第286話 リールにて
ーーーカイト視点ーーー
馬車が止まった
すると、ガルダに目を布で塞がられ、担がれた
「もっと優しく運んでくれない?」
「引き摺り回してやろうか?」
やだ怖い
運ばれてる間に考える
馬車から降りたって事は、ここは首都リールで間違いない
そして、俺は今リール城に運ばれている
手足縛られて、目も塞がれて担がれてる今の状況で、逃げれるわけないよな……
かと言ってこのまま黙って連れて行かれるのはなぁ……
ミシ……
「ぐぅ!?」
「妙な事は考えるなよ、痛い目にあいたくないだろ?」
こいつ……俺の考えが読めてるってか?
「ガルダ、あまり痛めつけるな」
「はい……」
「くっ!」
俺はそのまま城に運ばれた
·············
ドサッ!
「ぐわっ!」
感触的に床に投げ捨てられた?
シュルシュル
手足の拘束が外された?
シュル
目を塞いでいた布が取られた
「……はっ?」
周りを見渡して、俺はポカンとした
俺が今居る場所は、普通の客室だった
地下牢とか想像してたが……
「……立っていいか?」
目の前に立つガルダに聞く
「好きにしろ」
俺はゆっくりと立ち上がる
少しふらつくが……動けない訳ではない
「地下牢に幽閉しないのか?」
「フラン様の命令だ、ここで過ごせ」
「……トイレ行きたいんだけど」
「そこのドアの向こうだ、反対の扉は湯浴み場だ」
「必要なのは部屋の中にあるって事か……」
ど、どういうつもりだ?
予想できなくて、困惑してるんだが
「言っておくが、外には見張りをつけているから、逃げようと思うなよ」
「……わかった」
ガルダが部屋を出ていった
……本当にトイレは我慢してたので、先にすませる
·············
部屋の中を調べる
普通の客室だ
隠し扉とか、隠し通路とか隠し部屋とかもない
「廊下には4人の見張りが居たよな」
ガルダが出る時に見えた兵士の数だ
もしかしたら更に居るかもしれない
流石に兵でも武器無しでは勝てない
「窓は……普通に開くし人も通れそうだが」
外を見ると、かなりの高さだ……8階から9階って感じか?
「ここから飛び降りたら死ぬな」
どうする……んっ? 少し先に木があるな
あの木に跳び移れば、落下の衝撃は木がクッションになってくれるな
そのまま降りれば地上に行けそうだが…………
「俺の脚力じゃ届かないよな」
走り幅跳びみたいに勢いをつけたらいけるかもしれないが……この角度でそれは難しいな
不味いな、地下牢じゃないからワンチャンあるかと思ったが
こっちの方が脱出が困難だ
それがわかってこの部屋に入れたな!
フラン·リップ·リール! 恐ろしい女だ!
············
ーーーガルダ視点ーーー
「カイトはあの部屋を気に入ってくれたかの?」
カイト·オーシャンを部屋に突っ込んで、フラン様に合流すると、フラン様が口を開かれる
「気に入って? 逃げられないようにあの部屋にしたのでは?」
「むっ? いや出来る限り快適に過ごせる様にあの部屋を選んだのだが?」
「……そうですか、多分気に入りますよ」
あの部屋、逃亡しにくいから選んだのだと思ったのだが……
ただの善意でしたか
「フラン様、この後はどうされますか?」
「ふむ、一度様子を見よう、ベススとオーシャンの軍がどう動くかだ」
「わかりました、私も共に居ても?」
「当たり前だろ? お主は余のものだぞ?」
「はい、フラン様のガルダです」
この言葉が、俺を喜ばせる
「所でガルダよ」
「はい?」
「それはいつまで巻いてるのだ? 余には顔を見せよ」
「そうしたいのですが、廊下は人も多いですし、余計な混乱は招きたくないので」
「騒ぐ愚か者は黙らせれば良いものを、まあ良い、無理強いはせん」
「ありがとうございます」
············
ーーーカイト視点ーーー
このままのんびり過ごすのは駄目だな、1秒でも早く脱出したいが……
俺は外を見る、ここから見える範囲で、道を把握しておく
「城壁と外壁……2つの壁を越えないと外には出れない」
出たら出たで砂漠の過酷な環境に襲われる
「逃亡で充分な水や食料を確保できるとは思えないな……」
かといって、このままここに居たら、皆が攻めるに攻めれない
俺は助けに来たんだ、足手まといになりにきたんじゃない!
「絶対に脱出してやる……」
············
ーーーレムレ視点ーーー
カイト様が捕まって数日が経過した
アルス様達はユリウスの策を実行している
ボクは留守番だ
「怪我さえ治れば……」
戦姫とガルダの襲撃
あの2人は砂塵の中から現れた
警戒しておくべきだった
南方の人間は砂塵に慣れてるんだ、砂塵の中を行動できると考えておくべきだった
「くっ!」
折れた肋骨が痛む
あの時、戦姫の剣はカイト様のお蔭で回避できたが、その後のガルダの蹴りを受けてしまった
咄嗟に後ろに跳んで受けたが、それで肋骨が折れるなんて
マトモに受けてたら貫通してたかもしれない
ボクはいっつもこうだ! いざという時に失敗する!
こうならない様に鍛えてきたのに!
強くなったのに!
ゴン!
「いたっ!?」
頭に衝撃
前を見る
「ライアン? いきなりなに?」
「いや、いつまでもウジウジしてたから苛ついた」
「はっ? てか策は? ユリウス達と出てたよね?」
「今日の仕事は終わらせた、もう夕方だぞ」
「あっ」
外を見ると真っ赤になっていた
「レムレ、大将の事をいつまで引きずってんだ?」
ライアンが椅子に座る
「ボクは役目を果たせなかった」
「そうだな、それで?」
「それでって!」
「大将はまだ死んでねえぞ」
「っ!」
「お前がやる事は怪我を治す事、んで、戦姫かガルダの野郎をぶっ潰すことだろ」
「…………そこは両方じゃないんだ」
「たりめえだろ、片方は俺がやる、俺だってあいつらにはムカついてるからな」
ライアンはそう言うと立ち上がる
「んじゃ、さっさと飯食って休めよ、その間に俺は思いっ切り暴れてやるからな」
「……わかったよ」
ライアンが部屋から出る
「ライアン」
「んっ?」
「ありがとう」
「なんの事やら」
ライアンは頭を掻きながら出ていった
ライアンの言う通りだ
今は怪我を治そう、そしてカイト様を取り戻す!