第263話 獣族の戦い方
ーーーシャルス視点ーーー
「ゲホッ! ゴホッ!」
オイラは地面に倒れる
そんなオイラを見下ろすキャンルル
「その程度? まだ私は左手しか使ってないよ?」
キャンルルはそう言って微笑んだ
・・・・・・・・・
レイオンの訓練から1ヶ月後
オイラの怪我も完治して、今日からキャンルルの訓練が始まる
キャンルルに言われて、訓練場にやって来たら
「来たね」
動きやすそうな服に着替えていたキャンルルが立っていた
「キャンルルとの訓練は実戦だったよな?」
オイラはキャンルルの前に立つ
「ええ、エレファンとの訓練で力を、レイオンとの訓練で獣族としての勘を鍛えました、後は実戦でモノにするだけです」
そう言うと、キャンルルは着ていた服を脱ぐ
脱いだ服の下からは……戦闘服が出てきた
「それ戦闘服? 露出多くない?」
オイラは構える
「動きやすさに特化させたので、それに当たらなければ良いんですよ」
ヒュン!っとキャンルルの爪がオイラの眼前に迫る
オイラは頭をそらして避ける
「甘い!」
「っと!」
キャンルルは突いてきた手を横に振る
爪がオイラの鼻先をかすった
「っ!」
「隙だらけ!」
「!?」
一瞬だった
キャンルルが目の前に一気に近付いてきて
ゴスッ!
「ごぁ!?」
キャンルルの左手が、オイラの腹にめり込んだ
・・・・・・・・
それから何回戦っても、瞬殺された
「いつつ……」
身体中が悲鳴を上げてる
「今日はここまで、傷が治ったらまたやりましょう」
「明日もやるんじゃないのか?」
「毎日やってたら死ぬよ?」
そう言われた
「どうする?動ける?」
「大丈夫、動ける」
オイラは立ち上がる……
イダダダダダダ!?
身体中がボキボキと鳴る
「やれやれ」
キャンルルはオイラを抱き上げて、医務室に運んでくれた
「全治3週間だね」
医者にそう言われた……
・・・・・・・・・
3週間後、完治してまたキャンルルに挑む
「はぁ!!」
「まだまだ甘い!」
そしてまたボコボコにされた
「また3週間」
医者に言われる
完治して
ボコられて
完治して
ボコられて
何も掴めずに時間だけが過ぎていく
「くそっ! 何が駄目なんだ!」
オイラはベッドに寝ながら頭を抱える
因みに今は右足を治療中だ(全治1週間)
「苦労しているみたいだね」
「おじさん!!」
おじさんが医務室に来た
「報告は聞いてるよ、エレファンとレイオンの訓練は終わったそうだね」
「ま、まあね」
「でもキャンルルには手も足も出ないっと」
「うぐっ……」
グサッと刺さる
「ふむ、じゃあ1つだけアドバイスをしとこうか?」
「アドバイス?」
「キャンルルが強いって、シャルスは思ってるかもしれないけど、実際の実力はシャルス、君の方が上なんだよ?」
「えっ? そうなの?」
「そうだよ、だけど君は勝てない、その理由は戦い方を知ってるかどうかだ」
「その戦い方を知るための訓練じゃないの?」
「いや、戦い方はもう知ってる筈だよ?」
「…………?」
オイラは首をかしげる
「じゃあ、後は自分で考えよっか」
そう言っておじさんは医務室から出ていった
「…………」
戦い方を知ってる?
オーシャンで学んだ戦い方のことか?
いや、エレファンとレイオンの訓練のことか?
・・・・・・・・
完治するまで、ずっと考えてみた
そして、キャンルルとの訓練
「さて、今日も始めますか」
「……………」
今回は、試してみる事にした
「はぁぁぁ!!」
オイラはキャンルルに突っ込む
「ふっ!」
キャンルルが俺の突きを避ける
…………?
