第58話 食事会前日
ベススの都に到着した
「おぉ~」
俺は小窓から外を見る
建物が完全にエジプト系だ
アラジンとか居ない?
魔法のランプとかない?
『よいしょ!』
チップスが止まる
そして振り返って
『どうするだぁ? このまま城に行くだぁ? それとも街を歩きながら行くだぁ?』
そう聞いてきた
どっちか選べってことか
気が利く奴だな
「どうする?」
俺は皆の意見を聞く
「わたしは……見てみたいです」
ティンクが言う
「私も!」
ミルムも元気よく答える
「僕も興味あるよ」
アルスも答える
「皆同じ意見みたいですよ?」
「えぇ、私も同意見です」
ユリウスとティールも答えた
決定だな
・・・・・・・・
荷車から降りる
「うおっ!? 靴越しでも地面が熱いのがわかるな」
真夏の砂浜より熱いぞこれ……
「暑いですね……」
ティンクが降りる
「大丈夫か?」
「はい」
熱中症とかには気を付けないとな
「うわぁ……」
ミルムがティールにおんぶされながら降りる
おいおい……
「ティール、平気なのか?」
「この程度なら問題ありませんよ」
強い……
「何で皆頭に布を巻いてるんで?」
アルスが降りながらチップスに聞いていた
確かに……ベススの民は頭に布を巻いている……ターバン?
「布の下に帽子を被ってるだよぉ、その帽子に布を巻いてぇ、暑さと寒さの対策をしてるだぁ」
「へぇ……」
「被るだか?」
「どうぞ」
ファルンがアルスに帽子と布を渡す
「あ、どうも……えっと?」
アルスは帽子を被る
そして布を巻こうとするが……慣れてないから上手く出来ない
「……ふむ」
ゼルナがアルスに近寄って布を巻いた
「あ、ありがとう」
「構わん、他に被りたい奴は居るか? 女性用もあるぞ」
「被るか?」
俺はティンク達に聞く
「アルスお兄様、涼しい?」
「まだよくわからん」
「重くないですか?」
「結構軽いですよ?」
ミルムとティンクがアルスに聞く
…………あれ?
「なぁ、ユリウスは? まだ荷車に居るのか?」
周りを見渡すがユリウスの姿が無い
「んっ?」
「えっ?」
「んだ?」
ゼルナとファルンとチップスが首を傾げる
ファルンは荷車の中を覗く
「居ません」
「……まさか迷子か?」
ゼルナが再び見渡す
「探すだか?」
チップスが聞く
「……ねぇ、さっきすれ違った人達って女性の団体だった?」
アルスが言う
「えっ? すれ違ったか?」
「うん、さっき」
…………
「どっち行ったかわかるか?」
「あっちの方に行った筈だよ?」
「……チップス」
「行ってくるだぁ!」
ゼルナの一言でチップスが向かった
・・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
「お嬢さん、貴女のお名前を教えてくれませんか?」
「えっ? あの?」
「申し遅れました、僕はユリウス・ウィル・ガガルガと申します、貴女のそのエメラルドグリーンな瞳に魅せられた男です」
僕は目の前の女性に声を掛ける
「あ、わたくしは『デリス』と申します……」
「デリスさん! 素敵な名前ですね! どうですか? 僕とお茶でも……」
「……うーん、気持ちは嬉しいですけど……わたくしは仕事の最中ですので……」
「お仕事は何を?」
「侍女をしてます」
「そうなのですか! 貴女の様な女性が雇えるなんて……雇い主は幸せ者ですね」
「そ、そうですね……」
「見つけただぁ!」
「うわぉ!?」
後ろから襟首を掴まれて持ち上げられた
「チップス! 邪魔をしないでくれ!」
「おめーさん何してるだぁ? カイト様達怒ってただよぉ?」
「あ、やべ……」
「チップスさん!」
「んー? デリスじゃねえだか! 買い出しだか?」
「はい!」
んっ?
「チップス、知り合いだったのか?」
「ベススの侍女をまとめてる子だぁ」
あ、そうなんだ
「買い出しは終わっただか?」
「えっと、後は他の子達に任せてますから……ええ、これだけですね」
「なら、一緒に来てくれると助かるなぁ」
チップスはデリスさんの荷物を左手でひょいっと持った
「わかりました!」
デリスさんはそう言ってついてくる
…………うん
「そろそろ離してくれない?」
「駄目だぁ、おめーさんどこに行くかわからねぇからなぁ」
「結構これ苦しいんだけど?」
「我慢するだぁ」
ちくしょー!!
