第50話 テラヘル防衛戦
ーーーユリウス視点ーーー
「なんだこれ……」
テラヘルに到着した
僕は兵達が運んでいる大きな物を見上げる
「これは投石器だ、去年坊っちゃんの指示で作り上げた兵器だ」
オルベリンが教えてくれる
「どう使うんで?」
「文字通り石や岩を飛ばすのだ、石なら複数を布で包んで飛ばし、岩ならそのまま乗せて飛ばす」
「なんか聞いただけだと大したことなさそうなんですが……」
「侮ると痛い目をみるぞ? そうだな……落石の経験はあるか?」
「昔、1度だけ……目の前で兵が大怪我を負いましたね」
「その落石を人工的に起こしてると思えば良い、高所から落ちてくる岩を想像してみろ」
……上からドンドン迫る岩
確かあの時も落ちてきたときは凄い衝撃だったな……それを人工的に?
「うーん? いまいちピンとこない……」
「それなら実際に見た方が早いな、戦いが始まれば使うからしっかり見ておけ」
そう言ってオルベリンは僕に筒を渡す
確か……望遠鏡だっけ?
遠くが見えるとか……
これで着弾するのを見てろってことかな?
「さて……ユリウス、お前は後方で待機していろ」
オルベリンが行ってくる
「はぁ!? 僕も前線で戦いたいんだけど?」
「生憎、ワシはお前の実力を知らんのでな……無理な戦いをさせて戦死させてしまったら坊っちゃんに顔向けできんのだ」
「嘗めないでほしいね! カイナスの連中なんて余裕で蹴散らしてやるよ!!」
「……そうやって簡単に挑発に乗るから心配しとるのだが?」
「うぐ……」
「ワシやティールの戦いを見て学べ、帰ったら実力を見てやろう」
「……わかった、従うよ」
逆らっても良いことは無さそうだ
でも、『化物』の戦いが見れるのは楽しみだったりする
・・・・・・・
ーーーゲルド視点ーーー
『ゲルド! 今すぐ兵を連れてオーシャンを攻めろ!!』
『しかし! 今は兵糧もマトモに用意できません! 兵達も飢えております!』
『オーシャンの村から奪えば良いではないか!』
『そんなっ!?』
『さっさと行け!! 儂に逆らうのか?』
『っ!…………わかりました』
「はぁ……」
そんなやり取りがあって小生は兵をつれてオーシャンの国境までやって来た……
しかし……
「腹減った……」
「うぅ……」
兵達は飢えに苦しんでいた
僅かな兵糧をやりくりしてここまで来たが……
既に限界が近い……
「皆、耐えるのだ!」
国境を越えた、ここからヘイナスまでは2日程だ……
そうだ、テラヘル平原を越えたら森が有ったはず……
そこでキノコ等の山菜や猪等の獣を狩れば……
いや、流石に3万の兵の空腹を満たす程は取れないか……
兵の戦意も殆んど失ってしまった
「……負け戦だなこれは」
戦う前からわかる
こんな状態で勝てるはずがない
それでも戦わなければならない
逆らえば処刑されてしまうから……
戦って死ぬか
戦わずに死ぬか
武人なら戦って死ぬのを選ぶ……
「もうすぐテラヘル平原だ!」
テラヘル平原に着いたら残りの兵糧を全て振る舞うか?
後が大変だが……今のままだといつ餓死する者が出てくるかわからんしな
「ゲルド様!」
「どうした!」
物見として先に行っていた兵が戻ってきた
「先のテラヘル平原にてオーシャン軍を確認しました!」
「テラヘルに布陣していたか……」
ヘイナスで防衛していると思ってたが……
「数は?」
「恐らく、1万かと……」
1万……数ならこっちが上だが……
「オルベリンが居そうだな……」
いや、間違いなくいる
オルベリンはオーシャンの最高戦力だ
僅か1万の軍勢で挑もうとするなんて彼くらいだ
「小生も、とうとう死ぬか……」
以前、ガガルガとの戦の時に彼の戦いを見たが……
『勝てない』
それだけが頭に浮かんだ
長年の経験からくる戦闘技術
人間離れした身体能力
そして、主の為に戦う忠誠心
「…………せめて一撃、いれてみたいな」
あの世で自慢できるかもしれん
そう考えてる間に……テラヘル平原に到着した
オーシャンの軍勢が見える
「…………」
『無謀』
『無駄』
『無策』
主の命に従って、しなくてもいい戦いに挑む
そして死んでいく小生を……世の中は『愚か者』と笑うのだろうな
そんな愚か者に兵を付き合わせるのも悪いな
「全員聞けぇ!!」
『っ!!』
兵が一斉に小生を見る
「これから我らは、あのオーシャンの軍勢に突撃する! 恐らくパストーレを苦しめた兵器もあるだろう! そしてあの『化物』も!」
『……………』
「はっきり言おう! これは勝てない戦だ! 我らはマトモに腹も満たせず! 力もでない! そんな状態で奴等に挑む!」
ぐぅ~
そんな音があちこちから聞こえてきた
