第53話 ビフォーアフター
何もない荒れ地
オーシャンの領土の端……カイナスの領土に入るから入らないかギリギリの場所
そこに彼はやって来た
「ここですか」
彼の名前はルスーン
人は彼を『内政の匠』と呼ぶ!!
劇的!ビフォーアフ……エフン!
さて、この土地にやって来たルスーン
彼が先ずしたことは
「土は……良質ですね、良い作物が出来そうだ」
土質の調査である
「建物を建てるにせよ、農業をするにしても、土ってのは大事なんですよ」
そう彼は語る
「んん……森や林が無いのが気になりますね……植林をする必要がありますね」
木々が無いことに苦言しながら彼は周りを見渡す
何故森が必要なので?
「えっ? 森が近くに有った方が空気が澄んで良いじゃないですか、それに果物も収穫できますし、獣などが住み着いたら狩って肉や毛皮が取れますし」
そう言って彼は歩き出す
「川が無いですね……掘ったら水が出るか……」
ルスーンは小さな杭を取り出し、地面に突き刺していく
それはなんですか?
「これ? これは掘ったら水が出そうな場所に目印として刺してるんですよ、人手が足りないので人を連れてきてから掘るんですよ」
水源がわかるのですか?
「いえ、勘ですよ……まあ出ればラッキーと思いましょう」
・・・・・・・
数日後
兵を連れて再びルスーンはやって来た
「杭が刺さってる所を掘ってください!」
『はっ!!』
ルスーンの指示で兵達が地面を掘っていく
20ヶ所に杭は刺さっている
スコップ、つるはし等を使って掘っていく
すると……
「出ました!!」
「こちらも!」
計6ヶ所から水が出てきた
「ふむふむ……こことそこは井戸にしましょう」
水の量を見ながらルスーンは指示を出す
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「という訳で水の確保が完了しました」
「……早いな!?」
指示を出して1週間くらいしか経ってないぞ!?
「今回は楽な作業ですので、これから人を雇って村を作っていきます」
なんでも、村を作ってからそこを拠点にして都を作っていくらしい……
その村が最終的に城下町になる訳だ
「わかった……期待しているぞルスーン」
「お任せを、遣り甲斐のある仕事ですね」
ルスーンは楽しそうだ
・・・・・・・・
焔暦144年 8月
ヘイナス城の庭園に人が集まっている
「アルス! 誕生月おめでとう」
俺は今日の主役に声をかける
「兄さん! ありがとう!」
アルスは嬉しそうだ
アルスはこれで14歳だ
「でも兄さん、誕生月は僕だけじゃないんだ」
「んっ? そうなのか?」
「うん……おーい! ルミル! レムレ!!」
アルスが双子を呼ぶ
「はいアルス様!」
「どうしましたか?」
メイド服を着た2人がやってきた
「2人も誕生月だろ?」
「そうだったのか! おめでとう!」
俺は双子に祝いの言葉を送る
「ありがとうございます!!」
「あ、ありがとうございます!」
2人がお辞儀をする
「2人はこれで13……いや14歳になったのか?」
確か去年2人が来たのは6月か7月だったはず……
『はい!!』
「そっか……なら来年には入隊出来るな……今も兵になりたいのか?」
「はい! だから訓練も頑張ってます!」
ルミルは元気だな……
「ぼ、僕もなりたいです!」
レムレも最近は噛まなくなってきたな
「そうか……お前達なら強力な戦力になれそうだな!」
俺は微笑む
「それにしてもしまったな……2人の祝いの品を用意してないぞ……」
「えっ? そんなのいいですよ!」
「僕達はそんなの貰えなくてもいいです!」
なんだよ、遠慮するなよ、俺知ってるぞ? 2人が給料の殆んどを仕送りしてるの知ってるぞ?
病気の母親の為にそこまでするがんばり屋を俺は知ってるぞ?
