第32話 カイトとアルス
ヤール山の麓に到着した
これから山頂に向けて登る訳だが
「サルリラ、レルガは何をしているんだ?」
俺は窓からサルリラに聞く
「半分の兵の行軍訓練をするそうっす!」
レルガは兵の半数を馬から降ろし重りを持たせた
レルガも兵の4倍くらいの重りを持っている
「ピクニックでやらなくて良いだろうに……」
「登山は絶好の訓練場所だってウキウキしてたっすよ?」
なに?レルガって訓練マニアなの?
知らなかったな……
「まあ皆が納得しているなら良いんだが……無茶しないように言っておいてくれよ?」
「わかったっす!」
・・・・・・・
山の中腹に到着した
いやー馬車だと楽だな……
「山頂にはあとどれ程の時間で着くのですか?」
ティンクが聞いてくる
「そうだな、この速度なら20分くらいかな」
ゆっくりと進んでいるからな
ミルムなんか窓から外を見て景色を楽しんでいる
「サルリラさん!凄い景色ですね!」
ルミルがサルリラに話し掛ける
「山頂はもっと凄いっすよ!!」
サルリラがそう答えている
ふむ、皆楽しんでるようだな
「…………」
アルスは静かにしてるが……うーん
「アルス、喉乾いてないか?」
「あ、えっ……大丈夫だよ」
「そ、そうか……」
……会話が続かない……
どうするかな……
・・・・・・・
山頂に到着した
馬車から降りる俺達
「ふむ、やっぱり良い景色だな」
俺は辺りを一望してから言う
ヘイナス城が小さく見えるし、うん、高いな
「…………」
んっ?レムレ?なんでそんな俯いてるんだ?
「レムレ?」
「あ……カイト様……」
レムレが俺を見る……なんだ?甘い匂いが……香水か何かか?
「カイト様……」
「どうした?」
「帰りは馬に乗せてもらって良いですか?」
……馬車の中で何があったんだ?
レムレはオルベリンの所に歩いていった
「お兄様!!」
ミルムがいつの間にか花畑の側に居た
隣でヤンユ達が昼食の準備をしている
「ああ、すぐいく!」
取り敢えず昼食にしよう
昼食のメニューはサンドイッチだ
サンドイッチと紅茶と品種は少ないが……サンドイッチは何個か種類が有った
卵焼きを挟んだサンドイッチ
ハムとレタスのサンドイッチ
チキンを挟んだサンドイッチ
……んっ?
「これは?」
俺は1つのサンドイッチを取る
「それはマッシュポテトのサンドイッチですね」
ヤンユが答える
あー潰したジャガイモにブラックペッパーを振ったのか
「……うん、美味いな」
「ありがとうございます」
ジャガイモのほのかな甘味にブラックペッパーのピリッとした辛味がお互いを引き立ててる
ジャガイモ……侮れないな
・・・・・・
昼食を終えたら暫くは自由時間だ
俺は望遠鏡を取り出して周りを見渡す
「うん……ここなら遠くまで良く見れるな」
道中で考えていたが、この山の麓に小屋を建てて兵を待機させるか
山頂で周りの見張りをしたり、遭難した旅人とかの保護をしたり
望遠鏡が有れば両方共、良い結果を出してくれるだろう
「カイトさん」
「んっ?どうしたティンク?」
ティンクが話し掛けてきた
「それはなんですか?」
ティンクは望遠鏡を指差す
「望遠鏡だよ、見たことなかったか?」
「はい、初めて見ました」
そっか……これ以外は見張りの兵と砦やマールに送ったからな……
「使ってみるか?」
「良いのですか?」
「当たり前だろ?ここから覗くんだ、あ……太陽は絶対に見るなよ?最悪失明するからな」
「はい!」
ティンクは望遠鏡を覗く
「!?」
すぐに望遠鏡から目を離して前を見る
そして再び望遠鏡を覗いて……
「凄いです!!お城が近くに見えます!!」
楽しそうに言った
「だろ?これなら遠くの景色を良く見れるんだ」
だから見張りで役立つ
「……んっ?」
いつの間にかレムレが望遠鏡を見ていた
使ってみたいのか?
「カ、カイト様、ティンク様、そ、それはなんですか?」
聞いてきた
「望遠鏡だ」
「あ、見張りの人が使っていたのですね!」
レムレは望遠鏡を聞いたことがあるみたいだな
「そんなにみ、見えるのですか?」
「うん!お城の様子も少し見えるよ!」
「…………」
レムレがお城の方を見る
「あ、洗濯物を取り込んでいますね!」
…………んん?
「レムレ、今何て言った?」
俺が聞く
「え、えっと、洗濯物を取り込んでいますと……」
「ティンク、ちょっと望遠鏡を」
「あ、はい!」
俺はティンクから望遠鏡を受け取る覗く
そして城の方を見る
少し遠いが、確かにメイドが洗濯物を取り込んでいる様子が確認できた……
待て待て待て待て!?
