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第254話 パーティーは落ち着かない

 11月末


 俺は、エーリス家のパーティーに出席していた

 エーリス家……正直嫌いなタイプの貴族なんだよな


 権力と金を集めるのが上手くて

 自分達は特別!!って勘違いした様なタイプ


 でも、先を見る能力はあるみたいで……以前マイルスが謀反を起こした時、エーリス家は参戦しなかった

 関わったら、ろくな事にならないってわかってたんだろうな


 そんな訳で、貴族としてかなりの財や権力を持った状態で今に至る


「どうぞ」

「あ、すまない、酒は控えていてね」

「畏まりました、では水をどうぞ」


 執事からのワインを断り、水をグラスに注いでもらう


 俺は水を飲みながら周りを見る


 俺の隣にはティンクが居る

 俺の右後ろにはライアン

 真後ろにレムレが背を向けて立っている


 アルスは少し離れた所で、貴族の令嬢達に捕まってる

 それとティンクに声をかけようとする奴等を、テリアンヌが慣れた様子でかわす


 レリスはブラスインと共に、エーリス家の当主、『クルーキ・エーリス』と話している


 多分、後でこっちに来るだろうなぁ……


 それと、出入口の側に、レルガとメイリーが居る

 メイリーも、こういうパーティーに出ることになるから

 経験を積ませるために連れてきた

 レルガは保護者だ


「てか、正直怠いんだよな……」

「大将、こんなパーティーに出る理由が何かあんのか?」


 俺とライアンは小声で話す


「まぁ、普通は顔合わせとか、仲を深めるとかそんな感じだろ……後は密会とか密談のための建前とか」


 今回のパーティーは何なんだ?

 俺、呼ばれた理由を聞いてないんだけど……

 さっき、クルーキと挨拶した時も教えてくれなかったし


 何? 領主を呼んだって実績が欲しかったとか?

 うーん……わからん


「まぁ、落ち着いてるうちに、飲み食いしとこう……もう少ししたら、色んな奴が話そうと近寄ってくるぞ」

「そうするか……大将何食う? 持ってくるけど」

「あー、何でもいいぞ」


 どんな料理よりも、うちの料理長(ミント)の料理が美味いからな

 てか、正直パーティーの凝った料理よりも……酒場で皆で気軽に食べれる料理の方が好みなんだよな


「レムレは?」

「チーズ」

「わかった」


 ライアンはティンクとテリアンヌにも聞いてから、料理を取りに行く


 ここから見てたら、途中で女性に捕まっていたが、少し話してから離れた

 ……対応の仕方が上手くなってるな


 ・・・・・・・・・・


 少し時間が経った

 他の貴族連中と話していたら、このパーティーの目的がわかった


 何でも、クルーキの娘が誕生月で、その御祝いだと……


 ……俺呼ぶ意味あるか?

 そんな風に話していたら、レリスとブラスイン、クルーキがやって来た


「カイト様、お忙しいところに御越しいただき、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ、お招き頂きありがとうございます」


 おいライアン、思ってないくせにって目を止めろ


「カイト様、紹介します、私の娘の『ミーア』です」

「初めまして、カイト・オーシャン様、ミーア・エーリスと申します」

「初めまして、カイト・オーシャンです、そして妻の

 」

「ティンク・オーシャンと申します」


 さて、挨拶は終わったな

 帰っていい?

 ……駄目?

 仕方ない、面倒だが、お話しして時間を潰すか



 ・・・・・・


 それから色々あって、パーティー会場の端の方に

 俺、レリス、ライアン、クルーキ、ミーアの5人で椅子に座っていた


 クルーキに来て欲しいと言われてね、密談みたいだから、レムレとテリアンヌにティンクを任せた


「カイト様、相談なのですが……」

「どうしました?」


 俺は水を口に運ぶ


「ミーアを愛人にしませんか?」

「ごふっ!?」


 噎せた、レリスからハンカチを受け取る


「急なことを言われますね……」

「そうでしょうか?」

「理由をお聞きしても?」


 受けるつもりは一切無いが、一応理由を聞いておく


「カイト様、貴方がティンク様とご結婚され、数年が経過しました、しかし、未だに跡継ぎ様は産まれておりません……このまま時間が過ぎ、貴方様にもしもの事が起これば、オーシャンは荒れてしまいます」

「…………」

「ミーアを愛人にと言いましたが、正直相手は誰でも良いのです、最悪が訪れる前に、跡継ぎ様を残して欲しいのです」

「…………」


 普通なら、このくそ野郎と罵るのだが……てか不快ではあるんだが

 欲ではなく国を想って言っているのが、クルーキの眼を見ればわかる

 だから……罵りはしないが


「クルーキ殿、その話しはお断りします……」

「何故です?」

「理由は3つあります……1つ、俺はミーア殿の事を全く知りません、そんな相手と愛人関係なんて無理です」

「ティンク様は例外ですか? 初対面で婚約されたのでしょう?」


 こいつ……調べたな


「確かに、ティンクと婚約した時、俺は彼女を全く知りませんでした……しかし、今だから言いますが、当時は結婚して嫁にするのではなく、彼女を保護するつもりでメルセデスから引き取ったのです……それから色々ありまして、俺と彼女はお互いに愛し合うようになりました……順番が狂いましたが、俺と彼女はお互いに理解して、そして夫婦になったのです」


 今はティンクが心の支えだ


「続けて言いますが、これが2つ目の理由です……俺は彼女以外の女性は愛せません」


 ティンクだから好きになり、ティンクだから愛してるんだ

 他の女性は眼に入らんよ


「しかし、それでも跡継ぎ様を作らねば……」

「3つ目の理由、跡継ぎは別に私の子供じゃなくても構わないんです」

「なんと……」


 クルーキは周りを見渡す

 何? そんなに周りを気にする内容か?


