第26話 新年、将達の挨拶
朝日が目に入る
「んっ……」
朝か……熟睡してたな
「すぅ……」
「……っと」
俺の腕の中でティンクが寝ている
寝相で抱き締めたか?
「んん……カイト……さん……」
俺が夢に出てるのか?
よく寝てるな……起こさないようにベッドから出て……
「そうか、新年か……」
少しずつ意識がハッキリしてきた
「…………」
カイトの記憶を探る……新年の様子は……
あー玉座に座って将や客人の挨拶を聞くのか……
挨拶はおめでとうだけか、明けましておめでとうは日本だけだもんな
「さて、どうするかな……」
俺は寝ているティンクを見る
彼女をどのタイミングで紹介するか……
いっそ膝に乗せて挨拶と同時に紹介するか?
…………女性を膝に乗せて玉座に……
ダメだ、メルセデスを思い出す……あんな風になるなら止めとこう
「多分演説するだろうし……その時にするか?」
民の前で「俺の嫁だぁぁぁぁぁ!」って……
……………
「普通に恥ずかしいな……ティンクも恥ずかしいだろうし……」
これもダメだな
「うーん……取り敢えず着替えるか」
時間は……まだ6時か
「……っあ?あれ?カイトさん!?」
ティンクが飛び起きる
「おはようティンク」
俺は上着を着替えながら言う
「あ、おはよう……ございます……あぅ」
ティンクが赤くなりながら目をそらす
なんだ?俺の半裸なんて身体を拭くときに何回か見てるだろ?
「まだ早いから寝てても良いんだぞ?」
「い、いえ……カイトさんが起きたのに……わたしが寝てるわけには……」
うーん……夫を優先するっていうか……なんか極端だな……そうしろって言われて育ったのか?
ティンクが目をそらしてる間に下も履き替える
よし、着替え完了
「わ、わたしも着替えます!」
「……服があるのか?」
替えの服は昨日ヤンユが回収しただろうが……多分洗濯してないか、してても乾いてないぞ?
「……あぅ」
「後でヤンユに着替えを持って来させるから待ってなよ」
俺は椅子に座り、ティンクを見る
「はい……」
うーん……暗い顔だな……
「ティンク、ちょっとこっちに」
「?」
ティンクが立ち上がり俺の前に来る
「よっ!」
「ひゃう!?」
俺はティンクを引き寄せて膝に乗せる
「カ、カイトさん!?」
「よしよし……」
俺はティンクの頭を撫でる
「な、なんですか?」
「んっ?いや、暗い顔してるから励まそうと思ってな」
「暗い顔……してましたか?」
「不安そうだったぞ?」
「不安……」
思い当たる事があるな
「どうして不安なんだ?俺には話せないか?」
「い、いえ、その……カイトさんのお嫁さんに、わたしなんかが本当になってもいいのか考えてまして……」
またそんな事を……
「ティンク、メルクでも言ったろ?俺は君を妻にするって、確かに切っ掛けは同盟の為だった……でも俺は君以外を妻にしようとは思わないぞ?君だから妻にするんだ。」
「カイトさん……」
「安心しろ、皆も受け入れてくれる、てか受け入れさせるから」
「む、無理矢理ですか?」
「強制だ!」
俺は親指を立てる
「ふ、ふふ……皆さんが可哀想ですよ?」
「……やっと笑ってくれたな」
「あ……その……ごめんなさい」
「なんで謝るんだ?」
「わたしが笑ったら……皆さんが不快な思いをしますから……」
……ヤークレンでは笑うことも許されなかったのか……
「不快な訳ないだろ?むしろずっと見ていたい、可愛い笑顔だったぞ?」
「かわっ!?えっ、その……あの……」
「照れてる照れてる」
「か、からかわないで下さい!」
真っ赤になるティンク
「ごめんごめん」
ティンクの頭を撫でる
「あぅ……」
「……あの、そろそろよろしいですか?」
「うぉ!?」
メイドが部屋に入っていた
「何度もノックしてもお返事が無いので勝手ながら入らせていただきました……申し訳ありません」
「あ、いや……構わないよ」
全然気付かなかった
「朝食をお持ちいたしましたが……」
メイドの後ろには食事の乗ったカートがあった
「食べる食べる、ほらティンク」
「はい!」
ティンクがもう1つの椅子に座る
テーブルに朝食が並ぶ
サンドイッチと紅茶だ……お、ブラックペッパーが振ってるな
俺とティンクを朝食を食べる
・・・・・・・
朝食を終えて、メイドにヤンユと一緒にティンクの着替えを命じてから俺は玉座に向かう
「さて、忙しくなるな……」
挨拶を聞きながら、ティンクの紹介を考えないとな
「っと、レリス早いな」
玉座の間に入るとレリスが既に待機していた
「おはようございますカイト様、新年、おめでとうございます」
「おめでとうレリス……今年もよろしく頼む」
俺はレリスと握手する
「はい」
俺は玉座に座る
「それで、これからの予定は?」
「今日は昼過ぎまで訪ねてくる将や貴族の挨拶を聞き、庭園にて昼食を含めた立食パーティー……その後、民への挨拶となります」
「そうか……挨拶を考えておかないとな」
俺は天井を見上げる
「ティンク様の紹介ですが、立食パーティーで将や貴族に……挨拶の時に民に紹介するのが良いかと」
「そうだな、その方が良いだろう」
一人一人やるより一気にだ
「それと結婚式の日程ですが」
「なんだ?」
結婚式も今日するとか言わないよな?
