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第257話 襲来

 エーリス家への制裁を告げてから半月後


 12月を迎えた



「はい、舌を出してください」

「んっ」


 レイミルが俺の舌を視る


「ふむ、傷は大分塞がりましたね……」


 そう言って、レイミルは木の棒を水につけて、俺の舌に当てる


「冷たいですか?」

「んん」


 俺は頷く


「ふむ」


 次は隣のカップに棒を浸けてから、俺の舌に当てる


「どうです?」

「…………」


 俺は紙に、『温くて甘い』と書く

 カップの中身は紅茶か?


「ふむ、どうやら、味覚も異常は無いようですね、今日からは袋も外して良いでしょう」

「っ!」


 俺は小さくガッツポーズをする


「あ、でもまだ1週間くらいは喋るのは禁止ですよ、大丈夫だとは思いますが……傷が開いたら酷いですからね」

「んっ!」

「食事もスープのままですが、もう暫くの辛抱ですので」

「んっ!」

「では、何かあったらすぐ来て下さいね?」

「んっ!」


 俺は医務室を出た


 ・・・・・・・・


 玉座に戻って、業務に取り掛かる

 といっても、俺は今は話せないから、レリスが謁見者の相手をしている

 俺は聞くだけ、たまに意見を求められたら、俺の考えを紙に書いて、レリスが読み上げる


 …………俺、喋れなくても仕事に支障が無いんだよね……ちょっと虚しい


「それでは、次の謁見を……」


 レリスがそう言って、次の謁見者を呼ばせようとした時


「失礼します!! カイト様! ヤークレンからの使者が緊急だと来ております!」


「ヤークレンから?」


 レリスが眉間にシワを寄せる

 しかし……緊急? ヤークレンから?

 あのメルセデスが俺を頼るとは思えないが……


 レリスに通すようにジェスチャーする


「連れてきなさい」


 レリスが兵に言う


「はっ!」


 兵が出ると、直ぐに使者を連れてきた

 なんかボロボロだな……何かあったのか?



「は、初めましてカイト・オーシャン様、私はガールニック様に仕える、『コルトゥ』と申します! ガールニック様から、緊急だと告げられ、手紙を預かりました!」


 メルセデスじゃなくてガールニックからか

 なんだ? 謀叛するつもりなのがバレたのか?


 兵が手紙を受け取り、レリスに渡す


「読み上げますか?」


 俺は頷く


「では……拝啓、カイト・オーシャン殿」


『拝啓、カイト・オーシャン殿

 厄介な事になった、我が父、メルセデスの次女メアリーが、ティンクの存在を知った

 このメアリーは、1度思い込んだら人の話を全く聞かない厄介な性格でな

 ティンクは無理矢理結婚させられて、不幸になっている

 ティンクを君から取り戻すと言ってオーシャンに向かっている

 こちらで、出来る限りの時間稼ぎはするが……コルトゥが間に合わなかった場合は謝罪しておく

 間に合ったのなら、メアリーへの対策を幾つか書いておくので、役に立ててくれ


 1、ティンクと一緒にオーシャンから離れる

 メアリーも自分の領地での役目がある、直ぐに会えないと分かれば、諦めて帰るだろう


 2、ティンクとの仲を見せつけてやってくれ

 流石に、2人の仲を見たら、誤解もとけるはずだ


 3、そこに居るコルトゥを使ってくれ

 コルトゥは私が幼い頃からの付き合いでな、メアリーとも親しい人間だ

 コルトゥの話ならしっかりと聞く筈だ


 今の私に出来ることはこれくらいしか出来ない

 どうか上手く乗りきってくれ』


「との事です」

「…………」



 厄介な事になったな!!

 どうする? 俺は今喋れない、メアリーを説得するのは厳しくないか?