「クルーキ殿、もし私が領主を続けられなくなったとしましょう……その時はアルスが次の領主を継ぎます、もしアルスにも何かあったらミルムが……ミルムも何かあったらレリスに任せていこうと考えてます」

「えっ?」


 レリスが聞いてないよ?って感じで声をもらした


「極論ですが、オーシャンを守れるなら、私は誰が領主になっても構わないです…………これはあまり大きくは言えないんですけどね」


 流石に、これは問題発言だからな


「失礼ですが……それは無責任なのでは?」

「そうですか?」


 俺とクルーキは話し合う

 国とは何か

 領主の務めとは何か

 護るとは何か


 レリスとライアンに周りを警戒して貰いながら

 俺とクルーキは熱くなる程語り合う


 ・・・・・・・・・


 かなり長い時間話した気がする

 俺とクルーキは、お互いに息を整える

 久し振りに、真正面からぶつかり合った気がする


 俺はクルーキの事を誤解していたみたいだ

 彼は本当にオーシャンの事を考えていた

 家の事も大事だが、それはオーシャンを護るために力が必要だからだった


 そして、彼も俺の考えを理解してくれた様だ


「ここまで、熱く語ったのは久し振りですよ」

「私もです」

「カイト様、どうぞ」

「ありがとう……」


 ミーアが執事から水を受け取り、俺に渡す

 喉が渇いていた俺は、水を一気に飲み干す…………んっ? 砂糖でも入れてるのか? 甘いな


「カイト様、エーリス家は全力で貴方様を支援します」


 クルーキが言う


「それは助かります、お互いにオーシャンの為に頑張りましょう」


 クルーキと握手する


「さて、他にもカイト様と話したい人もいるでしょう、私達はこれで……時間をいただき、ありがとうございました」

「こちらも、有意義な時間でした、貴方と言う理解者が出来て、嬉しいですよ」


 俺達はそう言って、会場の方に戻った



「レリス、どれくらい話してた?」

「1時間です、他の方達がチラチラと見てましたよ」

「そっか……ティンク達は?」

「レムレとテリアンヌがしっかりとカバーしていたみたいですよ」


 俺は皆の様子を確認しながら、他の貴族達と話していく



 ・・・・・・・


 ……?


 なんか、頭が重い


「大将? 大将? おーい」

「…………」



 ライアンの声が遠い


「カイト様? お疲れですか?」


 レリスの声か?


「あぁ、なんか……うん?」


 頭が回らない


「顔色悪くないか? 酔ったか?」

「どうしましたか?」

「クルーキ殿、カイト様が具合が悪い様で……」

「それでしたら、客室で少し休まれますか?」

「カイト様、そうしますか?」

「…………」

「そうした方が良さそうだな、ほら大将、運ぶから吐くなよ?」


 ライアンの肩を借りて

 運ばれてる?


「ライアン、カイト様を頼む、私は皆に伝えてくるから」

「了解、ほら大将、横になっとけ」


 柔らかいのに乗せられて……

 えっと……あれ? あれが、なんだっけ?


「大将? 完全に駄目だな……酔ったか? 酒飲んでたっけ? まあいいや、水貰って来ようか?」

「うー……」

「すぐ戻ってくるからな!」


 ………………


 ギシッ


「ーーん?」


 何か、上に乗ってる?


「ーーーぁ」


 誰だ?

 何を言ってる?


「ーーイト様ーーてーー」


 意識を……集中させて……


「カイト様……抱いてください」


 ミーアが下着姿で俺に跨がっていた


「なんの、つもりだ……」


 必死に言葉を話す


「私に貴方様の子を産ませてください♪」

「ふざ、けるなぁ……どけ、今なら、見なかったことに、してやるから」

「いいえ、退きません」


 胸を晒してくる

 そして、顔を近付けてくる


 ふざけるな

 俺はティンク一筋だ

 彼女を裏切るなら



 死んだ方がマシだ


 ・・・・・・・・・


 ーーーライアン視点ーーー


「水貰ってくぞ」


 執事から水を受け取る

 さっさと大将の所に戻らないとな……


『キャアアアアアア!!?』


「うぉ!?」

「なんだ!?」

「悲鳴!?」


 大きな叫び声が聞こえてきた


「あっちか? ……大将!!」


 俺は水を落として走る

 悲鳴が聞こえた方向は、大将が居る部屋がある方向だった


 俺以外にも何人かが走り出す


 悲鳴が気になるが、先に大将の安全を確認しないとな!



