第36話 ガガルガ侵攻戦 2
ーーーユリウス視点ーーー
「来たな、オーシャン!」
僕は陣からオーシャン軍を目視する
「ユリウス様、攻めますか?」
「いや、近付かせる、ここの7000の兵で奴らを待つぞ」
西と東に伏せている2500ずつの計5000の兵で挟んでやるよ!
「ではここで待機ですね」
「ああ、気を抜くなよ?夜襲も考えられるからな」
それに1番の目的はオーシャン軍の戦力の確認だ
・・・・・・・
翌日
「……んっ?」
僕はオーシャン軍を見て違和感を感じる
「なあ……減ってないか?」
近くにいた兵に聞く
「減って……ますかね?」
兵達も首を傾げている
「…………」
さらに翌日
「やはり減っている!!」
僕はオーシャン軍を見て確信した
兵が減っている
最初こそ万を越える大軍に見えたが今は数千程度だ
「ユリウス様!」
ティールが駆け寄る
「オーシャン軍の兵が減っています」
「ああ、もう確認した!!」
何で減っている?
撤退した?
……まさか回り込んでリユに向かったのか!?
「奴らを捕らえましょう!それでわかる筈です!」
ティールが馬に乗る
……そうだな
「わかった!5000の兵と一緒に突っ込め!!」
「はっ!!」
敵の大将が誰かはわからないが……ティールなら負けても上手く逃げ切れるだろう
「全員、私についてきなさい!!」
『おおおおおお!!』
ティールの掛け声と同時に突っ込む兵達
『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「オーシャンの奴等も突っ込んできたか!!」
俺は陣から様子を見守る
少ししてからティール達がオーシャン軍と交戦した
ここからじゃ様子がよく分からないが……苦戦してるようには思えない
ある程度戦ったら隙を見つけて撤退できそうだ
「ここで様子を見るか……全員!備えはしておけ!!」
ティールならオルベリン以外なら苦戦しないだろ
『ウォォォォォ!!』
響く叫び声
「!?」
「ユリウス様! 西側からオーシャン軍が!!」
「ユリウスさまぁ!!東から敵軍です!」
「なに!?」
僕は陣の西側に向かう
「っ!! 伏せてた兵達はやられたのか!?」
オーシャン軍がこの陣を挟むように向かってくる
僕も兵を伏せていたのに……
「応戦する!! 全員出撃!! 1500人は東のオーシャン軍を! 500人は僕と一緒に西の奴等を迎え撃つぞ!!」
見た限り敵兵はそんなに多くない!
・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「敵陣を制圧するぞ!!」
俺は1500人の兵と一緒にガガルガの陣に西から突撃する
ルーツの策はこうだ
第1軍団の兵を1万にして残す
第2、第3軍団はそれぞれ5000の兵を連れて東西に移動
第1軍団が前進して挑発、敵が出陣したら少し時間を置いて東西から挟撃
もし敵が出陣しなかったら一斉に突撃して三方向から一気に攻める作戦だった
予定外だったのはガガルガも兵を配置していた事だ
望遠鏡で気付けたから、2500人の兵をレルガが連れてガガルガの兵に奇襲を仕掛けた
今もレルガは敵兵と交戦している
俺は残りの兵を連れて陣に突撃するしかなかった
じゃないと第1軍団が危ないからな
「ちっ、どうやらルーツの方も敵がいたか!!」
望遠鏡で見るとルーツの方も兵が少ない……メビルトが交戦しているみたいだな……
こっちと合わせて2000、いや2500くらいか?
取り敢えず陣を挟撃することは出来そうだ……
「カイト様! ガガルガの兵が迎え撃とうと出陣しています!」
「ああ!見えている!!」
敵将は……見えた!!
「ユリウス!?」
くそ!こいつが来てたか!!
『ユリウス・ウィル・ガガルガ』
武力はC、知性もC、カリスマがBとわりと高めのステータスの将だ
これで今年から成人とは恐ろしいな!
「戦ったら俺じゃ勝てないか……」
いや、ユリウスは今回が初陣の筈だ……経験なら俺の方がある!!
ステータスなんて気にするな!
