第267話 領主ナリスト
カイト達がベススに向かっている頃
ーーーゼルナ視点ーーー
「…………」
俺は高所から周囲を見渡す
砂漠、砂漠、砂漠
何も変化は起きていない
「ゼルナ様〜少し休んだ方がいいだよ〜」
少し離れた所から、チップスが声をかけてくる
「ああ、わかっている」
チップスに返事をしてからも、俺は警戒を続けた
「姉上……」
心配なのは姉上だ
姉上は領主として、政治も策もこなせる人間だ
ただ、戦いだけは不得手だった
「ファルンもルートゥが傍に居るんだぁ、ナリスト様なら大丈夫だよぉ」
「だが、数の不利がある……それに、民を人質にされたら姉上は……」
「そう言われたらなぁ……んっ? ブライアンが戻ってきただよ?」
振り返ると、ブライアンが駆け寄ってくる
「ゼルナ様! 都に反乱軍が突入しました!」
「門が破られたか……城の様子は?」
「城門で反乱軍を防いでいますが……破られるのも時間の問題かと……」
「くっ……」
どうする?
姉上を助けに向かうか?
しかし、リールの軍も近くまで迫っている
「オーシャンからの援軍……間に合いますかね?」
ブライアンが呟く
「ブライアン、援軍に期待するな」
「えっ!?」
「行軍は時間がかかる、慣れない土地なら尚更な……それに、カイト達の援軍は対リールでの援軍だ、内乱には巻き込まない」
老害共の反乱は、ベススで片付ける
「チップス、覚悟を決めた……ここの指揮は任せるぞ」
「わかっただ!」
「ブライアン! リールの連中に見られる前に決着をつける!」
「それってつまり……」
「飛竜部隊、出るぞ!」
··········
ーーーナリスト視点ーーー
「伝令! 都の門が破られ、反乱軍が城を包囲してます!」
兵からの報告を聞く
「民への被害は?」
「今は無事のようです!」
反乱軍にも良心があるみたいで、そこは良かった
「さてと、どうするかねぇ?」
「脱出して、逃げる?」
ルートゥからの提案
「全く打つ手が無くなったらそうしようかねぇ」
私はそう答える
「打つ手があるんですか?」
不安そうなファルン
「逆に聞くけど、2人は今の状況をどう思ってるんだい? はいルートゥから」
「絶望的、都に入られて、反乱軍に街を制圧されてる、城内の兵だけじゃ数に差がありすぎる」
「次、ファルン」
「わ、私もこの状況は絶体絶命かと……反乱軍は士気も高いようですし……それに城門を護るのも兵が足りません、城内の兵は200人くらいですよ!?」
ファルンは最早涙目である
「そうだね、さて、今2人の意見で共通してたことは何だい?」
「か、数ですか? 兵の?」
ファルンが答える
「そういう事、つまりそれさえ何とかすれば、勝てる可能性があるって事だ」
「その数の差をどうするの?」
「まあ見てな! ムベ!」
「はい」
私は隣に立っていたムベに声をかける
「今回、反乱を起こした将は何人だい?」
「3人ですね、『クリストル』将軍、『バベールク』将軍、そして『ロンドベルト』将軍です」
「全員爺だね」
クリストルとバベールクは私が領主になる前から、父上にゼルナを領主にするべきと言い続けていた
私が領主になってからも言い続けて、遂に行動を起こした
「ロンドベルト様まで……」
ファルンが呟く
複雑だろうねぇ……ロンドベルトはファルンの育ての親だ
そして、他の2人とは違って、私を領主に推した人だ
彼が一緒に反乱を起こした理由はわからないけど……1番厄介なのは間違いない
「他の将達はどうだい?」
ゼルナにルートゥにファルン、チップスにブライアン……この5人は完全に私側だ
他の将達の状況を聞く
「『ベルル』様だけは連絡がありました、『この模擬戦はどうなりますか?』とのことです」
