第268話 飛竜部隊
「ナリスト様!」
ナリストが街に放っていた密偵が戻ってきた
「反乱軍の状況は?」
「モノトール将軍が各地の反乱軍の兵達を各個撃破しています!」
別の密偵が戻ってくる
「報告! ヒータ将軍がロンドベルト将軍と戦闘中です!」
「へぇ、シーマの合図でこっちについたのかい?」
「これで、殆んどの将がナリスト様の味方です」
シーマがいい笑顔で答える
「いや、あと1人居るじゃないか、ベルルだけはまだ決めてないだろ?」
············
ベルルは悩んでいた
ナリストにつくか、反乱軍につくか
悩みながらも兵を集めていた
しかし、彼はある光景を見て、覚悟を決めた
シーマからの合図が放たれる前から、彼はナリスト側についた
「流石に、これは許せないよなぁ」
彼の腕の中には、怪我をした子供だ
手当を終えて、傍にある民家を訪ねて、子供の保護を頼む
「兵士諸君! 軍人が鍛えているのは何のためだ!!」
『はい! 国を護るためです!』
「それだけかぁ!!」
『いえ! 民も護るためです!!』
「それなら、私達がやるべきことはわかるなぁ!!」
『はい! 反乱軍を蹴散らします!!』
「クリストルは既に城に着いただろう、ロンドベルトはヒータかモノトールが相手する! 私達は! 外のバベールクを潰すぞ!!」
『うおおおおおおおお!!』
········
そうして、ベルル隊はバベールク隊と交戦した
最初こそ善戦していたが、数の差が大きく、徐々に追い詰められていく
「選ぶ相手を間違えたな!」
「…………」
ボロボロになりながら、バベールクを睨むベルル
「どうする? 今からでもこっちにつくか?」
「断る!」
「じゃあ死ね」
バベールクは剣を振り上げる
「くっ!」
結局、良いところ無しか……
そう思いながら、ベルルは目を閉じる
ヒュン
剣を振るう音が聞こえた
ダン!!
ガキィン!!
鉄がぶつかる音が聞こえた
「?」
その前に何か聞こえた
それに斬られる感触がこない
ベルルは目を開ける
「良くやったベルル!!」
「ゼ、ゼルナ様!?」
「ぬぅ!?」
目の前にはゼルナが居た
しかし、さっきまで姿は何処にも無かったのに
突然現れた
ベルルは混乱する
「はぁ!!」
「ぐぅ!?」
ガキィン!!
ゼルナの戦斧がバベールクの剣を弾き飛ばした
「ベルル、姉上は無事か?」
「すいません、私は城に行ってないのでわかりません」
「そうか……」
ゼルナはピィーっと指笛を鳴らす
すると、上空からゼルナの隣に大きな生き物が降りてきた
「ゼルナ様、これは?」
「飛竜だ、秘密兵器ってやつだ……まさかこんな形で披露するとはな」
そう言ってゼルナは飛竜に乗る
「ベルル、俺は城に向かう」
「援軍に来てくれたのでは?」
「安心しろ、バベールク共の相手は、飛竜部隊に任せる……ブライアン! ここは任せたぞ!!」
「はい! 任せてください!!」
ゼルナは城に向かった
···········
ーーーブライアン視点ーーー
僕はベルル将軍の前に降りる
「ベルル将軍! 門まで兵を下げてください! 巻き込んじゃいますから!」
「巻き込む?」
ベルル将軍は兵に指示を出す
「飛竜部隊! 風陣!!」
僕は指示を出す
飛竜部隊が空から滑空してくる
「ええい! 撃ち落とせ!!」
バベールク将軍が弓兵に指示を出す
放たれる矢
しかし、飛竜達には矢は通じない
飛竜達が反乱軍の頭上スレスレを飛んでいく
「う、うわぁぁぁ!?」
「なぁぁぁ!?」
兵士達は飛竜が近くを飛んだ時の風圧で飛ばされる
何回も往復する頃には、兵士達はボロボロだった
「な、何なんだこの化物は!!」
バベールク将軍は乗っていた馬を操り、逃げ出した
不利になるとすぐに逃げる、情けない姿に見えた
「逃がしませんよ!」
僕は飛竜を飛ばす、そしてバベールクを捕まえる
「ぐぁ!? は、離せ!!」
「離しません!」
僕は飛竜を高く飛ばす、鎮圧が終わるまで、上空で待機する
バベールクも、落ちたら助からない高度まで上がると、大人しくなった
「後は、ゼルナ様と飛竜部隊で制圧できるかな」
飛竜部隊は街の上空を飛んでいる
空から、反乱軍を襲撃し、空に戻る
これを繰り返して、反乱軍をかき乱していった
·········
ーーーゼルナ視点ーーー
俺は飛竜を飛ばし、城を目指す
街中は乱戦状態のようだ
「んっ? あれは……ヒータか?」
血塗れで、満身創痍のヒータが兵達に指示を出し、反乱軍の兵を抑えていた
ヒータが、俺に気付いたのか空を見上げる
そして、剣で城を指す
それで俺には伝わった
「速度を上げるぞ! 姉上が危ない!」
俺は飛竜の速度を最高速まで上げる
この速度なら、城まで十数秒だ!
