第3話 オーシャン領防衛戦 3
10日後
パストーレ軍の将、ナルールはご機嫌だった
主である『メルノユ・パストーレ』の指示でオーシャン領を攻めた
戦果は上々、3万の兵も欠けることなくここまで来た
「見えるか諸君!あれがオーシャン領だ!強敵だったベルドルトはもういない!!オルベリンもこの数なら倒せる!我等の勝利は近いぞ!!」
『ウォォォォォォォォォ!!』
兵の士気も最高だ
オーシャン領の外壁の側にたどり着いた
「さて、一応呼ぶか……おい!オーシャン領の者よ!出てこい!」
ナルールは叫ぶ
「…………」
すると外壁の上に男が現れた……まだ若い
「貴様は何者だ!」
ナルールが問う
「……我こそはこのオーシャン領の領主!『カイト・オーシャン』である!!」
男が叫ぶ
「ほぅ、貴様がベルドルトの息子か!聞いているぞ?あのベルドルトの子とは思えぬ程未熟だとな!!」
ゲラゲラとパストーレの兵達が笑う
「カイト・オーシャンよ!降伏せよ!!まさかこの3万の軍勢に挑もうとは考えておるまい!」
ナルールは当然だろっという風に言う
「…………」
カイト・オーシャンはナルールを見て、パストーレの兵を見る
(怯えているな)
ナルールは内心でほくそ笑む
勝利を確信する
だが
「断る!」
「なに?」
カイト・オーシャンの返事は予想外の内容だった
「貴様は目が見えぬのか?この軍勢が見えぬのか?」
ナルールは言う
「しっかりと見えているが?意外と少ないのだな!」
「……おい、誰かあの馬鹿に現実を教えてやれよ!!弓兵!放て!!」
数十人の兵が矢を放つ
「…………」
矢がカイトに迫る
「むん!」
しかし矢はカイトには当たらない
ヘルドが駆け寄り矢を叩き落としたのだ
「ヘルドか……」
ナルールはヘルドを見る……以前一騎討ちをしたが決着がつかなかった相手だ
「おいヘルド!!その若造に教えてやれ!勇気と無謀は別だとな!」
ナルールは叫ぶ
「笑止!我が主に間違いはない!」
ヘルドは迷うことなく言い返した
「お前もバカだな……降伏すれば命だけは助かるものを……」
ナルールは手を上げる
「交渉は決裂だ!全軍!かかれぇぇ!!」
『ウォォォォォォォォォ!!』
パストーレ軍、3万の兵が走り出す
先頭には5千の騎馬部隊
その後ろには荷台を引く馬と荷台に乗った弓兵1万
その後ろを歩兵1万5千が走る
騎馬部隊が外壁を破壊し
弓兵達が大量の矢を外壁に放つ
外壁が壊れれば後は1万5千の兵が突入する
それでこの戦は終わりだ
その筈だった!!
「うわぁぁぁぁ!!」
「なっ!?ぐわぁぁぁ!」
「止まれ!止まれぇぇぇ!!」
騎馬部隊が騒がしい
「なんだ!?どうした!?」
ナルールが異変を感じる
数人の騎馬兵が戻ってきた
「落とし穴です!!外壁の前に大きな横に広がる落とし穴がありました!」
「そんなもの飛び越えよ!」
「飛び越えた者少なく!射ぬかれていきました!」
「ちい!小賢しい!!」
ナルールは叫ぶ
「弓兵!ありったけの矢を放て!!邪魔な敵の弓兵を殺せ!!」
『ウォォォォォォォォォ!!』
夢か荷台の弓兵達が矢を放つ
1万の兵が放つ1万の矢
外壁の上に届くのは少ないがそれでも圧巻な光景だ
「…………」
カイト・オーシャンが下がる
「見よ!敵の大将は怯えているぞ!」
ナルールが鼓舞する
しかし
「今だ!放て!!」
カイト・オーシャンの声
それと同時に雨が降る
矢の雨だ
「な、なんだぐぇ!?」
「ぐわ!」
「ひっ!ひぃ!?」
「ががががががが!?」
矢の雨が兵達に襲い掛かる
上から降ってくる矢の雨はパストーレ軍の放つ矢と違い、確実に届く
騎馬部隊、弓兵部隊
1万5千の兵達があっという間に殺られていった
いや、実際に死んだのは半分ほどかもしれない
あるものは馬を
あるものは仲間の死体を
あるものは荷台を
盾にして身を守った
しかしこれでは戦えない
歩兵達も止まってしまった
「ぬぅ!」
ナルールは考える、近付けば矢の雨……5千の兵が放っているのだろう、何もせずに近付けば無事では済まない
「全員下がれ!!別の方法で攻めるぞ!!」
ナルールはそう言うと撤退を始めた
しかし焦ってはいない、対策は簡単だ
兵を分けて攻めればいい
歩兵だけだが1万5千も残っている
オーシャン領の兵は5千
軍を3つに分けても余裕で戦える
そう判断して馬を走らせた
・・・・・・・
ーーーオルベリン視点ーーー
「……今だ!オルベリン!頼むぞ!」
「お任せを!」
外壁の上から坊っちゃんの指示が出る
「門を開けよ!!オルベリン……出撃する!!」
ゴゴゴゴ!!
