第40話 ガガルガ侵攻戦 6
ヘルド達がボゾゾと戦っている頃
ーーーサルリラ視点ーーー
「はぁ!」
「んっ!」
ガッ!
ティールの槍を剣で受け止めるっす
重い一撃、強いのがよくわかるっす
「えいや!」
「っと!」
あっしの剣をティールは身体をそらして避けるっす
さっきからこうして武器をぶつけあってるっす
お互いに隙を見つけられないっす
「予想外ですね、女の身でありながらここまで戦えるとは」
?……妙な事を言うっすね?
「そんな不思議な事じゃないっすよ?」
ティールが振り回す槍をあっしは避けるっす
「いやいや、女が兵として戦うのはかなり大変でしょう? 周りからの嘲笑、見下す男連中、下卑た視線、同情しますよ」
「なんっすか? 自分がされたから他人もされたと思ってるっすか?」
「……どういう意味です?」
どういう意味も何も
「だって、貴女も女性じゃないっすか?」
「…………」
男装してるっすけど、こうして戦ってたらわかったっす
ティールは女性っす
「よく、わかりましたね? 男装してからはバレなかったのですが……」
「武器から伝わる感覚でわかったっす、男性の一撃はもっと荒くて重いっす」
ティールの一撃は……なんか繊細って印象っす
余計な力は使わずに、必要な力だけで的確に相手を仕留める
「……正直貴女を嘗めていました……無名の女だから大したことはないと」
「今来てる将で1番強いらしいっす!!」
あっしは胸を張る
「でしょうね……惜しいですね、どうです? ガガルガに寝返りません?」
「無理っすね!!」
「理由を聞いても?」
ティールが槍を回すっす
「あっしはオーシャンが好きなんっすよ、ご飯も美味しいし、皆笑顔っす」
「ガガルガもそこは負けてませんよ?」
「他にも理由はあるっす」
あっしは剣を振り上げるっす
「憧れの……初恋の相手がいるんっすよ!!」
「それが1番の理由でしょう!?」
「正解っす!!」
あっしはティールに近寄って剣を振り下ろすっす
「くっ!」
ティールの前髪が少し斬れたっす
まだっすよ!このまま振り上げるっす
「甘いですよ!」
ティールが馬を退かせて距離を取るっす
ありゃ! 剣がからぶったっす!
あっしは剣を振り上げた体勢っす……ヤバいっす!!
「はぁ!!」
ティールが馬を走らせてあっしの胸めがけて槍を突くっす
ドスッ!
「かっ!?」
左胸に痛みが走るっす
「サルリラァァァ!!」
あれ? 旦那? なんでここに?
いや、今は旦那の事を後にするっす!
まだあっしは生きてるっす!
意識もある!! それなら!
「はぁぁぁぁぁ!!」
「なっ!?」
ザシュ!
あっしは剣を振り下ろしたっす
剣はティールの左肩から胸元、右脇腹を斬ったっす
ブシュ!
返り血が顔にかかったっす
「ぐぅ、あっ!」
ティールがふらつくっす
「まだ、まだだ!! ぐぅ!」
ティールは胸元を押さえるっす
「…………くそ……撤退! 全軍! 都に戻れ!!」
そう言って退いたっす
やったっす!
「へ、へへ……」
あっしは後ろに落馬するっす
仰向けで倒れるっす
左胸……痛いっす
背中も痛いっす
「サルリラ!」
「おい! 意識はあるか!?」
カイト様と旦那が駆け寄ってきたっす
「痛いっす……」
「気をしっかり持て!!」
旦那があっしの身体を支えるっす
「……?」
カイト様? どうしたっすか?
「サルリラ……意識はあるよな?」
「あるっす!!」
「……左胸と背中が痛いか?」
「痛いっす!!」
「……随分と元気じゃないか?」
えっ?……あれ? そういえば死にかけてる風では無いっすね
左胸に槍が刺さってるのに……左胸?
あっ!!!
「よいしょ!」
ズボッ!
そんな音がして槍を抜くっす
「おいサルリラ!?」
旦那が驚くっす
「大丈夫っす! ちょっと先端が刺さっただけっす!」
槍は先端の先っちょの部分だけに血がついていたっす
「深く刺さらなかったみたいだな」
カイト様が槍を見るっす
「っす! これのお蔭っすね!!」
あっしは鎧の胸板を外して、中の服の左胸のポケットからペンダントを取り出すっす!
あっしのお守りっす
「うわ、穴空いてるな」
カイト様がペンダントを見て言うっす
「……!? お前……いや、とりあえず怪我は怪我だ、治療するぞ」
「うひゃい!?」
旦那があっしをお姫様だっこするっす
「よし、戻ろう」
カイト様が馬を引いてくれたっす
ありがたいっす
…………うぅ
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「メビルト!? おま!? おま!?」
俺はメビルトの怪我を見て驚く
どう見ても重傷だ
「落ち着いて下さいカイト様」
ルーツに言われる
「軍医が言うには数日は安静だそうです、数週間は戦いは禁止だとも」
メビルトは申し訳なさそうだ
「いや、生きているなら充分だ」
それにしても肩をザックリやられてるな
「ボゾゾは?」
「兵が壊滅したので撤退しました」
そうか……
「兵を補充したらまた来るかもしれないな……」
今度は挟撃ではなくてリユの軍と連携してくるだろうな
「……カイト様、今回は撤退されませんか?」
ルーツが言う
「撤退か?」
「はい、メビルト殿も負傷されましたし……サルリラもすぐには戦えないかと……」
「そうだな……」
2人に無理させるわけにもいかないし
……ボゾゾが居るとわかっただけ良しとするか?
