第248話 赤い馬 後編
ゲルナルに到着した俺達
馬車はそのまま、ゲルナルの城に向かう
「道中でも見てたが、皆だいぶ健康的になってきたな」
俺は窓からゲルナルの民を見る
昔、カイナスとの戦の時に見た民の姿は、餓鬼の様な腹だけは膨らんでいるが、腕や脚は細い姿だった
今は普通の体型になっている
ブルムン達はしっかりと民と向き合ったんだな
「ほんと、凄まじい姿になってたよね……」
アルスも頷いた
「さて、このままゲルナルの城に着いたら、俺とライアンはブルムン達と会って、馬の事を話し合うから……皆は自由行動ってことで、夕方まで好きなように過ごしてくれ」
「やっぱり一緒に居られないんですね……」
ティンクは残念そうだ
「馬の事が終わっても暫くは滞在するから、その時に一緒に観光しような?」
俺はティンクの額にキスをする
「はい! 待ってます!!」
あっという間に笑顔になるティンク
可愛い
「カイト様、わたしも同行しても宜しいですか? ブルムン殿や他の将の方達に挨拶もしたいですし……」
メイリーが聞いてくる
「あぁ良いぞ! 何だったら知恵を貸して貰おうか」
そんなこんなで、城に到着した後、俺達は分かれた
俺とライアンとメイリーは城内に
ティンクを始めにした女性陣とシスコンは街に向かい
アルスはゲルドを探しに行くと歩いていった
「長旅お疲れ様ですカイト様、ヒヒヒ」
応接室に案内されて、お茶を飲みながら待っていたらブルムンがやって来た
その手には大量の書類を持っている
「そっちこそお疲れの様に見えるが……大丈夫か?」
「ヒヒヒ! 大丈夫……じゃないですね! 最近また賊が流れてきたみたいで……被害報告が多くて多くて!!」
「隈すげえぞ?」
ライアンが呟く
「お久し振りですブルムン殿、よろしければ書類仕事を手伝いましょうか?」
「あ、任せて大丈夫?」
「もうレリス並みの仕事をこなせてるぞ?」
俺がそう言うと
「じゃあ、カイト様と話してる間だけ頼もうか!」
そう言ってメイリーの前に書類の束と羽ペンを置くブルムン
「わかりました」
メイリーはそう答えると、次々と書類に眼を通して記入していくのだった
「それじゃあ、例の話に移ろうか?」
俺が言うとブルムンは俺を見る
「わかりました、といっても以前送った書類の通りです、赤い馬が現れて暴れている……新しい目撃証言も出ました」
ブルムンは数枚の書類を俺に渡す
「ふむ……赤い馬が現れて、驚いて皆逃げてるんだな……」
俺が書類を見ていると……
「負傷者は出ましたか?」
メイリーが手を動かしながら言ってきた
「いや、不思議とその報告は無い」
ブルムンが答える
「そうですか……」
メイリーはそう言うと黙り込んで作業を続ける
…………もうかなり作業進んでない? あれ? 2分くらいしか経ってないよね?
「それで、ブルムンはその馬を確認したのか?」
「ヒヒ、勿論、望遠鏡で遠くから姿を確認しました……月明かりに照らされた姿は、確かに燃えてるように見えました」
「最近流れてきた賊が馬を燃やしてるって訳じゃないのか?」
ブルムンは首を横に振った
「燃やされているなら苦しんで暴れるのですが……あの馬はそんな様子はありませんでした」
なら燃えてる訳では無いのか……?
