第57話 砂漠を進む
さて、寝不足だが気にせずいこう
なぁに! 社畜時代は1週間は徹夜してたから平気平気!
「ゼルナ、昨日言っていた乗り物ってこれか?」
俺は目の前の荷車を見る
馬を繋いでいない大きな荷車だ
「あぁ、それは『モックル』という木で作った物でな、中を一定の温度に保つ仕組みになっている」
「一定の温度に? 随分と便利な代物だな」
「砂漠越えでは重宝するぞ」
メイドが荷車の扉を開ける
中に入ってみる
「へぇ、広いな……」
「10人まで乗れるぞ」
「じゃあ、全員乗れるな」
「乗るのはお前達だけだ」
「……何故だ?」
俺はゼルナを見る
「俺達はお前の護衛をするからだ、その為に戦力を連れてきたんだぞ?」
「護衛ならティールとユリウスも居るし兵も居るぞ?」
「砂漠での戦いには慣れてないだろ? 安心しろ、お前達は必ず守る」
やだ頼もしい
「それなら……お願いするかな」
ここは甘えよう
ティールとユリウスも慣れない砂漠で倒れたりしたら大変だしな
「それと馬はここにおいていけ、理由はわかるだろ?」
「慣れない砂漠だと歩きにくくて進まないんだろ?」
「そういうことだ、ラクダを使う」
ベススの兵がラクダを連れてきた
「この荷車もラクダが引くのか?」
ラクダ車?
「いや、もっと頼りになるやつだ」
「?」
俺は首を傾げる
・・・・・・・
皆が起きてきたので乗り込む
荷車の中は対面式の5人ずつで座れるタイプだ
荷車の正面から見て右側に俺、俺の左にティンク、俺の右にユリウス
向かい側に左からティール、ミルム、アルスだ
いざというときは左をティールが、右をユリウスが対処する
兵達はルノマレスで留守番することになった
まあベススの兵も居るし、ティールとユリウスもいるから大丈夫だろ
『出発だ!』
荷車の外からゼルナの声が聞こえた
荷車が動き出す
「ラクダよりも頼りになるやつね……どんな生き物なんだ?」
俺は立ち上がり、正面についてる小窓から外を見る
『~~~♪』
「……はっ?」
俺は目を擦る
そしてもう一回外を見る
『さぁ~ドンドン進むだよぉ!』
「チップス!?」
荷車を引いていたのは馬でもラクダでもなく、チップスだった
待て待て、いくら荷車で運びやすいからって人が6人も乗ってるんだぞ?
それにティールやユリウスは装備もあるから更に重いし!
それを余裕って感じで引いていた
どんだけ力持ちなんだよ……
俺は衝撃を受けながら戻って座る
俺の反応を見て気になったのかアルスも小窓を覗いて
「うぇ!?」
驚いていた
・・・・・・・・・
ルノマレスを出発して1時間経った
俺達は荷車の中で雑談しながら時間をつぶす
「それにしても、カイト様が結婚しててビックリしましたよ」
ユリウスが言う
「そうか?」
俺はティンクを撫でながらユリウスを見る
「ええ、ハッキリ言ってカイト様はそういうのは無縁だと思ってましたよ」
「お前、結構失礼だぞ?」
まあ否定はしないが……
メルセデスに呼び出されてティンクと出会わなかったら、俺は一生独身だっただろうな
「それで……ヤってるんです?」
ボソッと呟く
ティールはユリウスが何を言おうとしたのか察していたのかミルムの耳を塞いでいた
「お前な!」
アルスが足を伸ばしてユリウスの膝を蹴る
「いたっ!? いや、気になって……」
「そういうのが気になる年頃ってか?」
ユリウスは15歳だったな……思春期の真っ只中だ
「ヤる?」
ティンクは言葉の意味が理解できてない様だ……
子作りって意味だとは察せないか
「ユリウス、そういう話は野郎だけの時にするもんだ」
「あ、そうなんですか?」
「ああ、友人と暗い部屋で語り合って騒ぐもんだ」
「僕、友人いないんで!」
…………すまん
「あー、なんだ……これからできるさ、アルスとか居るだろ?」
「嫌だよ?」
アルス……真顔で言うなよ……
「いいですよ、女の子の友人なら多いんで」
なんだ? リア充自慢か?
「あ、そうだ兄さん! 兄さんからもナンパは止めるように言ってやってよ!」
「なに? お前ナンパとかしてんの?」
「女性には声を掛けるものでしょ?」
……そうか?
「初めてあった時なんかレムレを女と間違えてたからね!」
「あーそれはなんとなくわかる」
初見でメイド服のレムレを男だとわかる奴っているの?