 俺は大将の居る部屋に走る


「扉が閉まってる!?」


 俺が出る時、扉は開けたままだった

 あんな状態の大将が閉めたとは思えない


「ちっ! 鍵がかかってる!!」


 ノブを回すが扉は開かない


「ライアン!」


 レリス達がやって来た


「どうしたのですか!? さっきの悲鳴は?」


 クルーキも一緒みたいだ


「悲鳴はまだわからん! それよりも大将だ! 扉は鍵がかかっててな!」

「直ぐに鍵を持ってきま」

「悪いが待ってる暇はねえよ!! 壊す!!」


 ドゴン!!


 俺は扉をおもいっきり殴り、ぶっ壊す


「大将!!」


 部屋に入ると、ベッドの側で腰を抜かしているミーア

 ……何で半裸なんだ?


 そしてベッドには……


「大将!!?」

「カイト様!!」


 血塗れの大将が寝ていた


「カイト様!!」


 レリスが駆け寄り……


「これは……舌を噛み千切ろうとしたのか? 誰か! 布を持ってきてくれ!! それとぬるま湯!!」


 レリスが指示を出す


「俺はどうする!」

「城に行ってレイミルを……いや、カイト様を連れていくぞ! 設備が揃ってる方が良いだろ」


 レリスはそう言うと、布とぬるま湯を受け取り、応急手当をする


「クルーキ殿、後で兵を派遣して、何があったのか調べます……誰も帰さないで下さい」

「わ、わかりました」


 レリスが俺に大将を背負わせる


「あまり揺らすなよ」

「わかってる!」


 そして部屋を出る


「どうしたんですか……カイトさん!?」


 部屋の外の野次馬の中に、奥さんが居た


「ティンク様、私達と共に来てください、アルス様も! レルガ、レムレ! 2人は全員をホールに集めててくれ! メイリー、わかってるな?」

「任せてください」

「頼むぞ!」


 ・・・・・・・・・・・


 ーーーカイト視点ーーー


 …………んっ


「…………ぁ」


「カイトさん! よかった! 目が覚めましたか!?」


 ……ティンク?

 あれ? ここ医務室?

 えっと……!?



「がっ!?」


 俺は飛び起きて、喋ろうとしたら、舌に激痛がはしる


「カイト様、喋らないで下さい、出血しますよ」


 レイミルが言う


「…………」


 どうなってる? 何がどうした?

 頭が痛い


「はいどうぞ」


 レイミルが紙とペンをくれる

 俺は筆談を試みる


『今、どうなってる?』

「えっと、レリスさんはエーリス家に行ってます、何か調査と言ってました」


 ティンクが答える


『俺の状態は?』

「舌を深めに切ってます、幸い、手当てが早かったので、命に別状はありません……でも、暫くは喋れませんし、食事もぬるめのスープだけです」


 レイミルが答える


『舌に何かつけてる?』


 なんか変な感じが


「カエルの胃袋を加工した物を被せてます、縫合した部位を露出させる訳にいきませんから」


 あ、そうですか……


「深く切っただけですから、大丈夫だとは思いますが……味覚に異常が出る可能性も考えていてください」


 はい……


 暫くすると、レリスが戻ってきた……むっちゃ怒ってる


「取り敢えず無事で良かったです」

『心配かけたな』

「本当ですよ……血塗れの貴方を見て、心臓が止まるかと思いました……珍しくライアンも凹んでますよ」

『ライアンにも後で謝っておくよ』

「それで、こちらでわかった事を話そうと思いますが……よろしいですか?」

『構わないよ』

「では、その前にティンク様……夜も遅いですし、自室でお休みしてください」

「でも……」


 俺はティンクの手を握る

 そして、大丈夫だと言うように微笑む


「わかりました……」


 ティンクが医務室を出る


「では……」


 レリスから話を聞く


 どうやら、今回の出来事はミーアの暴走らしい

 クルーキが、俺の跡継ぎで悩んでるのを知って

 俺の子供を孕んでしまおうと考えたそうだ


 クルーキとの話を終えた俺に、媚薬入りの水を飲ませた

 ミーアの考えでは、欲情した俺と2人っきりになって、既成事実を作ろうとした


 しかし、2つ誤算があった

 1つは媚薬の量が多すぎた

 それで、俺は欲情どころか、体調を崩した


 2つ目は、俺のティンクへの想いの強さだ


『ティンクを裏切るなら、死んだ方がマシだ』


 俺はそう言って、舌を噛み千切ろうとしたらしい

 そこらへんの記憶が無いんだが……


 それで、血を吐いた俺に悲鳴を上げて、ベッドから落ちて、今に至ると……


「ミーアは暗殺未遂って事で牢に入れてます」

『暗殺未遂?』

「経緯はどうあれ、結果的にカイト様が死にかけましたので」

『それは、いやでも……』

「取り敢えず今は回復することに集中してください、後日、ミーアやエーリス家への制裁を決めて、伝えなくてはいけませんので」

『…………わかった』



 とにかく、今は傷を治すことにしよう……

 喋れないし……












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