……………………
ーーーナリスト視点ーーー
「普通城壁を飛び越えるかい?」
「定期的に城壁の整備をするべきでしたな、凹凸が多く、簡単に乗り越えれましたぞ」
目の前に立つロンドベルトが答える
城壁を乗り越え、単騎で突っ込んできたロンドベルト
兵達を蹴散らし、ファルン、ルートゥ、シーマを一瞬で倒した
「見たところ、皆を殺す気は無さそうだね」
兵もファルン達も、長斧の棒の部分で殴り飛ばしていた、それでも気絶してる、刃の部分だったら、真っ二つだったね
「貴女以外には殺す理由は無いのでね」
「全く、何でアンタも反乱に参加したのかね、私側だったろうに」
「まだわからないので?」
わからないね
少なくとも、将達には役目に応じた報酬は与えている
民の生活も昔と比べたら安定している
「不満は無いはずだけどね」
「不満はありません、不安があるのです」
不安?
「ナリスト様、この反乱、鎮圧した後どうされますか?」
「んっ? そりゃあ反乱軍は罰を与えるさ」
「罰とは?」
「まぁ、減給とか投獄とかだね、詳しく事情を聞かなきゃいけないし」
「それで済ますつもりで?」
「なんだい? かなり甘いと思うけど?」
「それですよ、貴女は甘すぎる、優しすぎる」
「?」
「本来、反乱を起こした者など、全て処刑するべきだ、一族郎党皆殺し、少なくとも、先代ならそうした」
「私は父とは違う、思い通りに出来ないからって殺してたら、国は弱るだけだよ」
「それでも、纏めることは出来る、こんな反乱なんて起きはしなかった」
「アンタは私に父のようになれと?」
「はい、逆らう者は滅し、利用できるものは利用する、そうすれば、貴女なら南方も統一出来ます、そしていつかは大陸も……」
ロンドベルトの考えはわかった、反乱軍に加担した理由も
私に変わって欲しかったから
だから、こうして目の前に立っても、私を殺そうとはしない
「ロンドベルト、アンタの考えはわかった」
「では!」
「だけど、断るよ、私にはそれはできない」
「何故です!」
何故かって?
