第47話 裸の付き合い
マールの都
12日程かかって戻ってきた
帰ってきたな……
ここでルーツとメビルト、マールから出発した兵と別れる
「カイト様、今日はマールで休まれてはどうでしょう?」
ルーツの提案
まあ、急ぎでもないし、兵達の疲労も考えたら早めに休むのは良いと思う
「そうだな、今日はマールに泊まるか」
『よっしゃあああああ!!』
兵達の歓声
なに? そんなに嬉しいの? なんだったら希望者は更に滞在して良いぞ?
「そろそろアレも完成してる筈ですしね」
「アレ?」
「後でお見せします」
ルーツが微笑む
・・・・・・・
都に入ると民達から歓迎される
「うわ!? な、なんだこれ!?」
ユリウスが歓声に驚く
ビックリするだろ? 俺も最初は驚いた
まあなんだ……慣れろ!
「カイト様! 一杯どうですかぁ!!」
瓶を持ってる男が声をかける
「後でなぁ!!」
俺は答える
「ヘルド様! こっち向いてぇぇ!!」
黄色い声援
「おぉぉぉぉぉ!!」
腕を上げて答えるヘルド
ファンサービス的な?
「メビルト様! 良い肉が入ってますよ!」
「本当か? 楽しみだな!」
肉か……俺も食いたいなぁ
…………あれ? サルリラには声援がないのか?
俺は振り返ってサルリラを見る
「……ほら、あっしまだ無名なんで」
そう答えるサルリラ……
あ、マールでの戦いでは留守番だったからな
今回の戦が本格的なデビュー戦だったか
…………なんだかなぁ
「全員止まれ!」
ピタッと俺の号令で全員止まる
「……諸君! 此度の戦は我等が勝利した!!」
『おおおおおお!!』
民の歓声
「今回のガガルガとの戦で特に活躍した2人を改めて紹介しよう!」
俺は周りを見渡す
民達の視線が集まってるのを確認して……
「先ずはヘルドだ!! 彼の武勇は素晴らしいぞ!! ヘルド!」
「はっ!」
ヘルドが俺の右隣に来る
「何か言ってくれ」
「そうですな……」
ヘルドが剣を抜いて高く上げる
「俺がいる限り、オーシャンに敗北はない!!」
『おおおおおおおおおお!!』
大きく出たな……頼もしいぞ!
「もう1人を紹介しよう、サルリラ!」
「ふぇ!?」
サルリラが驚く
「何してる? こっちに来い!」
「は、はいっす!」
サルリラが俺の左隣に来る
「彼女はサルリラだ! 今回の戦ではなんとティールに勝利した!!」
「あ、相討ちっすよ?」
「いいんだよ」
訂正しようとするサルリラに俺は言う
サルリラがティールを負傷させたから、俺はあの策を実行できたし成功したんだ
ある意味1番の功労者だな
MVPだ!
後ろでティールが少し気まずそうにしてるが……後で謝っとこ
「さあ、サルリラ、なんか一言」
「えっ、えっと……」
戸惑うサルリラ
「…………」
「…………」
サルリラとヘルドの視線が俺を挟んだ状態で合う
「よし!」
サルリラは息を吸い
「やってやったすよぉぉぉぉぉぉ!!」
右腕を振り上げて叫んだ
『おおおおおお!!』
民の歓声
「ティールに勝つとはやるじゃないか」
「結構可愛くないか?」
「握手してくださぁぁい!!」
「かっこいい!!」
そんな声が聞こえる
よしよし、ここからサルリラも少しずつ有名になるな
名声大事!
俺達は移動を再開する
・・・・・・・・
マール城に入城する
これからは自由時間だ!
俺は部屋に案内されてから鎧を脱いだ
解・放・感!!
「あー重かった……肩とかこるな……」
鎧をずっと着るのはやっぱりキツいな……
野営だと疲れが取れないし……
正直ルーツの提案は俺もありがたい
「カイト様、よろしいですか?」
扉をノックしてルーツが声をかけてくる
「どうした? 入って良いぞ?」
「失礼します、お休みのところ申し訳ありません」
「気にするな」
なに? なんか仕事あるの?
「実は城内にも大浴場を造りました、ご利用になられますか?」
「本当か!?」
城にも造ったのか!?
大浴場を!?
今まではシャワーと少し広い浴槽がある浴場だったからな……
楽しみだ!
「こちらです……」
「……その大浴場は男女別だよな?」
「? その通りですが……混浴の方がよろしかったですか?」
「いや、別でいい、てか別が良い」
混浴なんて入ったら下半身がヤバい
「それなら他の奴等も誘わないか?」
「……よろしいのですか? メイドに入浴のお世話を任せるつもりでしたが……」
「いやいや、自分で出来るから」
てかそれって実質混浴じゃねえか!?
