第265話 友からの頼み
焔暦150年 7月
本格的に夏が来て、暑くなってくる季節
オーシャンも例外なく、気温が上がっていた
ーーーカイト視点ーーー
「ふぅ……暑いな」
俺は、メイドから濡らしたタオルを受け取りながら呟く
「そんな状況なのに……」
「走れ! 身体中の水分が無くなるまで走れ!!」
「無茶さすなぁ……」
俺は今、オーシャンの都から少し離れた平原で、兵達の訓練を見物していた
レルガが今鍛えている兵達は、ベススから援軍要請が来た時に援軍に出る兵達だ
ベススは南方の砂漠地帯
過酷な環境なのだが……
「あそこまでやるのか……」
兵達はこの暑い中、軽装備の上に重装備と二重に装備を着せられてる
更に重りとして5本の槍を背負い、両脇には10本ずつの剣を抱えて、走らされてる
「これ大丈夫なのか?」
普通にパワハラとかで訴えられる内容では?
今時根性論とかは時代じゃないぞ?
かといって訓練関係はレルガ達に一任してるしなぁ……
俺が口を挟むのも……
てかレルガも兵達以上に重りをつけて訓練してるしなぁ
「死人とか出てないよな?」
うちって、ブラックだったりする?
働きやすいように、色々と改善したんだけどな
都の飯屋を社員食堂として利用出来るようにしたり、娯楽施設へも支援したりしてるし
「よし!次は『じゅういち』だ!!」
レルガがそう言うと、兵達が分かれて、複数のグループが出来る
10人で1人を囲んで、一斉に襲いかかった
10対1で戦ってる
「うわぁ……」
エグい……殆んどの兵士は普通にボコられてる
何人かは、対応して襲ってくる兵士を倒してる
そんな訓練が続いて、最後に……
「よし、全員! 掛かってこい!!」
『うおおおおおお!!』
兵士達がレルガに一斉に襲い掛かる
といっても全員ではない、殆んどの兵士は体力切れで倒れてる
レルガに向かうのは……30人くらいかな?
「はぁ!!」
そんな30人を一瞬で倒すレルガ
レルガも大分キツイはずなのにな……
そして、レルガが俺の所に来て
「っと、このように行っております」
「お、おぅ……」
正直コメントに困る
明らかにやり過ぎだが、レルガなりに考えての訓練だし
見た感じ、兵達はキツそうだが、死にそうって訳ではない
··········
「って感じで、凄まじい訓練だったよ」
俺には無理だな
「それほど鍛えないと、ベススでは戦えないって事なんですよね?」
俺は寝室でティンクに話す
「そうなんだよなぁ……」
「あれ? そういえばライアンさんはどうしたのですか? カイトさんから離れてるとは思わないんですが……」
「ライアン? 訓練に混ざろうとして、レルガに怒られてたよ。 それで、俺の後ろでずっと逆立ちしながら腕立てしてたよ」
訓練が始まって終わるまでやってたな……それでも体力がありあまってそうだったな
「す、すごいですね……」
「それで、ティンクの方はどうだった?」
俺は今日の出来事を話した、次はティンクの番だ
「私は今日はヤンユさんと一緒に『ミルーム』ちゃんを見たりしてましたね」
ミルームとは、今年の1月に産まれた、レリスとヤンユの娘だ
いやぁ、ちっちゃくて可愛いんだこれが
俺からしたら従姪な訳で、世話したがりの親戚のおじさんになりそうだった
「ヤンユさんから色々教えてもらってますが……『流石に下の世話は私達の約目ですからね?』って言われました。」
ティンクは子供が産まれたら、自分で色々としたいそうだが、ヤンユ達はそれを許さないらしい
貴族の子供は基本は従者が面倒をみるって話だが……
俺も育児は自分でやりたいんだけどなぁ……オムツ替えとか入浴とかミルクとか……
ティンクが我子を抱っこして、そんなティンクを俺が抱きしめて……
なんて話ながら夜を過ごす
そんな毎日を過ごしていた
·········
それから数日後、ベススからの使者がやって来た
玉座の間で会った使者は、俺に手紙を持ってきたそうだ
レリスが手紙を受け取り、封に使われてる印から本物だと確認し、封を開く
そして手紙を取り出し
「んっ?」
目を細めて、手紙を見回す、そして裏面を確認したりする
「どうした?」
俺が聞くと
「いえ、内容が簡潔で……」
俺はレリスから手紙を受け取る
そこには一筆だけ書かれていた
『援軍求む』
「…………レリス、援軍部隊を編成する、関係者を集めてくれ」
「畏まりました」
レリスは数人の兵達を呼び、関係者を集めに行かせた
俺はその様子を尻目に、手紙をもう一度見る
「大将、どうしたんだ?」
ライアンが聞いてくる
「この文字はベススの領主、ナリストの弟、ゼルナの字だ、アイツの手紙はこっちに気を使う所から始まって本題ってなるんだが……この1言だけ」
これはな……
「ゼルナ達が余裕がない状況……追い詰められてるって事だよ」
相手は何処だ?
普通に考えたら『リール』だ、あそこはベススと何度も争っている
しかし、『カルナル』と『アレキス』の可能性もあるが……
もしくは、去年独立した『ガーンズ』か……
ガーンズとはアレキスから独立した領だ、アレキスの将だった男が、ガーンズの都を領地として独立を宣言した
そして、現在はアレキスと小競り合いをしている……筈なんだが
アレキスの軍がガーンズ軍にすぐに負けて撤退してるんだよなぁ……
そんな訳で、ガーンズがベススを領地を手に入れようと動いてる可能性もあるわけだ
って、こう考えたが今気付いた、目の前の使者に何処と戦ってるか聞けばいいじゃないか
「君、今ベススは何処と戦ってるんだい?」
「リールです!」
そうか、普通にリールだったか
「それと……」
「?」
「内乱も起きており、ベススは混乱状態です!」
「…………マジかよ」
今回も、大変な事になりそうだ
……ナリストとゼルナ達は無事なんだよな?