第46話 待つ者達
ーーーティンク視点ーーー
「……んっ」
朝、陽射しが目に入る
目を開くと『メユル』さんがカーテンを開いていた
「朝……ですね……ミルムちゃん、朝ですよ?」
「んー……まだ眠い……」
わたしは一緒に寝ていたミルムちゃんを起こそうとしますが……起きません
「ティンク様、お任せを」
メユルさんがそう言って毛布をミルムちゃんに被せて、中に手を突っ込みました
彼女はミルムちゃんの専属メイドさんですから、起こし方を熟知してるんでしょうか?
「……ひゃぅ!?」
ミルムちゃんの声が毛布の中から聞こえる
「きゃはははは!! くすぐったいよ!」
くすぐってるんですか?
「ひゃぅ!? そこ触っちゃ駄目!?」
えっ?
「ちょ!? まっ!? 起きる! 起きるからぁぁぁ!!」
いったい何を?
「きゃぁぁぁ!?」
最早悲鳴です……これ大丈夫なんですか!?
「起きましたね」
「うぅ……」
メユルさんが毛布をはぎ取る
ぐったりしたミルムちゃん……
「ミルムちゃん、大丈夫?」
「あ、お義姉さま……お早う」
弱ってますよね?
「ふぅ……」
メユルさんはなんで満足そうな顔をしてるんですか?
・・・・・・・・
髪をとかし
身支度を整え
朝食を済ませる
その後は自由時間です
普段はミルムちゃんの習い事を見学したり、一緒に習ったりしますが……今日はお休みです
ですのでわたしは庭園で読書をすることにしました
「…………」
読んでいるのは恋愛小説です
というのも……わたしの気持ちを理解するための参考にしようと思ってるのです
「……会えないと胸が苦しくなる……」
……今のわたしに当てはまりますね
「一緒に居ると……ドキドキして、触れあうと身体が熱くなる」
当てはまりますね
「彼の全てが愛しくて愛しくて仕方ない」
これも当てはまりますね
やっぱりわたしのこの気持ちは間違いないですね
わたしはカイトさんに恋をしていますね!!
そうですよね! あんな風に優しくされたり、助けられたりしたら好きにもなりますよね!!
「自覚すると……は、恥ずかしいですね……」
ヤークレンに居た頃はこの気持ちが理解できなくて
カイトさんと出会ってから少しずつ惹かれて
気が付いたらずっとドキドキしてて
結婚した後はもっと激しくなって
ヤンユさんやサルリラさんに相談したら『恋』だと教えてもらいましたが……良くわからなくて
ヤンユさんからこの本をお勧めされて読みましたが
成る程……確かに『恋』でしたね
「はぅ……」
そう思うと、これからのわたしは大丈夫でしょうか?
カイトさんに今まで通りに接することが出来るでしょうか?
……添い寝してるだけでわたしが我慢できるのでしょうか?
だって、今こうしてる間もカイトさんに触れたい、キスをしたい、もっと深く愛し合いたい
そんな風に想ってるんですよ?
「……わたしって厭らしいのでしょうか?」
「そんな事はありませんよ?」
「ひゃう!?」
ヤンユさん!? いつから居たのです!?
「好きな人と◯◯◯したいと思うのは性別問わず誰でもあるのです!!」
えっ? 今なんて言ったのですか?
「ティンク様! 特訓です! 貴女の魅力でカイト様を魅了するのです!! そうすれば毎日カイト様の方から◯◯◯を◯◯◯して」
「えっ? あの? ヤンユさん!?」
怖い怖い!?
なんでそんなに盛り上がってるのですか!?
