第264話 最後の試練
オイラは人影を追って、訓練場に向かう
「……くせぇ」
香水の匂いが凄い
瓶1本、丸々使ってるんじゃないかって匂い
それが奥から匂ってくる
「…………」
こんだけ匂うのに、オイラ以外の誰も屋敷から出てきてない
つまり、さっきの人影は侵入者とかではない
「これも訓練の1つ?」
オイラは匂いを辿り……そして人影を見つけた
訓練場の、ど真ん中に立っていた
「…………」
目が夜の暗さに慣れてきた
人影の姿が見えてきた
フードがついたマントで、身体や顔を隠している
そして、香水で身体の匂いも隠している
流石に、ここまであからさまだと、オイラでも気付く
この人は誰か、オイラが言おうとしたら
ヒュン!
「うぉ!?」
相手の鉤爪が、オイラの顔に迫ってきた
咄嗟に避けたけど
シュ!
ヒュ!
「っ!」
相手の攻撃が止まらない、攻撃が空ぶっても、その勢いを利用して、次の攻撃を仕掛けてくる
反撃する隙が見つからない
「このっ! っと! うぉ!?」
でも、オイラは避けれてる
ちゃんと反応できている
ヒュ!
「っ!?」
相手の動きが速くなった
鉤爪が頬を掠めた
「くっ!」
このままだとやられる!
相手は攻撃の手を緩めない!
眼前に迫る鉤爪
避けれ……いや! ここは!
「受ける!!」
「!?」
ガキィ!
相手の鉤爪とオイラの鉤爪がぶつかる
オイラの鉤爪が砕ける
そして、衝撃で後ろに吹っ飛ぶオイラ
受け身を取って、体勢を整える
そして、直ぐに右に身体を捻らせながら回り込む
回り込んだオイラの前には、素早くオイラの着地点に移動してた相手が居た
オイラより速い、だからそう来るのはわかった
そして、オイラの勘が、背後に嫌な気配を感じた
オイラは後ろに蹴りを放つ
ゴスッ!
「ガッ!!」
オイラの背後に素早く移動していた相手に蹴りが当たる
相手が吹っ飛んで、受け身を取る
今なら、話す隙が出来た
「いい加減それ脱いだら? おじさん!」
「…………」
腹部を押さえていた相手は、少し間をおいてからマントを脱いだ
「やっぱりバレてたかい?」
おじさん……シャンバルが苦笑する
「いくらオイラでも、わかるよ」
おじさんは鎧を着ていた
あれはベスルユ大陸のメキリ兵の鎧だ
「ねぇおじさん、おじさんが元軍人なのオイラにもずっと隠してたよね?」
「そうだね、今の私は商人のシャンバルだからね」
「じゃあ、何で今更鎧を着てるの?」
「君が強くなりたいと望んでいたから」
「じゃあさ、変に隠そうとせずに、堂々と戦ってよ……」
オイラは肩を回す、ただの柔軟体操で、昂る気持ちを落ち着かせる
「……そうだね、あの3人のアイデアだったけど、あれ楽しんでるだけだったね」
「乗せられたの?」
香水の匂いが本気でキツイ
「思いっきりね……さてと、仕切り直して」
おじさんが構える
「合格の条件は?」
「私に本気を出させてみなさい!!」
おじさんが突撃してくる
速い……昔のオイラなら反応できなかった
「よっしゃあ!!」
オイラは左腕を、おじさんの右の鉤爪の甲に当てて反らす
「はぁ!!」
おじさんの左の鉤爪を振ってくる
オイラはおじさんの右手首を掴む
「このまま!」
頭突きくらわせてやる!!
「あまい!」
「うお!?」
おじさんの鉤爪が消えた、そして左手でオイラの腹部を掴んで投げた
「ガフッ!!」
地面に叩きつけられた
ザクッ!!
「!?」
「シャルス、戦場ならこれで死んでるぞ?」
オイラの顔の横に、おじさんの鉤爪が突き刺さった
「その武器、普通の武器じゃないよね? どうなってるの?」
「君が合格したら教えてあげるよ」
じゃあ、本気出させないとね!!
「おりゃあ!!」
オイラは両足をおじさんの腰にまわして捕まえる
「むっ!」
おじさんの左腕を右手で掴み、右腕を左手で掴む
「これならどうだぁぁぁ!!」
ガン!
思いっきり頭突きをくらわせる
「その程度か!!」
「まだまだ!!」
もう一発頭突きをくらわせて
「遅い!!」
ドゴン!!
「ぐぅ!?」
先に、おじさんの頭突きをくらわされた
頭に響く、けど腕を離したらいけない
やっと捕まえたんだ、負けてたまるか!