「はぁ!」
素早く蹴りを放つ
「よっ!」
キャンルルは蹴りを避ける
違和感を感じる
それを確かめるために攻撃を次々仕掛ける
キャンルルは全て避ける
その時のキャンルルの動きが、俺の攻撃が来る前に……
俺が攻撃をする前に反応していた
まるで最初っから俺の動きがわかってるように
そんな風に考えいたら
「はぁ!」
「がっ!?」
ぶっ飛ばされた
・・・・・・・・・・
「全治3日ね」
ドンドン身体が頑丈になっていく……
「…………」
オイラはベッドの上で訓練での出来事を思い出す
「キャンルルはオイラの動きをわかっていたよなぁ……」
それからも何度も挑む
何度も負けて
何度も怪我して
「これくらいなら明日には動けるね」
遂には、医務室に泊まらずに済むくらいになった!!
いや、これは自慢できる事じゃない
何が足りないのか
後少し、後少しで掴めそうなんだ
「…………うーん」
オイラは考えながら屋敷を歩いていた
そんなオイラの右を、新人の子がすれ違おうとしてて……
「……っ! 待った!」
「ひゃあ!?」
オイラはその子の腕を掴んで止めた
何故か、そうしないといけないと感じた
「な、なんですか!? うひゃあ!?」
オイラを見ながら、文句を言おうとした新人の前に照明が落ちた
あのまま歩いていたら、潰されていた場所だ
「えっ? えっ?」
新人が照明とオイラを交互に見る
……さっき感じた感じ
モヤモヤっていうか……ビリビリっていうか
嫌な感じ……
レイオンとの訓練で研ぎ澄ました勘
……ひょっとしてこれがオイラに足りなかったものか?
・・・・・・・・・・
翌日のキャンルルとの訓練
「へぇ……」
「はぁ、はぁ!」
戦えてる……
嫌な感じを避けてみたら、そこにキャンルルの攻撃が来ていた
だから、ギリギリで回避は出来る
でもオイラの攻撃が当たらない!!
このままじゃ駄目だ!
「もっと……もっと……」
全部だ、今までの経験を全部使え……
眼を閉じる、そしてイメージする
「ふっ!」
キャンルルが踏み込んでくる
オイラの左側に回り込んでくる
オイラはそのキャンルルの背後に回る
キャンルルがさらに背後に回ってる
オイラは背後に肘打ちを仕掛ける
キャンルルは肘打ちを受け止める
だからオイラは跳んで蹴りを放つ
それをキャンルルは読んでいる
それを越えなきゃ当たらない
実力はオイラの方が上……だったら!!
「うおおおおおおおお!!」
オイラは振り返って爪を振るう
ザシュ!!
「っ!?」
肉を抉る感触
キャンルルの声
そして、手に伝わる血の感触
オイラは眼を開ける
「……んっ?」
オイラの爪にキャンルルの血がついていた
それと布がついていた
「お見事、もう少しで大怪我だったよ」
そう言ってキャンルルは拍手する
……胸が丸出しだった
「あっ、ゴメン、取れちゃった」
オイラは謝る、女性の服を奪うのは良くないからね
「気にしなくて良いよ、私の裸なんて昔から見てるでしょ?」
確かに、オイラが子供の頃とか一緒に水浴びしたりしたけどさぁ……
「それでもさあ……あれ、取れない」
左手で布を取ろうとするが……上手くいかない
「ほら貸してごらん」
キャンルルは器用にオイラの爪から布を取る
そして着る
「でも間に合って良かったよ」
「えっ? 間に合う?」
キャンルルの呟きに反応する
「シャルス、今、何月か知らないのかい? 9月だよ? 明日にはオーシャンに向かわないと、1年過ぎるよ?」
「!?」
嘘!? もうそんなに経ってたのか!?
怪我ばかりしてたから、日付の確認をしてなかった!!
「今日はしっかり休んで、明日のオーシャン行きの船に乗りなさい」
「わかった! ありがとうキャンルル!! って今更だけど合格って事だよな?」
「及第点かな、やり方を知ったから、後は経験だよ」
キャンルルはそう言って微笑んだ
・・・・・・・・
その夜
「…………っ!?」
ベッドで寝ていたら、強い気配を感じた
オイラは窓から外を見る
人影があった
オイラに気付いたのか……訓練場の方に移動していく
「…………」
あんな気配を感じたのに、誰も騒いでない
つまり、オイラだけに殺気を向けてきた
「誘われてるよな……」
オイラは訓練場に向かった
次回でシャルスの訓練と日常編終了です