「今回決着をつけるべきだ!」
レルガが言う
「何故?」
ルーツがレルガを見る
「少し引っ掛かるんだ……ユリウスの動きが」
ユリウス?
「ユリウスがどうしたんだ?」
俺は聞く
「ティールが負傷したとはいえ、こちらよりもガガルガの方が兵が多いです、今回はボゾゾからの襲撃もありこちらは浮き足だっていました……普通なら残りの兵と共に出ませんか? カイト様も目の前に居たのですから」
「…………」
そう言われたらそうだな
ユリウスからしたら俺を倒すチャンスだった筈だ……ヘルドが側に居たがサルリラに気を取られていたしな
しかしユリウスは籠城を選んだ……
そもそも籠城は援軍があるのをわかってるからやるものだ
ガガルガからの援軍でボゾゾが来るとわかってたから籠城しているにしても
今も籠城するのは違和感がある……
「…………他に援軍が来ると思っている?」
「他……ですか?」
ガガルガの都以外に…………
カイナス? いや、カイナスとは敵対してる筈だ……
ならもう答えはこれしかない
「パストーレとの同盟か!!」
「っ!?」
ルーツが目を見開く
「そうだ、ガガルガは疲弊していた……ヤークレンの介入で停戦したが……警戒はするはず……俺達オーシャンも警戒した筈だ」
つまりガガルガはカイナスとオーシャンは敵として見ていた
オーシャンはパストーレと敵対している……
敵の敵は味方……領土も隣り合ってるから連携もしやすい!!
「撤退したら……次が厄介だな」
パストーレはオーシャンと停戦している
しかしそれはパストーレがオーシャンを、オーシャンがパストーレを攻めないという条約だ
オーシャンがガガルガを攻めたから、同盟国を守るために戦った……それなら条約違反にはならない
「くそっ! 気付くのが遅かったか!」
「いえ、まだ間に合うかと!」
レルガが言う
「パストーレの軍はいまだに姿を見せていません……まだ同盟は結ばれていないのでは?」
「もしくは援軍が来るのに時間がかかっているか……どっちにしろパストーレとの同盟が確かなら、援軍が来る前に決着をつけるしかないですね」
レルガの発言にルーツが続ける
「しかし、ガガルガを攻めようにも、先ずはこのリユを落とさなければ……」
ルーツは頭を抱える
結局はこのリユを攻略しないといけない
駄目だ、考えがぐるぐる回っている
…………ん?
「なあ、ティールは暫く動けないと思わないか?」
「えっ? まあ肩から斬られたんですよね? 致命傷ではなかったとしても、数日は普通動けませんよ?」
「……リユで動ける将はユリウスだけだよな?」
「他の将は確認されてませんね……もし居るならティールと共に出撃してきたかと」
…………
「なぁ……俺に考えがあるんだが……」
・・・・・・・・
ーーーヘルド視点ーーー
「サルリラの傷は?」
俺は軍医に聞く
「軽く刺さっただけなので2日程で普通に動けるかと、縫う必要もありませんな」
「そうか……入っても?」
「どうぞ」
俺はテントに入る
「あ、旦那!」
「元気そうだな」
「元気っすよ! おっぱいに傷がついただけっす!」
「そうか」
『……………』
「あー、サルリラ、そのペンダントだが……誰にもらった?」
俺はサルリラに聞く
「子供の頃、あっしを賊から助けてくれた人がくれたっす」
……やはりそうか
「……そうか……そうか……んん!こほん! あー、なんだ……色々話したいが……それは戦が終わってからにする」
「そうっすか……」
「……立派になったな」
俺はテントを出ようとして振り返りながら言った
「おっぱいがっすか?」
「阿呆」
俺は苦笑しながらテントを出た
「何を言っているのですか!! そんなの認めません!!」
「んっ?」
ルーツの怒鳴り声
「どうしたんだ?」
俺はルーツのもとに向かう
ルーツを見つける
近くにカイト様とレルガがいた
「貴方様が危険ですよ!!」
「しかしこれしか方法がない!!」
カイト様とルーツが揉めている? 珍しいな
「どうしましたか? カイト様」
「ああ、ヘルドか……実は……」
俺はカイト様の話を聞く
内容はリユを無視してガガルガを攻める……そのための策だった
「…………その策が失敗したら……確実にカイト様が死にますが?」
「そうだな、失敗したらな」
………………
全く、この人は……変なところで頑固だ
「ルーツ、カイト様の決意は変わらんよ」
「ヘルド!?」
「何故その策を行おうとするかはわからんが……カイト様が言うからには、やらないといけない状況なのだろう?」
「っ……」
「ルーツ、頼む……俺達の勝利のために!」
「…………わかりました……では急いで動きます!」
ルーツが折れた
「全軍! 今から言うことに従って動け!!」
ルーツの声が陣に響く
上手くいけば勝利
失敗すればカイト様の死
…………失敗は許されんな