「このぉ!!」
ガン!
「頭突きだけか? それしか出来ないのか?」
ガツン!
頭突きのぶつけあい
そんなこと言われても、他に使える部分なんて……
あっ、ある!
「どりゃあ!」
ガン!
先ずは頭突きをくらわせる
おじさんが頭突きをやり返そうしてくる
そのタイミングで……
「こうだぁ!」
パシン!
「っと!?」
尻尾でおじさんの足を払う
前のめりに倒れ始めるおじさん
オイラは足を離して、地面を蹴り、膝でおじさんの腹を蹴る
「ぐぅ!!」
おじさんの身体が完全に浮く
「おりゃぁぁぁぁぁ!!」
そして両腕を離して、おじさんの首に腕を回して、おじさんの頭を地面に叩きつける!!
ドスン!!
「ぐっはぁ!?」
効いてる!
このまま次の一撃を……
フッ
「へっ?」
おじさんが消えた
「えっ?あれ? あっ……」
「はぁ、はぁ……」
おじさんはオイラの前に立っていた
今の一瞬で移動していたのか……しっかり捕まえていた筈だけど
「合格だよシャルス……」
「えっ? 合格?」
「君は私に本気を出させた……合格だよ」
や、やった!!
オイラは立ち上がる
「それで……先に謝っておくよ、ゴメン」
「えっ? なんで…………がぁ!?」
ブシャア!!
オイラの全身から血が吹き出した
「手加減出来なかったよ」
おじさんの笑顔を見ながら、オイラは気絶した
・・・・・・・・・・・・・
燃えている、家が、家族が、住んでいた村が
隠れて震えてることしか出来なかった
隠れ場所の隙間から見える……あれは……あれは……
「…………はっ!?」
目が覚める
オイラはベッドで寝てたようだ
「気が付いたかい?」
「おじさん!!」
ベッドの側の椅子におじさんが座っていた
「何処か痛むかい?」
「いや、大丈夫」
「それなら良かった……3日も気絶してたからね」
「3日!? ちょ!? 船!!」
「大丈夫だよ、ここが船の中だから」
「えっ? もう乗ってるの?」
「うん、ここは船の医務室だよ、船はちゃんとオーシャンに向かってるから安心しなさい」
「よ、良かった……」
てか、おじさん最後何したの? オイラ、全身を斬られた事に気付かなかったけど……
「さてと、じゃあオーシャンに着くまで……色々話をしようか?」
「うん!」
「何から話すべきか……私が元軍人だって事はわかるよね?」
「メキリのでしょ? あの鎧はメキリ兵のだし」
「そうだよ……メキリで私は将軍職に就いていたよ……支店長達はその時の部下達だね」
「何で軍を辞めて商人になったの?」
おじさんは少し黙って
「軍が嫌になったからだよ……ほら、合わなかったんだ、天職じゃないと思ってね」
おじさんはそう言って微笑む
「おじさん、嘘を言うのはやめてくれない?」
「嘘なんて言ってないけど……」
「嘘だね、オイラにはわかる」
「…………」
おじさんが嘘を言う理由は何となくわかっていた
オイラの為だと言うことはわかっていた
「メキリ兵だよね? 父ちゃんと母ちゃん……弟や妹を……村の皆を殺したの……」
「…………」
「オイラ、覚えてるんだ……隙間から見てたんだ……鎧を着た連中が殺してるの」
「…………」
おじさんは深呼吸した
「そっか……覚えてたんだね……」
「でも、おじさんは関わってないよね?」
「当たり前だ、私は何も聞かされていなかった……私が……あの時気付いていれば……」
おじさんは拳を握る……拳から血が出てくる
「何で軍が村を襲ったの? 別に戦争とかしてなかったよね?」
戦時中なら略奪とか理由がわかるけど……あの時は襲撃されるまで平和だった
「これだよ……」
そう言うとおじさんは両腕を前に出す
そして、さっきまで無かった鉤爪が現れた
「これは何なの?」
「これは国宝……4等級『百獣の爪』だよ……君の父親が継承していた物だ」
「父ちゃんが?」
「これを奴は狙っていた……ベスルユの王は……『狼王ガルクーダは!』」
「…………」
「私の主であるメキリ領主に指示を出し、村を襲撃した……私が気付いて駆けつけた時には……村は燃えていた」
・・・・・・・・・・
『貴様らぁ!!』
『ひっ!? 待ってくださいシャンバル様!! これは主に命令で!!』
村を襲撃していた兵達を殺していく
そして、弟の家にたどり着く
『…………』
家は跡形もなかった、焦げた臭いが鼻を満たす
