第271話 ライガン将軍
ーーコルールの都ーー
ベスス領の都であり、現在はリール軍に占領されているコルール
城下街にはリール軍の兵が闊歩しており、都の外、外壁から数キロ離れた場所にはリール軍が布陣している
「…………」
コルール城の廊下を、1人の将が歩いていた
彼は『マッドルード』リールの将であり、コルール攻略の軍の大将を任されていた
彼はコルール城の地下牢に向かって歩いていた
彼が地下牢に向かう理由
それはコルールの防衛を任されていた、ベススの将、ライガンに会うためだ
主であるフラン·リップ·リールにコルール攻略を命令された時は、時間はかかるが、難しい任務だとは思わなかった
コルールが守りに向いた都だとは聞いたことも無い、今まで落とせなかったのは、リール側にやる気がなかっただけ
そう考えていたのだ
だが実際に戦って驚いた
コルールは普通の都だが、守っているベスス軍の動きが素晴らしかったのだ
マッドルードが兵を動かすと、ベスス軍は全てを防いできた
ベスス軍は決して都から出てこない、全ての攻撃が、外壁で防がれた
時間がかかり過ぎた
マッドルードはやりたくなかったが、非道な手を使うことにした
付近の村を襲撃したのだ
コルールから救援が出てくればそれで良かったが、出てこなかった
それならやり方を少し変える
襲った村の生き残りをコルールに難民として向かわせた
女や子供、それと老人を向かわせた
『お願いします! 助けてください!!』
『うわーん!!』
必死に助けを求める女性
泣き叫ぶ子供
震えて膝をつく老人
コルールの門が開いた
その瞬間に軍を動かし、突撃する
しかし、難民はコルールに入れたが、リール軍が近付くと、矢で応戦され、時間を稼がれ、門は閉められる
作戦は失敗した
そう、コルールのベスス軍に思わせた
難民の中に、数人ほど、リール軍の兵士を紛れ込ませていた
その日の夜、空が曇り、明かりが全く無い闇夜に動いた
門の前に数人ずつ移動して、100人近くの奇襲部隊が集まる
そして、開く門
マッドルードは奇襲部隊と共に侵入する
門の側では見張りの兵の死体が転がっていた
生き残っていた兵が、難民に変装していた兵……いや、副将としてマッドルードと共に出撃していた『ヤンマ』と戦い、斬り殺された
「マッドルード将軍、合図を」
「ああ」
兵の1人が松明を灯し、門の前で振る
離れた場所に布陣していたリール軍が突撃する
「ここを死守するぞ」
マッドルードとヤンマ、そして奇襲部隊で門を閉めるために集まってくるベスス軍に応戦する
必死に戦う、そして奴が来た
「マッドルード!!」
「来たか! ライガン!」
走ってきたライガンの剣をマッドルードの剣が防ぐ
ライガンが来たことで、ベスス軍の兵の戦意が上がる
ライガンはマッドルードと戦いながら、兵に指示を出す
徐々にこちらが追い詰められる
「見事だな! お前が居るからこそ、コルールは難攻不落と化していたか!!」
「黙れ! 非道な者の賛辞など恥だ!」
マッドルードとライガンは互角に戦うが
「あいにく! 一騎打ちに興じる時間はないのでな! お前を捕らえればコルールは終わりだ!」
ドス!
「ぐっ!?」
ライガンの左足に、ヤンマが放った矢が刺さる
更に、マッドルードの剣で左肩を斬られ
ライガンは捕らえられた
そして、突撃してきたリール軍がコルールに侵入したことにより、コルールは占領されたのだった
·········
地下牢
「ライガン、いい加減にこちらに降れ、私はお前を評価している、フラン様に相応の立場を約束してもらう」
牢に囚われたライガンにマッドルードは言う
「……断る、俺の主はナリスト様のみ」
気絶している間に手当てをされたライガン、彼はマッドルードを睨む
「なら、このまま戦を続けて、ナリストが死ねば、お前はリールに降るか?」
「その時はナリスト様と共に死ぬのみだ!」
彼は自決しない、それはナリストが生きてるからだ
いずれ助けがくる、そう信じているのだ
「……明日また来る」
マッドルードはそう言って、地下牢から出ていった
·········
ーーーライガン視点ーーー
マッドルードが出てから、どれだけ時間が経った?
「くっ!」
ガン! 額を石床に打ち付ける
己が情けない
「わかっていたのに…果たせなかった」
難民が助けを求めて来た
リール軍が近くに布陣しているのに、コルールまでたどり着いた難民
怪しかった、リール軍の策だと気付いていた
しかし、必死に助けをもとめる民を見捨てられなかった
その結果がこれだ、コルールを占領され、自分は捕らえられた
兵達も殺された者や別の場所に捕われた者、投降した者もいる
「ナリスト様……」
『危険な場所だ、でも、アンタになら任せられる』
幼少の頃からの付き合いだ、彼女の苦悩は知っていた
本音は彼女を支えたかった、しかし、最前線の都、そこの守りを任されたのは、誰よりも信用されている証だった
期待に答えたかった、守りきりたかった
「もし、ベススが負けたら、それは俺の責だ……」
その時は、その時は俺は!!
「貴方は悪くないですよ、勝ち負けは個人の責任じゃありません」
「!?」
声を掛けられた、見張りとは違う、聞いたこと無い声
前を見ると、牢の前に1人の……男か? 人物が立っていた
「シー」
そいつは人差し指を口に当てて、静かにするように合図する
そして、小声で聞いてくる
「貴方がライガン将軍ですよね?」
俺も小声で答える
「そうだが、君は誰だ?」
ソイツはニコッと笑う
「初めまして、僕はレムレと言います、オーシャンからの援軍で、貴方を助けに来ました」
同盟を結んでるオーシャンからの援軍?
何故その人物が目の前にいる?
状況がすぐに理解できないが……
ズキズキと痛む額が、これが現実だと教えてくれた
助けが来たのだと、教えてくれた