「そういえばレムレ君はなんでメイド服なんですか?」
ティンクが聞いてくる
「えっ? 服が無いからの筈だが……あれ? そういえばそろそろ新調した服が完成している筈……」
使用人の服を新調して、メイドの何人かは新しい服を着ているのだが……
レムレも男物の服を作った筈……帰ったら聞いてみるか
そんな風に雑談する
・・・・・・・・
そうやっていたら拠点に着いたようだ
「今日はここで休む」
荷車から降りたらゼルナに言われる
「へぇ、オアシスか……」
俺は周りを見渡す
大きな水溜まりがあり、周りにはテントが立てられている
「テントだが、拠点の真ん中に数人用のテントを2つ立てている、それを使ってくれ」
「わかった」
俺達はテントに向かう
・・・・・・・・・
「ふむ、周りに兵のテントがあるのか……」
「これで身の安全を守りますってことか」
アルスとユリウスがテントを見て呟く
「テントが2つ……男女に分かれるか」
俺の提案
ティンクが「えっ!?」って驚いてるが分かれるしかないからな?
「私、お兄様と一緒がいい!」
「駄目」
ミルムの我が儘を切り捨てる
「ティール、2人を頼んだ」
「わかりました」
「カイトさん……」
「添い寝はまた今度な?」
ティンクの頭を撫でる
「はい!」
ティンクが返事をしてミルムと一緒にテントに入った
俺達も入るか
「お、ベッドがある」
中に入ると4つのベッドが有った
布団とか敷いてるだけでも良いのに……
多分、他の兵が使う用のテントだったんだな
「カイト様とアルスは入り口から離れた所にしてください」
ユリウスが言う
「護衛の為か?」
「ええ、賊が襲ってきたら2人は僕の後ろに隠れるようにして下さい」
ユリウスの言うとおりにしよう
ぶっちゃけ場所にこだわりなんて無いし
俺とアルスはそれぞれのベッドに腰掛ける
ユリウスは剣を腰から外して手元に持ってベッドに腰掛ける
ユリウスは入り口の方向を見ている、俺達に背を向ける形だ
「さて、多分明日も朝早くの移動になるだろうな」
今日はしっかり寝るぞ!
煩悩も襲ってこないし!!
「じゃあ、今日も早めに寝ないとね」
アルスは枕を触りながら言う
「夕食の時間になったら呼ばれるでしょうね」
ユリウスは剣を手入れし出した
「ベススの料理はオーシャンとは違うから楽しみだね」
アルスは楽しそうだ
カレーが気に入ったのか?
「あ、そうだカイト様」
ユリウスが俺を見る
「なんだ?」
俺はユリウスの目を見て聞く
「結局ティンク様とはヤってあべふ!?」
「お前は馬鹿か!」
アルスが枕をユリウスに投げた
ユリウスの顔面にクリーンヒット!
ナイスコントロール!
「いや~野郎だけだし……いいかな~って」
「いいわけないだろ!!」
「いや構わんぞ? そういうのに興味津々な年頃なんだろうし」
よしっ! とガッツポーズするユリウス
いいの!? て顔のアルス
「と言っても言えることはこれだけだ……ヤってない」
「ええ!? なんでですか!?」
ユリウスが驚く
「あのな、ティンクはまだ13の子供だぞ? ヤンユにも言ったが子作りも妊娠も出産も負担が大きいんだ」
現代なら医学も進歩してるから負担もある程度は減らせるが……
サーリストだと出来て麻酔くらいか?
帝王切開とかは無理だろうし
「だから、ティンクが成人するまでは何もしないつもりだ」
って建前を話す……よしよし、ティンクの成人まではこれで誤魔化そう
「兄さん、それ本気で言ってるの?」
「……どういう意味だ?」
俺はアルスを見る
「なんか……それが兄さんの本音だとは思えないんだ……建前に聞こえるよ」
「ははは! おかしな事を言うな!」
内心で冷や汗を流しながら笑う
「前から思ってたんだけど……」
アルスが前のめりになる、顔が近い
「兄さんはティンクさんの事を愛してるの?」
「っ!?」
俺の目を見ながら聞いてくるアルス
顔を背けようとしたが……それは肯定になってしまう
「何故、そんな事を聞く?」
俺はアルスの目を見ながら聞き返す
「だって、兄さんのティンクさんに対する接し方が、僕やミルムとあまり変わらないように見えたからね……」
アルスは普通に座る
「なんていうか……家族に接する態度って感じで……妻……女性に接する態度って感じじゃないんだ」
「…………」
俺は黙る
ユリウスが『えっ? えっ?』て顔で俺とアルスを見比べる
「…………」
「…………」
見つめ合う俺とアルス
…………あ、駄目だ……誤魔化すことは出来そうにないな
「はぁ、負けたよ……正直に言うと俺もよくわからん」
俺は枕を抱き締める
「最初はティンクを保護する……それが理由だった」
「……今は違うの?」
「……よくわからないな」
本当にわからない
最初はティンクの幸せを願っていた
ティンクが恋をして浮気でもしようものなら、俺は身を引くつもりだった
でも今は……
「少なくとも彼女を特別に想えてきている……」
手を出さないのは……これを認めないようにしていたからだな
だって、ティンク可愛いんだぞ?