何かやってやりたいな……考えとこう
・・・・・・・
数日後
「じゃあお願いします!」
「お願いします!」
「わかった!」
外に出たらルミルとレムレが兵に袋を渡しているところに遭遇した
この兵は他の兵と一緒にマイル村に向かう兵だ
マイル村の派遣している兵は2週間毎に交代している
交代でマイル村に行く兵に2人はお金を届けてもらっているのだ
「お母さん元気になれるかな?」
「おばさんからの手紙だと良くなってるって!」
レムレの問いに答えるルミル
おばさんに母のお世話をしてもらってるようだな……
「お母さん……どうしてるかな?」
寂しそうなレムレ
「わからない、でも元気だって!!」
励ますルミル
……会いたいんだろうな
……あ、そうだ!
「ルミル! レムレ!」
俺は2人に声をかける
「はい!」
「どうなさいました?」
2人がやってくる
「お前達、母親に会いたいか?」
俺が聞く
「え、えっと……」
「その……」
「正直に言ってくれ」
『会いたいです!!』
同時に答える2人
よし!
「なら旅支度をしろ! 会いに行くのを許す!」
『…………はい!!』
2人の目が輝いた
・・・・・・・・
「では坊っちゃん、行って参ります!」
「ああ、頼むぞオルベリン! ヘルドとサルリラもな」
「はい、お任せを!」
「2人は守るっすよ!」
ルミルとレムレの護衛を3人に任せる
それと数人の兵と医者と馬車
馬車にルミルとレムレと医者を乗せる
因みに医者を乗せた理由は、ルミルとレムレの母親の為だ
というのも今回2人にはこう言っている
『母親を一緒に連れてきても良いぞ』
っと……あ、ちゃんと住むところは用意してるぞ?
俺からの2人への誕生祝いとして母親との面会と、一緒に暮らす為の下準備をしたのだ
やっぱり仲の良い親子は一緒に住むべきだ
それにここなら薬もマイルより用意しやすいしな
療養的な意味でもヘイナスの方が良いだろ?
『行ってきます!!』
元気に手を振る双子
嬉しそうだな……良かった良かった
・・・・・・・・
玉座の間に戻る
「あ、カイト様、ちょうど良かった」
「んっ? どうしたレリス?」
レリスが俺に近寄る
「ベススのナリスト様から手紙です」
「ナリストから?」
なんだろ?
俺は手紙を受け取り、拡げる
なになに?
『カイトへ
最近調子はどうだい?
ガガルガを攻略したって話を聞いたよ
こっちは相変わらず停滞しているよ
カイトみたいに他の領を攻略したいけどなかなか上手くいかないね
前置きはここまでにしとくかね
実は今回の収穫でベススも豊作でね、色んな料理が出来そうなんだよ
それで以前はオーシャンに招いてもらっただろ?
今度はカイト達をベススに招こうと思うんだ
どうだい?
ベススの料理を食べてみないかい?
夫婦で来なよ! アルスとミルムも連れてきな!
良い返事を期待しているよ!
ナリスト』
「………これは食事会の招待かね?」
「でしょうね……」
ベススの料理か……食べてみたいかもしれないな
「暫く留守にしても大丈夫か?」
「問題ないかと」
「よし、なら行きたいと返事を書こう」
そう言えばティンクと旅行とかしてなかったな……
今度……機会があれば2人っきりで旅行とかしてみるかな……マールとかなら護衛無しでも良いだろうし
・・・・・・・・
数日後
行きたいと返事をしたら『なら来いよ!』っと返事が来た
「よし、行くか!」
「ベススですか……楽しみです!」
嬉しそうなティンク
「砂漠見れるかな?」
ワクワクしてるミルム
「見れるさ」
アルスもワクワクしてる
俺達は馬車に乗る
護衛にユリウスとティール
それと数十人の兵だ
さて、ベススはどんなところか……この目でしっかりと見るとするかね!