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
チップスがユリウスを連れてきた
ついでに女の人も連れてきた
エメラルドグリーンの瞳に褐色の肌……てかベススの人間って基本褐色だな
「初めまして、ナリスト様に仕えているデリスと申します」
「あ、これはどうもご丁寧に、カイト・オーシャンと申します」
デリスがお辞儀をして挨拶するのでつられて俺も挨拶した
現代なら名刺交換もしてるな
「ティンク・オーシャンと申します」
ティンクが俺の隣で挨拶する
アルスとミルムは……
「お前はお前はお前はぁぁぁぁ!!」
「いだだだだだだだだだ!?」
「止めなくていいの?」
「今回はユリウス様に非がありますからね」
ユリウスに制裁として関節技をきめていた
「よし、これで全員揃ったな、城に行こう」
ゼルナが言う
「荷車はどうするんだ?」
放置?
「兵達が運ぶ」
『わーしょい! そらしょーい!!』
兵達が10人が前で荷車を引き
後ろで20人くらいが押していた
それでやっと動く荷車……
……チップスってどんだけ怪力なんだよ
・・・・・・・・
街を歩きながら城を目指す俺達
「香辛料の香りが凄いな」
刺激的な香りがする
「ここらへんでは香辛料を主に販売しているからな、西の方に行くと食材が、東の方に行くと装備品が売られているぞ」
「ベススの装備品か……少し見てみたいな」
珍しい物とか見れそうだ
あ、皆に土産を買って帰ろう!
「さぁ、もうすぐ着くぞ」
ゼルナがそう言って角を曲がる
俺達も続くと
「おぉ!?」
宮殿が現れた
白い壁
宮殿のてっぺんには黄金の玉葱みたいな形の何か
テレビで見たことあるやつ!
「うわぁ……大きい……」
ティンクが隣で言う
「うわぁ……」
「わぁ……」
アルスやミルムも見上げている
「そんなに驚くものか?」
ゼルナが言う
驚くものだっての!
・・・・・・・
宮殿に入る
あ、ゼルナは城って言ってたから城って呼んだ方がいいのか
「中も広いな……配下に巨人でも居るのか?」
高い天井を見上げて言う
「巨人か……ふむ、チップスがある意味巨人だな」
「照れるだよぉ」
「褒めてないからね?」
ファルンがチップスに言う
「おお! ゼルナ様! 戻られましたか!」
「ああ、今戻った」
ナリストの執事であるムベがやって来た
「これはカイト様、お久しぶりです」
「ええ、お久しぶりです」
礼をするムベに俺も礼を返す
「ムベ、姉上は?」
「執務室で『ルートゥ』様と話をされておりました」
「ふむ、呼んできてもらえるか?」
「畏まりました」
ムベが去った
「さて、客間に案内しよう、デリスは」
「お茶をお持ち致します」
「頼む」
デリスも去る
・・・・・・・・
俺達は客間に案内された
椅子に座る俺達
少ししてからデリスがお茶とお茶菓子を持ってきた
「美味しい!」
ミルムはお菓子を食べる
「うめぇだな! デリスの料理の腕はベススいちだぁ!」
チップスも食べてる……
「ありがとうございます!」
嬉しそうなデリス
…………
「なぁ、あれってさぁ……」
俺は近くに居たティールに耳打ちする
「惚れてる様に思えますね」
ティールも小声で答える
チラッとゼルナを見てみると
「…………(コクリ」
頷いた
なに? どんなロマンスが有ったの?
