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第63話 双子の怒り

 ーーーオルベリン視点ーーー


 ヘイナスを発ち、3日程経った


 ヘイナスからマイル村までは1週間で着く

 しかし、今回はルミルとレムレの旅に慣れていない2人が居る

 医者も長距離の移動は疲れるだろう


 だから野営はせずに道中の村で宿をとりながら進む

 人数も兵を加えても40人程だ、村の兵舎も使えば全員休めた


 ワシの見立てでは10日でマイル村に着くだろうな……つまり、あと7日の移動だ


「いや~平和っすね~」


 サルリラが呑気に言う


「そうだな、だが警戒は緩めるなよ?」

「わかってるっす! でもやっぱりのんびりしちゃうっすね~あ、お疲れ!」


 サルリラはすれ違う巡回の兵に挨拶する

 先程から村や街の間を往復している兵達と何回もすれ違う

 特に問題が起きた訳でもなさそうだ


 それだけ平和と言うことか……


「む、鹿か」


 少し離れた所を3頭の鹿が走っていた


「狩るっすか?」


 サルリラが剣を持つ


「ふむ……」

 少し試してみたい事がある


「サルリラ、弓を使え」

「弓っすか? あまり上手くないっすよ?」

「構わん」


 ワシは馬車に近付く


「レムレ」

「はい!」


 呼ぶと窓からレムレが顔を出した


「鹿を狩る、お前もやるか?」

「はい! やります!」


 レムレが馬車を開ける

 ワシはレムレの手を取り、後ろに乗せる


「ヘルド!」


「なんだ?」


 馬車を挟んで向こう側に居たヘルドを呼ぶ


「あそこの鹿を矢で狩る、お前も参加しろ」

「弓か? 別に構わんが……」


 ヘルドが兵から弓矢を受け取る

 レムレも他の兵から受け取る


「近付くっす!」


 弓を構えたサルリラが馬の速度を上げる

 ワシとヘルドも速度を上げて鹿に近付く


「よし、ここらでいいか……」


 鹿の少し後方の場所で速度を落とす

 鹿と同じ速度で馬が走る


「レムレ、前に」

「はい!」


 レムレをワシの前に座らせる


「よっ!」

「当たるっすかね……」

「当てろ」


 ワシの前に座り弓を構えるレムレ

 脚を手綱で絡めて落ちないようにするサルリラ

 弓の弦の調子をみるヘルド


「どの鹿を狙いますか?」


 レムレが聞く


「レムレは真ん中の鹿を狙え」

 ワシが言う


「1番遠いっすよ?」


 サルリラが言う


「レムレなら当てれる」


 ワシが答える


「なら、俺は右のを狙う」

「じゃ、あっしは左っすね」


 ヘルドとサルリラが構える


「じゃあ、やります!!」


 レムレも構える


 ……………


 数秒の間


 ヒュッ!


 先にヘルドが矢を放つ


 ブスッ!


 ヘルドの矢が右の鹿の尻に刺さる

 鹿は驚き、走り方がおかしくなる

 その隙にヘルドは矢を次々放つ


 ブスッ!

 尻

 ブスッ!

 後ろ足


 鹿が倒れる

 あれはもう動けまい


「やっ!」


 サルリラが矢を放つ


 ヒュン!


 矢は左の鹿の頭上を通りすぎた


「あら?」


 サルリラは何本も矢を放つ


 その数15本

 そしてやっと仕留めた


「やったっす!」


「…………」


 その間、レムレは構えていた

 ずっと狙いを定めていた


 ……そして


「やぁ!」

 ヒュン!


 ドスッ!


 レムレの矢は鹿の頭部を撃ち抜いた

 走る時に動く頭部、その頭部が上がる瞬間を狙ったのだ


 倒れる鹿


「見事だ!」

「えへへ……」


 ワシはレムレを褒める

 予想以上の実力だ!



 ・・・・・・・


 狩った3頭の鹿を捌き、昼食にする


「1発で仕留めるっすか……」


 サルリラはレムレの頭を撫でる


「な、慣れてますから!」


 照れるレムレ


「全く、ルミルといい、恐ろしい姉弟っすね」


 サルリラはルミルを見る


「えっ?」


 ルミルは斧を拭いていた手を止める


「まだ子供なのに鹿を手際よく解体して、なんでもできるっすか?」


 サルリラはルミルの頭を撫でる


「昔からやってたからね!!」


 ルミルは答える


「もうすぐ焼けるぞ!」


 兵と共に鹿肉を焼いていたヘルド

 むっ?