「ふむ、俺も一度見てみた方が良いかもしれないな……今から行っても大丈夫か?」
「今からなら馬なら日が暮れる頃には着くかと」
「なら行くか……ライアン」
「おう!」
ライアンはワクワクしている
「メイリーは…………馬、乗れる?」
「……の、乗るだけでしたらなんとか……しかし走り出したら……」
「よし、お留守番! そのまま書類進めてあげて!」
「わかりました」
「ブルムン! 今すぐ数人の兵を連れてきてくれ、少人数で行くぞ」
「えっ? 大人数で討伐に行くのでは?」
「先ずは様子を見てからにする! それからどうするか考えよう!」
「わかりました!」
・・・・・・・・
そんな訳で俺達は馬で移動する
俺とライアンとブルムン
そして数人の兵士でガンナル村に向かい
体感で3時間くらいで着いた
「それで、この村の近くなんだよな?」
俺はブルムンに聞きながら、周りを見渡す
「正確には、ここから更に北にある森の側ですね、ここからでも遠くに見えてるアレです」
「あそこかぁ……」
確かに、森が見える
「んで? 馬は?」
ライアンが指をポキポキ鳴らす
「だから森の近くって言ってんでしょうが!」
ブルムン、怒る
「コホン、取り敢えず森に近付いて見ましょう」
「そうだな」
俺達は森に向かって馬を走らせる
そして数分後
「止まれ!」
ブルムンが叫ぶ、俺達は馬を止める
「カイト様、アレです」
ブルムンが指差す
その方向には、ポツンと赤いのが見える
俺は望遠鏡を取り出して、覗く
「……成る程、真っ赤だな」
それは確かに馬だった
真っ赤……燃えてる訳でもなく、血塗れって訳でもなく
毛の1本1本が赤いのだ
立派な赤い馬……
てか赤兎馬じゃねえか!?
「はぁ!?」
俺は思わず叫んでしまう
赤兎馬……三國志で有名な馬
呂布の愛馬で、人中の呂布、馬中の赤兎なんて言われたり
その後、後に軍神と呼ばれる関羽の愛馬になった馬
サーリスト戦記でも国宝の扱いで実装されてる
4等級での国宝で……効果は
敵に捕縛されない
騎馬兵の戦闘力上昇
将の武力に+10
等々だ
特に騎馬兵の戦闘力上昇効果はとても高く、まず負けなくなる
そんな赤兎馬が何故かオーシャンに居た……
本来ならワードベール大陸で手に入るのだが……
何でここに居るんだよ!?
「大将どうした? 顔色悪いぞ?」
「お、おぅ……取り敢えず見てみろ」
俺はライアンに望遠鏡を渡す
「んっ? おお……良い馬だな!」
楽しそうだな……
「それで、どうします?」
「出来れば手に入れたいが……出来そうか?」
俺が聞くと、ブルムンは首を横に振る
「1度捕まえようとしましたが、数人の兵士が大怪我を負わされましたよ、自分もひどい目にあったので……正直関わりたくないです」
「おぅ……」
ブルムンの眼が死んでいた……
「なら……勿体無いが、これ以上被害が出る前に始末するか……」
「大将」
「でもどうやって始末します?」
「……オーシャンに連絡してレムレを呼ぶか? 今のあの子なら、遠くからの矢で仕留められないか?」
「大将!!」
「なんだよライアン、今忙し」
「馬がこっちに来てるんだが?」
『……………』
馬を見ると、確かにこっちに来てる
それがわかるくらい近くに来ていた
「全員撤退!! 村まで逃げるぞ!!」
俺の指示で全員が馬を走らせる
ドドドドドドドド!!!
馬の走る音が響く
ドスン!ドスン!
そんな音が近付いてきてる
やだやだやだやだ!?
結構近くに聞こえてきたんだけど!?
ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!ドスン!
「なぁ! 怖くて振り返れないんだけど!! 居るよな!?」
俺が叫ぶと、少し前を走っていたライアンが振り返る
「大将! こっちに!!」
「うお!?」
ライアンが俺を掴まえて、抱き上げる、てか抱き締められる
その時、俺は後ろを見てしまった
「ぶるるるるるるぁ!!」
「のわぁぁぁぁ!?」
さっきまで、俺の真後ろに居た!?
てか俺が乗ってた馬がどっか逃げたんだけど!?
「速い速い!! ありえないだろ!!」
俺は叫ぶ
「喋ると舌噛むぞ大将!!」
「ライアン! そのままカイト様を守れ!!」
ブルムンはそう言ってから、兵士に散るように指示を出す
1人、1人と兵士が別れていく
しかし赤兎馬は兵士なんて気にせずに俺達を追う
「俺らを狙ってないか!?」
勘弁してくれ!!
そう思っていたら
「ぶるぅぅぅ!!」
赤兎馬が跳んだ
『うおおおおお!?』
そして、俺達を飛び越えて、俺達の前に着地した
どんな脚してんだよ!?
