第272話 コルール解放戦 1
時間は少し遡る
コルールから少し離れた場所に、ベスス軍は布陣していた
「んー、動かないなぁ」
チップスは、遠くにあるコルールの門を見ながら
干し肉を齧りながら呟く
「ライガンや兵を殺した様子は無さそうだな」
ロンドベルトが、干しブドウをつまみながら呟く
「爺さんはどう思うんだぁ? ライガンをこのままにすると思うだかぁ?」
「思わんな、さっさと殺すか、こっちに捕虜を交渉材料に使者を送るかする筈だが……全く動きがないのが不気味だ」
「申し上げます!」
そこに兵士が駆け付ける
「どうした?」
ロンドベルトが聞く
「ゼルナ様が、オーシャンの援軍を連れて来ました!」
「おお、カイト様の援軍が来ただかぁ!」
チップスはそう言って、干し肉を飲み込む
「オーシャンか……」
ロンドベルトが嫌そうな顔をする
··········
ーーーカイト視点ーーー
ゼルナに連れられて、俺達はベスス軍の陣に着いた
「そこの君、チップスとロンドベルトを呼んで来てくれ」
ゼルナが兵に指示を出し、俺達は大きな幕に入る
少しすると
「おお、アルスとユリウス! デカくなっただなぁ!」
チップスが幕に入ってきた、この幕がデカい理由ってチップスが入るからか? それでもギリギリだが
「チップス、久し振り」
「よお! 相変わらずデカいな!」
アルスとユリウスが思い思いに返事する
「んん? はじめましての人も居るだなぁ! オイラはチップスだぁ! よろしく!」
「は、はい……」
「すげぇ……」
「よろしくな!」
レムレとシャルスとライアンが挨拶する
「コホン」
『!?』
咳払いに反応する
いつの間にかゼルナの隣に老兵が立っていた
「皆、紹介する、ロンドベルトだ」
「はじめまして、ロンドベルトと申します」
綺麗なお辞儀をするロンドベルト
「はじめまして、カイト·オーシャンです」
俺もロンドベルトにお辞儀をかえす
「……オーシャンの領主殿が援軍に来られたのですか?」
「ええ、ナリストとゼルナが心配でしたので」
ロンドベルトか、こうして話すのは初めてだな
てか、本人は自然に振る舞ってるみたいだが……
俺の事むっちゃ警戒してない? なんか距離を感じるんだけど?
「……あー、さっさと本題にうつるか」
ゼルナがそう言って話を切り替えた
チップスとロンドベルトから現状の報告を聞く
「つまり、ライガンは生きてるって考えていいんだな?」
「その可能性は高いかと、処断したなら、首を晒すはずですからね」
「兵士の捕虜は?」
「ライガンが逃がしてくれててなぁ、殆どがこの陣に合流してるだぁ、捕まってて30人くらいだぁ」
「何千人と居たんですよね?」
レムレが聞く
「内乱が起きた時に、多くの兵をベススに向かわせていたんだ、だからコルールには500人くらいしか残ってなかった、それが無かったら、ライガンならまだコルールを守りきれていた」
ゼルナが悔しそうに言う
「…………」
ロンドベルトが黙り込む
「……すまないロンドベルト、お前を責めてるつもりはない」
ゼルナがロンドベルトを励ます
「なに? あの爺さんが何かやらかしたのか?」
「なんか反乱に関わってたらしいぞ?」
小声でライアンがユリウスに聞いて、ユリウスが答えた
「はいはい、話進めよう」
今度は俺が話を切り替える
「それで、俺達がここに来た理由を説明しようと思うんだが」
「そうだなぁ、何でカイト様達が来ただかぁ?」
「ライガン将軍を救出するためだ、出来るならそのままコルールも取り戻したいと思ってる」
「何かいい案があるんだなぁ?」
「いい案っていうか、妥協策っていうか、賭けというか……アルス」
「うん、地図を貰ってもいい?」
兵士が地図を持ってくる
「えっと……ここか」
アルスは地図と持ってた紙を見比べて、地図に印を付けた
「?」
チップスが首をかしげる