「大浴場だろ? ならたまには裸の付き合いでもどうかと思ってな……迷惑だろうが?」
「そんなはずありません! むしろそこまで想われて……我等は幸せな家臣ですね」
そんな大袈裟な……
・・・・・・・
そんな訳で大浴場に着いた
誘ったらヘルド、メビルト、ユリウスの3人も了承してくれた
サルリラとティールも女湯に向かった
男湯は5人、女湯は2人だな
『おおおお!!』
大浴場に入って俺とユリウスが声を上げる
広い……とても広い……
公衆浴場よりは狭いが、それでも充分な広さだ
30人は一緒に入れるんじゃないのか?
「公衆浴場を3つも建てたのですが、それでも客が多くて我々が利用できそうになかったので、兵や使用人の為に城内にも建設したのです」
ルーツが言う
「ここまで水路作るの大変だったんじゃないのか?」
「様々な工夫を凝らして何とかしましたよ」
「お疲れ様と言っておこう!」
いや、本当に良くやってくれたよ!
「デカイ! マールの公衆浴場の噂は聞いていたけど……まさかこんな……城内にこんな……」
ユリウスが大浴場を見渡す
ガガルガには公衆浴場とか無いからな
「ほぉ……シャワーも多いな」
ヘルドがシャワーを見る
「むっ、鏡を壁に貼ってるのか……入浴と同時に髭も剃れるな」
鏡を見てヘルドは感心する
「我輩も公衆浴場を利用したことがなかったからな、これは有り難い……クンツァと何かしてるとは思っていたがこれだったか」
「ええ、これでした」
ルーツは高評価なのが嬉しそうだ
「そういえばクンツァやメットとハルイドは?」
「クンツァは公衆浴場の方に顔を出してます、メットは逆上せるからと遠慮してました、ハルイドは今日は砦の方に居るそうです」
そっか……どうせならアイツらもと思ったのだが……仕方ないか
「よし、疲れを流すとするか!」
俺はシャワーを浴びる
「背中を流します!」
ルーツが俺の後ろに座る
「いや、それは俺が」
ヘルドの声
「我輩がやろう」
メビルトの声
なに? 俺の背中を取り合ってるの?
嬉しいような……いや嬉しくないな、男に奪い合いされても嬉しくない
「……オッサン3人が背中の奪い合いとか、酷い光景この上ないな」
ユリウスが呆れる
こらこら、オッサンとか言うな! 俺にもダメージあるから!!
結局騒がしいから俺が自分でやるってことで終わらせた
そして大きな湯船に浸かる
ああ~ええわ~
足伸ばすわ~
腕も伸ばすわ~
広いってええわ~
「これ程のお湯を用意するとは、オーシャンってとんでもないな……」
ユリウスが浸かりながら呟く
「オーシャンがって言うよりここら辺が水源が多いんだよ、マールは水が豊富ってことだ」
「水不足とは無縁って事ですか……羨ましいな」
「ガガルガは水不足なのか?」
「今はそうでもないですが、3年前に水不足で危なかったですね……」
「そうか……まあこれからは水が不足勝ちなら、マールから輸送しよう」
日数的に飲料として使えるかは微妙だが……農業とかには使えるだろ?
「それは……助かります、水不足は本当に辛いですから……民が苦しまずに済むのは嬉しいです」
「そうだな……ユリウス」
「?」
俺はユリウスの頭を撫でる
「これからよろしく頼む」
「……ええ、民の為にも全力で尽くしますよ」
そう言って笑い合う
・・・・・・・・
ーーーサルリラ視点ーーー
「ふひゃあ……デカイっすね~」
湯船に浸かりながらあっしは呟く
「これ程の浴場とは……驚きましたね」
ティールが隣で呟くっす
「泳げそうっすね! 泳ぐっすか?」
「遠慮します」
「残念っす」
しょんぼり
「それにしても……サルリラは立派に育ってますね」
「?」
ティールの視線を追うっす
「…………胸っすか?」
「私は全然育たなかったからね、少し嫉妬するよ」
「そんか良いもんじゃないっすよ? 戦いの時とか邪魔っす」
「巨乳の戦士は皆そう言う……この!」
「うひゃう!?」
ティールがあっしの胸を揉むっす
「ほんと、この! 羨ましい!!」
「ちょ、揉みすぎっす! えいや!」
あっしもお返しに揉むっす!
スカッ!
