第283話 ユリウスの策
ーーーアルス視点ーーー
ビュオオオオ!
ガサガサガサ!!
そんな音が建物の外から響いてくる
「……本当に砂塵嵐多いな」
僕は揺れる板を見る
この建物には窓ガラスは無い、だから板で蓋をしている
砂塵嵐が中に入るのを防ぐ為らしい
「俺達はマシだろ、建物に入りきれずに外で布陣してる兵士達はモロに浴びてるんだろ?」
ライアンがそう言いながら板に寄りかかる
少しだけ、板の音が静かになる
「ゼルナ達から聞いてたが、酷いなこれは……」
ユリウスはそう言いながらも地図を見ている
「それで? この後はどうするんだっけ?」
シャルスがユリウスを見る
「僕達は2日後に村を出る、そのままゴウルンを攻める」
「そしてすぐに後退する、これを繰り返す」
僕が続けて話す
「何のためにそんな事するんだ? そのまま攻めても良いだろう?」
ライアンが聞いてくる
「1番の目的はリールの目をこっちに向けることだ、攻めて引いて攻めて引いて、これを繰り返す事でゴウルンのリール軍は僕達を常に警戒しないといけなくなる」
ユリウスはそう答えながら地図を指さす
「そして、『フライト』、リールの密林近くの都をブライアンを始めとした飛竜隊が攻める」
2つの都への襲撃、リール軍は両方に対応しないといけない
「同時攻撃なら今までもやってたんじゃないのか?」
ライアンが更に聞く
「今までとは規模が違う、ゴウルンを僕達オーシャンが攻めることで、フライトにベスス軍の戦力を集中できる、フライトさえ攻略できればガンダーの兵達を連れてこれる」
ユリウスはそう言いながら地図のフライトを指差す
「そんな上手くいくのか?」
「まあ、そう上手くいかないだろ、落とせたら幸運だと思うくらいだ」
「おいおい……大丈夫なのかよ」
「いいんだよ、こっちも餌だから」
「餌?」
「ゴウルンとフライト、両方を攻めてる間に、ゼルナと数人の飛竜隊でリールに襲撃する、これが本命だ」
「数人でリールの本拠を落とすのか?」
「いや、襲撃するだけ、この時にリールの領主の……フランだっけ? ソイツを捕まえるか討てれば儲けもん」
「おい、それでどうやって勝つんだ? どこも嫌がらせみたいなもんじゃないか」
「正しく嫌がらせだよ、全ての都を同時に攻める、そして撤退してまた攻める、こんな事されて……将はともかく、兵達が平気で居られると思うか?」
「…………いや納得しかけど、それリールの連中が攻めてきたらどうするんだよ? こっちだって攻めまくるんなら休めないだろ?」
「出てきたら戦うだけだ、ライアン、戦で1番キツイ戦いってなんだと思う?」
「?…………知らん」
「アルス〜」
「はぁ……籠城戦だ、籠城する方じゃなくて籠城された方な? コルールでベススが苦労してたろ?」
「あ〜、つまり籠城してる連中を疲れさせて、疲れ切ったところを落とすか、出てきたら潰すって考えなのか?」
「そういう事、あとは敵の戦力の分散だな、ゴウルンとフライト、そしてリール、全てに充分な戦力を集めるなんて不可能だ、必ず何処かに穴が出来る」
ユリウスはリールを指差す
「とくに本拠であるリール、ここが襲撃されたって知ったらゴウルンもフライトも戦力をリールに動かさないといけない」
本拠が落ちたら、ゴウルンもフライトも2カ所から攻められる形になるからな
「どちらかが手薄になれば、そこから崩れる……賭けな所も多いが、このまま膠着してるよりはマシだろ、だからベススの連中も渋々だけど納得してくれたんだ」
「まあ、ユリウスの言う通り賭けだけど、でも確実に言えることは、こっちがずっと攻める側でいられる」
僕が続ける
「ライアン、攻める側でいられる利点ってなんだと思う?」
「んん? ………………攻められない?」
「15点」
100点中15点
「攻められないのも1つだけど足りないね、ほらもっと考えて」
「あぁ? 面倒だな………………んー……………」
ライアンの頭上に?が見える
「アルス、こいつ戦は今回が初めてだろ? 想像できないんじゃね?」
ユリウスが言う
「じゃあシャルス」
「んっ? オイラ? じゃあ2つ言うか、1つは士気だな、兵達も自分達が攻めてると有利に戦えてるとか、勝ってるとか、こう盛り上がっていくわけ、興奮していくって感じで……そうなったら実際に戦闘でも優位に進めれる訳、勇猛果敢に突き進むってデカいぞ」
シャルスはそう言って人差し指を立てる、そして中指を立てた
「2つ目は相手の動きを制限できる、攻められていたら、守ることに集中しないと負けるからね、何もしてないよりもずっとマシだろ」
「はいこれで70点、残り考えてみて」
「…………」
「ヒント、さっき僕が言った事」
ユリウスが言う
「それもう答えじゃない?」
僕が言う
「…………あぁ! 相手の目をこっちに向けるってやつか!!」
「はい90点、あと1つ」
実際はまだ色々あるけど、あと1つくらいにしないとライアンの頭が爆発しそうだ
「ぐっ、ぐぐぐ……………………………」
「難しく考えるなよ〜」
ユリウスが言う
ライアンの頭から煙が見える見える
「っ駄目だ! わからん!!」
「ライアン、時間を見つけて勉強しなよ……君、兄さんの護衛なんだから、周りから求められる事多いんだから、ユリウスみたいにメイリーに教わったら?」
「ぐっ……勉強は嫌だが……仕方ないか……んで? 最後の1つは?」
ライアンが頭を抱えながら僕を見る
「最後は相手を大きく疲弊させれる事だよ、攻める側も疲弊するけど……守る側の方がもっと疲弊する、考えてみてよ……目の前から攻めてくる敵、自分達が居る場所以外の都がどうなってるかわからない状況、退けても再び攻めてくる敵、いつ仕掛けてくるかもわからない、ほら4つも考える事がある」
「あー……」
「正しく今の君みたいになるね、それがずっと続くんだ、嫌でしょ?」
「嫌がらせってさっき言ってた意味がよく理解できた……」
そんな風に話していたら、砂塵嵐が止んだようだ
「アルス様!」
兵士が駆け込んできた
「どうした?」
「カイト様とレムレ小隊長がいらっしゃいました!」
「……はぁ?」
なんで?
ベススで待機してる筈の2人が?
取り敢えず会うことにしてみた