「レムレ!街の方を見てみろ!」
「あ、はい!」
「赤い屋根と青い屋根の家の間の屋根に居る動物は?」
「ね、猫が2匹ですね!しましまとぶち模様です!」
「広場に居る子供の数は?」
「6人です!」
「訓練所でサボってる兵士は何人だ?」
「8人です!砦から戻ってきたヘルドさんに見つかってますね!!」
「…………マジかよ」
レムレ……お前視力なんぼなんだよ……
「凄いです!」
ティンクが驚く
「あ、えっ、はぁ……」
レムレは何が凄いのかよくわかってなさそうだ
「成る程な……オルベリンが推す訳だ……」
こんなに目が良くて……弓の腕も良ければ当たり前だ
これは期待できるぞ!
腕の良い弓兵は戦で大活躍するからな!
「……んっ?」
レムレがそう言って森の方を見る
「カイト様、ティンク様、ぼ、僕はこれで失礼しましゅ!?」
また噛んだ
だいぶ緊張しなくなったのにな……
「ああ、わかった」
俺はティンクに望遠鏡を渡しながら答える
レムレは森に入っていった
……トイレか?
まあいい、俺はティンクと景色を楽しむことにしよう
・・・・・・・
ーーーレムレ視点ーーー
僕は森の奥に進む
さっき見えた後ろ姿は……
「あ、居た!アルス様!」
「レムレ……」
「こんな所に1人だと危ないですよ?」
木の根に腰掛けていたアルス様に駆け寄る
「うん……わかってるんだけどね……」
「……カイト様ですか?」
「……お見通しか」
アルス様は僕を見て微笑む
「パーティの後からよそよそしいですもん……わかりますよ」
僕はアルス様の隣に腰掛ける
「そうだよな……兄さんも気付いてるよね?」
「多分……」
「はぁ……」
「なんでそんなに悩んでるんですか?」
いつもみたいに話しかければ良いのに
「……ティンクさんだよ」
「ティンク様?」
まさかティンク様に一目惚れした?
「何て言うか……兄さんがティンクさんと結婚するって聞いてさ……なんていうか……もう僕やミルムの兄さんじゃないんだなって思ってさ……」
「……? 何があってもカイト様はお二人の兄だと思いますよ?」
「そうじゃなくて、なんかな……身近に感じてた兄さんが遠い人になったと言うか……」
「…………あ、ティンク様に取られたと感じて寂しいんですね?」
「……お前結構遠慮なく言うよな」
「す、すいません……」
「いや、いいよ……そうだね、寂しいんだ……だから、その……兄さんとどう接したら良いのかわからなくなって……」
「……うーん」
つまりアルス様は結婚するカイト様にこれからどう接したらいいのか悩んでるって事だね!
「いつも通りで良いと思いますよ?」
「……そんな簡単な事じゃ」
「簡単な事ですよ? アルス様は難しく考えすぎです! ミルム様を見てください、いつも通りですよ?」
「…………そう言えばそうだな」
「つまりそういう事です! いつも通りで良いんです!」
「……いつも通りか……よし!」
アルス様の目が光る
「レムレ!行くぞ!」
「はい!!」
・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
「兄さん!!僕と模擬戦して!!」
「えっ?」
アルスにどう話し掛けるか悩んでいたらアルスからそう言ってきた
「い、嫌ですか?」
「まさか!喜んで受けるぞ!」
俺はそう言って立ち上がる
「模擬戦ですか?」
俺の隣でティンクが聞いてくる
「ああ、ティンク、少し離れていてくれ、危ないからな」
兵士が木剣を俺とアルスに渡す
「ではワシが審判をしますかな」
オルベリンが俺とアルスの間に立つ
「行くよ兄さん!!」
「よし!こいアルス!!」
・・・・・・・・・
結果を言おう
手も足も出なかった!!
「兄さん!?大丈夫!?」
「お、おう……」
いやいや、アルス強くないか?
俺は座り込む
「カイトさん!」
ティンクが駆け寄る
「えっと、濡らしたタオルです!」
そう言ってティンクは俺の顔の腫れた部分に濡れタオルを当てる
……ああ、冷たくて心地良い
「ご、ごめん兄さん……久しぶりだったからつい……」
「いや、弱い俺が悪い……それにしても強くなったなアルス、ビックリしたぞ?」
俺は目の前でしゃがんでいたアルスの頭を撫でる
「そ、そう?」
「ああ、流石父上の息子で、俺の弟だ」
「!?……そうだよね……へへ」
?……なんか妙に嬉しそうだな?
・・・・・・・・
気がつけば夕方になっていた
俺達は帰るために馬車に乗る
「レムレ、ありがとう」
「い、いえ!僕は何も!」
そんな会話が聞こえた
ははーん……レムレがなんか言ったんだな?
全く!!良い子ちゃんめ!!今度なんか褒美をあげよう!!
こうしてピクニックは終わった
アルスとの関係の修復も出来たから大成功だな
そんなアルスは……
「やっぱり矢は」
「でもそれですと……」
レムレと一緒の馬に乗って話していた
いつの間にか仲良くなってるよな
歳も近いし……通じるものがあるのかもしれないな
「んっ……」
ふと左肩に温もりを感じた
振り返るとティンクが俺の肩に頭を乗せて眠っていた
向かいではミルムがヤンユに膝枕されながら寝てる
2人共楽しんでいたからな……疲れたんだろうな
「おやすみ2人共……」
俺はティンクの左肩に腕を回して支える
これで体勢を崩して起きることは無いだろう……
城に着いたら部屋まで運ばないとな