊躇することなく斬る


 そしてドンドン奥に進む


 1番奥に着いた時だ


「おい、コイツもう何も反応しねえぞ?」

「とうとう壊れたか?」


 そんな声が聞こえた

 嫌な予感しかしない


 俺は近付いて姿を捉える


 そこには……


「あっ? なんだお前?」

「兵か、生き残りがいたか!」


 下半身が丸出しの賊2人と


「…………」


 裸で倒れているベルが居た


 ベルの状態から何があったのか……何をされていたのか直ぐに察し

 頭に血が昇る


「おいてめぇ!」


 うるさい


「殺っちまえ!!」


 うるさい


『死ねぇぇぇ!!』


「うるせえゴミ共がぁぁぁぁぁぁ!!」


 ・・・・・・・・


 賊を殺してベルに駆け寄る


「ベル! 大丈夫か!」


 俺はベルを抱き上げる

 色々付くとか気にしない!


「……」


 ベルの視線が動いて俺を見た……


「助けるのが遅れてすまなかった……もう大丈夫だ……」

「あ……うぁぁ……うぁぁぁぁぁぁ!!」


 ベルが泣く

 俺はベルを抱き締めた



 泣き止んだベルを近くの川まで連れていき、身体を洗う

 洗い終わったベルに俺の上着を着せる


 俺は鎧を着け直してベルを抱き上げる


 そしてマイルス村に戻った



「むっ……」


 マイルス村に着くと数十人の兵とオルベリン将軍が居た


「お前は……ヘルドだな」


 俺を知っているみたいだ


「はい」

「その子供は?」

「賊に連れ去られていた村の子です」

「その子を連れているって事は……」

「賊の拠点を見つけたので襲撃しました、賊は全滅したかと」


 俺が洞窟の場所を伝えると、兵が数人向かって行った


「そうか……そんな事が……」


 ベルを母親に渡してからオルベリン将軍に事情を話した


「ふむ……ヘルド、お前は数日程ここに残れ、あの子を癒せるのは母親とお前くらいだろう」

「はい……」


 言われなくてもそうするつもりだ


「ワシはベルドルト様に事の次第を伝える」


 そう言ってオルベリンはヘイナスに戻った


 ・・・・・・・・・

 

 それから数日

 俺は出来る限りベルと一緒に居た


 ベルは男性恐怖症になっていたが……俺だけは平気だったようだ


「おじさん……もう怖いのこない?」

「ああ、大丈夫だ」


 俺はベルを慰める


 そして別れがやって来た


 マイルス村はもう復興は不可能と判断された

 それで生き残った村人は他の村に移住する事になった


「俺もヘイナスに戻らないといけない」


 ベルに事情を説明する


「もう帰るの?」

「ああ、寂しいのか?」

「……うん」


 頷くベル……


「なら、これをやるよ」

「ペンダント?」


 俺の父親の形見だ……お守りとして持っていた


「お守りだ、持ってろ」

「……うん!!」


 こうしてベルと別れて俺はヘイナスに戻った


 ヘイナスに戻った俺はダリオンを討った功績と、今回の賊を壊滅させた功績で将になった




 これが……俺とベルの出会いと別れだ






















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