「…………」
「…………」
赤兎馬が俺達を見る
「……ふん」
落ち着いたのか、鼻を鳴らして俺達の横を通りすぎて、森の方に戻っていった
「……なんだったんだ?」
俺はそう呟いた
マジで怖かった……
・・・・・・・・・・
ゲルナルに戻った俺は将達を集めた
「アレはヤバイ! 速く始末した方がいい!」
俺がそう言うと、カイナスに居た将達は同意する
赤兎馬の恐ろしさを理解してるんだろうなぁ
「そんなに慌てるほど?」
アルスが聞いてくる
「本気で怖かった……死ぬかと思ったぞ……」
「よっぽどだね」
アルスが俺の背中を擦る
「俺は反対だ」
皆が同意する中、1人だけが異議を申し立てる
俺の背後に立つ男は手を挙げていた
「……ライアン、お前も見たろ?」
「ああ、だからこそだ、あの馬の脚は役に立つ、殺すんじゃなくて、仲間になってもらうべきじゃないのか?」
「あの暴れ馬が従うと思うか?」
無理だろ
「大将、俺に時間をくれ! あの馬を説得してみせるから!!」
「駄目だ! 危険すぎる!」
「大丈夫だって! 俺に任せてくれよ!」
ライアンは自信満々だ
それでもやっぱり心配だ……
「ヒヒ、良いんじゃないんですか?」
「ブルムン?」
「どうせ殺すにしろ、準備に時間がかかるんですし、その間に好きにさせたら良いでしょう」
「……準備は何日かかりそうだ?」
「5日です」
「…………」
5日か……
うーん……
やらせたくないけど……ライアンも譲れなさそうだし……
「じゃあ、5日だけ時間をやる! それ以上は待てないからな!」
「了解!! じゃあ早速準備してくる!」
そう言ってライアンは部屋を飛び出した
「……大丈夫かな?」
アルスが呟いた
俺は頷くことしか出来なかった
・・・・・・・・・
ーーーライアン視点ーーー
「うっし! 準備完了!!」
俺は袋一杯の人参と自分用の食料を袋に詰めて
鎧と武器も降ろしてゲルナルから馬で出る
そしてガンナル村で馬から降りて
歩いて森に向かう
「ぶるるるるるる!!」
「よお!」
赤い馬がやって来た
俺を威嚇する
「落ち着けって、お前に手を出すつもりは無いから」
俺はそう言って人参を取り出す
「ほら、腹減ったろ?」
「…………」
馬は俺を見ながら人参を食う
「よしよし、ほらまだあるぞ?」
「…………」
馬は人参を食べていく
やっぱり腹が減ってたみたいだな
「……んっ? 良く見たら怪我してるな」
馬の身体のあちこちに、傷跡があった
赤い毛並みが目立ってて、気付かなかった
「……」
ブルムン達か?
いや、アイツなら傷を負わせたら報告してるはずだ……
「……なんか臭うな」
「…………」
馬は森に入っていく
「あ、待ってくれよ!」
俺は馬を追う
・・・・・・・・・
「おいおい、どうなってる?」
馬を追って、俺が見た光景は
綺麗な湖と……その側で死にかけてる老馬の姿だった
「ぶるる……」
赤い馬が老馬の顔を舐める
「……お前の恩人か?」
親子じゃないのかって考えは出てこなかった……
老馬の色は白だ、とてもじゃないが、親子には見えない
「ぶるるるる」
「ヒヒン……」
「……もう長くないな」
老馬は身体中に古傷がある
しかし、死にかけてる理由は傷じゃなく……寿命だと思える
「…………なんとなくわかったような気がする」
この老馬は赤馬を護りながら育てたんだ
そして、死にかけてる老馬を……赤馬が護っていたんだ
「暴れていたのは、森に人が入らないようにするためか……この馬を静かに見送りたかったんだな……」
「…………」
赤馬は老馬の側に座る
「…………」
これは、説得どころじゃないな
「大将に説明したら、わかってもらえるか?」
でも大将ビビってたしな……どうなるか……
「……んっ?」
人の気配……4人くらいか?