「ヘルド、その手にあるのは?」

「ブラックペッパーだが?」


 持ってきてたのか?


 ・・・・・・・


 こうして道中は楽しく穏やかなものになっていた


 そしてマイル村に到着した



『着いたぁぁぁ!!』


 馬車から降りた2人が元気良く叫ぶ


「サルリラ、2人を送っておいてくれないか?」

「いいっすけど、オルベリンさんや旦那は?」

「ワシは村の周りを見回ってくる」


 ここは元カイナス領だ

 カイナスの賊が流れてきてる可能性があるからな


「俺は兵達の様子を見てくる、兵舎に居るから何かあったら呼んでくれ」


 ヘルドはそう言って兵舎に向かった


「じゃあ行ってくるっす! 2人とも!行くっすよ!」

『はーい!!』


 ふむ、ワシも行くとするか


 ・・・・・・・・


 ーーーレムレ視点ーーー


 マイル村に着いた!

 今、僕とルミルはサルリラさんと一緒に家に向かってる

 もうすぐ……もうすぐお母さんに会えるんだ!


 2年ぶりだなぁ……何を話そうかな……

 今日は村に泊まるのかな?

 お母さんといっぱいお話出来るかな?

 あー! 楽しみ!


「見えた!」

「あの家っすか?」


 ルミルが家を指差す

 あぁ、久し振りの我が家だ!


 僕はたまらず走り出す


「あ、レムレ! ズルい!」

「2人共! 走ったら転ぶっすよ!」


『はーい!』


 でも走る!


 家に着く

 扉を開けようとノブを回して引く


 ガチャガチャ


「……あれ?」


 鍵が閉まってる


 ドンドン!


「おかーさぁん! おばさぁん!」


 扉を叩いて呼んでみる


「レムレ? どうしたの?」

 ルミルが追い付く


「鍵がかかってるの」

「えっ? あ、本当だ……居ないのかな?」


「どうしたっすか?」


 サルリラさんが追い付く


「鍵がかかってて……」

「普通じゃないっすか?」

「家は昼間は鍵をかけないんです」


 夜だけだよ!


「ん~?」


 ガチャガチャ


 サルリラさんが扉を引くけど開かない


「誰かいないっすかー?」


 ドンドン!


 …………


「留守じゃないっすか?」

「病院かな?」


 そう話していたら


「はいはい、どなたですか?」


 庭の方から女の人が来た

 この人は……


『ローズおばさん!』


 僕とルミルが同時に呼んだ


「えっ? ルミルとレムレかい!? どうしたんだい!?」


 驚くおばさん


「里帰り! あとお母さんのお向かえだよ!」


 僕は答える


「あのね! カイト様がお母さんをヘイナスに連れてきていいって! ヘイナスで一緒に暮らすんだ!!」


 ルミルが答える


「そ、そうなのかい? 良かったねぇ……」


「お母さんは中で寝てるの?」

「病院に行ってるの?」


 僕とルミルはおばさんに聞く


「あ、えっとね……」

「とりあえず中に入らないっすか?」

「あ、貴女は?」


 おばさんがサルリラさんを見る


「あっしはカイト様に仕える軍団長のサルリラっす!」

 トントンっと扉をノックしながらサルリラさんが答える


 開けろって事だよね?


「サ、サルリラ様ですか……」


 おばさん? どうしたの?


 ガチャリとおばさんが家の鍵を開ける


『ただいまー!! お母さーん!!』


 僕とルミルは中に入ってお母さんを呼ぶ


 ……………


 返事はない


「寝てるのかな?」


 僕は寝室を覗く

 ……あれ? いない?


「こっちにもいない……」


 ルミルがお風呂場を覗く


「トイレも空いてるっすね」


 サルリラさんが近くの扉を開けて言う


「これはどういうことっすか?」


 サルリラさんがおばさんを見る


「じ、実は……け、今朝から行方がわからないのです!」


「えぇ!?」


 えっ? お母さんがいないの!?