「だから小生は皆に選ばせる!! 小生と共に突撃し、死を覚悟している者のみ共に来い!! 死を恐れる者! 待っている人がいる者! 守るべき者がいる者は逃げよ! 臆病だと笑いはしない!! 敗北の責は全て小生が背負う!!」
『…………』
何人かが俯く
そうだ、死にたくないのなら逃げるんだ
こんな戦いで死ぬことはないのだから……
「さて……では、小生と共に死ぬ『愚か者』の諸君! 行くぞぉぉぉ!!」
『うぉぉぉぉぉ!!』
・・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
「?……突撃? 何の策も無く?」
僕は望遠鏡でカイナス軍を見ながら言う
「ほぉ、兵糧も用意できず、士気は下がりきったものと思っておったが……面白い」
オルベリンが愉快そうに言う
「ユリウス、先頭辺りに中年の男が居らんか?」
「えっと……」
僕はカイナス軍を見る……あ、なんか苦労してそうな人が居るな
「白髪混じりの疲れきったような男が走ってる!」
「やはりゲルドが来たか、まあ、あやつではないと士気など上げれないか」
オルベリンはカイナス軍を見る
「突撃してくるのは……3,000程ですかね?」
ティールが言う
「だろうな……ふむ、少し間を置いてから第2軍団を突撃させるつもりか?」
「……んー?」
僕は待機してる軍勢を見る
流石の望遠鏡でも遠いけど……
「なんか……怯えてる感じに見えますよ?」
「ふむ……そういうことか」
オルベリンが何かを察した
「ユリウス、お前はやはり待機していろ」
「えっ? ずっと見学?」
「死を覚悟した者は手強いからな……投石開始!!」
オルベリンの合図で投石器で岩を飛ばす
僕は飛んでいく岩を望遠鏡で見る
着弾
敵に当たらなかったが、地面が岩を中心に凹んだ
着弾
敵兵数人を潰した
腕が飛んだりしてる……うわ……
着弾
敵兵に当たらなかったが……衝撃で近くにいた騎馬兵が落馬して馬に轢かれた
「……岩だと嘗めたらいけないことがよくわかりました……」
ガガルガとの戦で使われなくて良かった……
こんなの使われたら外壁も壊れるし、直接都を攻撃できる……
こんなのをカイト様は作ったのかよ……
「さて、そろそろ行くか……投石止め!!」
投石が止まる
カイナスの突撃兵は半分くらいに減っていた
投石で殺られた奴も居れば
怯んで止まった者も居る
しかし、ゲルドはそんなの関係ないと突撃してきている
「ゲルドは捕らえるとするか……」
「殺さないのですか?」
「あの男は見込みがあるからな、出来れば味方にしたい」
オルベリンとティールが並ぶ……僕も一緒に行きたいけど
「ユリウスは待機だ」
「わ、わかってる!」
オルベリンに釘を刺された……
「行くぞ!!」
オルベリンの掛け声と同時に500の騎馬兵が突撃を開始した
・・・・・・・・
ーーーゲルド視点ーーー
「あれが例の兵器か!!」
小生は馬を走らせる
後ろからは断末魔が聞こえた
何人殺られた?
何人止まった?
…………いや、後ろを見るな……前だけを見ろ!
オーシャン軍も突撃してきた……
先頭のは……オルベリン!!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
小生は叫んで双剣を抜き、構える
「ぬぉぉぉぉぉ!!」
オルベリンの咆哮が聞こえる
もう目の前だ!!
ガキィン!!
「ほぉ! 受け止めたか!」
「これでも、経験は積んでるのでね!!」
オルベリンの剣を受け止める
重い……左手が痺れる……
「ふん!」
「ぬん!」
小生の右手の剣をオルベリンは剣で受け流す
左手の痺れが治まったのを確認して、オルベリンの喉を狙い突く
「はぐ!」
ガッ!
「!?」
オルベリンは小生の左手の剣に噛みつき止めた
なんという大胆さ!?
顎の力も強い!! 歯も硬い!? 本当に老人か!?
「ぷっ!」
「ちぃ!」
小生が剣を引くとオルベリンは口を剣から離した
「ふむ、やはり殺すには惜しいな……」
オルベリンが言う
「貴殿にそう評させると、小生は自分が誇らしいよ……」
「そうですか、良かったですね」
後ろから声を掛けられる……振り向くと
「ティールか……オーシャンに居たのか」
「えぇ、今はオーシャンの将です」
小生はティールに槍を突きつけられている……
後ろにティール……前にはオルベリン……
一緒に突撃した兵達も殺られたか捕らえられたかの状態
決死の突撃もここまでか……
カラン
カラン
小生は剣を捨てた
「降参だ……殺せ」
「いや、お主は連れて帰る」
こうして小生と突撃して生き残った兵は捕らえられた……
あっけなく……負けたのだ……
テラヘル防衛戦
オーシャン軍 完勝