そんなの決まってる
「私に非情は向いてないからさぁ!」
私は後ろに跳ぶ
すると、身体が浮遊する
私の腹部には巻き付かれた尻尾
頭上には大きな飛竜
飛竜から飛び降りるゼルナ
すれ違う
「任せたよ」
「わかってる」
「ゼルナ様……」
「ロンドベルト、ここまでだ、お前に俺は倒せない」
さてと、弟と、不器用爺の戦いを、上から見届けるかね
「落とさないでくれよ?」
「キュー」
飛竜は私を背に乗せた
………………
ーーーゼルナ視点ーーー
「ゼルナ様、貴方も分かってる筈です、ナリスト様は甘すぎると」
「それが姉上だ、そんな姉上だから俺達は付いていく」
「先代の様にすれば、ナリスト様なら他の領を手に入れられるのにか!」
「姉上はそういうのに興味無いからな、ベススが安定すればいい」
「このままでは、ベススが飲まれるかもしれぬ! リールにオーシャンに!!」
「そういえば、お前はオーシャンとの同盟に反対してたな……」
「オーシャンも今は東方の覇者! その気になれば、ベススなどすぐに潰せる!」
「そうならないための同盟だろ?」
「同盟など簡単に破棄できる! 信用などできん!!」
……ロンドベルトは不安なんだな
強大になったオーシャンが、攻めてくるかもしれないと感じたか
南方の他の領よりも、オーシャンが危険だと
「カイトは、そんな人間じゃない」
「何故断言できるのです!」
「カイトは友だ、信ずるに値すると、俺と姉上は判断した」
「その判断が間違えだと思わぬのですか!」
「思わない!」
人を見る目はあるつもりだ
ガキィン!
俺の長斧とロンドベルトの長斧がぶつかる
「何故です! 何故言い切れるのです!!」
「お前もカイトに会えばわかるさ」
以前は遠目に見ただけで、お前話ししてないからな
ロンドベルトの長斧が俺の頬を掠める
やはり強いな、俺の師なだけはある
だが、俺は負けられない
「ロンドベルト、要するにお前はカイトが信用できない……反乱の理由はそれだけだな?」
「っ!」
俺が構えると、ロンドベルトも身構える
一撃だ、一撃でけりをつける
「はぁ!!」
「ふん!!」
お互いに長斧を振るう
バキィ!
「ぬぐぅ!!」
ロンドベルトの長斧が砕ける
更に、衝撃でロンドベルトは後ろに倒れ込んだ
「終わりだな、ロンドベルト」
「…………」
倒れたロンドベルトの胸元を踏み、立てないようにする
「ロンドベルト……お前がカイトを信用できないって悩んでいることはわかった……無理矢理、信用しろとは言わない」
会って話せばわかるとは思うがな
俺は長斧を手放し、足を除けて手を差し伸べる
「だから俺はこう言う……俺と姉上を信じろ」
ーーーロンドベルト視点ーーー
差し伸べられた手
反乱を起こした将を、まだ許そうと言うのか……
ナリスト様だけではなく、ゼルナ様も甘かったか……
「御二人を……」
カイト·オーシャンに騙されている、そうは思わなかったのだろうか?
いや、わかっていた、ナリスト様もゼルナ様も、そこまで愚かではないことは
しかし、1度芽生えた疑惑は……ずっと我の心を蝕んだ
老い先短い身
我が死んだ後のベスス
力を増すカイナスやオーシャン
争いが絶えない南方
不安が日に日に増していった
先代なら、非情な決断も下せた
ベススもそうやって護ってきた
しかし、ナリスト様は甘い、優しすぎる
それではいつか、利用されて終わってしまう
非情になってもらいたい
だから、クリストルとバベールクの企みを利用した
それでも変えることは出来なかった
「…………」
「ロンドベルト」
力強い眼をみせるゼルナ様
だが、我は…………
「ロンドベルト」
いつの間にかナリスト様が我の傍に立っていた
「私は甘いかもしれない、でも、やるときはやると決めてるよ」
そう言うと、ナリスト様は我の右手を掴む
ゼルナ様が我の左手を掴む
そして無理矢理立ち上がらせる
『ロンドベルト! 遊ぼ!』
『ロンドベルト!! 本読んで!!』
『ロンドベルト!!』
「…………忘れていましたよ、決めたら強引でしたな」
···········