『………………』
「……?」
「……」
「……!? ?!?!」
「……っ!」
ティールの目から涙が……
「まあ、む、胸が全てじゃ無いっすよ!!」
「嘘だぁ! 男は胸が好きだって酒場で聞いたぁ!!」
「いやいや、そんなん出任せっすよ! ヘルドの旦那はあっしの胸を見ても特に反応なかったっす!」
「……えっ? ヘルドは君の胸を見たのかい?」
…………あっ
「サルリラ、その話詳しく聞かせてもらおうかな?」
「ひぇっす!?」
ティールに腕をしっかりと掴まれたっす!
逃げられないっす!?
「サルリラ……私は尋問も得意なんだよ?」
「えっ!? 待っ!?」
・・・・・・・・・・
「成る程ね、初恋の相手がヘルドか」
「うぅ、全て吐かされたっす、もうお嫁に行けないっす……」
「大丈夫大丈夫、ヘルドが貰ってくれるさ」
「何言ってるすか……」
「だって交際してるのだろう?」
「してないっすよ?」
……………
「はっ? 告白したんじゃかいのかい?」
「してないっすよ……」
「なんでだい? 見たところヘルドとの関係は良好だろう?」
「…………あっしは汚れてるっすから」
「汚れてるって……」
「少女、誘拐、賊……これで何もなかったって思うっすか?」
「…………」
「だからあっしはこのままの関係でいるっす、それで幸せなんっす」
「……本当かい?」
「本当っすよ……」
「……ならその顔はなんだい? 今にも泣きそうな顔して」
「こ、これは……あれっす! 逆上せただけっす!!」
「強情」
「何とでも言うっす! あっしはこれでいいっす、」
・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「あ~気持ちよかった~」
俺はベッドに倒れこむ
やっぱり風呂はいいな!
「ヘイナスにも作れないかな……水源の調査してみるかな」
そうしたら皆、喜ぶかな?
……今度、皆を連れて来てみるかな……
「早く帰らないとな……帰ったらミルムあたりが抱き付いてくるかな?」
寂しい思いをさせただろうから……落ち着いたら遊んでやるかな……
「ティンクは大丈夫かな?」
添い寝問題もあるが……やっぱり何の連絡もしてないから心配かけてるかな
「帰ったら……一緒に……出かけ……」
俺はそのまま眠りについた
久しぶりのベッドは……良く眠れた
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーパストーレーーー
「……そうか、ガガルガは落ちたか」
「申し訳ありません……」
報告を聞いていたのはパストーレの領主
『テリアンヌ・パストーレ』だ
「気にするな『ユルクル』、ガガルガが弱かっただけだ……しかし、カイト・オーシャン……たった1年でここまで強大になったか」
「どうなさいますか?」
「……同盟を求めよう」
「では、早速ヘイナスに向かいます」
「いや、向かうのはゲルナルだ」
「……まさかカイナスと同盟を?」
ユルクルは驚く
「ああ、カイナスは今こそ東方一の勢力だが……ケーミストは無能だ、戦力差など簡単に覆せる、脅威はカイト・オーシャンだ」
「ではゲルナルに向かいます」
「ああ、ケーミストも今回のガガルガ攻めでオーシャンに敵意を持ってるはずだ……頼んだぞ」
「はっ!」
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーカイナスーーー
「なに!? オーシャンがガガルガを制圧しただと!?」
ゲルナルの城でご馳走を頬張りながらケーミストは報告を聞いた
「はい、その様です」
ゲルドは受けた報告をケーミストに伝える
「あの小僧が!! 儂の獲物を奪いおって!! 許せん!!」
「ケーミスト様、落ち着いてくだされ」
怒り狂うケーミストに軍師の『ゴルース』が諭す
「これが落ち着いていれるか!! 儂を怒らせたらどうなるか思い知らせてやる!! 兵を出せ!」
「ケーミスト様! オーシャンには食料を売ってもらった恩もあります! 」
ゲルドが叫ぶ
「知ったことかぁ!!」
「やれやれ……」
ゴルースはため息を吐く
「ケーミスト様、私がヘイナスに行きましょう」
ゴルースはケーミストにそう言った
「むぅ?」
ケーミストはゴルースを見る
「今やカイナスは大勢力です、オーシャンの小僧なぞ少し脅せば直ぐに屈伏するでしょう」
「そうか……そうだな! はははははは!!」
ケーミストは笑う
「では行ってこいゴルース!」
「はい」
ゴルースはニヤリと笑った
「……そう上手くいくとは思えないのだが……」
ゴルースとすれ違いざまにゲルドが呟く
「ふふ、貴方とは違うのですよ」
ゴルースはそう言って出ていったのだった