第5話 カイトの苦悩
サルリラを配下にして2週間が経過した
「さてと……どうしたものか……」
俺は訓練場の様子を上から観察していた
訓練場ではオルベリンとヘルドが兵を鍛えていた
武力の高い二人に任せることで効率よく兵達が強くなる
その兵達の中に……
「はっ!やぁ!」
サルリラもいた
新兵だから当たり前なのだが……彼女のステータスはかなり高い
すぐにでも将にしたいのだが……
「そんな訳にもいかないよな……」
ゲームの時はすぐに将として使えたのだが……これはゲームじゃない
仕官して2週間の人物をいきなり将にしたら他の将や兵が納得しないだろう
そこから不満が出始めて最終的に内乱とか起きたら洒落にならない
「やはり手柄を立てさせるべきだよな……」
オルベリンもヘルドもルーツも……ベルドルトの時に手柄を立てて将になったんだ……
サルリラにも手柄を立てさせたら皆も彼女が将になる事に納得してくれるだろう
「ならどうやって手柄を立てさせるかだな……」
他国に戦争を仕掛ける?
これが1番手っ取り早いが……リスクもデカイ
何より兵力の差がまだ大きい
もし奇跡的に勝てても他の国に攻められて終わりだ
「うーん……」
俺がそう悩んでいた時だ
ドン!
「おっと!」
後ろから軽い衝撃
俺の腰辺りに腕が回される……小さな腕だ
「何をしているんだ?」
俺は振り返って腕の持ち主を見る
そこには子供がいた
女の子だ……
「ミルム」
「お兄様捕まえた♪」
この子はミルム……『ミルム・オーシャン』だ
カイト・オーシャンの妹であり、ベルドルトの娘だ
年齢は確か10歳だったか?
「何故ここにいるんだ?危ないから駄目だと言っただろ?」
俺はミルムを引き離して、しゃがんで目線を合わせて聞く
「カイトお兄様がここに行ったってルーツに聞いたの!」
ルーツが俺の居場所を教えたのか
「俺に何か用があるのか?」
「お花!」
目の前に白い花を差し出された
「……くれるのか?」
「うん!」
やれやれ
「ありがとう、栞にでも使わせて貰おう」
「えへへ」
俺はミルムの頭を撫でる
「だがそれはそれ、これはこれだ……ここにはもう入るんじゃないぞ?」
「はーい!!」
わかってるのか?
「城に戻るぞ」
「うん!」
俺はミルムの手を引いて城に戻った
・・・・・・・
城に戻って大広間に入ると
「にいさぁぁぁん!!」
向こう側から少年が走ってきた
「アルス!走ると危ないぞ!」
「ぶぎゃ!?」
ほら転けた
この少年はアルス、『アルス・オーシャン』だ
カイトの弟で年齢は12歳
今でこそこんな子供だが、15歳になるとオーシャン領を制圧した勢力に将として加入されるキャラだ
カイト程ではないが初期能力は低い
だがこいつは育ちやすく、鍛えればすごい勢いで強くなる
最終的にはオールAの強キャラに育てることも可能だ
「アルスお兄様だいじょうぶ?」
ミルムがアルスに声をかける
「だ、大丈夫……それより兄さん!!今日は僕と一緒に領地を馬で走る約束だったよね!?」
「んっ?もうそんな時間か?」
確かに約束した……訓練を見ている間に約束の時間になっていたか
「早く行こうよ兄さん!!」
アルスが俺の左腕を引っ張る
「ずるい!わたしも!」
ミルムも俺の右腕を引っ張る
「わかった!わかったから引っ張るな!」
この二人がブラコンなのは予想外だった……
・・・・・・
俺とアルスと数人の兵で回る予定だったがミルムも居るから少し変更だ
俺とアルスとミルムとレリスで馬車に乗って移動する
「はやいはやい!」
「ミルム様、危ないですよ?」
はしゃぐミルムをレリスが諭す
「兄さん、あれは何ですか?」
「んっ?あれは投石器だな、大きな岩をあれで飛ばすんだ」
「初めて見ました!」
「一昨日完成したからな」
ゲームでは兵器が出てくるのは本来は10年後なんだが……まあこれぐらいのアドバンテージがあってもいいよな?