「ここに、コルール城内に続く隠し通路があるそうです、ここから城内に侵入して、ライガン将軍と兵士を救出します。その後、合図を送るので、ベスス軍と協力してコルールを取り戻します」
「隠し通路? そんなものがあるとは聞いたことないが?」
ロンドベルトが言う
「ごく一部の人しか知らない道だそうです」
「何故それをお前達が知っている?」
「僕達って言うより、僕達の軍師が知ってました」
「何故、その軍師がその道を知っている?」
ロンドベルトが警戒心を強めている
「彼の書いてくれた話だと、彼の先生がそのごく一部の人だそうですよ、その先生から教えてもらったそうです」
「…………」
あ、これ信じてないな、そうだよな、信じられないよなぁ、普通は
「ゼルナ様、こんな話を鵜呑みにしたのですか?」
「いや、父が以前隠し通路の話をしていたのを思い出してな、もしかしたらと思ってな」
「その隠し通路が無かった場合の事は考えているので?」
「その時はその時で別の方法で侵入します、あるかどうかの隠し通路だけで話を進めたりしませんよ」
アルスとロンドベルトが睨み合う
「取り敢えず準備して動きませんか? 今日は新月で雲も多い、夜の暗闇を利用するんですから、急ぎましょう?」
レムレがそう言って話をまとめた
·········
それで侵入する人間は
アルス
レムレ
ユリウス
シャルス
ライアン
ゼルナ
この6人で侵入する
オーシャンの5人が主なメンバーだ、ベススの将達もこれで説得した
失敗しても犠牲になるのはオーシャンの人間だからで説得した
本当はゼルナも待機側の予定だったが
「危険な仕事だからって任せ放しにするわけにはいかないだろ? それに、城内の道がわかるのか? ライガンへの説得も俺が居た方が早いだろ?」
なんて言われたらね
ライアンは俺の護衛だが、今回は侵入メンバーに加わってもらった
「良いのか大将? 俺が離れてて大丈夫か?」
「兵士も居るし、チップス達も居るから大丈夫、侵入って危ない作戦だから、アルスを守ってほしい」
「……わかった、でも大将、これだけは約束してくれ、前線に出ないでくれよ?」
「わかってる、俺は本陣に待機してる」
流石に、足手まといになるのはわかってるからな
そして、チップスとロンドベルトは合図があったら突撃する部隊だ
そんな訳で、皆が慌ただしく動いてる中
「……な、何か手伝わせてもらえる事ってある?」
「無いです」
俺は暇人なのだった
···········
ーーーアルス視点ーーー
本陣から離れて、目的の場所に辿り着く
「うわ、本当にあったよ……」
メイリーが書いてた通り、大岩を動かしたら、隠し通路があった
「これ、城から出る時は大岩をどう動かすつもりだったんだ?」
ユリウスが大岩を見ながら呟く
シャルスとライアンが2人で動かした大岩、この2人でも重そうだったんだ、普通なら10人以上は人手が必要なんじゃないかな?
「ふむ……あの岩は後から置かれた物かもしれないな」
ゼルナが隠し通路を見ながら呟く
「なんでそう言い切れるんだ?」
ユリウスが聞く
「ここ、壊された後がある、恐らく他の仕掛けで塞いでいたが、それを壊されたから岩で塞いだんだろう」
ゼルナはそう言って中に入ろうとするが
「ゼルナ様、僕が先に行きます」
レムレが呼び止めて、中を見渡してから入っていった
「ユリウス」
「おう」
次にユリウスが入って、僕、ゼルナと入って
「俺が先か?」
「オイラは後ろの警戒しなきゃだから」
ライアンとシャルスが入ってきた
「空気が淀んでるな」
「マトモに換気なんか出来なかっただろうな」
僕が言うとゼルナが呟く
「暗いですね……」
「松明点けて持ってくるか?」
「いや、少ししたら見えてくるから大丈夫」
暗闇に目が慣れるまで数分待機
「よし、見えてきた、行きましょう」
レムレが歩き出す、僕達も歩き出した
「んっ?」
「どうした?」
少し歩いていたら、レムレが止まった
「どうやら、ここは避難場所として使う予定もあったみたいですね、保存食の欠片があります、ネズミとかに殆ど食べられてますけど」