「模擬戦?」
「成る程、そういうことにしたわけかい」
「どういう事?」
ルートゥが聞いてくる
「ベルルは私か反乱軍、どっちにつくか悩んでるのさ、有利な方に従うって考えで、今は模擬戦が起こってる事にしてとぼけてる……恐らく、連絡が無い他の将達も悩んでるね」
「ふざけてる……ナリスト様が居てこそのベススなのに」
「ルートゥ、私が居るからじゃない、民が、皆が居てこそのベススだ……正直、民が幸せに暮らせるなら、領主なんて誰でもいいんだよ」
「ナリスト様」
「まっ、だからって爺共に好き勝手させる気も、リールに負ける気も無いけどねぇ……それにゼルナは本人も言ってるけど、領主には向いてないからねぇ」
私は玉座から立つ
「さてと、ムベ、アンタはここで待機だ」
「畏まりました」
「ルートゥ、ファルン、兵を集めて城門に向かうよ」
「戦うの?」
「あぁ、戦う」
「か、勝てるんですか?」
「さあねぇ、そればかりはわからないねぇ」
私は玉座の間の扉を開く
「でも、勝てる方法は浮かんでるよ、この状況……ひっくり返してやろうか!!」
··········
ベスス城の城門前に反乱軍が集まる
指揮をしてるのはクリストル将軍
5000の兵を率いて、城門を破壊する準備をしていた
「やはり、ナリスト等に領主は無理だったな」
クリストルはそう呟きながら空を見上げる
「我軍の後ろからはロンドベルト将軍、ベススの外をバベールク将軍が囲んでいる、ゼルナ様が戻ってきても、その頃にはあの女は捕らわれてるだろうな」
「クリストル将軍! 破城槌の用意が出来ました!」
「よし、さっさと城門を壊せ!!」
破城槌が城門に近寄る
そして門への攻撃が始まる
ドン! ドン!!
3度目の攻撃が撃たれようとした時
ゴゴゴゴゴ!!
城門が開いた
「ほう? ナリストは降伏するのか? もしくは中の兵達が開けたのか? まあいい、このまま突撃して、城内を制圧する!!」
クリストルは右手を挙げる
そして…………
「突撃せよ!!」
『うおおおおおおお!!』
5000の兵が動き出す、最前列の数百人の兵が門を通り抜けた
その時
「ぐっ!」
「ぎゃあ!?」
兵のうめき声が聞こえてきた
そして兵達の突撃が止まった
「んっ? どうした? なぜ止まる?」
クリストルが兵をかき分けて、前に進む
「むっ!」
そして見た、城門付近で多くの兵が倒れていた
周りには大量の矢が落ちている
「ちっ、弓兵か」
そう呟いて前を見る
そこにはナリストが兵達に指揮を出している姿が見えた
ナリスト側の兵は、全員がこちらに向けて弓を構えていた
兵達は列を組み、こちらを睨んでいる
「ようクリストル! どうしたんだい? 攻めてこないのかい?」
ナリストが挑発する
「馬鹿めが! その程度の挑発に乗るか!! お前ら、盾を用意して列を組め! 矢など盾の壁で防いでしまえ!!」
『はっ!!』
兵達が列を組め、盾を構えて前進する
あの程度の戦法、通じるのは不意をつけた最初だけだ!
「放て!!」
ナリストの号令で兵が矢を放つ
ヒュンヒュンと矢が飛ぶ音
カキ! バキ! と盾に矢が当たる音
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
バキ!カキン!ボキ!
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
ボキボキボキ!
「…………?」
クリストルは違和感を感じる
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
「矢の音が途切れない?」
ずっと矢が放たれている?