 遠くに出掛けるのも厳しいぞ……今、忙しいし、レイミルに舌の治療を頼んでるし……

 せめて、舌が完治するまで、彼女の襲来が遅れてくれれば……


「失礼します!!」


 レムレか来た


「どうした!」


 レリスが聞く


「ヤークレンの旗を付けた馬車が都に向かって来てます! 」

「来てるのか……都までどれくらいかかりそうだ?」

「30分程で都に着くかと!」

「っ!」


 レリスが額を押さえる

 俺は頭を抱える


 …………


『レリス、取り敢えず俺はティンクの所に向かう』

「こちらで待たれないのですか?」

『インフェリみたいな事もある、真っ直ぐにここに来ると思うか?』

「…………そうですね、ではこちらに来たら兵士に知らせさせます」

『俺の方に来たら、鈴を鳴らすよ』

「はい、ライアン! カイト様を護るんだ!」

「任せろ!」


 俺とライアンは玉座の間を出る

 ティンクは……この時間なら中庭で花壇をいじってる筈!


 ・・・・・・・・


「カイトさん!? どうしたんですか!? 傷が開きますよ!?」


 中庭で花壇をいじっていたティンク、走ってきた俺を見て驚く


『メアリー・ヤークレンって知ってるか?』

「えっと、会ったことはありませんが……名前だけなら聞いたことがあります」

『そいつがもうすぐここに来る』

「えっ!? 何でですか!?」

『何でも、ティンクは俺に無理矢理結婚させられたと思ってるみたいでな……』

「無理矢理? 私は望んでカイトさんと結婚したんです! それなのに……何も知らないのに!」



 おお、ティンクが怒ってる……


「大丈夫ですよカイトさん! 何か言ってきたら、私がおもいっきり言い返します!! 私だって強くなってるんですから!」


 そう言って気合いを込めるティンク

 勇ましい……というより可愛らしい

 抱き締めて撫でとく


「大将、見せびらかすのは厄介女が来てからの方が良いんじゃねえの?」


 ……見せびらかしてるつもりは無いんだが


「ところで、メアリーって人は、人の話を聞くタイプの人ですか? とてもそんな風には思えないんですけど」


 テリアンヌが言う


「……」


 俺は首を振る


「ですよねー……ティンク様、話が通じない相手には、無視するか、物理攻撃ですよ!」


 おい、何を教えてるんだ!


「パンチですか?」


 ティンク!?


「てかそろそろ来るんじゃね?」


 ライアンが言う


『いや、まだ20分くらいしか経ってないから』


 バサッ!

 バサッ!


 …………んっ?

 なんか大きな音が聴こえる?


「大将、あれじゃねえの?」


 ライアンの視線を追う


「…………」

「と、飛んでません?」

「なんですかあれは!?」


 そこには、大きな羽を拡げて飛んでいる鳥男が居た

 その上に女性が乗っている

 2人は俺達に気付くと、目の前に降りてきた


「突然の訪問、失礼する」


 鳥男がそう言って、俺の前に立つ


「てめぇ何者だ」


 ライアンが俺の前に立ち、遮る


「私はヤークレンの八将軍の1人、ダックだ……彼女はメルセデス様の娘である、メアリー・ヤークレン様だ」

「皆様、初めまして♪」


 メアリー・ヤークレンはそう言って礼をする

 そして、ティンクの姿を確認した瞬間に

「その髪、その眼! 君がティンクちゃんだね!」

「!?」


 一瞬でティンクの目の前に移動して、ティンクの手を掴んだ


「こんな泥だらけで……無理矢理言うことを聞かされているんですね?」

「えっ? えっ!?」

「もう大丈夫ですよ! お姉ちゃんが君を護りますからね!!」


 俺はダックに視線を送る

 ダックは申し訳なさそうに頭を下げる


「貴方ですね! ティンクちゃんを無理矢理連れていった最低な人は! ティンクちゃんは連れて帰ります! もう酷い目には合わせません!」


 俺は取り敢えず反論しようと、紙に羽根ペンで言葉を書いていると


「何か言ったらどうですか? 言い訳も出来ませんか?」


 う、うぜぇ……


「大将は舌を怪我してて、今は話せねえんだ!」

「あら、そうなのですか? 何故舌に怪我を……あっ、ティンクちゃんに無理矢理キスをしようとして、舌を噛まれたんですね!」


 こいつやベぇ……


 それからも、人の話を都合の良いように考えて受けていくメアリー

 メアリーワールド全開だな……これは確かに厄介だ


 俺は呆れながら鈴を鳴らす

 誰か来てぇぇぇぇ!!