「…………それなら何故兵に言わないっすか? 捜してるようには見えないっすよ?」

「た、たまにこんなことがあったので……いつもはすぐに帰ってくるのですが……」


「捜そうよ!」


 ルミルが言う

 そうだよね! 捜さないと!


「2人はここに居るっす」

『えっ!? なんで!?』

「ここは大人に任せるっす、ローズはあっしと来るっす! 2人の母親の特徴を教えるっすよ!」


 そう言ってサルリラさんはおばさんと一緒に家を出た


「……お母さん」

「大丈夫! すぐに見つかるよ!」


 落ち込む僕をルミルが励ます


「そ、そうだよね!」


 ・・・・・・・・・


 ーーーヘルド視点ーーー


「成る程な……」


 俺はサルリラから事情を聞く

 2人の母親の特徴を聞いて、兵達に捜索を命じる


「それで、ローズだったか? 失踪してどれくらい時間が経った?」

「は、はい……恐らく4時間かと……」


 4時間か……その程度なら単純に出かけるだけだと思うが……

 まあ、病人らしいからな、万が一があったら2人が可哀想だ……早く見つけよう


「サルリラ、俺はオルベリンを捜して話をして来る、兵の監督は任せたぞ?」

「わかったっす!」



 俺は兵舎を出る

 馬に乗り、村からでる


 その後、賊を何人か始末したのか、返り血がついていたオルベリンと合流して事情を話した


 ・・・・・・・


 ーーーオルベリン視点ーーー


 やはり賊は流れてきていた

 見回って正解だな


 そう思っていたらヘルドがやって来た

 そしてルミルとレムレの母親が失踪している事を聞いた


「4時間なら出掛けてるだけではないのか?」

「やっぱりそう思うよな?」


 ワシとヘルドは首を傾げる

 サルリラは何故大事(おおごと)に?


 そう思いながらマイル村に戻った


 ・・・・・・・・


 結論から言うとサルリラの考えは正しかった


 夜になっても2人の母は見つからなかった


 一緒に来た兵と、マイル村に派遣されていた兵

 合わせて60人での大捜索だ

 それでも見つからない


「お母さん……」


 家に行くとルミルとレムレは落ち込んでいた

 不安なのだろう……当たり前か


「…………」


 先程からサルリラは黙っている


「サルリラ?」


 ヘルドが声をかける


「…………」


 サルリラは聞こえてないのか思案している


「……まさか」


 サルリラはそう呟くと外に出た


「……?」


 どうしたのか……


「ヘルド、2人を頼むぞ」

「わかった」


 ワシはサルリラを追う


 サルリラは庭に居た


「…………」


 サルリラは這いつくばって、地面を触っていた


「サルリラ? どうした?」

「…………やっぱりおかしいっす」

「何がだ?」


 サルリラが顔を上げる


「ここを触って下さいっす」


 サルリラが触れている地面

 

「……?」


 ワシは屈んで地面に触れる


「…………ふむ?」


 これがどうしたのか?


「他の所を触ってみて下さいっす」


「他の所を?」


 言われた通りに、ワシは足下の地面を触ってみる


「むっ?」


 違和感

 確かめるために再び地面を触り、比べる


「……柔らかい?」


 他の所は触れると硬いが

 サルリラが触っていた地面は触れると指が容易くめり込んだ


 これは……1度掘り起こしたのか?


「オルベリンさん、あっしは兵を呼んでくるっす」


 そう言って走るサルリラ


 ・・・・・・・・


 兵を数人連れてサルリラは戻ってきた


「皆、掘るっすよ!」


 サルリラの指示で兵が地面を掘る


「……サルリラ」

「あっしの予想が外れてほしいっすけど……」


 ワシとサルリラは地面を掘る兵達の様子を見守る

 そして……


「う、うわぁ!?」


 兵の1人が尻餅をついた


「こ、これは……」

「ひでぇ……」


 兵達が次々と呟く


 ワシとサルリラは近付く


 そして掘られた地面を確認する


「……予想……的中っすか」

「……そうだな」


 そこには死体があった

 女性の死体だ……腐敗が大分進んで……白骨化してる部分もあるが……

 僅かにある面影でわかる……彼女がルミルとレムレの母親だと


「……2人には見せない方がいいっすよね?」

「そうだな……酷だが知らない方が良い」


 こんな状態の死体なんて見せれるわけがない……

 まだ行方不明と言って、生きてると希望を持たせた方が……


「サルリラさん? オルベリン様?」

『!?』


 振り返るとレムレが立っていた

 どうしてここに!?