「だ、駄目だ! これ以上は無理だぁ!!」
「矢の雨だぁ!! 進めねえ!!」
列を組んでいた兵達が下がる
「ええい! 何をしている!!」
怒鳴るクリストル
「も、申し訳ありません! しかし、矢が降り続けて、とてもじゃありませんが進めません!」
「言い訳などするな!!」
「ぎゃあ!!」
クリストルが兵を斬り殺す
「前進しろ!! 下がった者は我輩が斬る!!」
「ひっ!?」
兵達はクリストルへの恐怖から必死に前進する
しかし、城門を越える所で矢の雨を受け、止まってしまう
··········
「成る程ね」
その様子を城門の上から眺めていた男が居た
彼は『シーマ』、ベススの将であり、今回の反乱を様子見していた男だ
シーマはナリストの戦法を見て感心する
「弓兵を5人ずつ並ばせた列を複数作り、1人目が矢を放つとしゃがみ、2人目が矢を放つ、それを3人目、4人目と繰り返し、5人目が矢を放ったらまた1人目が矢を放つ、やり方は単純だが、あれを喰らう方は矢の雨に見える訳か」
シーマはそう言って、城門のナリスト側の方を見る
「戦場ならあまり意味ないが、狭まれてる城門の出入り口なら効果的か、護るための門を、敵の動きを制限する為に使うか」
そして、シーマはクリストル側を見る
「おやおや、クリストル爺は兵を斬ったか、恐怖で支配して、上手くいくわけない」
シーマはナリストとクリストルを見比べる
「片方は圧倒的不利でも、諦めずに最善を尽くす、片方は有利な状況に慢心し、犠牲を多く出している……どっちに付くかは、決まったな」
シーマはそう言うと、自分の部下に号令を出す
「我が兵よ!! 愚かにも主に逆らう老いぼれに教えてやれ!! 我等の主に相応しいのは、輝き続けるナリスト様だと!!」
『おおおおおおおお!!』
こうして、将の1人がナリスト側についた
··········
「ぬお!?」
城門の上から放たれてくる矢
「おのれシーマ! ナリストについたか!! 全員下がれ!」
「しかし将軍! 城門に居る者達が!」
「見捨てろ!!」
クリストルはそう言って下がっていった
クリストルの兵達も矢が届かない位置まで下がる
そして、矢の雨を耐えていた兵達は見捨てられ、シーマの兵達によって捕まった
城門が閉じた
·········
「申し訳ありませんナリスト様、このシーマ、無礼にも貴女を見定めていました」
城門から降りてきたシーマは、ナリストに頭を下げる
「全くだね! 主に対して何て事をしてるんだい!」
ナリストはそう言って、シーマの頭に手刀する
「うぐ!」
「これで許す! ベススの為に働いてもらうよ!」
「はっ! ありがとうございます!!」
「甘い、もっと罰するべき」
ルートゥがナリストに言う
「良いんだよ、遅れたとはいえ、味方になったんだからね」
「そうそう! ナリスト様は心が広い!!」
「調子に乗ってますよ?」
ファルンがシーマを睨む
「そんな睨まないでよ怖いなぁ……手土産がありますから本当に勘弁して!」
シーマはそう言うと小袋を取り出し、矢に結ぶ
「何してんだい?」
ナリストが聞く
「合図を送るんですよ、よっと!」
シーマは小袋に何かを入れる
そして、空に向けて矢を放つ
ヒュ!っと空に向かって飛んでいく矢
ボン!
次の瞬間、小袋が破裂して、黒煙が更に高く舞い上がった
··········
1人の将が音に反応して城の方向を見る
そして黒煙を見て
「シーマの奴はそう決めたのか」
その将は、民が反乱に巻き込まれないように避難させていた
ちょうど、その作業が一段落したタイミングだった
「なら、俺もアイツを信じてみるか」
そう呟くと、将は大剣を抜く
そして、目の前に立つ、数人の反乱軍の兵を睨む
「死にたくなければ武器を捨てろ、そうすれば見逃してやる」
「う、うおおおおお!!」
1人の兵士が突っ込んでくる
「馬鹿が」
大剣が振るわれ、兵士の上半身が民家の壁に叩きつけられる
上半身を失った下半身は失禁し、数歩進んでから倒れた
「お前達はどうする?」
「ひっ!?」
それを見た反乱軍の兵士はすぐに武器を捨てた
「お前達はまだ賢いな、死にたくなければ終わるまでそのままでいろ」
そう言うと、将……『モノトール』は歩き出した
彼は街に散らばる兵を無力化するために動くのだった
···········
同じ頃、別の将が黒煙を見た
「あー、そういう……」
そう呟いて、自分の前に立つ老人を見る
「どうやら、貴方とは敵対するみたいですよ、ロンドベルト将軍」
そう言って剣を抜いた
「ほう、我に挑むか?」
ロンドベルトは長斧を構える
「はい、親友が決心したみたいなので、僕もいい加減決めないと……それに」
将は一気に距離を詰める
そして、剣と長斧がぶつかる
「師を超えるのが、弟子の恩返しですからね!!」
「なら、我を超えてみろ! 『ヒータ』!!」
ベススの将ヒータと反乱軍のロンドベルトの戦いが始まった