第258話 シャルスの特訓 始まり
時間は少し遡る
焔暦148年 10月
ーーーシャルス視点ーーー
「…………」
モルスとの模擬戦を思い出す
最初、本当に最初だけは善戦したが、少し経つと簡単に対応されて、あっという間に敗けまくった
「……はぁ」
あの後、レムレやユリウスとも模擬戦をやってみた
2人とも強くなっていた、差を感じた
「オイラもずっと鍛えてるんだけどな……」
2人が、オイラに新しく覚えたことを教えてはくれた
でも、オイラには上手く出来なかった
「…………獣族と人の違いか」
オイラにはわからないけど、人と獣族じゃ鍛え方が違うのかもしれない
モルスも言っていたし……
「おじさんに聞くのが速いんだろうけど……」
おじさんが、いつオーシャンに来るかわからないし……
「……んっ?」
クンクンと鼻を鳴らす
慣れ親しんだ匂いを嗅ぎとった
「嘘ぉ、まさか来て欲しい時にくるなんて!!」
オイラはオーシャン城の屋上から一気に飛び降りた
「よっと! こっちだ!!」
オイラは走る
おじさんの匂いがする方に
・・・・・・・・・
「おじさん!!」
「おぉシャルス!」
「おじさん!! オイラを鍛えてくれ!!」
「えぇ!?」
商品を卸していたおじさんが、驚く
そして、馬車の中でオイラの話を聞く
「西方との戦の事は知っていたが……そうか、そんな事が……」
「おじさん、獣人でしか出来ない特殊な訓練とか無い? あるなら教えて欲しいんだ!」
「……ふむ、特殊な訓練ね…………」
おじさんは少し考えて
「あるにはあるが……とてもキツいぞ?」
「大丈夫!!」
「時間もかかるぞ?」
「それでも!!」
「ふむ……わかった、丁度これからカイト様と話がある、その時に頼んでみるから、シャルスは準備をしてなさい」
「準備?」
「ロックレッグ島に戻るから」
ロックレッグ島……元々は無人島だったのを、おじさんが買い取って、商店の本拠地にしている島だ
・・・・・・・・
1ヶ月後
そんなやり取りがあって、オイラは今、おじさんの船に乗っている
途中で、商人としての仕事をしながらだから
ここまで時間がかかった
そして、漸くロックレッグ島に到着した
「シャルス、私は品の確認をしているから、屋敷の応接室に行きなさい、既に彼等が来ているはずだ」
「彼等?」
「支店長達だ」
支店長……おじさんの次に偉い人達だ
オイラも小さな頃から知ってる人達
「わかった!!」
オイラはおじさんの屋敷に向かう
オーシャン軍に入隊するまで、暮らしていた懐かしい屋敷に
港から真っ直ぐ走って、分かれ道を右に
その次の分かれ道を左に
その次の分かれ道を左
右
左
真っ直ぐ
左
そして見えてきた、おじさんの屋敷
ドアを開ける
そして応接室に向かい、扉を開ける
「おっ、シャル坊」
「大きくなったんだなぁ」
「どうした? ここに座れ」
3人の獣人が寛いでいた
「親分から話は聞いている」
獅子の獣人、『レイオン』が飴玉を齧りながら言う
「鍛えて欲しいんだなぁ?」
象の獣人、『エレファン』が鼻を天井に向けながら言う
「うん、オイラを鍛えて欲しい!」
オイラは答える
「そんなに焦らなくても、全盛期が来たら嫌でも強くなる」
オイラと同じ、猫の獣人『キャンルル』が本を読みながら言う
「全盛期なんてまだ先だよ! オイラは今強くなりたい! じゃないと大事な仲間を失う!!」
キャンルルが本からオイラに目線を移す
「シャルス、無理は言わない、全盛期を迎えてない状態で無理をしたら、最悪死ぬよ、体が壊れて」
「壊れない!」
「君が思うよりも、私達の鍛練は辛く、厳しい」
「望むところ!!」
「そこまで……大事な者が出来たんだね?」
「ああ! オイラの大事な友達だ! 大切な恩人だ!」
「…………」
キャンルルは体を伸ばす
そして立ち上がり
「どうする? 何から教える?」
キャンルルは他の2人に聞く
「おいが教えるんだなぁ、シャルスはまだ力の使い方を知らないんだなぁ」
エレファンが答える
「その後は俺がやろう、キャンルルは仕上げを頼む」
「わかったわ、シャルス! 納期は10ヶ月! それまでに私達3人から合格を貰うこと!」
「押忍!!」
こうして、オイラの特訓が始まった
・・・・・・・・
エレファンの試練
「シャルス、君は身体の力をどう使ってるんだな?」
「えっ???」
外に出たら、いきなりそう言われた
「どういうこと?」
「まあまあ、感覚で良いから答えるんだなぁ」
「ん~、こうバッ! ドン!! ガン!! みたいな!」
「なるほど、ダメダメなんだなぁ」
鼻で笑われた
「そうだなぁ」
エレファンは持ってる鞄をゴソゴソと探る
「あった、これを見るんだな」
「鉄板?」
エレファンは鉄板を持つ
「これを砕くんだなぁ」
「へっ?」
鉄板を砕く? そんな事出来るのか?
「はぁ!!」
試しに殴る
ガン!! そんな音が響く
しかし鉄板は砕けない……少し凹んだくらいだ
「シャルス、君は今、脚で勢いをつけて、腕で力を放ったんだな」
「う、うん」
「それじゃダメダメなんだなぁ」
エレファンは鉄板を上に投げる
高く飛んだ鉄板が落ちてくる
「見ておくんだなぁ……力は、こうやって放つんだなぁ!!」
ガシャーン!!
鉄板がガラスのように砕けた
「!!?」
「シャルス、これが出来るようになるのが、おいの試練なんだなぁ」
・・・・・・・・・・
シャンバルの屋敷の応接室
「親分、良かったのか?」
レイオンがシャンバルに聞く
「シャルスが望んだ事だ」
「シャル坊、死ぬぞ?」
「……覚悟の上だろ」
「親分、ペン逆さだぞ?」
「どうりで書けないわけだ」
レイオンは飴玉を頬張る
「まぁ、もし生き残れたら、シャル坊は間違いなく強くなるな、鍛えるのが俺達『三獣士』なんだから」
「元でしょ」
キャンルルが書類を運びながら言う
「こちら、売上の報告です団長」
「団長は止めてくれキャンルル」
「あっ、申し訳ありません」
シャンバルは書類に目を通していく
しかし、シャルスの事が気になって、内容が頭に入らないのだった