「ぶるる!」
赤馬も気付いたのか、気配を感じる方向を見る
「……俺が行く、お前はそいつの側にいろ」
「………」
・・・・・・・・
少し歩いた所で、人が居た
物騒な装備を着込んだ、みるからに賊って奴等だ
「お前ら、こんな所で何してんだ?」
声を掛けてみる
「見ればわかるだろ? あの馬を捕まえるんだよ」
賊の1人……コイツがリーダーみたいだな
「何でだ? 馬が欲しいのなら他にもいるだろ?」
「あんな立派な馬はそういない、捕まえたら高値で売れる」
つまり金目的か……
「お前が何者か知らないが、邪魔するな……殺すぞ?」
賊達が武器を構える
「それ脅してるつもりか?」
俺は丸腰だ、武器も鎧も赤馬を刺激するから持ってきてない
だが……
「お前ら、相手が悪かったな……全員潰す」
「かかれ!!」
『おらぁぁぁぁぁ!!』
こんな雑魚に負ける俺ではないんだな
・・・・・・・・
「さてと、命は取らないでいてやる、さっさと失せろ」
俺がそう言うと、リーダー以外の3人が逃げていった
リーダーだけは倒れたまま、俺を見ている
「何で、あの馬を庇う……」
「あっ? 何でってそりゃあ…………」
何でだ?
あの赤馬に気に入られる為か?
いや、違うな…………あ、そうか
「親っていうか、世話になった恩人の死に際だ……傍にいさせてやりたいだろ?」
俺には出来なかったからな……
「…………なんだそれ」
「ほら、さっさと失せろ、寝てると獣に襲われるぞ?」
リーダーの男はふらつきながら立ち上がる
「……あんた、名前は?」
「ライアン、これから有名になるから覚えとけ」
「……ああ」
男は逃げていった
・・・・・・・・
赤馬の所に戻る
老馬が鳴いている
何か話してたのか?
「さてと、もう暗いし……俺も休むか」
俺は2頭から少し離れた木にもたれかかる
そしてパンを囓る
「明日、大将の所に戻って説明するか」
頑張って説得するしかないな
そう決めてから眠って……
朝、起きたら………
「…………」
「…………」
老馬は眠ったように死んでいた
身体も冷えていたから、俺が寝て直ぐに逝ったみたいだ
「…………埋めていいか?」
「………」
死んだのなら遺体は埋葬してやるべきだと思った
俺の言葉を理解したのか、赤馬は湖の近くにある、花が多いところに移動して、地面に鼻先を当てた
「そこに埋めて欲しいんだな?」
俺は地面を掘る
道具も何もないから素手だ
馬を1頭分の墓だ、大きく、深く、掘らないとな
時間がかかった
途中で、襲い掛かってきた獣を食って、その骨を使って掘ったりもした
翌日には、何とか穴を掘り終わった
「よっと」
老馬を持ち上げる…………コイツ、デカイ
現役の時はかなりの名馬だったのかもしれないな
穴に遺体を置いて、埋めていく
埋め終わったら、墓石代わりの石を積んで
花を添えて……完成だ
「安らかに……」
作業が終わる頃には夕方だった
「…………」
赤馬はじっと墓を見ている
「……さてと」
流石にこんな状態で、一緒に来いとか言えないしな
今日で3日目だから、時間も無い
「もう遅いし、明日考えるか」
なんだったら、もう赤馬が暴れる理由も無いし
そっちの方で説得してみるか?
…………うーん、厳しいような気がする……メイリーあたりを味方につけるか?
そんな風に悩んでいたら、墓作りの疲れもあったのか、いつの間にか眠ってしまった
・・・・・・・・・・・
ーーー老馬視点ーーー
ああ、苦しい、身体が辛い
自分の命が尽きていく……
『立ち去れ!! 立ち去れぇぇぇ!!』
遠くから、あの子の叫びが聞こえる
5年……自分があの子を育てると決意して、相棒と別れて5年経った
『うぉぉぉぉぉ!!』
あの子は立派に育った、森でも負けなしの馬に育った
だから、あの子の強さは心配していない
唯一心配なのは……あの子は相棒と共に駆ける喜びを知らない事だ
『失せろ!!』
ああ、そうか、あの子は人が怖いのか
だから、遠ざける
無理もない……ここ数日、人に襲われて傷付いたのだから
『…………若ければ……教え、られたのに……』
誰か……あの子を癒してくれ……
・・・・・・
『父さん! 父さん!』
『おいおい、どうなってる?』
驚いた……あの子が人間を連れてきた
いや、それよりも、あの人間は……
『お前がそうしたいのだろう? ならば行け! ワシの事は気にするな!!』
『……お前の恩人か?』
ああ、懐かしい……相棒の姿を思い出す
『父さん! 大丈夫!?』
