第41話 ガガルガ侵攻戦 7
ーーーユリウス視点ーーー
医務室の前
「ティール! ティールは大丈夫なのか!?」
オーシャンの女に斬られていた!
あれは致命傷じゃないのか!?
「落ち着いて下さいユリウス様、ティール様は意識もハッキリしてます」
「ならなんで会わせない!? ティールと会わせろ!!」
僕は医者に詰め寄る
「ティール様の怪我を縫っていますので」
「こんなに時間がかかるのか!?」
ティールが戻ってきて3時間は経ったぞ!!
「慎重に進めていますので……」
「それでも時間がかかりすぎだろ!!」
ガチャ
医務室の扉が開いた
「縫合終わりました」
女の医者が出てきた
終わったんだな!!
「ティール!!」
「あ、ちょっ!?」
俺は2人の間を抜けて医務室に入る
そこには……
「ユリウス様……」
ティールが居た
いや、居るのは当たり前だ
先ず目に入ったのは傷だ
左肩から右の脇腹まである切り傷、縫合されてるが痛々しい
そして次に目に入ったのは……胸だ
小さいが男とは明らかに違う体つき
えっ? つまり?
「あの、流石にそう見られると恥ずかしいのですが……」
「あ、悪い!!」
僕は目をそらす
扉の所で医者2人が『あちゃー』って顔をしていた
「ティール……女だったんだな」
「はい、そうです……」
「み、皆知ってるのか?」
「医者の皆さんとバルセ様くらいですかね」
叔父上は知っていたのか……
「そうか……」
「軽蔑しましたか?」
「そんな訳ないだろ!!」
驚いたけど軽蔑なんてするわけない!
でも……そっか……ティールは女で、今の地位になったのか
かなり厳しかっただろうな
「そ、それより傷は大丈夫なのか!?」
「少し深いので2週間は安静だそうです、あ、もう服を着ましたから大丈夫ですよ」
「2週間か……長いな」
オーシャンに攻められてるのに2週間はキツイ……このリユには僕とティールしか将がいないんだから
「長いですね、だから私はまた出撃します」
「おい!? 安静なんだろ!?」
「しかし戦の最中ですよ?」
「それでもだ!! 大丈夫だ! 籠城しておけば援軍が来るから!!」
そうだ! ボゾゾは撤退したが無傷らしい!
なら兵を補充してまたここに来る!
その時に今度は僕が出てボゾゾと一緒に戦えば……勝てる!
「しかし……」
「いいから寝てろ!! 命令だ!」
「……わかりました」
よし、とりあえず兵に指示を出して僕も休もう
・・・・・・・・
翌日
「ユリウス様!」
兵が玉座の間に駆け込んできた
「どうした?」
「オーシャン軍に変化が!!」
「なに!?」
僕は外壁に向かう
十数分くらいかかって僕は外壁にたどり着く
「状況は?!」
僕は見張りの兵に聞く
「オーシャン軍が減っています!」
「えっ? 減ってる?」
強行してきたわけではないのか
僕は外壁の上からオーシャン軍を見る
「……確かに減ってるな」
目測だけど四分の一くらいになってる?
「撤退してるのでは?」
兵が言う
「攻めるチャンスです!!」
別の兵が言う
「いや、籠城だ……」
僕は言う
これはゲユ砦でも似たことがあったからだ
あの時は兵を東西に移動させて3方向から攻めようとしてたな
「他の兵に警戒するように伝えろ! 恐らく兵を伏せているぞ!」
僕は指示を出してオーシャン軍を見る
「今度は挑発には乗らないからな……」
・・・・・・・
夜
「ユリウス様!!」
騒ぐ兵に呼ばれて再び外壁に登る僕
「っ!?」
外壁の外を見ると
月明かりに照らされたオーシャンの大軍が見えた
「あわわ、な、何万人いるんですかぁ!?」
兵が慌てている
「お、落ち着け!! ただ立っているだけだ!」
くそ! やっぱり伏せていたな!
しかも、援軍が来るとは……
耐えきらないと!!
「むっ!」
誰かが近寄ってくる……あれは……
「カイト・オーシャン!!」
「よおユリウス! おとなしく降伏しろ!」
「ふざけるな! 誰が降伏するか!」
「この大軍を見てもそれを言うのかぁ!!」
「ああ言うね!! 降伏などしない!! 攻めれるものなら攻めてみろ!! 返り討ちにしてやる!!」
「ああ、そうかい! 2週間だ! 2週間だけ時間をやるよ!! 2週間経ったら……わかってるな!!」
「黙れ!!」
僕は弓を兵から取り、矢を放つ
「おっと!」
矢はカイトの横を通った
「賢明な判断をしろよ!!」
カイトは戻っていった
「くそ! くそ! 馬鹿にしやがって!!」
絶対に耐えてやる
・・・・・・・
翌日
「……オーシャンの兵が減ってる?」
「はい!」
兵がそう言ってきた
夜の大軍が消えたと……
僕は外壁に向かい、外を見る
「確かに減ってるな……でもこれは罠だ……絶対に伏せてる」
退かせたとみせかけて、出撃したら大軍が出てくるんだろ?
夜
「……また……」
大軍が現れる
しかも増えてる!!
朝
減る
夜
増える
これを連日繰り返している
……何がしたいんだ
僕は数人の兵を偵察に行かせる
……………
夜にボロボロになった兵が1人戻ってきた
「オーシャンの軍はドンドン数を増やしています!! その数……20万!!」
「はぁ!?」
20万!? 嘘だ! そんな大軍をオーシャンが出せるわけ無い!!