 ヘルドは何をしている!?


「レムレ、今すぐ家に戻れ!」

「な、なんでですか!?」


 レムレがこっちに来る


「止まれ!」


 ワシは怒鳴る


「……なんで地面を掘ってるんですか?」


 レムレが聞いてくる


「そ、それはだな……」


「なんでその人は腰を抜かしてるんです?」


 レムレは尻餅をついてる兵を見る


「いいから戻るっす!」


 サルリラがレムレに捕まえようと走る


「っ!」

「うぁ!?」


 レムレはアッサリとサルリラを避けた

 そしてこっちに走ってくる

 そしてワシの前に立ち


「何を隠してるんですか!」


 ワシの目を見て叫んだ


「……お前が知る必要はない」

「…………」


 ワシはレムレを睨む

 レムレはワシの目を見続ける

 強い目で……


「オルベリン様、隠さないで下さい」


 そう言った……


「レムレ……お前……」

「さっき、一瞬だけど……見えましたから」


 そうだ、レムレは視力が高い

 恐らく……家の中からずっとワシらを見ていたのだろう

 そして……見てしまったのだ……


「ちゃんと……見せてください……」

「……わかった」


 ワシは道を開ける

 ワシと対峙して……ワシを退けたのはお前が初めてだぞ?


「…………」


 レムレはワシの隣に立つ

 そして……


「……お母さん」


 膝から崩れ落ちた


「なんだよこれ……なんでお母さん……なんで……」


 震えて涙を流すレムレ


「サルリラ……」

「っす」


 サルリラは家に駆け込む

 やって来るルミルとヘルド


「何があった?」


 ヘルドは泣くレムレを見て言う


「2人の母親の死体を見つけたっす」

「!?」


 ルミルが驚く

 レムレが知った以上……隠すのはもう無理だと判断した


「お母さっ!」

 死体に駆け寄ろうとしたルミルをサルリラが止める


「ルミルちゃん、死体は酷い有り様っす……見ない方がいいっすよ」

「それでも……お母さんに会いたい!」

「……わかったっす」


 サルリラがルミルの手を引いて死体に近寄る


「……っ!」


 ルミルも死体を見た


「お母さん……こんなのって……」


 泣き出すルミル


「むっ、逃がさん!」


 ビュン!

 ドスン!