最近は良く笑うようになったし
一緒に居ると楽しいし
添い寝も俺の方が安らぎを感じてる気がする
「……じゃあ兄さんはティンクさんの事を愛してるって事じゃないの?」
「……どうだろうな」
これが恋心なら
精神が30過ぎたおっさんが13歳の少女に惚れた事になる
現代なら変態とか犯罪者とか言われて糾弾されるな……
はは、笑えねえ
「そんな難しい事ですかね?」
ユリウスが首を傾げる
「お前もいつかわかるさ」
……この気持ちにも決着をつけないといけないな
いつまでも有耶無耶になんて出来ない
「帰ったら話し合ったら?」
「……そうだな」
それでティンクを怒らせて嫌われたら……そう思ったら怖いが
向き合わないとな……
・・・・・・・・・・・
夜になった
夕食をとって水浴びをして身体を清める
ユリウスが女性陣の水浴びを覗こうとしたが俺とアルスが止めた
普段なら別に止めないが……ティンクとミルムが居るからな
流石に妻と妹の裸を見られるのは嫌だ
「じゃあテントに戻るか」
『はい!』
水浴びを終えた俺達はテントに戻る
「んっ?」
歩いていると見張り台の上で月を見ているゼルナが居た
「2人共、先に戻っててくれ」
俺はそう言って見張り台に行き、昇る
「よっ! ほっ!」
梯子を昇り、もうすぐ着くって時に
「ほら」
ゼルナが手を伸ばしてきた
「助かる」
俺はその手を掴み、引っ張りあげてもらう
「どうした?」
ゼルナが聞いてくる
「いや、特に用は無い」
「なんだそれは」
ゼルナが苦笑する
俺はゼルナの隣に座る
月……綺麗だな
「……カイト、ガガルガ攻略、おめでとう」
「ありがとう」
ゼルナがカップを渡してくる
あ、ワインだ……呑んでたのか
俺はワインを飲む
「後はカイナスとパストーレだな」
「ああ、どっちも一筋縄じゃいかないな」
カイナスは今進めてる計画が上手くいけば勝てる
パストーレは……カイナスを先に攻略したら……勝てると思うが
「カイナスもパストーレも『四強』が居るからな」
「四強? なんだそれ?」
ゼルナの発言に俺は首を傾げる
「オーシャンの『オルベリン』、ガガルガの『ティール』、カイナスの『ゲルド』、パストーレの『ブライ』……コイツらを東方を攻略するときの警戒相手として『東方四強』と南方では呼んでいる」
「マジか……初耳だ……てかオルベリンとティールか」
そうだよな、オルベリンは武力最強だし
ティールもバランスはいい
ゲルドは相手がオルベリンだったし兵糧も無かったから余裕で勝てただけで……万全なら結果はわからなかったし
ブライか……ステータスならオールBなんだが……
こいつはオルベリンと何度も戦って生き残ってるらしい……そう考えたら油断できないな
「パストーレと言えば、領主が変わったそうだな?」
ゼルナが聞く
「ああ、メルノユ・パストーレは隠居して、子供のテリアンヌ・パストーレが領主になったそうだ」
テリアンヌ・パストーレ……鎧と兜で全身を隠した領主だ
ゲームでも素顔を見たこと無いな、性別も不明だ
スレとかでは男か女かで盛り上がっていたな
「勝てそうか?」
「わからない、戦はどう動くかなんて予想できないしな」
圧倒的な戦力差があっても、何かが切っ掛けになって崩壊したりとかするからな
「でも……勝たないとな」
負けたら失う……だから勝たないといけない
「……何かあれば頼れ」
「ああ、そっちもな」
・・・・・・・・・・
翌日も、朝早くから出発して、拠点に到着して夜を明かす
それを数日繰り返した
「~♪」
ティンクは拠点だと寝床が別だからか、荷車の中だといつも以上に甘えてきた
「…………」
俺はティンクの頭を撫でる
うん、撫で心地いいな
こうして俺達は砂漠を越えて
ベススに到着した