「私は4月頃に行うのを勧めます」
「理由は?」
「先ず冬場は道が雪などで塞がり交通に不便です……ナリスト殿やルーツ殿を招くのが難しくなります」
あー確かに……ヤークレンで雪がどれだけ邪魔か体験したからわかる
「ですので暖かくなった春頃が良いかと」
雪が溶けて、気温が安定する4月がちょうどいいって事か
「あ、勿論ティンク様はカイト様の奥方として今日から接するように皆に伝えます」
「それなら良かった」
「……それとカイト様」
「んっ?」
レリスが内緒話をするように顔を近づける
「跡継ぎ様は3人以上が個人的に望ましいです」
「ばっ!?おま!?」
な、何言ってんだこらぁ!?
「おや?何故慌てるのです?結婚されるのですから跡継ぎ様を作るのは当たり前ですよ?」
ニヤニヤしながら言うレリス
こいつ……弄ってくる事を選んだな!!
「そ、そんな事を言うならお前も相手を作れよ!」
「私は必要ありませんので♪」
俺とレリスは人が集まるまで雑談して過ごした
・・・・・・・
「坊っちゃん、新年、おめでとうございます」
「おめでとうオルベリン」
先ずはオルベリンがやって来た
「今年もワシの武で勝利を捧げましょう」
「期待しているよ」
「カイト様、おめでとうございます!」
「おめでとうヘルド」
次はヘルドだ……
「ガガルガとの戦、楽しみにしております!」
「あーほどほどにな?」
「カイト様!新年おめでとうっす!」
「サルリラもおめでとう」
サルリラは元気に挨拶する
「今年こそあっしも戦に出させてほしいっす!」
「ああ、そのつもりだよ」
サルリラにも活躍してもらうさ
「新年、おめでとうございます……カイト様」
「おめでとうルーツ……道中大変だったろ?」
「貴方様にお会いするのに苦などありません!」
ルーツは元気よく答える
「マールの都はどんな様子だ?」
「はい、浴場も好評で民達も喜んでおります!」
かなり利益出てるらしいな
「それで……新たに水源が見つかったので公衆浴場を増やそうと計画しておりますが……」
「んっ?良いんじゃないのか?」
「よろしいのですか?」
「良いよ、好評ってことは客も多いんだろ?」
「はい、行列が出来て入浴できない者も出てきてます」
「なら増やした方がいい、その方が民も喜ぶだろう?」
「はい!ではそのように!!」
・・・・・
他にもナリストの使者や貴族達が挨拶していった
あ、レルガはナリストの所に使者として向かったそうだ
だから昨日は姿が見えなくって……今日も挨拶に来ないわけだ
それとケーニッヒはメリアスト平原に砦を建てているそうだ
……冬場にご苦労な事だ……帰ってきたらしっかり労おう……休みもあげないとな
そして……
「カイト様、おめでとうございます」
「……ああ、おめでとう……マイルス叔父上」
マイルスがやって来た……
レリスが俺の側に寄る
「ヤークレンからの道中は大変だったそうですね?お痛わしい事です」
こいつぬけぬけと……
「ええ、しかしレリスの指示とヘルドとサルリラの助力で助かりましたよ……頼もしい部下を持って私は幸せ者ですね」
本当に頼もしいよ……お前と違ってな!!
「左様ですか、ではこれからも励んでくだされ……」
そう言ってマイルスは出ていった
「次は何をしてくると思う?」
「わかりません……ですが!防いでみせますよ!」
レリスは燃えていた