「敵軍は多くない! このまま突っ込むぞ!! 槍を構えろ!!」
それに止まって交戦する必要はない!!
このまま突っ切る!
敵に騎馬は少ない……突っ込んで陣を破壊、そのまま第1軍団か第3軍団の援護に突撃する!!
「いくぞぉぉぉぉぉぉ!!」
『うおおおおおおおお!!』
響く咆哮
馬の駆ける音
「うぉぉぉぉ!!」
敵は目の前、止まるな!轢き飛ばせ!!
「かかれぇ!!」
ユリウスの声
『うぉぉぉぉ!!』
こっちに向かって突撃してくるガガルガ兵
ユリウスも走ってくる
「突っ切れぇぇぇぇぇぇ!!」
騎馬兵達が槍先を前に出す
ドス!
槍が刺さる音
ゴキ!
馬に轢かれる音
ザシュ!
剣で斬られる音
ドサッ!
誰かが落馬する音
「お前が大将だな!!」
俺の目の前に剣を振りかぶりながら跳んでくるユリウス
「ああ!」
「死ね!」
俺の返事を聞いてユリウスが俺の首を狙って剣を振る
「死ぬつもりはない!」
俺は身体をのけぞらせる
剣が俺の目の前を通り過ぎる
よし!避けれた!!
このまま陣に突っ込む!
ユリウスは無視だ!!
「ちっ!!」
ユリウスの舌打ちが聞こえた
俺を追いたくても追えないもんな!!馬の方が速いし、俺に意識を向けたら後続の兵達に殺られるもんな!!
「うおおおおおおおお!!」
「陣を壊せ!!」
「兵糧を奪え!!」
「武器を奪え!」
俺と一緒に何人かの兵が陣に入った
音で次から次に陣に突撃出来てるのがわかる
陣の中に敵兵はいない、全員出陣してたな!
「奴等が戻る前に物資を奪え! 無理なら火をつけろ!!」
敵の物資を滅茶苦茶にする
単純だが有効な手だ
「カイト様!」
向こう側からルーツが来た
ルーツも俺と同じように敵を無視して突っ込んで来たようだ
「ルーツ! 急げ! ユリウスが居た!」
「ユリウス……バルセの甥でしたね!」
「俺達じゃ勝てない! この陣を破壊してヘルド達の援護に行くぞ!」
「はっ!」
俺達は敵陣を破壊した
・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
「くそっ!くそっ!」
兵が何人……何十人殺られた?
「ユリウス様! 陣から煙が!!」
「わかってる!!」
オーシャンの将に剣を避けられて、後ろから突撃してくる騎馬を避けて……終わった頃には陣が破壊された!
「撤退だ!! 合図を出せ!!」
「はっ!!」
兵が火薬の詰まった玉……爆弾に火をつけて誰もいない方向に投げる
僕は耳を塞ぐ
ドゴォォォォォ!!
凄まじい音
身体に響く衝撃
威力は無いが爆音を放つ爆弾
これは主に撤退の合図に使える
こんな爆音なんだ……伏せていた兵達にも、ティール達にも聞こえた筈だ
「退け!退けぇぇ!!」
僕は走る、リユの都を目指して
・・・・・・
ーーーティール視点ーーー
「!?」
聞こえた爆発音
振り向くと陣から煙が出ている
「くっ!陣が落とされましたか!」
「はぁ!」
「ふっ!」
ギィン!
「ガガルガのティール、噂通りの実力だな」
オーシャン軍のヘルドが楽しそうに言う
「オーシャンのヘルド、貴方も中々ですよ、しかし貴方の相手をしている余裕は無くなりました!」
私は息を吸い込む
「全軍撤退!!退きますよ!!」
反転して馬を走らせる
馬を失った者を近くの者が馬に相乗りさせて走る
間に合わなかった者は……申し訳ないが置いていく!!