門が開く
目の前にはパストーレ軍
「行くぞぉぉぉ!!」
『うぉぉぉぉぉぉ!!』
ワシと千人で構成された騎馬部隊が駆ける
目の前に落とし穴がある
横に広く、幅は狭い
「跳べぇぇぇぇぇ!!」
手綱を引き、馬を跳ばせ、穴を跳び越える
跳んでいるときに穴を見るとパストーレ軍の騎馬兵達が落ちていた、これは足止め用の穴のはずだったのだが……ヘルドめ、張りきったな
ドン!
問題なく着地する
駆けながら後ろを見ると兵達も跳び越えている
問題ないな、その為に今日まで訓練したのだからな
そして駆けていると前方にパストーレ軍の歩兵が見えてきた
「パストーレ軍だ!蹂躙せよ!!」
『うぉぉぉぉぉぉ!!』
ワシの掛け声で騎馬兵達が槍を構える
こちらは千人、向こうは1万5千人
数は圧倒的に不利だが
向こうは雑兵、此方はワシがおる
負けるはずがない!!
「オーシャン領を攻めたことを後悔せよ!!」
ワシは槍を振るった
・・・・・・・
ーーーナルールsideーーー
『うわぁぁぁぁ!!』
「むっ!?」
後ろから叫び声
何があった?
「ナルール様!追撃されています!」
「なに!?」
「オルベリンです!オルベリンが追撃しています!」
「単騎だろ!全員で攻めろ!」
ナルールは馬を止める
そして、向きなおし走らせる
兵と戦って弱ったオルベリンを討つために
「そ、それが!単騎ではありません!」
「なに!?」
ナルールは馬を再び止めた
「そんな馬鹿な!オーシャン領の兵は全員矢を放ってる筈!すぐに追撃など出来るわけが……数人だろ!!」
「いいえ!千人です!!」
「馬鹿な!?」
千人?オーシャン領の兵力の5分の1だぞ!?
そんな早急に用意ができるか!?
そうナルールは驚愕した
「あり得ない!あり得ない!!」
頭を押さえ取り乱すナルール
ドドドド!!
そこに地響きが聞こえる
「ナルール!!ワシと戦えぇぇぇ!!」
馬に乗り駆けてくるオルベリン
「調子に乗るなぁぁぁ!!老兵がぁぁぁぁぁ!!」
ナルールは慌てていた
たった5千の兵力の軍に3万の兵が敗走したのだ
これでは戻っても処罰される……つまり処刑……
「うぁぁぁぁ!!」
ナルールはオルベリンに挑む
槍を振るう
「ふん!」
しかしオルベリンは余裕な表情で槍をつかみ
「軟弱者が!!」
ドスッ!
「ぐぁ!」
己の槍でナルールの右肩を貫き落馬させた
「敵将!このオルベリンが捕らえたぁぁぁ!!」
『ウォォォォォォォォォ!!』
轟く勝鬨
こうしてオーシャン軍はパストーレ軍に勝利したのだった
・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「オルベリンが戻ってきたな……よしよし、ナルールを捕獲してくれたか」
俺は外壁の上から様子を見ていた
置いていかれた敵兵は簡単な治療をしてから捕虜にした
逃げ遅れた者も捕らえた
全員で3千人ほどらしい
「よしよし!」
「しかし、カイト様……何故ナルールを捕らえたのだ?殺した方が良かったのでは?」
「ヘルド、多くの兵と将を失ったパストーレはどうくると思う?」
「むっ?……報復しようと攻めてくるのでは?」
「そうだ、その数は2万と今回逃げた兵達だ」
「再び今回の策を利用すれば良いのでは?」
「今回は相手が俺達を嘗めたから勝てたんだ……」
そう、ナルールはここまで順調に進んできた
だから慢心した
相手は5千の兵だけ、だから数で攻めれば勝てると
「相手が罠や兵器を用意してるとは思わないだろ?」
俺は落とし穴を見る
外壁の前に溝のように掘った落とし穴
これによって数百の騎馬兵が落ちた
飛び越えた者も矢で射ぬいて近付けなくした
「しかし、ここまで上手くいくとはな……」
俺は外壁の上に設置してある兵器を見る
木で作られた発射器
矢を100本ほど設置して前方や上空に放つ兵器だ
放つというか飛ばすだけだから平地だとあまり使えないが
高所から放つと矢は重力に引かれて下に勢いよく飛び、刺さる
20台ある兵器で矢を大量に飛ばした
これで少人数でも矢の雨を降らせた
「まだ改良しないとな……」
殺傷能力は想定より弱かった……急所に当たるか大量に刺さらないと即死はしなかった