『ああ……大丈夫だ……』
人間は自分とあの子を見ている
その表情は、とても穏やかだ
『父さん! 今日はね今日はね!』
『……』
あの子が嬉しそうに語る
こんな顔は久し振りにみた
その後、近付いてきた気配に気付いた人間は、その気配を追い払ってくれた
どうやら、人間は自分達を護ってくれるみたいだ
『父さん? どうしたの?』
人間が眠った後に、自分は最後の力を振り絞って、立ち上がる
『アカ、私はもう死ぬ』
『そんな! やだよ!』
あの子は……アカは私の身体にすりよる
『聞きなさい、もう永くないのはわかるだろ?』
『……っ』
『アカ、私が死んだら、君はあの人間と一緒に生きなさい』
『えっ!? なんで!?』
『私達は、人間と共に生きることで、更に強くなれるからだ』
『強く……』
『昔、話したことを覚えているかい?』
『父さんの相棒の事?』
『そう、彼はとても強かった、そんな彼を乗せて、共に駆けた時……私はとても誇らしかった』
『……』
『君にも、あの時の気持ちを感じて欲しい……あの人間なら、信用できる』
『でも……でも……』
『アカ、君はもう立派な馬だ、私よりも強い、そんな君が駆ける姿を……空に逝った私や君の母に見せて欲しい』
『…………わかった』
『いい子だ』
『でも、せめて今だけは……子供のままでいさせてよ』
アカがすり寄ってくる
『ああ、構わないよ』
私は座り、アカも座り、一緒に眠る
・・・・・・・・
『ここは?』
気が付いたら草原に居た
『なんだ? お前も来たのか?』
懐かしい声が上から聞こえた
顔を動かし、私の背に乗る者を見る
『久し振りだな』
『……オルベリン』
『ほぉ、不思議だな、生前はわからなかったお前の言葉が理解できる』
『……私は、死んだのか』
『そう言うことだ』
『これは夢か幻か、またお前を乗せれるとはな』
『ワシもお前にまた乗れるとは思ってなかった』
身体が勝手に動き出す
本能のままに駆け出す
『やはりお前は最高だ! 他の馬ではこうはいかん!』
『久し振りで振り落とさせるなよ!!』
『任せろ! さあ、共に駆けようか!!』
『おおおおおおお!!』
・・・・・・・・・・・・
ーーーライアン視点ーーー
翌日……
「さてと、どうするかな」
俺は森を歩きながら考える
どうやって大将を説得するか
アルスやメイリー達を味方につけれるか
寧ろ赤馬をどっかに逃がすか?
そう考えながら歩いていたら
「ぶるるるる!!」
「んぁ?」
赤馬がやって来た
「どうした? 見送りか?」
赤馬は俺の隣に止まる
「…………?」
赤馬が俺を見る
そして、座る
「…………」
クイッと鼻先で背中を指したように見えた
「…………乗れって事か?」
俺は赤馬の背に乗ってみる
俺が乗ると赤馬は駆け出した
「ぶるるるるる!!」
「うぉぉぉ!!?」
速い!! わかってたけど速い!!
他の馬なんか目じゃないぞ!
「お前凄いな!! うひょーー!!」
気分が高揚してきた
あっという間に森を抜けた
このまま道を駆けていく
「なぁ! 良いのか!! このまま、俺の相棒になってくれるって事で良いんだよな!!」
俺が聞くと
「ヒヒーン!!」
大きな嘶きが響いた
「よっしゃぁぁぁぁ!!」
すっげえ嬉しい!!
「じゃあ、お前に名前を付けないとな!!」
赤馬なんて呼ぶわけにいかないし……
そうだな……赤……炎……よし!!
「『ボブルス』!! 炎龍の名前から貰ってボブルスだ!!」
「ヒヒーン!!」
ボブルスが嘶く
こうして、俺はボブルスという相棒を手に入れた
・・・・・・・・・・・
ーーーカイト視点ーーー
ライアンが森に行って4日経った
俺はその間に討伐隊の編成をしたり
ティンクとデートしたり
赤兎馬の情報を集めたり
アルスやミルムと出掛けたり
ゲルド達と話したり
ブルムンに人を紹介されたりしていた
「明日の朝には森に行こう」
「弓矢の方は準備できてます」
「小生の方も準備は出来ています」
討伐隊の準備は完了していた
後はライアンが無事なのを祈って……
「報告します!! ライアンが帰ってきました!!」
兵士が駆け込んできた伝えてきた
俺は直ぐにライアンの所に向かった
「ライアン!!」
「おっ! 大将!!」
ライアンは赤兎馬に乗っていた
俺を見ると赤兎馬から降りた
「これは……つまり?」
「ああ、コイツは俺の相棒になった! 名前も決めたんだぜ! ボブルスだ!」
「炎龍から取ったのか? まあいい……良くやった!」
大した男だよ!
