第252話 オーシャンへの帰り道 後編
ーーールミル視点ーーー
マイル村の道を歩く
「よぉ! ルミルちゃん! 元気か!」
八百屋のおっちゃんが杖をつきながら声をかけてくる
「元気だよ! おっちゃんは腰痛めた?」
「そうそう! だからこれだよ! 歳には勝てんな!」
「無理しないでよ?」
おっちゃんと別れて歩く
「おお、ルミルかぇ……」
「あ、ばっちゃん」
「ルミル、坊を知らないかね?」
「坊ならお家に帰ってるよ、ばっちゃんを待ってるから帰ってあげなよ」
「おぉ、そうかいそうかい、なら帰ろうかね」
ばっちゃんが目の前の家に入っていく
「昔からボケてて、ああやって家に帰してたの」
「へぇ……」
首をかしげていたテリアンヌに説明しておく
「さっきから色んな人に声を掛けられてるね」
「皆、子供の頃からの顔見知りだからね」
「それでも、ああやって好かれるのは、ルミルちゃんの人柄だよ」
「テリアンヌだって、パストーレの方だとこんな感じじゃない?」
「そうですか? 普通だと思いますけど?」
「…………」
そんな話をしている間に、村長の家に着いた
「あれ? ルミルちゃんの実家ではないんですか?」
テリアンヌが木に掘られてる名前を見て聞いてくる
「ここは村長の家よ」
「実家の方には行かないんです?」
「家ならもう潰したから」
「へっ?」
昔住んでた家は、あの出来事の後に、必要な物だけ持ち出して、村に返還した
家は結構傷んでいたから、取り壊して広場にしたらしい
「両親のお墓もヘイナスにあるし、ここに来ることももう無いと思っていたからね……」
「あっ……」
そういえば、私の両親が居ないことは以前話してたけど、お母さんの死因は話してなかったな
「その、えっと……」
テリアンヌは何を言うか悩んでいる
「気にしなくていいよ、昔の事だから」
ローズはカイト様が処刑してくれたし
ケーミストも死んだ
敵討ちは終わってるんだから
「……ルミルちゃん、寂しい時とかは甘えてくれても良いんですからね?」
「そんな子供じゃないんだから……」
「大人でも甘えて良いんです」
「……そう?」
「そう!」
「……気が向いたらね」
テリアンヌから顔をそらして、家の扉をノックする
少しすると……
「はい……あら、ルミルちゃん! 久し振りね!」
「お久し振りです、おばさん」
村長の娘さんが出てきた
「お父さーん! ルミルちゃんよ! ほら、ルミルちゃんあがって!! お友達も!!」
「お邪魔します」
「お邪魔します!」
おばさんに手招きされながら、家に入る
玄関から目と鼻の先の所に、椅子と机があった
おばさんに椅子に座るように言われて、座るとコップに注がれた水が目の前に置かれた
「おお、ルミルか……久し振りだの」
「村長! お久し振りです!!」
杖をつきながら、村長がやって来て、椅子に座る
「君とレムレの活躍は聞いとるよ……村中で盛り上がっとるよ」
「そ、そうですか?」
す、少し恥ずかしいなぁ
「そちらのお嬢さんは?」
「あ、紹介します」
「初めまして、テリアンヌ・パストーレと申します、ルミルさんとは同僚としてお世話になっています」
「ほぅ、ルミルのお友達か」
同僚=お友達って考えはどうかと思う……
まあ、友達だけど……
それから私は村長はおばさんと他愛もない話をした
マイル村がどうなってるか
レムレはどうしているか
私の怪我はどうして出来たのか
「あっ、ルミルちゃん、そろそろ……」
「あっ、そうだね」
随分長居してしまった
そろそろ戻らないと……
「もう帰るのか?」
「うん、また来ます、今度はレムレも連れてきて」
「そうか、楽しみにしておこう……おっと、忘れるところじゃった……これを」
村長が小箱を取り出す
「これは?」
「開けてみい」
「……指輪?」
小箱の中には2つの指輪があった……あれ、これ見覚えがあるような……
「お前達の両親の指輪じゃよ……家の片付けをしていた時に出てきてな、預かっていたんじゃよ」
「父さんと母さんの……」
「両親の形見じゃ……持っていきなさい」
「……ありがとうございます」
レムレに……見せてあげないとね
・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
村の様子を見たり
ゲルドやアルスの模擬戦を眺めたり
ティンクとイチャイチャしてたらルミル達が戻ってきた
「もう良いのか?」
「はい! ありがとうございました!」
馬車に皆乗り込む
「? あの、ミルム様とファルの姿が見えませんが」
「2人とライアンは先に行ってる、ミルムが俺に見せたい物があるらしくてね」
「見せたい物……ですか?」
「何かは着いてからのお楽しみだ」
そんな訳で、出発!!
