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第276話 コルール戦後処理

 ーーーカイト視点ーーー



 ガン!!


 頭に強い衝撃


「いっでぇ!?」

「起きたかい? カイト」


 後ろを見ると、ナリストが拳を握って立っていた

 どうやら、ナリストにぶん殴られたようだ

 そのナリストの横を見ると、ゼルナが大きなタンコブを作って正座させられていた


「私が何で怒ってるかわかるかい?」


 俺は痛む頭を撫でながら、周りを見渡す

 場所は大広間、周りには多くの兵が雑魚寝していた

 昨日の、祝勝会で酒を飲み、酔っ払ってそのまま寝てしまったようだ


 俺も普段は酒を断ってるんだが、ゼルナ達に勧められて3杯くらい飲んで、意識がまだあるうちに酒を止めて、そのままいつの間にか寝てしまって…………


「あ〜無防備にこんなところで寝てたから? てか来るの速くない?」

「そう、アンタとゼルナ(バカ)は立場を考えなって事だ! あとブライアンに飛竜に乗せてもらってここまで来たから速いんだよ」


 その後、俺とゼルナは正座させられて、説教された

 こんなふうに誰かに怒られるの、久し振りだなぁ……


「それで? ライガンは何処だい?」

「ライガンなら、部屋で休ませている」


 ゼルナが痺れる脚を擦りながら立ち上がって答える

 タンコブ治るの早くない?


「あっ、カイト様、目が覚めましたか?」


 レムレがお盆に水を入れたコップを乗せてやって来た、水を受け取り、飲む

 俺が正座されてることにツッコまないのは優しさだろうか


「レムレ、今何時?」

「もうすぐお昼です、皆起きて動いてますよ」


 レムレは近くの兵士達に水を配って、お盆の上に物が無くなると、左手で持ち、俺の側に落ちてた毛布を拾う


「起こすべきか悩みましたが、よく眠られていたのでそのままにしてたのですが……起こしたほうが良かったですかね?」


 毛布を畳んで、左脇に挟んだレムレは、右手で俺の手を取り、立ち上がるのを補助する

 脚が痺れる


「いや、酔い潰れた俺が悪い、次からは気を付けるよ」


「カイト! 顔洗って来な! すぐに軍議してから、捕虜の扱いを決めるよ!」

「わかった!」

「お供しましょうか?」

「大丈夫、ゼルナも一緒みたいだし」


 俺とゼルナは洗面所に向かう



 ··········


「昨日途中で寝たけど、あの後何かあった?」


 俺は道中でゼルナに聞く


「お前が潰れた後に、うちの兵が煽って飲み比べになったな」

「マジかよ、それで? どうなったんだ?」

「俺とチップスとその兵士、オーシャンはユリウスとライアンとレムレの3対3で始まって……ユリウスが潰れて、兵士が潰れて、ユリウスと俺が同じくらいで脱落したな……その後はチップスとレムレが酒を飲み切って、酒が無くなったから引き分けになったな」

「それは見たかったなあ……レムレ、意外と酒つよいんだよな……」


 何回か皆で呑んだ事あるが、あの子が酔ったとこ見たことないな……


「ここだ」


 洗面所に辿りつく、中に入って身嗜みを整える


「ゼルナって髭こだわってんの?」

「んっ?」


 髭を整えてるゼルナを見て聞く


「剃ったりしないの?」

「髭を伸ばさないと、迫力ない顔だからな」

「……そうか?」


 髭が無くても威圧感ありそうだが?


「お前は伸ばさないのか?」

「少し考えたけど、似合いそうにないからさ……もう少し歳をとってから伸ばしてみるさ」


 20代の間は剃るよ


 そんな風に話してから、洗面所を出る


 そして、ナリストが待つ部屋に案内されて、入室する


 そこには将達が集まっていた


 アルス達も居るし、ベススの将は……

 ライガン、ロンドベルト、チップス、ファルンとルートゥも居た

 ……ブライアンも確か将になったんだよな?