「退け!退けぇ!」
私達は撤退する
兵の損害は少ないですが……ゲユ砦は奪われましたね……陣の中にあった軍備も使えない
そう考えたら損害は大きい……しかし
「目的は果たしましたね……」
交戦した敵軍にはヘルド……それと知らない女の将しかいなかった
そしてこの回りくどい策……恐らくルーツも居ますね
そして……
「うぉ!?」
「ちっ!避けられましたか……」
陣を横切る時に轢こうとしましたが……仕方ないですね、今回は諦めますか
「カイト・オーシャン!!次はその首を落とします!!」
私は尻餅を着いている男、カイト・オーシャンに向けて叫んだ
負け犬の遠吠え?何とでも言えばいい、私達は戦意を失っていない
それを相手に示せるならば何でもいいのです!!
・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「あ、危なかった……」
あれはティールだな……武力がB、知性もBでカリスマがCの将だ
どうやらユリウスとティールがここに居たんだな
「カイト様!お怪我は?」
ルーツが駆け寄る
「大丈夫だ……どうやらガガルガの兵は撤退したようだな……」
「追撃しますか?」
「いや、俺達も兵を分散しすぎた、合流するべきだ」
軍がバラバラだよ本当……
少ししてからヘルド達第1軍団が
2時間ほど時間が経過した頃にレルガやメビルト達が合流した
「捕らえた者達はどうしますか?」
「捕虜として連れていこう」
68人の兵を捕らえた
「こっちの被害は?」
「死者が47人、怪我人が218人です」
「……そうか」
47人も死んだか……
「死者は弔ってくれ……怪我人も軽傷の者は同行させる、重傷の者はゲユ砦で休ませろ……何人か兵を護衛として残すぞ」
「はっ!」
「……………」
今回が初めてじゃ無いんだろうけど……こうして死者が出た報告を聞くと凹むな……
俺の指示で……俺の目的の為に彼等は死んだんだ
「重いなぁ……」
犠牲になった者達の命……俺はそれを背負っていかないといけない
それが領主として……戦を起こした者としての責任だ
これからも死者は出る……でも俺は止まるわけにはいかない
「…………」
「カイト様、これからどうするっすか?」
サルリラが聞いてくる
「今日はここに野営して休むぞ……明日はマヤハ砦の攻略を目指すぞ」
「了解っす!!」
「…………休むか」
俺は身体を休めることにした
・・・・・・・
ーーーユリウス視点ーーー
「はぁ、はぁ」
僕達は走る
「ユリウス様!」
「ティール!」
そこにティール達が合流した
「ユリウス様、馬に乗ってください」
「ああ!」
僕はティールの後ろに乗る
「ティール、敵軍の戦力はわかったか?」
「ヘルドと女の将が……それと先程合流した兵達の話ではレルガやメビルトが居たと」
「メビルト……マールマールの将だった奴だ……」
オーシャンに登用されていたか
「はい……それとルーツと……カイト・オーシャンを確認しました、どうやらオルベリンは居ないようです」
「オルベリンは居ない?確かか?」
「はい」
「…………」
化物と呼ばれたオルベリン
オーシャンの最高戦力を連れてきていない?何故?
「…………恐らくカイナスを警戒しているのでは?」
「カイナスを?何故だ?」
「カイナスもこのガガルガを狙っています……オーシャンがやってることはカイナスの獲物を横取りする事です」
「それで怒ったカイナスがオーシャンに攻めるのを警戒しているって事か……」
「恐らく」
「…………」
それならオルベリンが後から来る可能性は低いな……
「ティール!マヤハ砦に向かうぞ!」
「そこで迎え撃ちますか?」
「いや、兵と軍備を回収する、そしてリユに籠城するぞ」
「……ガガルガが狙われませんか?」
「狙えばいいさ、リユを無視してガガルガに行ったら後ろから攻めるだけさ」
バルセ叔父上なら耐えれるし
ガガルガの全戦力で挟撃したらオルベリンの居ないオーシャンなら倒せる!
「上手くいきますかね?」
「挟撃したらオーシャン軍は混乱するだろうし……最悪逃げられてもいいんだ、パストーレとの同盟が結ばれたらオーシャンも撤退せざるをえないだろ?」
パストーレとは停戦しているし、もし戦うことになってもパストーレ軍とガガルガ軍、両方を同時に相手することはオーシャンには無理だ
「……わかりました、ではマヤハ砦に向かいます」
「頼む!」
今回は負けた!
でも最後に勝てばいいんだ!!
ゲユ砦攻略戦
オーシャン軍 勝利