てかないとキツイ
「パストーレはまた攻めてきますかね?」
「少なくとも3年は攻めてこれないだろうな……兵力は半分になり、条約も結んだんだ……破ったら他国から責められるし攻められる」
勿論、こっちからパストーレを攻めることも出来ないんだがな
「ふむ……」
「カイト様?どうなさいました?」
「これからの事を考えている」
「っと申しますと?」
俺はミルムとアルスが外の景色に夢中になってるのを確認する
「我が領ははっきり言ってまだ弱い……パストーレに勝てたのも奇跡みたいなものだ」
「はい、おっしゃる通りです」
「これからは他の国も攻めてくるかもしれない」
「『カイナス』『マールマール』『ガガルガ』ですね?」
「そうだ……カイナスとガガルガはパストーレと同等かそれ以上の領地だ……攻められたら勝てるか正直怪しい」
「……そう、ですね……」
「だがこのまま何もせずにいるといつか潰される……」
だからやられる前にやらないと
「ではマールマールを攻めるのですか?」
「それなんだよな問題は……」
俺はため息を吐く
マールマールは兵力は1万とパストーレ等と比べたら弱い国だ
勝率は1番高い
だがそれでも兵力は向こうの方が上だし
「こちらから攻めたらカイナスとガガルガがどう反応するか……」
カイナス……兵力は6万5千、将も1人強いやつがいる
ガガルガは将は弱いのだが兵力は8万とかなりの数だ
「マールマールに勝っても停戦しても……疲弊した所を攻められるかもしれない」
そうなったら勝ち目は無い
「あー……どうするべきか……」
「ふむ……それでしたら同盟を結ばれては?」
「同盟をか?」
それは俺も考えた、カイナスかガガルガ……上手くいけば両方と同盟を組めれば何の心配もせずにマールマールを攻めれる
「結んでくれると思うか?5千5百程度の兵力しかない領地に?」
「…………」
「何かしらの交渉材料が必要だろ?」
「それでしたら……」
チラリとレリスはミルムを見る
「レリス……今考えた事を絶対に言うなよ?お前を嫌いたくはない」
「畏まりました」
確かにミルムを人質……もしくは花嫁として献上すれば同盟を結べるかもしれない
でも家族を道具みたいに使うなんて事はしたくない
なによりミルムには幸せになって欲しい
アルスは自力で将として名を上げて立場を得ることが出来る
しかしミルムは悲惨だ……
オーシャン領の滅亡と同時に死ぬか
奴隷として領主に利用されるか……そんな未来しかないのだ
俺もゲームとしてプレイしてオーシャン領を滅ぼした時にミルムを手に入れはした
しかし選択肢が奴隷か処刑しか無かったのだ……
「わぁ!大きい!」
俺ははしゃぐミルムを見る
あんな幼い子をそんな目には合わせたくない
「レリス……何かアイデアは無いか?」
「今は浮かびませんね……時間をいただいても?」
「構わない……俺も考えてみる」
・・・・・・・
領地の見廻りを終えて城に戻る
メイド達にアルスとミルムを任せて俺は玉座に戻る
「ふぅ……」
玉座に座った俺は考える
今の課題は
1 サルリラを将にする
2 領地を安定させる
3 兵力を増やす
4 マールマールと戦い勝利する
こんな所か……慌てるな……一つ一つクリアしていけばいい
今までだってピンチはあったんだ……ゲームの話だが
「ゲームだと気楽だったんだがな……」
敗北=死だ
「ここまでキツイとはな……領主も大変だ」
俺は呟く
そこに
「失礼します!!」
兵が入ってきた
「どうした!」
レリスが兵に叫ぶ
「さ、山賊の偵察が完了しました!こちらが報告書です!」
「お、終わったか……見せてくれ」
兵がレリスに報告書を渡し
レリスが俺に渡す
「…………ふむ」
俺は報告書を読む
「…………」
……山賊?