「それで大将、鞍とかボブルス用に用意したいんだけど……」
「そうだな、直ぐに手配しよう、手綱とかも用意しないとな」
「あ、手綱はいらねえ! 鞍とか鐙だけでいい」
「はっ? それだけでいいのか?」
「コイツ、俺の行って欲しい方向に行ってくれるからさ、手綱はいらないんだ」
「そ、そうか……」
常識にとらわれないな……
「カイト様!」
また兵士がやって来た
「どうした?」
「賊が! 賊が!」
賊!?
「賊がどうした!!」
襲撃か!!
「壊滅しました!!」
「はっ?」
兵士の報告を詳しく聞くと、近辺に居た賊が全員縛られていたらしい
そして、1人の男が自首……っていうか投降してきた
俺とライアンは玉座の間に移動して、男を連れてこさせる
「なんだお前か」
男を見るとライアンが声をかけた
「知り合いか?」
「この間森でぶちのめした奴です」
それ後で詳しく聞かせろよ?
「…………」
男は兵士に拘束されながら座らせられる
「さてと、お前は何者だ?」
俺は男に聞く
「オレは『シンギ』、北方出身の賊です」
シンギは頭を下げる
「投降してきたらしいけど、何があったんだ? 何で投降してきた?」
「……賊から足を洗うためです」
「……なに?」
「オレは賊でいるのが嫌だった、しかしそれ以外に生き方を知らなかった……だが、ライアンに負けて、変わりたいと思った……それを仲間に話したら、許さないと襲われたので……全員倒して拘束しました」
「他の賊を縛ったのお前か……」
つまり、仲間割れでこうなったと
「シンギ、いくら他の賊を捕まえても、変わりたいと思っても、お前が賊として民を苦しめた事実は消えないんだぞ?」
「……わかっています」
「投降しても、死罪になるとは考えなかったのか?」
「賊のままで生きるなら……死んだ方がマシだ」
「そうか……なら」
「大将、聞いていいか?」
「どうした?」
ライアンを見る
「オーシャンの罪人ってどんな裁きを受けるんだ?」
「軽くて罰金、幽閉か強制労働、そして追放と死罪だな……賊は基本的に幽閉か死罪だ」
「つまりシンギは幽閉されるか死ぬかって事か?」
「そうだな、こればっかりはどうしようもないぞ? 法だからな、特別扱いとか無理だぞ?」
「そうか、なら仕方ないか……」
ライアンは不満そうだが、反対はしないみたいだ
他の将達も異議は無いみたいだ
「よろしいですか?」
そこにメイリーが手を挙げてきた
「どうした?」
「カイト様、彼は他の賊を捕らえるのに協力してくれました、近辺の賊は間違いなく壊滅しました……『罪には罰を、功には褒美を』と言います」
「メイリー、言いたいことはわかる、シンギを兵として雇えって事だろ? でもそんな事したらオーシャンは賊も兵にするって思われるぞ? 民から不満も出てくるぞ?」
「ええ、ですので雇うのではなく、強制労働として兵の仕事をさせれば良いのです」
「……それってアリなのか?」
「はい、普通の兵と違うのは給金が強制労働の囚人と同程度なのと、どんなに功を挙げても出世せず、死ぬまで一兵士のままって所です」
「…………うーん」
それなら……一応皆納得するか?
いや、納得させないといけないか
「よし、ならシンギ! 死罪と強制労働、どちらかを選ばせてやる! 死罪なら直ぐに終わるが……強制労働は今メイリーが言ったことに追加して……名誉も何も与えない事にする……お前が罪人としてずっと指を指されて生きていくことになる……どっちにする?」
「労働を受けます……兵士として戦います」
即決かよ……
「わかった! なら兵士として強制労働の刑だ、他の者の指示をしっかりと聞くように! もし軍規違反や問題を起こしてみろ! その時は容赦なく死罪だからな!!」
「ははっ!!」
「はい解散!!」
こうして、一応赤い馬の問題と、賊の問題は解決した
……大丈夫だよな?