第49話 カイナスからの使者
翌日
「んっ……」
柔らかい感触と温もりを感じながら目を覚ます
……心地良いな
「俺も寂しかったのかな……」
俺にくっついて寝てるティンクを見る
「んん……すぅ……すぅ……」
「…………」
はっ! 何をときめいてるんだ俺は!?
落ち着け……落ち着けぇ……
「とりあえず起きよう……うん」
俺は起き上がろうとして……
ギュウ
「……あらま」
ティンクに思いっきり抱きつかれて離れられない事に気付いた
いつもは腕だからなぁ、腕を抜けば良かったけど……
「……どうするかなぁ」
ティンクは気持ち良さそうに寝てる……
起こすのは申し訳ない……うーん
「……たまには二度寝してもいいか」
いつもは早く玉座に行っていたが……たまには遅くなっても良いよな?
重役出勤だ!
……レリスには悪いがな
てな訳でおやすみー!!
・・・・・・・
ーーーティンク視点ーーー
「んみゅ……ふぁ……」
目が覚める……
「すやぁ……」
目の前にカイトさんが寝てる
わたしは彼の身体に抱きついていた
「…………」
これでもダメだった……
カイトさんへの恋心を自覚したからヤンユさんのアドバイスに従って密着してみたけど……
カイトさんはいつも通りだった……
うーん……どうしたらいいのかな?
「……やっぱり胸なのかな……」
わたしは自分の胸を見る
……あまり膨らんでない……
ヤンユさんやサルリラさんは凄いのに……
で、でも! わたしはまだ13歳だから!
これからだから!!
「…………」
それにしても、カイトさんより早く起きるなんて初めての事だよ……
「一回……やってみたかったんだよね……」
わたしはカイトさんの顔に顔を近づけて……
「おはようございます♪」
チュッ
カイトさんの頬にキスをする
おはようのキス……
本で読んだ恋人の行為……
キャー!! キャー!!
しちゃった!
どうしよう! ドキドキする!!
「あ、起きたんだから身支度しないと!!」
わたしは顔を洗うために洗面所に向かった
・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
……行った?
ティンク洗面所に行った?
「ふぅ……あぁ、びっくりした……頬にキスされるとは思わなんだ……」
ティンクが起きたときに俺もまた起きたんだが……目を開くタイミングを逃して寝たふりをしていた
「それにしても、どこであんなことを覚えたんだ?」
多分ヤンユが教えたんだろうな……
「……あんなことをしたって事は……」
ティンクは俺の事が……
「いや、まだわからない……家族の挨拶とかそんな感じかもしれないし……」
てかそろそろ俺の理性が危ない……
このままじゃティンクを襲いかねないぞ?
何か対策をするべきだ……
どうするか……
「あ、カイトさん、おはようございます」
「あぁ、ティンク、おはよう」
洗面所からティンクが出てきた、顔を洗ったりしてたんだな……少し濡れてるぞ
「何か考え事ですか?」
「ま、まぁ少しな」
ティンクが俺の隣に座る
……寝間着が乱れてて胸元が見え……見るな俺!!
「カイトさん? どうしましたか?」
「な、なんでもないぞぞぞ!?」
「?」
お、おちち、落ち着け!
動揺するな!
てか13歳の女の子にどぎまぎするとかまずいから!!
「とにかく、朝食にしよう!」
「あ、はい!」
俺はベルを鳴らす
するとメイドが入ってくる
……いつもすぐ入ってくるけど……待機してるの?
メイドに朝食を持ってこさせて食べる
朝食を済ませたら着替えだ
俺は隣の部屋に行って着替える
同室で着替えるとかはしない!
だって俺の理性がピンチだから!
着替えた俺は玉座に向かう
「おはようございます、カイト様」
「おはようレリス」
玉座の間に行くとレリスが待機していた
やっぱりレリスは早いな
・・・・・・・・・
「坊っちゃん!! 見事ガガルガを落としたそうですな!!」
「お見事ですカイト様!」
オルベリンとケーニッヒに称賛される
オルベリンは昨日はメリアスト砦に行っていたそうだ
その間にケーニッヒはヘイナスに戻って休息と食料の補充をしていたそうだ
「ああ、これも皆の協力が有ったからだ、感謝する」
「勿体なきお言葉です!」
オルベリンが答える
「オルベリン、カイナスに何か動きはあったか?」
「いえ、少なくとも兵を動かす等はありませんでした」
「そっか……」
俺の心配は杞憂だったか?
「失礼します!!」
兵士が入ってきた
こんな時は何か人が来たときだ
「どうした?」
レリスが聞く
「カイナスから使者が来ております」
噂をすればなんとやらだ
「通せ」
「はっ!」
さーて、誰かな?
何のようかな?