…………あっ!そうだ!コイツらを利用しよう!!
「レリス!将達とサルリラを呼んではくれないか!」
「?……あの新兵もですか?」
「あぁ、頼む」
「畏まりました!」
レリスがメイドや兵に呼びに行くように命じる
・・・・・・・
俺の目の前に将3人がひざまずく
その後ろでサルリラもひざまずく
「坊っちゃん、どうなさいましたか?」
オルベリンが俺に聞く
「先程、ヌルユ村の付近を荒らす山賊の情報が入った」
俺はレリスに報告書を渡す
レリスがオルベリンに報告書を渡す
「……ふむ、百人ですか……どこぞの兵が落ちぶれたのでしょうな」
「恐らくな」
「ではその討伐ですか?」
オルベリンが聞く
「あぁ、そうだ」
「それでしたら俺が!」
ヘルドが意気揚々と立ち上がる
「待て待て、たかが山賊に将を出すわけにはいかないだろ?将はもっと重要な時に動いて欲しい」
俺はヘルドを落ち着かせる
いや、本当は君に任せたいよ?普通なら任せるよ?
でも今回はそういうわけにはいかないんだ、すまんな
「それでサルリラを呼んだのだ」
「あっしをっすか?」
サルリラが首をかしげる
「私は最近訓練の様子を見ていた……サルリラ、お前は結構戦い慣れてると見た、オルベリンとマトモに打ち合っていたからな」
俺はしっかりと見た
オルベリンがよくやる稽古に決闘がある
オルベリンに挑んで負けたらすぐに次の兵が挑む
これを毎日百人ずつ順番に相手をしている
……オルベリン元気だなぁ
っと話が逸れたな
その決闘で兵は一撃でオルベリンに負けるのだがサルリラは数分ほど打ち合った
そんな事が出来るのはヘルドくらいだったんだがな
「それを見て少し試したいと思ったのだ」
「試す?」
俺は玉座から立ち上がる
「諸君!私はここを……このオーシャン領を更に強大にしようと思っている!」
「なんと!?」
ルーツが驚く
「その為に先ずはマールマールと戦い、領地を奪おうと考えている」
「カ、カイト様!しかし我が軍は……」
「わかっている!」
俺はルーツの言葉を遮る
「我が軍はまだ兵力が足りない、他の国に対する対策もまだできていない……だから今すぐ攻めるわけではない」
「さ、左様ですか」
ルーツがほっとする
「だからその為の準備として将と兵を増やそうと思っている……そこでだサルリラ」
「は、はい!!」
「お前には30人の兵を貸そう、その兵達と共に山賊どもを捕らえよ!」
「捕らえるんっすか?殺さず?」
「そうだ!百人全員捕らえよ!」
「坊っちゃん?それはいくらなんでも無理なのでは?」
オルベリンが言う
「あぁ、無理難題だと私も思う、だがこれくらいは果たしてもらいたい……無事に果たせたら……異例だがサルリラ、お前を将にしよう」
「なっ!?」
「はっ!?」
「ふぇ!?」
「マジっすか!?」
オルベリン、ヘルド、ルーツ、サルリラが驚く
「私は有能な人間には相応しい立場を与えるべきだと思っている……兵力の差は3倍、それに討伐ではなく捕縛……これをこなせる人間は将として戦で戦うときも活躍できると考えている」
「……成る程」
オルベリンが納得する
他の二人も納得はしてないが理解はしてくれたようだ
「異論はないな?」
『…………』
反対意見は無い
「なら明日出発してもらう」
「りょ、了解っす!!」
「いいか?1人も殺さずに捕縛するんだぞ?1人でも殺したら将への昇進は無しだからな?」
「はい!!」
さて……サルリラは上手くやってくれるかな?
レリス
性別 男
年齢 21
軍師であり将としては使えない
ゲームでは主に進行役や助言
領主が戦で不在で他に将がいないときは居城の防衛をしていた