「矢の回収と亡骸の埋葬を急がせろ!」
俺はそう指示して玉座の間に戻った
「あの、ナルールを捕らえた理由は?」
「玉座で話す!」
・・・・・・・
玉座に座る
目の前には縛られたナルールがひざまずく
「くそ!こんなガキに!!」
悪態を吐くナルール
「そうだな、ガキだな……お前はそのガキに負けたんだ」
俺はそう言ってナルールを睨む
「ぐぅ!」
「さて、ナルール……俺は今から貴様を人質にしてパストーレと交渉する」
「なに!?」
「また攻められたらたまらないからな」
だから停戦の条約を結ぶ
その為の材料としてナルールと兵達を捕らえたのだ
「ふ、ふざけるな!こんな領など主が総力をもってすれば!」
「総力ねぇ……がら空きになった領は他の奴等に奪われるぞ?」
「くっ!」
そうだ……だからパストーレは5万の兵で攻めてこなかった
当たり前だ、他の国を攻めて帰る場所を奪われました!なんて状況は避けたいのだ
「だから命の保証はしてやろう……ただし、パストーレが断れば……」
俺は首を斬るジェスチャーをする
「っ!」
怯むナルール
「しかしだ、私はお前をそれなりに評価している、ヘルドと互角に戦えるお前をな……」
「…………」
「どうだ?私に仕える気はないか?」
「なんだと?」
「私の軍門にくだれ、ある程度待遇を約束するぞ?」
「ふ、ふざけるな!」
断られた……まあそうだろうな
「まあ時間はある、考えていてくれ……連れていけ」
ナルールを牢に連れていかせる
玉座の間には俺とレリスと3人の将だけが残る
「何故アイツにあんなことを?」
ヘルドが聞く
「アメと鞭さ、ああしていればナルールは大人しくすると考えた……まあ戦力が欲しいってのも嘘ではないがな」
オーシャン領は戦力が足りない……兵も将も
領地も少ないからな……あ、そうだ、停戦のついでに領地も少し貰おう
それだけの価値があの男にはあるはずだ
パストーレも戦力をこれ以上減らしたくはないだろうしな
「さて、皆、協力してくれて感謝する!」
「もったいなきお言葉!」
ルーツが言う
「此度の勝利は国中に広まるだろう!そうすれば暫くは他の領も攻めてはくるまい!その間に内政を充実させる!」
やることはたくさんだ
領地の拡大と開拓
食料も増やさないといけないし人口も増やさないと
金も何とかしないとな……今回のでだいぶ使ったし
「とにかく!今日は休め!明日からまた指示を出す!」
『はっ!!』
………そういえばカイトのカリスマはFの筈なのに皆しっかりと従うな
「……あぁ、そうか」
カリスマって言うのは人を従えさせる魅力だ
でもそれは敵対してた相手にだけ有効なんだ……
元々従ってる奴等はカイトの努力を……苦悩を知っている
だから皆カイトに従うんだ……カイトを支えて助けるために
「ナルールには全く通用しなかったが……」
だからカリスマFか……カリスマも鍛えないとな……
「どうやってだよ……」
俺は部屋に戻った
こうして俺は初戦を勝利で迎えたのだった
・・・・・・・・・
数日後
「おい聞いたか?」
オーシャン領がパストーレに勝利した話は
「戦力差は6倍だ!」
国中に広まった
「カイト・オーシャンは未熟者のふりをしていた!」
「停戦の条約を結んだとさ!!」
「領地も奪ったらしいぞ!!」
その話は色んな者が聞いた
弱小領主が勝利した……そんな話は酒の肴にちょうどいいのだ
「カイト・オーシャンか……」
そして話を聞いてカイトに興味を持つものが現れる
彼の戦いは始まったばかりなのだ
オーシャン領防衛戦
完勝
将のステータス
オルベリン
性別 男
年齢 83
武力 200 S
知性 142 A
カリスマ 150 A
内政 100 B
忠誠 100
ヘルド
性別 男
年齢 32
武力 96 C
知性 35 E
カリスマ 47 E
内政 36 E
忠誠 99
ルーツ
性別 男
年齢 25
武力 11 F
知性 100 B
カリスマ 4 F
内政 20 F
忠誠 100
ナルール
性別 男
年齢 35
武力 98 C
知性 68 D
カリスマ 70 D
内政 40 E
忠誠『カイト』 0