「待たせたね!!」
バン! と扉を勢いよく開けてナリストが入ってきた
俺は立ち上がる
「お久しぶりです、ナリストさん」
「久しぶりだねカイト!」
握手する俺とナリスト
「ティンクも元気かい?」
「はい!」
「アルスも大きくなったかい?」
「なってますよ!」
「ミルムは相変わらず可愛らしいねぇ!!」
「く、くるしい!」
ミルムを抱き締めるナリスト
胸に埋まって苦しそうなミルム
「姉上」
「っと、そうだね!」
ナリストはミルムから離れて椅子に座る
「遠路はるばるお疲れ様! 今日はゆっくり休んでくれ! 明日の昼から食事会を開催するよ!」
「それじゃそれまでは自由時間か?」
「そういうことだね! 街中を見たいならチップスかファルンか……そこに座ってるルートゥの誰かを護衛につけなよ!」
「えっ?……うぉ!?」
ナリストの視線の先にはいつの間にか女性が座っていた
長い黒髪にスラッとした体型
スレンダーっていうのか?
「…………」
一瞬俺を見るとルートゥはお茶に砂糖を入れて混ぜ始めた
「他の人は駄目なんですか?」
アルスが聞く
「駄目じゃないけど……」
ナリストが声を小さくする
「身の安全を保証できないよ、私が信を置いているのはこの部屋に居る奴らだけさぁ」
この部屋に居る……
ゼルナとチップスにファルンとルートゥ
それにムベとデリスか
「なんせ敵が多いからね……未だに私を認めてない奴らも居るからね」
「大変ですね……」
俺はナリストを見る
「あんたもね」
お互いに苦笑する
・・・・・・・・
アルスとミルムはユリウスとティール……それとティンクも連れていって街中を見に行った
チップスとファルンが護衛についていっている
俺はというと
「なんだい?」
「いや、普通異性の既婚者を自室に招きます?」
「ゼルナも居るんだから問題ないさ」
俺はナリスト、ゼルナの姉弟と共にナリストの部屋に居る
「それで? 話とは?」
俺がここに来たのはナリストに呼ばれたからだ
「まだ先の話なんだけどね、私はまたリールと戦をするつもりだ」
「その時に援軍を寄越してほしいって事で?」
「話が早いね、そういうことだよ、正直ベススだけの戦力じゃ戦が長引くだけで決着がつかないんだよ、やり過ぎる疲弊して」
「他の領に狙われると」
「そういうことだよ」
ふむ、そんなの断る理由はない
「勿論、喜んで協力しますよ……マールマールの時の借りもありますし」
「助かるよ、礼はしっかりとするからね」
「礼なんて良いですよ、俺は借りを返すだけですし……それに……」
「それに?」
「友人を助けるのは当たり前でしょう?」
「ハハハ! 言うねぇ!」
ナリストは笑う
「だけどそれはそれ、これはこれだよ、礼を受け取って貰わないと私の面目がたたないよ」
「ではありがたく受け取りましょう」
色々な香辛料を貰おうかな
「んじゃ堅苦しい話はここまで! ゼルナ!」
「ああ、ほらカイト」
ゼルナが3つのカップを取り出し、ワインを注ぐ
「私達の友好を願って……乾杯!」
『乾杯!』
ぐいっと! 同時にワインを飲んだ
・・・・・・・・・・
その後、戻ってきたティンク達を迎えて、夕食を済ませて与えられた部屋に行った
3つの部屋を
俺とティンク
アルスとユリウス
ミルムとティール
で分けた
俺の部屋の前にはチップスとファルンとルートゥが交代で護衛するらしい
野盗とか出るかもしれないし……ナリストを陥れようとしてる奴が刺客を放つ可能性があるからだそうだ
本当に大変だなナリスト……
夜も安心して眠れないだろうに
「ふふふ♪」
そしてティンクは久しぶりに一緒に寝れるからか凄くご機嫌だ
横になる俺に抱きついてくる
「あーティンク? もう少し落ち着かないか? ズレてるし……」
見えてるぞ?
「あ、はい……で、でもカイトさんには見られても全然構いません!!」
まあ夫婦だからね
「その……私はいつでもいいですからね?」
恥ずかしそうに言うティンク
なに? 凄い攻めてくるんだけど……
「あー、その……ほら、外に人居るし……ねっ?」
俺は何とか誤魔化そうとする
「そ、そうですね……」
ティンクは素直に従う
良い子だ
『兄さんはティンクさんの事を愛してるの?』
アルスに言われたことが頭に浮かぶ
「…………」
「カイトさん?」
愛してる……か
まだわからない……けど
「お休みティンク」
「はい、お休みなさいカイトさん」
少なくともこんな信頼に満ちた眼で見てくるティンクを……嫌うことはないな