「大将、殴られたらしいが大丈夫か?」


 俺がアルス達の側に行くと、ライアンが小声で聞いてきた


「大丈夫大丈夫、普通に俺が悪いし」


 ゼルナもナリストの隣に立つ


「じゃあ、軍議を始めるよ」


 ナリストが俺達を見てから口を開く


 これから決めるのは

 リールとの戦いの方針

 捕虜の処遇

 将の配置や任命


「先ずはリールとどう戦っていくかだ」


 ナリストは地図を広げる


「コルールを取り戻した事で、リールの都は残り4つ、ベススの都は5つ、不利な状況から互角の状況に戻せた」


 ナリストはそう言うが、厳しそうな表情だ

 拠点の数は互角でも、取り戻したばかりのコルールはまだ不安定、マトモな状態に戻すのに時間がかかる、その間にリールは再び攻めてくる


「2箇所同時に攻められたらキツイな……」


 俺は呟くと


 コルール、ベスス、そして『ガンダー』

 コルールはリールと最も近い、ガンダーはコルールからの距離としてはベススと同じくらいだが


「ガンダーって戦闘用の準備とか出来てるのか?」


 俺はナリストに聞く


「いいや、アソコは物資を保存する為に作られた都だから、兵器とかは大したものは置いてないよ」

「普通はここを攻めるなら、直接ベススを攻めれば良いからな」


 ゼルナがナリストに続ける

 確かに、ガンダーを攻めて、落としても……ベススの物資を奪えるが、それならベススを攻めても同じだ

 だって、攻められてたら、ガンダーから物資を運ぶなんて出来ないんだから

 リールからしたら、ベススを落として、ガンダーも一緒に手に入れた方が良いに決まってる


 あーでもない、こーでもないと、数分間程、話し合う


 その時、ふとユリウスが呟いた


「……これ、リール軍はガンダー狙ってない?」


 全員の視線がユリウスに向く


「どういうことだい?」


 ナリストが聞く


「いや、不思議に思ってたんだけど、リールはコルールを落として、何ですぐにベススを攻めなかったのかって」

「内乱が失敗したから、様子を見てたんじゃないのか?」


 俺が言う


「それでも、外に布陣してたチップス達と戦わないのもおかしくない? それで今、皆の話を聞きながら地図を見てたんどけど」


 ユリウスがガンダーに指を当てて、道をなぞる


「時間はかかりそうだけど、ここからならガンダーに進軍出来る、リール軍はここからガンダーを落として、2方向からベススを攻めようとしてたんじゃないかなって思ってさ」


「ふむ、確かにここからなら進軍出来るが……」


 ロンドベルトが口を開く


「ここは密林がある、しかしそこは毒沼や厄介な獣が多い、軍隊を向かわせるなら大きな被害を受けるぞ」


 過酷な道って事か


「それはリールの奴等も知ってるだろ? だから時間をコルールで稼いでいたんじゃないのか? チップス達がコルールに釘付けされて、ベスス軍の意識をコルールに向かわせて、警戒されてない所を多少の犠牲を覚悟して進ませてるんじゃないか?」


『…………』


 そこまで言われたら、何かそんな気がしてきた


「そんな事、やるだか?」


 チップスが呟く


「あり得ない、なんてことがあり得ないだ……実際、僕達だって相手の不意をついたわけだし」


「ブライアン! ベススに戻ってモノトールにガンダーに向かわせな!」

「はっ!!」

「ついでに密林の様子を探ってこい」

「はい!!」


 ゼルナが望遠鏡をブライアンに渡す

 ブライアンが部屋から出ていった


 ···········


 ブライアンが戻ってくるまで、戦いの方針と将の配置は保留にして、捕虜の処遇を決めることになった


「コルールの地下牢に幽閉も考えたが、最前線になるし、ベススまで連行してベススで幽閉するかね」


 ナリストはそう言うと、殆んどの将は賛成する

 まあそれが普通だよな、捕虜は相手との交渉の材料や寝返らせて戦力にも出来るからな


「……ナリスト様、申し訳ありませんが、彼等を解放できませんか?」

「はぁ?」


 ナリストがライガンを見る

 何言ってんだこいつ?


「何を言っている、そんな事して何になる?」


 ロンドベルトがライガンを睨む


「何か、戦略があるのか?」


 ゼルナが聞く


「いいえ、俺の我儘です」


「……理由を聞こうか?」


 ナリストがライガンの側に立つ


「マードルードは我等を捕らえましたが、兵士も俺も、拷問なども受ける事はなく、捕虜にしては上等な扱いでした」

「それは、あんたを仲間にしたかったからじゃないのかい?」

「そうでしょう、しかし、どんな理由があれど、俺達が捕らわれてから今まで無事だったのは事実です……この借りを返せずにいれば、俺の気が済みません」


 ライガンはナリストに土下座する


「お願いしますナリスト様!!」


 ライガンは要するに借りを作ったままなのが嫌みたいだな

 まあ、少しは気持ちはわからなくはないけど……

 流石にそれで捕虜を解放するのは無理だろ、俺なら流石に諦めてもらうな


「全く、仕方ないね、じゃあ解放するかい」

「姉上!?」

「うそ!? マジで!?」

「ナリスト様!?」


 ゼルナ、俺、ロンドベルトと驚く


「なんだい? そんな驚くことかい?」

「いやいやいや、本気かナリスト!? 捕虜を解放するのか!? せめて情報を吐かせるとかするよな!?」

「いいや、このまま解放するさ、何もしないよ」

「姉上、流石にそれは……」

「甘すぎるかい?」


 ナリストはロンドベルトを見てから言う

 ロンドベルトが開こうとした口を閉じた


「まあ、私も本当なら解放なんてしたくないけどねぇ……このまま幽閉して、ライガンがやる気を無くしても困るし」


 ナリストはライガンの頭をペシペシと叩いてから、立たせる


「マードルード達を解放したら、あんたは今まで以上に働いてくれるだろう?」

「っっっ!! はっ!! 何があろうとこの命尽きても!! ナリスト様に尽くしていきます!!」

「なら見返りはそれで充分さぁ、それにこのままマードルードやリールが大人しくしてるとは思えないし、無事に解放されたら、マードルードもライガンみたいに私達に借りを作ったって感じるだろ? そこが隙になるかもしれない」