・・・・・・・
数日後
ワミール村に到着した
「お兄様ー!!」
ミルムが凄い手を振ってる
ライアンが少し後ろで疲れきったように座り込んでいた……苦労を掛けたようだなぁ
馬車から降りる
「準備は出来てるのか?」
「バッチリ!!」
俺達が降りるのを確認してから、ミルムが歩きだす
ライアンが俺の隣を歩く
「ライアン、お疲れ」
「大将、嬢ちゃんに落ち着きを教えてやってくれよ」
「お前に言われるって事は、よっぽどって事だな」
そんな風に話しながら歩くと
「着いたよ!!」
ミルムが立ち止まる
「んー?」
俺は目の前の景色を眺める
先ず目に入るのは小屋だ
そして小屋の前には田んぼがある
んっ? 小屋の中と田んぼ……繋がってる?
あの小屋はなんだ?
「開けて~!」
ミルムが言うと、小屋の扉……てか大きさ的に柵? が開いた
『グワッ! グワグワ!』
「……鳥?」
アヒル……とは少し違うか?
鳥が田んぼに張られた水を泳ぎながら、小屋から出てきた
鳥は泳ぎながら、口をパクパクさせる
何か……水中の何かを食べてる?
……あ、これってあれだ、合鴨農法だ
「鳥に虫や草を食わせてるのか?」
「うん! どう? どう!?」
ミルムが目をキラキラさせながら聞いてくる
「成る程、害虫や雑草の被害をあの鳥を利用して防ぐわけですね」
メイリーが感心している
「害虫や雑草が餌の代わりになるから、必要な餌も最低限で済むと……」
ゲルドが呟く
「んで、鳥の数が増えてきたら……食料にするとかか?」
アルスが言う
「……何で言うかな~、説明しようと思ってたのに~」
ミルムが不満そうに言う
「この鳥はどうしたんだ?」
俺は聞く
「シャンバルから買ったの! 泳げて、飛ばなくて、食べれる動物は居る? って聞いたら取り寄せてくれたの」
「飛ばなくて? 飛んだら駄目なんです?」
ティンクが聞く
「飛べたら、逃げられちゃうし……生態系に悪影響があったら困るでしょ? だから飛べない子にしたの」
……ちゃんと考えてたんだな
「成る程な……これなら疫病とかも防げるか……上手く行けば確かに収穫量は倍以上になりそうだな」
結果が出るのはまだまだ先だろうが……
「ミルム、上手くいったら詳しい資料を作ってくれないか?」
「それって……」
「あぁ、オーシャン領全体に広めてみよう」
「やった!!」
ミルムが喜ぶ
ちゃんと結果が出たらだからな? 上手くいかなかったらそれまでだからな?
「~♪」
「聞こえてなさそうだな……」
「嬉しいんだと思いますよ」
ティンクが囁く
「カイトさんの役に立ちたいって、ずっと言ってましたから」
「そっか……」
気にしなくて良いのに……
・・・・・・・・
その日はワミール村に1泊し、翌日出発した
その後は特に何もなく、普通にオーシャンに帰ってきた
そして、馬車から降りて、皆に今日はしっかりと休むように伝えて、解散した
こうして、赤い馬から始まった一連の出来事が終わったのだった
ああ、疲れた……