「何かの間違いじゃないのか!?」
「いえ、確かにこの目で確認しました! オーシャンはカイナスと組んで布陣しています!!」
カイナスと!?
う、嘘だろ?……
「そんな……そんな……」
カイナスと組まれたのなら勝ち目がない……
どうしよう……どうしよう
わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない!!
どうしたらいいんだ!?
・・・・・・
それから数日経った
相変わらず、夜にはオーシャンの大軍が現れる……
もうすぐ2週間経つ……2週間経てばあの大軍がぁ!!
「ユリウス様!」
「はっ!?……あれ? ティール?」
僕の前にティールが居る
「ティール、もう動けるの?」
「ええ、ご迷惑をおかけしました、現在の状況はどうなっていますか?」
「……実は」
僕はティールに話す
「……オーシャンがカイナスと? それは確かですか?」
「偵察に行った兵が見たって言うんだ!」
「…………それでも20万は多すぎるのでは?」
「夜に外を見てくれ……オーシャンの大軍がここを囲んでいるから……」
もう……どうしようもない
「…………」
ティールは何か考える……そして
「やられた!!」
そう言って走り出す
……が、膝をついた
「ティール!!」
僕はティールを支える
「ユリウス様、外壁に……運んでください!!」
「わ、わかった!」
僕はティールを支えながら外壁に向かう
・・・・・・
外は夜になっていた
外壁に到着してティールは外を見る
「…………」
外にはオーシャンの大軍が見えた
30万はいるんじゃないのか?
「……やられた」
ティールが呟く
「ティール?」
「ユリウス様! 今すぐ出撃です!」
「えっ?」
「急がないと手遅れになります!!」
ティールが言う……どういうことだ?
僕達は外壁を降りようとする……そこに……
「開けて……下さい!」
弱々しい声が門の方から聞こえた
「?」
僕は外壁の上から覗き、門の前に立つ人を見る
「ユリウス……様! 開けて下さい!」
「あの鎧は叔父上の所の……」
叔父上の兵士? 何故ここに
「門を開けろ! あいつを入れろ!」
僕は周りにオーシャン軍が潜んでいないか確認してから言った
人が1人入る時間ならオーシャンの兵に侵入されないだろ
「…………」
兵士が門を通って中に入った
「……嫌な予感がする」
ティールが呟いた
「どうしたんだ?」
僕は外壁からティールと降りて、兵に問う
「はぁ、はぁ……」
兵士は膝をついて……言った
最悪の言葉を
「ガガルガの都がオーシャン軍の手により落ちました!! バルセ様は捕らえられました!!」
「なっ!?」
な、何を言っているんだ!?
オーシャン軍なら外に居るじゃないか!!
まさか……更に大軍が現れてガガルガに攻めたのか!?
「たのもー!!」
門の向こうから声がした
「……誰だ!!」
「オーシャンの者です!! 主、カイト・オーシャン様からの伝言を伝えに参りました!!」
「……なんだよ……なんなんだよ!!」
僕は怒鳴る
「開けてもらえませんか?」
「開けるわけないだろ!!」
「では、門越しにお伝えします!! 『ガガルガは落ちた、貴殿達も降伏し、ガガルガに参じろと』……以上です!! では!」
「…………」
「ユリウス様」
「……ガガルガが落ちた……叔父上が負けた……僕達が……負けた」
「ユリウス様、今日は休まれてください……顔色が悪いですし、隈も酷いですよ……」
「………………」
・・・・・・・
自室に戻ったが、休まる事はなかった
ずっと、頭の中で負けたことがぐるぐる回っている
「…………あ」
気がつけば朝になっていた
「ユリウス様!!」
バン! と扉を開けて兵士が入ってきた
「……どうした」
「そ、外を! が、外壁の外をご覧下さい!!」
兵士が震えている……
なんなんだよ、外壁の外にはオーシャン軍が居るんだろ?
・・・・・・
僕は外壁を登る
そして外壁の外を見る
「…………はっ?」
ちょっと待ってくれ……なんだよこれ……
嘘だろ? なぁ嘘だろ!?
僕は外壁を降りて馬に乗り
「門をあけろぉぉぉぉ!!」
外壁の外に出た
馬を走らせる
そしてドンドンそれが良く見える距離に近付いた
そしてたどり着いた
「…………」
「ユリウス様!!」
ティールが呆然としている僕の側に駆け寄る
追ってきたんだね……はは
「ティール……これ、なんに見える?」
「…………」
「なあ、答えてくれよ」
「人形です、木と草と蔓で作られた人形です!」
そう……僕の目の前には人形があった
1つや2つじゃない
大量だ、万は余裕で越えている
そんな人形がびっしりと等間隔に並ばれていた
つまり……夜に見てた人影は……大軍は……
大量の人形だった……
「なんだよ……僕は……こんな……人形に怯えてたのかよ……」
大軍なんて居なかったんだ……
朝見えていたのが……本当のオーシャン軍だったんだ
「こんなのありかよ……こんなの……こんなの!!」
もう、限界だ……
「う、ぐすっ! うわぁぁぁぁぁぁ!!」
僕は泣いた
大声で泣き叫んだ
「ユリウス様……」
「ひっく! ばんでぇ? ぼうじて?
」
『大軍だ』なんて怯えなければ!
人影が人形だって気づければ!
伏兵なんて気にせずに出撃していれば!!
勝っていたんだ!!
勝てたはずなんだ!!
それなのに! それなのに!!
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
僕は泣き続けた
ずっと……ずっと……泣き続けた