「なんか箱っぽいのがあるな、触った感じだけど」
レムレとユリウスが調べる
「長い時間で箱が壊れて、中身はネズミの餌食になったと」
「コルールに造られて何年経ってるの?」
「祖父の代に造ったから……100年は経ってるな」
「そりゃあ駄目になるね、保存食なんてもって半年くらいでしょ?」
「干した果物や野菜なら3年はもつぞ」
僕とゼルナが話していると
「なあ、匂い的にはそんな長い時間は経ってなさそうだぞ?」
シャルスが言う
「そうだな、風化せずに欠片がある事を考えると……100年前の物じゃなくて10年くらいじゃないか?」
ユリウスが言う
「つまり、ここを知ってた人が定期的に保存食を代えていたって事か?」
「恐らくな、死んだか来れなくなったかで代えれなくなってこうなったって感じだろ」
僕の問いにユリウスが答える
「…………」
「ゼルナ?」
「1人、心当たりがある、コルールに配属されて、10年前に亡くなった老人が居た……他の都に移動するのを拒否して、最後までコルールに居た」
「じゃあその老人かもな、ここで考えてても結局真相なんてわからないし……終わって帰ってから調べてみたら何かわかるんじゃない?」
ユリウスはそう言うと持っていた欠片を捨てた
ネズミが欠片に群がった
···········
それから更に奥に進んだ
「時間、どれくらい経ったかわかるか?」
「41分、39秒」
シャルスが答える
「何だ? 数えてたのか?」
「必要だろ?」
ライアンが聞いて、シャルスが答える
「っと、ハシゴだ」
レムレが立ち止まって言う
「結構高いのか? 上が見えないが」
僕がハシゴの側に立ち、見上げる
真っ暗だ、地下で暗いからってのもあるかもしれないが……
「…………流石に、見えないですね」
レムレはそう言ってハシゴに手を掛ける
「待った、オイラが行くよ」
シャルスが止める
「大丈夫?」
「何となくでわかるからね、登りきったらこれ落とすよ」
シャルスは懐から乾パンを取り出す
「気をつけろよ?」
ユリウスが言う
「任せろ」
シャルスはハシゴを登り始めた
「音からして、ハシゴは石で出来てるみたいですね」
レムレが言う
「壁を削ってハシゴの形にしたんだろう、古い建物なら外でもこんな造りのハシゴがあるぞ」
ゼルナが答える
少ししたら
ポトッ
「乾パンだ」
僕は落ちた物を拾う、感触から間違いなく乾パンだ
「行こう」
僕達はハシゴを登る
数分くらいかけて登ったら、うっすらと明るくなってきた
と言っても暗いけどね
真っ暗な所から、明かりを消した部屋くらいの明るさになったくらいだ
頭を出すと、シャルスが周りを見渡してる所だった
「アルス、誰もいないから今のうちに上がれ」
「よっと」
シャルスの手を借りて、登りきる
レムレ達も次々と引き上げてもらった
「ここは、玉座の裏か」
ゼルナが見渡してから言う
「よっと」
シャルスが蓋を閉めた
「大丈夫か? これ開けれるのか?」
ライアンが聞くと
「場所も覚えたし、触ったら、コイツだけ感触が違うからわかるよ」
「そんなわかりやすくなってるのに、誰も気づかなかったのか?」
ユリウスがゼルナを見る
「玉座の裏なんて掃除の時しか見ないだろ? メイドが感触の違いに気付けるとは思えんよ」
「知ってる人だけ気付けるって事か」
「それで? これからどうするんだ?」
ライアンが僕に聞く
「えっと……メイリーの紙だと2つの事を書いてるんだけど……人質の救出だけと、都を取り戻すのとで……どうする?」
「人質だけで良くないか? 都はそれから取り戻せば良いだろ? 僕達だけでやる義理はないだろ?」
ユリウスが答える
「僕は都も解放するべきだと思います、援軍として認められるにも、それが1番手っ取り早いかと」
レムレが答える
「俺は、人質だけでも救出出来たなら、それで充分だと思っている、それ以上の負担を援軍であるアルス達にかけたくはない」