 ナリストはロンドベルトに近寄り、髭を撫でる


「ちゃんと考えてるさ、まだ甘い考えだと思うかい?」

「む、むむぅ……」


 ロンドベルトは何も言えなさそうだ


「ゼルナもカイトも他の者も納得したかい?」

「……総大将は姉上だ、姉上が決めたのなら従うだけだ」

「俺は……まぁ、納得したっていうか……」


 うーん、そう上手くいくか?

 無茶苦茶な感じが……


「兄さん、兄さんは人の事言えないからね?」

「あっ、はいそーですね」


 俺も無茶苦茶してたわ




 ············


「本当に解放するのか?」


 おい、解放される捕虜が戸惑ってるぞ


「いいからさっさとリールに帰りな、水と食料はそれだけあれば充分だろ?」

「…………すまない、感謝する」

「感謝ならライガンに言いな」


 そのライガンは見送り来てないけどな

 ここには俺とナリストとライアンとロンドベルトがいた


「…………」


 マードルードは兵達を連れて、コルールから出ていった


 マードルード達がコルールから出て数分後

 ブライアンが空から飛竜に乗って降りてきた


 丁度、俺達が城内に戻る直前だった


「ナリスト様!!」


 飛竜から飛び降りたブライアンが駆け寄る


「どうだった?」


 ナリストが聞く


「モノトール様は700の兵を連れてガンダーに向かいました、その後、密林の様子を確認したら……リール軍の姿を確認しました!!」


 マジか!


「ユリウスの予想が当たったねぇ」


 ナリストが俺の背を叩く


「それで? リール軍の規模は?」

「姿を見られないように遠くから確認したので、確実とは言えませんが、3000ほどかと、しかし、敵将だと思われる姿が3人確認できました!」

「1人1000人の兵を連れてるって感じか?」

「もっといたけど道中で減った可能性もあるね」


 俺とナリストはそう話していたら、ゼルナとアルスがやって来た、ロンドベルトが兵に呼びに行かせたみたいだ


「それと……恐らくなのですが、その3人の将が平伏している人物が居ました」


 んっ? 将が平伏?


「……そいつの特徴は?」

「南方では珍しい金の髪、それと燃えるような紅い瞳……あんなに離れてたのに、こっちを見てきたんです!!」


 震えるブライアン

 おいおい、金髪に紅い瞳って……


「そいつは女だったね?」

「はい! 女性でした!!」

「姉上」

「ああ、早い登場だね戦姫(せんき)


 戦姫……その肩書を持つのは1人だけだ

 リールの現領主

『フラン·リップ·リール』

 現在だと17から18くらいの若い領主だが

 高い武力とカリスマ、知性を持つ高水準の将だ

 ゲームなら彼女で始めた場合、南方ではかなり優位に進められる、彼女自身が強いし、配下も強い

 まだ戦力が整ってない他の領を素早く落として、一気に南方統一が出来たりもする

 初心者向けのキャラって感じの女性だ



「ゼルナ!」

「ああ……ブライアン、戦えるか?」


 ゼルナは震えるブライアンの両肩を掴む


「……戦います! その為に鍛えてきました!!」

「よし! なら先にベススに戻って準備しろ、俺もすぐに向かう」

「ゼルナも行くのか?」


 俺が聞く


「ああ、戦姫が居るなら好都合だ……」


 ゼルナは力強く答えた


「『飛竜部隊』を出す!! 戦姫を仕留めて、戦を終わらせる!!」


 こうして、遂にリール軍の総大将と戦うことになった

 てか総大将が前線に出るのかよ……

 あっ、俺が言えたことじゃないか……




 ···········


 密林にて


「フラン様、ご機嫌ですね?」


 リール軍の将、『ラスター』が岩に座っているフランに声を掛ける


「うむ、先ほど、面白い気配を感じてな……それに、楽しめそうな予感もする」


 フランはそう言うと岩から降りる


「もうすぐ密林の出口だな、そこで戦闘準備だ」

「えっ? 戦闘準備ですか?」

「ベススにこの軍勢がバレたぞ」

「!? 周りの警戒はしていましたが……敵の姿を観ましたか?」

「いや、余の勘だ、それでは信じられぬか?」


 フランがラスターを見る


「!? い、いえ……フラン様を疑うなど……ご無礼を、お許しください」

「許す! ラスター、お前の疑い深いところ、余は好きだぞ!」


 そう言ってフランは歩き出した

 その手には真っ赤に光る剣が握られていたのだった







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