 ワシは槍を投げる


「ひぃぃぃぃぃ!?」


 槍は今にも逃げようとしていたローズの目の前に刺さる


「詳しく話を聞かせてもらうっすよ!」

 サルリラがローズを捕らえた


 ・・・・・・・・・


 サルリラにルミルとレムレを任せて、ワシとヘルドはローズを尋問した


 そして全てを聞いた……


「貴様は……それでも人の子かぁぁぁぁ!!」

「待てオルベぶふぉ!?」


 激昂して拳を振るワシ

 ローズを突き飛ばして代わりに殴られたヘルド


「げほっ! やべ、骨が……げほっ!」

「す、すまんヘルド!」

「おま、これ、普通の奴なら死ぬからな!?」


 ふらつきながら立ち上がるヘルド


「とりあえず、ヘイナスに連行だ……カイト様に指示を仰ごう」

「そうだな……」


 ・・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


「そうして昨日、ヘイナスに帰還しました」


「そうか……とりあえずヘルドの負傷はオルベリンが原因なんだな……」


 素手で重傷って……


「ルミルとレムレの様子は?」


「大分落ち着いて来ましたが……やはり辛いようですね」


 レリスが答えた


「それで? ローズは何をしたのか……聞かせてもらえるか? てかローズは?」

「ローズは地下牢に投獄しております」


 そしてローズが何をしたのかを聞いた


 ルミルとレムレが雇われてから3ヶ月後

 2人の母親の為の仕送りをローズは懐に仕舞った

 つまり盗んだ訳だ


 そして薬を与えずに過ごした

 母親は病状が悪化して死亡した

 薬を飲んでいれば助かる病だったのだが……その薬を飲ませてもらえなかったのだ


 ローズの悪行は止まらない

 母親の死を隠して生活を続けるローズ

 死体は庭に埋めて隠し、村の住人には体調が悪いから外に出れないと伝えて隠した

 そして送られ続けるルミルとレムレの仕送りをずっと盗んでいたのだ


 話から計算して……2人がオーシャンに来て、半年で母親は死に……今までの仕送りはローズの遊ぶ金になっていたのだ


「………………」


 身体が震える

 あー、今、俺怒ってるんだな……

 こんな話聞いたらそりゃ怒るわ

 オルベリンも激おこですわ


「レリス、クズ……えふん、ローズを連れてこさせろ」

「畏まりました」


「どうなさいますか?」


 オルベリンが聞く


「ローズの罪状は窃盗と殺人だな」


 仕送りを盗んだのは窃盗

 薬を飲ませれば助かった命を、薬をあたえずに見殺しにしたのは殺人だ

 金が無かったとか様子が病状が急変したとかの言い訳は通じない


 何より、ルミルとレムレは母親の為に頑張っていたのだ

 その想いを踏みにじったのは許せない


「処刑だな……」

「そうですな」


 ・・・・・・・・


「ひぃぃぃ!」


 ローズが兵に連れてこられた

 手足には木で作られた枷がつけられている


 ローズを待っている間にサルリラも玉座の間にやって来た


「サルリラ、ヘルドは?」

「元気にしてるっすよ、速く訓練したいって言ってたっす」


「そうか……話はオルベリンから聞いた、何故庭に埋まってると?」

「あっし達が来たときに庭から来たんっすよ、その時はなんとも思わなかったっすけど……姉が居なくなってるのに庭いじりなんておかしい、そう思って調べたらドンピシャっす」


「成る程な……」


 よっ、名探偵!

 俺だとそこまで考えられないな!


「さてと……」


 俺は兵に押さえつけられてるローズを見る


「一応、動機を聞こうか? 何故死なせた?」


 うっかりとかじゃない

 明らかに故意だ


「お、お金が無くて」

「嘘だな、ルミルとレムレは余分だと思える金額を送っていた」


 薬を1,000f(フロム)だとしたら送った金額は100,000f(フロム)

 これを2週間に1回送ってたんだぞ?

 生活苦になることはありえない


 因みに給料は毎週支給される

 週給制だ



「薬を受け取る時間が……」

「お前は仕事をしてないっと聞いてるが? 村人の話だと、酒場に良く居たそうだな……それで時間が無いとは言うまい?」


 オルベリンが睨む


「あ、ああ……」


 ローズが震える


「…………」


 俺はローズを見る


「妬みか?」

「っ!?」


 俺の呟きにローズは反応した


「お前は独身らしいな、幼少の時から思うところがあったのかもしれんが……姉と比べて自分が劣っていると思ったのか……それとも逆に見下していたのか……それはわからんが……結婚して幸せになっていた姉を妬んでいたのではないか」


「…………」


 ローズが俺を睨む

 図星っぽいな……


「そんな姉夫婦は夫が処刑されて、姉は身体を壊し、子供達は奉公に出た、送られてくる大金……お前からしたら最高の出来事だったか?」


 そういえばローズは母親が元気だと手紙を2人に送っていたな

 悪質にも程がある


「あんな女」

「んっ?」

「あんな女が何故幸せになれる!」


 ローズが怒鳴る

 兵士に押さえられて床に這いつくばるローズ


「ふざけるな! あの女は!」

「もういい! 黙れ!」


 見苦しい!


「貴様は処刑だ、レルガ!」

「はっ!」


 俺はレルガに声をかける


「処刑方法は任せる、こいつが最も苦しむ方法で殺せ! 自分のやった事を後悔させろ!」

「畏まりました!」


「嫌だ! 何故私が! ふざけるな!」


 ふざけてるのはお前だ!


「さっさと連れていけ!」


 兵が2人がかりで暴れるローズを連行しようとする


 その時


 ギィィィ


 玉座の間の扉が開いた


『…………』


 そこにはルミルとレムレが居た


「ルミル……レムレ……」


 なんで来た?


 2人が俺の前まで歩いてくる

 ローズの隣を素通りする


 そして膝をつく


「お帰りなさいませカイト様」


 ルミルが言う


「お帰りなさいませ」


 レムレも続く

 2人の格好は私服のままだ


「ああ、ただいま」


 俺は答える


「2人共……大丈夫なのか? 休んでいていいんだぞ?」


 俺が言うと


「いえ、平気です」


 ルミルが答える


「その、お願いがあってきました」


 レムレが言う


「お願い?」


 俺が首を傾げると


「あんた達! 私を助けてくれよ! 」


 叫ぶローズ


『…………』


 2人がローズを見る


「……っ」


 ローズを捕まえている兵士の片方が怯む

 なに? そんな怖いのか?