「大声で何を言ってるのですかお前は!!」
「っ!?」
「レリスさん!?」
レリスさんのチョップがヤンユさんの後頭部に入りました
「奥様、大変失礼しました」
「レリス様! 痛いですので離してください!!」
レリスさんがヤンユさんの頭を掴みます
「何の騒ぎ?」
「どうされたのか?」
2人の騒ぎが聞こえたのかアルス君とオルベリンさんも来ました
「ヤンユが暴走していたのでね、たまに変なスイッチが入るから厄介だよなお前」
「ふ、普段は問題ないので良いではないですか……」
頭を押さえながらヤンユさんが言います
「お前はメイド長だろうが! 見本になれ見本に! 昔とは違うんだぞ!」
「これはもう性分ですから、変わりませんね」
「開き直りやがった……」
「……ふふ」
ヤンユさんとレリスさんのやり取りを見てオルベリンさんが微笑む
「オルベリンさん? どうしたのです?」
「いえ、昔を思い出しましてね、最近は見なかったのですが2人が幼少の時はこんな光景を良く見ましのでね」
「そうなのですか?」
あれ? ヤンユさんは幼少の時からメイドをしていたのですか?
「ヤンユは両親が執事とメイドとして仕えていましたのでね、物心がついた時からメイドをしておりましたよ」
「そうだったのですか……」
「ヤンユってそんな昔から居たの?」
アルス君がオルベリンさんに聞きます
「おりましたよ、アルス様の母君よりも前にオーシャンに仕えておりましたからね」
「そうなのか……」
…………?
何か今違和感を感じたのですが……
「あの、アルス君のお母様って?」
普通は奥様とか言いますよね? なんでアルス君の母君って言い方を? それではまるで
「あ、ティンクさんは知らないんだね? 兄さんの母と僕とミルムの母は別の人なんだ、異母兄弟になるね」
「そうなんですか!?」
衝撃の事実ですよ!?
「えっ? それはどういう?」
私はアルス君を見ます
「えーと、僕も詳しくはわからないかな……オルベリン、話して」
「ふむ、わかりました」
オルベリンさんが話を始めます
…………ちょっとヤンユさんとレリスさんの言い合いが五月蝿いですけど
・・・・・・・・・
焔暦130年 6月
「何故だ……何故……」
ベルドルト様が悲しむ
つい先程、奥様が病を患い、亡くなってしまったのだ
「ちちうえ? ははうえはねちゃったの?」
幼いカイト様がベルドルト様の足にしがみつきます
「……あぁ、眠っちゃったんだ……カイト、母上にお休みなさいを言おうね……」
「うん! ははうえ! おやすみなさい! またあしたね!」
「……っ!」
ベルドルト様は辛そうだ、無理もない……カイト様はまだ幼いゆえ『死』を理解できていないのだ……
「オルベリン……カイトを頼む」
「わかりました、坊っちゃん、外に行きましょう」
「うん!」
わしはカイト様を抱き上げて外に出る
「うぉぉぉぉぉ!!」
後ろからベルドルト様の嘆き声が聞こえた
それからのベルドルト様は暗くなっていた
弱っていたのだ……
・・・・・・・
「それを支えて、立ち直らせたのが当時将として仕えていた『キャルユ』という女性です、その方が後のアルス様とミルム様の母君ですな」
「そうだったのですか……その、キャルユ様は?」
「亡くなりました」
「!?」
「ミルム様を産んでから2年後、カイト様の母君と同じ病を患い……」
「そんな……」
「ベルドルト様は再び暗くなりましたが……それを見たカイト様の努力により立ち直ったのです」
「何をしたのですか?」
「泣いてる僕とミルムの面倒をみてくれたんだ」
アルス君が答える
「泣き続ける僕とミルムの側にいてくれて、一緒に寝たりしてね、それを見た父上は『このままでは駄目だ』って思ったそうだよ」
カイトさん……
「父上が亡くなった後も、兄さんは辛い筈なのに僕達を抱き締めて言ってくれたんだ……『絶対に皆を守ってみせるから』って……そんな兄さんだから、僕は大好きなんだ!」
微笑むアルス君
「あ、恥ずかしいから兄さんには秘密ね?」
すぐに照れくさそうに言いました
「わかりました、秘密にしておきますね?」
私もそう答えました
皆、カイトさんが好きなんですね
……私も負けてませんけど!!
私は『大好き』ですから!!
『大大々好き』ですから!!
…………早く会いたいなぁ……