「初めまして、私はゴルースと申します」
ゴルース……カイナスの進行役だな
「何のようだ?」
頬杖を右手でつきながら聞く
「先ずはガガルガとの戦の勝利、おめでとうございます」
「うむ……」
俺は偉そうに答える
「前置きはいい、用件は?」
俺はゴルースを見る
ニタニタした表情しやがって……ろくな話じゃないだろうなぁ
「そうですね、此度のガガルガ攻めの件で我が主……ケーミスト様はお怒りです」
「ほぅ? 何故だ?」
俺は惚ける
「貴方が我々カイナスの獲物を横取りしたからですよ、恥と思いませぬか?」
「…………」
オルベリンが剣を抜こうとしてるのを視線を合わせて止める
まだ動くなよ?
「何を言っていることやら、カイナスとガガルガの戦は終戦して既に半年以上経っている、それで横取りとは酷い言いぐさで」
「今回のオーシャンの勝利も我々がガガルガを疲弊させたから得たもの、そこを理解しておらぬので?」
「おかしな事を言う、以前のカイナスの戦の勝利の殆どがそこのオルベリンの活躍によるものでは?」
調べたらオルベリンが砦を大量に落としたからガガルガの士気が下がるに下がって混乱状態、それで勝てたようなものだった
「オルベリン殿は援軍としてケーミスト様の指示に従ったまでの事……つまりケーミスト様の活躍となります」
……いやならねえよ
てかこの問答が無駄に思えてきたな
「それで? 結局何を言いに来たんだ?」
「今回の戦で得た領地を全てカイナスに献上するのです、そうすればケーミスト様も怒りを静めましょう」
……つまり手柄を全て寄越せと?
……馬鹿かこいつ?
「断る、そんな義理はない」
「おや? よろしいのですか? カイナスを敵にまわすつもりで?」
「どういう意味だ?」
「ケーミスト様は今すぐにでも軍を出してオーシャンを侵略しようとしております、12万の兵力に挑むつもりで?」
「…………それは脅迫のつもりか?」
「……なに?」
はぁ……本当に馬鹿だな
「カイナスは現在不作で兵糧もマトモに用意できない筈だが? まさか弱った軍で攻めるつもりか?」
「……むっ」
「……それに貴殿は知らない様だが……我らオーシャンはかつて6倍の兵力差のある戦いに勝利した! たかが12万の兵など蹴散らしてくれる!!」
俺は玉座から立ち上がる
「ガガルガの領地は我らオーシャンのものだ! ガガルガの民はオーシャンの……俺の守るべき民だ!! ケーミストに伝えろ! 貴様の悪政により苦しむ民を、俺が解放してみせると!!」
「っぐ! 我らカイナスを敵にまわすか!!」
「そうだ! 既に貴様らは敵だ!! 侵略してくるなら返り討ちにしてくれる!!」
「後悔するぞ小僧!!」
「させてみろよ! 後悔するのは貴様らだ!! おい! こいつを叩き出せ!!」
兵に命じてゴルースを追い出させる
「この、青二才がぁぁぁぁ!!」
そう叫びながら追い出されるゴルース
「はぁ……」
俺は玉座に座る
「やらかしたかね?」
「普通に考えたらそうですね」
レリスが答える
「レリス、アレは?」
「後少しで完了します」
「そっか……すぐに攻めてくると思うか?」
「来るでしょうな、ケーミストは兵法など理解しておりませんからな」
オルベリンが答える
「ふぅ……よし、オルベリン、カイナスが動いたら防衛戦を任せていいか?」
「構いません、投石器も動かしましょう」
「ああ頼む……」
カイナスを完全に敵にまわした
しかし後悔はしてない
奴等はいずれ倒すべき相手だからな……アレが完璧になってから挑みたかったが……
いや、防衛戦で徹底的に潰したら1年は時間を稼げるか?
まあいいか……正直負ける気しないし
「よし、カイナスが動く報告が来るまでは自由に動こう」
内政とかやること多いしね!!
これから数日後にカイナス軍3万がヘイナスに向かって進軍を始めたと報告が来た
3万かぁ……正直たいした数じゃないな……
兵器が使えるとかなり余裕に思えるな
「よし、ならオルベリンと……」
「僕行きたいです!」
ユリウスが手をあげる
「ユリウスが?」
「カイナスの奴等をぶちのめします!」
あーガガルガ的には恨みしかないよな……
「わかった、それならオルベリンとユリウス……それとティールの3人に任せる……兵は」
「1万で充分です」
自信満々のオルベリン
「わかった……なら1万の兵と一緒に『テラヘル』で迎え撃ってくれ」
テラヘルとはカイナスとの国境から少しオーシャン側にある平原だ
ヘイナスに来るには必ずここを通らないとならない
「かしこまりました……」
オルベリン達は兵を編成して出撃していった
任せたぞ! オルベリン! ユリウス! ティール!!