「いい加減にしてください!!」

「「「「!!?」」」」


 ティンクが叫んだ

 そして、メアリーの手を振りほどいて、俺の右腕に絡みつく


「ティ、ティンクちゃん?」

「人の話を全然聞かないで決めつけて! 貴女は何ですか! 何度でも言いますが! 私は! 望んで! カイトさんと結婚したんです!! カイトさんと一緒に居て幸せなんです! いきなりやって来て好き勝手に騒いで! でも一番許せないのは! カイトさんを侮辱した事です!」

「えっ、えっと……」


 おぉ、メアリーが怯んだ


「ティンクちゃん? 無理矢理言わされてるのよね? 大丈夫よ? お姉ちゃんが護るからね?」


 それでも考えを変えないメアリー


「ここまで言ってもわからないんですね……」


 そう言うと、ティンクは俺の腕から手を離し、メアリーに近付く

 あれ? ティンク? まさか……


「ティンクちゃん! わかってくれ」


 パァン!!


 ティンク、メアリーに平手打ち!

 物理攻撃しちゃった!!?

 あっ、ダックの奴、目を閉じて耳を塞いで見て見ぬふりしてる!


「ティ、ティンクちゃん?」

「いい加減わかりますよね? 私は怒ってるんですよ?」

「…………」


 黙るメアリー……流石に理解したよな?



「うっ、うわぁぁぁぁん!! ティンクちゃんに叩かれたぁぁ!! お父様にも叩かれたこと無いのにぃぃぃ!!」


 泣き出した!?


「大将、どうする? 俺ついていけないんだが……」

『多分そろそろ……』

「メアリー様!!」


 おっ!コルトゥ!

 鈴鳴らしたから来てくれた!


「コルトゥ! ティンクちゃんに叩かれたぁぁぁ!!」


 メアリーは泣きながらコルトゥに抱きつく


「どうせ貴女が怒らせたのでしょう? いつも言ってるじゃないですか、人の話しはちゃんと聞きなさいって……あっ、ダック様、お久し振りです」

「ああ……後頼む」

「はい……メアリー様、良いですか? 貴女がティンク様の事を想ってるのはわかりますよ? しかし、人には人の想いがあります、ティンク様はヤークレンに居るより、愛した人と一緒に居たいと願ってるんです……ほら見てください、あんな仲良し夫婦が、無理矢理結婚された風に見えますか?」


 ティンクが、俺の腰に腕を回して抱きつく

 俺はティンクの背に右腕を回して、抱き寄せる


「…………ううん、見えない」

「それがわかったなら、もうわかるでしょ? 自分が何をしたのか」

「……うん」


 おお、すげぇ……


 メアリーはハンカチで目元を拭う

 そして


「申し訳ありませんでした」


 メアリーが謝ってきた

 コルトゥすげぇ!?


『ティンク、一応わかってくれたみたいだし……俺は気にしてないから、今回は許してやってくれないか?』

「カイトさんがそう言うなら……」

「ティンクちゃぁぁぁん!!」


 ・・・・・・・・・・・・


 その後、メアリーはダックに乗って、都の外に飛んでいった

 ……何で飛んできたのかを聞き忘れたな


 コルトゥも、役目を終えたからと、俺達やレリス達に挨拶してから、帰っていった

 俺は彼に礼の品と、ガールニックへの返事の手紙を託した



 結局、ヤークレンに振り回される1日だったな



 もうすぐ年越しって忙しい時期なのに……

 来年からは学舎も始まるし……


 ええい、考えるな考えるな

 今は取り敢えず目の前の事に集中していこう!


 俺は、なんでも出来る人間じゃないんだ!

 一つ一つ、確実に進めていこう!

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