「こんなこと、姉さんだって望んでないよ!」


 ローズは言ってしまった

 言ってはいけないことを


「ふざけるな!!」


 ルミルがローズに怒鳴る


「お前がお母さんの言葉を語るな!!」


 ローズの目の前まで行って怒鳴る


「…………」


 レムレがローズの前まで行く


「……許せない」


 そう呟く

 そして……


 キン!


「うぉ!?」


 ローズを捕まえて兵士の剣を抜き取る

 素早い!? 兵士が驚いてる


「うぁぁぁぁ!!」


 レムレが剣を振り上げた


「止めろレムレ!」


 俺が叫ぶ

 しかしレムレは止まらない!


 剣を振り下ろすレムレ


 ヒュン!

 ガッ!


「うっ!」

「止めろ……」


 剣がローズの頭に触れる直前に、オルベリンがレムレの両手首を右手で掴んで止める


「止めないで下さい! コイツは……コイツは!!」


「人を殺すといつことは、その者の命を背負う事になる」


 オルベリンが言う


「その覚悟は出来てます!」


 レムレは答える


「そうであろうな、だがワシは止める」

「何故ですか!?」

「このようなクズの命をお前に背負わせたくないからだ、背負うなら、誇りのある戦士の命を背負え!」

「っ!……うぅ」


 カランカラン


 レムレが剣を離した


 ルミルが剣を拾い、兵士に返す


「でも……これならいいですよね?」


 ルミルが言う


「むっ?」


 バキィ!


「ぐぎゃあ!?」


 ルミルの拳がローズの顎に入った

 気絶するローズ


「…………」


 オルベリンもサルリラも見ることしか出来なかった


 連行されるローズ


 ローズが出ていったのを確認してからルミルとレムレは、再び俺の前に膝をつく


「それでお願いなのですが」


 ルミルが話を続ける

 あ、お願いってローズ関係じゃないのね?


「僕達を兵にしてください」


「……何故だ? 後1年で2人とも兵になれるんだぞ?」


 成人したら兵にする約束だ


「それじゃあ遅いです! 僕達は早く強くなりたいんです!」

「そして、もう私達と同じ思いをする人が出ないようにしたいんです!」

「……どういうことだ?」


「お父さんがケーミストに処刑されて、お母さんが病にかかったのも、ケーミストが村からお金も食料も持っていったからです!」


「つまり、兵になって戦い、1人でも多く救いたいって事か?」

『はい!!』


 …………


 俺は悩む……


「……その前に聞くが、2人は俺を恨んでいないのか?」


 母親が死んだのは、2人が来てから半年後だ

 つまり、2人を雇った時にすぐに母親も連れてくれば……助かっていたのだ

 これは俺の判断ミスだ……何故2人を雇った時に連れてこなかったのか……悔やんでも悔やみきれない


「カイト様を恨むなんてあり得ません!」


 ルミルが言う


「カイト様のお蔭で……お母さんをお父さんと同じお墓に入れられましたし……むしろ感謝しています」


「そうか……2人にそう言われると、俺も救われる……」


 ただ……引きずるだろうな……今回の事は……


 2人を兵にか……成人するまでしないつもりだったが

 少なくとも、今はまだ戦をするつもりはない

 次に戦をするとしたら都が出来る頃か……

 もしカイナスが攻めてきても、出陣させなければいいか


 よし!


「わかった、今日からルミルとレムレは本格的に兵としよう、暫くは見張りの仕事と訓練に集中してもらおう」


『はい!』


「それと……オルベリン!」

「はっ!」

「2人を鍛えてもらえるか? 成人するまで厳しく、辛い訓練だ」

「構いませんが……」

「それを耐えきって成人したら……2人を兵長に昇格しよう」


 つまり特別メニューでの昇格だ


「2人とも……やれるな?」

『勿論です!』


 力強く答えるルミルとレムレ


 こうして、ルミルとレムレは使用人から兵士になった


 成人するまでは戦わせないけどな……







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