ーーーブライアン視点ーーー
反乱の鎮圧は完了した
街中の反乱軍は将達で捕縛され、バベールク将軍の部隊も飛竜隊で壊滅
クリストル将軍の部隊も城から出てきた部隊と街中の部隊に挟撃され、捕縛された
僕達も飛竜を帰還させてから、入城していた
玉座に座るナリスト様の前には、反乱を起こした3人の将軍が縄に繋がれていた
「さてと、言い訳は聞かないよ、もう全部調べて、事情は理解した」
ナリスト様が調べた事を簡単に説明する
どうやら、バベールクがリールの者と接触
ナリスト様に不満があったバベールクはリールからの引き抜きに応じて、リールでの立場を得るために、反乱を起こした
反乱でベススが乱れてる間に、リールが一気に侵攻するって話だったらしい
その話にクリストルも乗っかった
……ロンドベルトが反乱に加わった理由がわからないけど
まあ、バベールクとリールの思惑は3つの想定外で失敗に終わった
1つは飛竜部隊
一部の者にしか知らされてない部隊の存在で、反乱にすぐに対処された事、
2つ目は反乱が早めに鎮圧されたこと
もっと長くなると思われていた反乱は、ゼルナ様の活躍でアッサリと鎮圧された
3つ目は前線の部隊が活躍してること
リール軍はチップス将軍や『ライガン』将軍の活躍で、予定よりも侵攻出来なかった事
これにより、今回のバベールクとリールの策略は失敗に終わった
「さて、さっさとチップスとライガンに援軍を送らないといけないから、処理はさっさと済ますよ」
そう言うと、ナリスト様は玉座から立ち上がる
「バベールク、アンタは投獄だ、牢屋の中で頭を冷やしな、クリストル、アンタは謹慎と財の没収、牢屋に入れられないだけマシだと思いな!」
そしてロンドベルトの縄を解く
「ロンドベルト、アンタは今すぐチップス達の援軍に向かいな」
「はっ!」
ざわ!!
玉座の間がザワつく、反乱を起こした将を、援軍に向かわせるなんてありえない
「静かにしな!! じゃあ聞くが、ゼルナ以外にこいつに勝てる奴居るのかい?」
…………
「ゼルナはここに待機させる、それならロンドベルトを援軍に向かわせるべきだ……あぁ、また裏切るんじゃないかって思ってるならそれはないよ、私が保証する」
それ信じて良いんですか?
「今は時間がないんだ、さっさと動くよ!!」
強引だなぁ……
ロンドベルト……将軍は速やかに軍備を整えて、援軍に向かった
ナリスト様が他の人に次々と指示を出す
「バベールクが逃げ出しました!!」
兵士がそう報告してきた
「逃げた? 縄に繋いでいたろ?」
「ナイフを隠し持っていたようで、縄を切り、連行していた兵を殺して逃亡を……」
「全く……あの馬鹿は……おっ」
ナリスト様と目が合う
「ブライアン、丁度いい、飛竜でバベールクを捕まえな」
「わかりました!」
「それと……」
「はい?」
「バベールクをそのまま始末しな」
「……よろしいのですか?」
「1度情けはかけてやった、2度目は無いよ」
そう言って微笑むナリスト樣
無茶苦茶怒ってるのはわかった
「わかりました」
僕は指笛を吹いて、窓から飛び出す
飛んできた僕の飛竜に乗り、空に上がる
恐らくリール方面にむかうはず、そう考えて飛竜を飛ばすと、すぐに見つけた
遮蔽物が少ない場所だからわかりやすい
一気に突っ込み、飛竜がバベールクを掴む
「ぬぉ!? き、貴様! ブライアン!」
「…………」
「は、離せ!! 俺を連れ戻す気か!!」
「…………」
「おい! どこに向かっている!!」
ポンポン
僕は飛竜に合図する
飛竜がバベールクを放す
「ぬおおおおおおおおお!?」
落ちていくバベールク
落下先は岩が多い地帯
人通りも滅多になく、飢えた獣が多い
そんな所に高所から落とされたら
「…………うん、死んでるね」
無惨な死体が出来上がる
正直見たくないけど、確認は大事だから
「さて、急いで戻らないと」
飛竜を誰かに見られるわけにもいかないし、雲の上まで一気に飛んで、隠れながら僕は戻る
それから5日後
ライガン将軍が護る都がリール軍により陥落した