『……誰かいないのか? なあ、誰か!!』
瓦礫を退けて、生き残りを探す
弟を、義妹を、甥を、姪を
『……にいさん』
『!?』
声がした
瓦礫を退けると、真っ黒に燃え尽きていた弟が居た
『シャルカンス!! 生きて……』
もう助からない、そうわかっていても、私は治療しようとした
『もう、たすからない……わかる、だろ?』
『わかってたまるか! 助けてみせる!!』
『にいさん……これを……』
シャルカンスが私の腕を掴む
そして、何かが私の腕に入った
『百獣の爪……こんなもの!!』
『それが……たすけに、なる……あのこの……たすけに……』
『あの子……』
『にいさ……ん……シャル……まかせ……』
シャルカンスはそのまま動かなくなった……死んでしまった……
『シャル……シャルスか?』
私は気配を探る…………僅かに呼吸が聞こえた
『!?』
呼吸が聞こえた方に走る
そして……
『ここか……くっ!シャンマ……』
もう1人の弟の亡骸を見つける
シャンマの亡骸を動かす……壁だ
壁に穴をあけていた、穴をあけて、シャンマの身体で隠していた
穴の中には……居た
『…………』
『シャルス……』
穴から引っ張りだし、抱き上げる
生きてる……弱っているが……生きている
『う、うぅ、うおおおおおおおおお!!』
・・・・・・・・・・・・・
「シャンマおじちゃん……」
『離して! おじちゃん!!』
『駄目だシャルス! 君は隠れているんだ!!』
『嫌だ! おとうもおかあも連れてかれたんだ!! 助けないと!』
『無理なんだ! 私達には……力の無い私達には無理なんだよ……』
オイラを必死に守ってくれたおじちゃん……
「なんで、隠してたの?」
「知ったら、君は復讐すると思って……いや、違うな……私は怖かったんだ、軍人でありながら、主も部下も止めれず、家族を死なせてしまった私を、君は恨むと思って」
「恨まないよ……おじさんはオイラを守ってくれた、育ててくれた」
「…………」
「メキリ軍の連中や狼王は憎いけど……今のオイラはオーシャンの将だ、オイラと一緒に戦ってくれる仲間や主の為にオイラは戦う……復讐なんてしないさ」
「…………」
「まぁ、いつかベスルユの連中と戦うってなったら、全力で戦うけどね」
「全く……お前は未来を見ているな」
おじさんは笑う
「シャルス、腕を出して」
「…………」
言われた通りに腕を出す
おじさんがオイラの腕を掴む……
すると……何かがオイラの腕に入る
「これは……」
「本来ならお前が継承するべき物だ……必ず助けになる」
「おじさん……ありがとう」
・・・・・・・・・・
焔暦149年 10月
ーーーカイト視点ーーー
「ふぅ……」
俺は筆ペンを置いて、身体を伸ばす
書類仕事が多すぎて嫌になる
「カイト様、シャンバル殿の商会がいらっしゃいました!」
「おっ、来たか」
俺は椅子から立ち上がり、広間に向かう
そう言えば、そろそろシャルスも帰ってくる筈だよな?
俺の記憶が間違えてなければ……
ライアンが俺の後ろをついてくる
「大将、また何か買うのか?」
「品によるな、望遠鏡とかは補充したい」
オーシャン領に広めるから数が足りない足りない
造れればいいけど、まだそんな技術が無い
誰か教えてくれる人を、シャンバルに紹介してもらうか?
そう思いながら歩いていたら、広間に着いた
もう皆集まってるな
おっ!
「シャルス!」
「あ、カイトの旦那! シャルス只今帰還しました!!」
おいおいおい! 何か逞しくなったなぁ!?
てか背伸びたな!?
「その様子だと、修行はうまくいったみたいだな?」
「はい! 今のオイラならどんな奴にも負けません!!」
「ほぅ……なら俺と一戦」
「止まれ止まれ!」
ライアンを止める、まだ仕事あるからやめい!
その後、シャルスはアルス達と帰還の挨拶と久し振りの会話を楽しんでいた
俺は俺で、シャンバルから話を聞いていた
シャンバルが元軍人だと言うこと
国宝である獅子の爪を持っていた事
……国宝は知らんかったが、軍人なのは知ってたんだよなぁ
ゲームの初期年代に居たし……直ぐに出奔してたけど
さて、シャルスも帰ってきて、人手は揃ったな
あとはベススから援軍の申し込みが来るのを待つだけだ
それまでは……内政に集中するかな
合間の日常2 完