ゼルナが答える
「俺は都の解放しても良いと思うぜ? 俺達なら出来るだろ?」
ライアンが答える
「オイラも、出来るって自信があるから、都の解放かな」
3対2で都の解放かな
いや、4対2か
「僕も都の解放をしたいな、その方が後々戦いやすくなると思うし、不意をつける今がやるべき時だよ」
そんな訳で、僕はメイリーから貰った紙の、都の解放の策を見る
「えっと、レムレとユリウスで、人質の解放、僕とシャルスとライアンで外壁の敵兵を倒すって書いてる」
「俺は?」
「ゼルナは……あ、協力者は人質の解放側だって」
「道案内か?」
「道案内もあるけど、主な理由は人質から信用を得るためだって」
「丁度3人ずつ分かれるな」
ユリウスが言うと、周りを見渡す
「今何時かわかるか?」
「深夜1時」
シャルスが答える
「夜明けまで4時間くらいか、さっさと行動した方が良さそうだな」
「救出が完了した時の合図決めとく?」
レムレがユリウスに聞く
「レムレ、外壁に居る筈の僕達が見える?」
僕が聞く
「ちょっと自信が無いですね、見えるでしょうけど、暗くてアルス様達だと、すぐに判断できないと思います」
「明るくなったら見えるんだな?」
「確実に見えます」
「なら、僕達は外壁の敵を片付けたら、松明を点けるよ。 それで、そうだな……剣抜いてかがけておくから、その剣に矢を撃ち込んでよ」
「わかりました」
「出来るのか?」
ゼルナが聞く
「出来ます」
レムレが自信満々に答えた
··············
ーーーレムレ視点ーーー
アルス様達と分かれて、僕とユリウスはゼルナ様と一緒に地下牢を目指している
道中に敵兵が居る時は、距離があっても見えるから、先に気づいて隠れたりしてやり過ごした
倒してもいいけど、死体が見つかったらバレるからね
「止まれ、流石に地下牢には見張りが居るな」
「見張りは始末した方が良くない?」
ゼルナ様とユリウスが話す
見張りの兵が2人立っているのが見えた
「そうだな……しかし、距離がまだ遠い、やるまでに騒がれるな……レムレ、ここから見張りを射抜けるか?」
「任せてください」
僕は矢を2本、弓につがえて、放つ
『!?』
『カッ!?』
矢は見張りの喉を貫いた
倒れる兵
「お見事」
「ありがとうございます」
ゼルナ様から褒められる
僕達は地下牢に向かう
見張りの死体をゼルナ様が担いで、一緒に階段を降りる
ユリウスは見張りの装備を奪って、着替えて見張りの振りをしている
「看守とかは居ないんですか?」
「見張りの兵が交代で見回りに行くのが、南方のやり方だ」
「鍵は何処にあるかわかります?」
見張りの兵は鍵を持っていなかった
敵将とかが持ってたら厄介だ
「鍵の場所は見当がつく、レムレは牢の中を見て来てくれ、誰もいないって可能性もあるからな」
「わかりました」
ゼルナ様がゴソゴソと地下牢の出入口付近にある机を探り始めた
僕は言われた通りに牢に向かう
少し進むと
ガン!
「!?」
打ち付ける音が聞こえた、1番奥の左側の牢から聞こえた
僕は牢の前に行く
「わかっていたのに…果たせなかった」
1人の男性が地面に額を付けていた
ジワリと血が額から広がって床を汚す
「ナリスト様……」
この人がライガン将軍だ
そう確信できた
「もし、ベススが負けたら、それは俺の責だ……」
ライガン将軍がそう言うから、僕はつい口を開いてしまった
「貴方は悪くないですよ、勝ち負けは個人の責任じゃありません」
ライガン将軍が驚いたのか、勢いよく顔を上げた
あっ、騒がれたら困るから……
「シー」
僕は人差し指を口に当てて、静かにするように合図する
念の為に聞いておこう
「貴方がライガン将軍ですよね?」
「そうだが、君は誰だ?」
頭に?が出てるように見えるライガン将軍
だから、僕は答えた、安心してもらうように優しく
「初めまして、僕はレムレと言います、オーシャンからの援軍で、貴方を助けに来ました」
ライガン将軍の眼に光が戻った