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第246話 鍛冶屋の看板娘

 ーーーライアン視点ーーー



 俺は医務室を出て、城を出る


 大将達にバールの事を報告しておくか悩んだが、奴等は既に地下牢だし、今はレリスとの話し合いの最中だろうし

 ルミルの事も含めて、兵士が報告するだろうと判断した

 ……報告書とか書くのめんどくさいしな


 それに、看板娘にナイフの研磨を頼んでいるし……店に向かうことにした



 ・・・・・・・・


 そんな訳で鍛冶屋の前まで着いた


「んっ? 店閉まってんのか?」


 扉の側には閉店と書かれた看板が立てられていた


「時間的にはまだ開いてると思ったんだが……」


 俺は窓から中を見てみる

 看板娘が閉店作業をしているのが見えた

 あ、俺のナイフ、台の上に置いてるな


『……! !!』


 看板娘が俺に気付いた

 そして手招きをする


 なんだ? 扉に鍵は掛けてなかったのか?


 俺は扉に手を掛ける、普通に開いたから中に入る


「今日は閉店したんじゃないのか?」

「うん! 親方が作業が終わったから今日は閉めるって!」

「それなのに俺が入って良いのか?」

「ライアンさんはナイフの事があるからね、すぐに研ぐから待っててね!」


 片付けが終わったのか、看板娘は道具を奥から持ってきた

 なんだこれ? 椅子の少し前になんかついてるぞ?

 あと歯車がなんかゴチャゴチャついてるし……上には……これ砥石か?


「なんだこれ?」


 俺が聞くと


「研磨用の道具、前に親方が作ったの」

「あのおっさん、こんなのも作るのか?」

「なんか閃いたんだって……ここに座って」


 看板娘が椅子に座る

 そして、足を前に出し、何かの上に乗せる


「これ何?」

「ペダル」

「ペダル?」


 聞き覚えのない単語だな……


「これをこうやって漕ぐとね」


 看板娘がペダルを漕ぐ……

 すると歯車が回りだし、他の歯車も回りだし

 最終的に、看板娘の目の前にある砥石が、看板娘の手前から奥に向かって回り始めた


「へぇ、原理はわからんが、こんな風に使うのか」

「そうそう、漕ぐ速さで砥石の速度も調整できるんだ」


 看板娘が袋を被る……そしてナイフを持ち、砥石に当てていく


 キュィィィィン!!


 火花が散る


「おお、派手だな」

「んー」


 集中してるのか返事が少し適当だ

 終わるまで、そっとしておこう



 ……暇だし、飾ってる商品でも眺めるか



 鍛冶屋だからか剣やら盾やら置いている

 てか種類多くないか? 槍とか斧とか鎧とか

 鍛冶屋って普通作るだけで、売買は武器屋とかに任せるよな?

 他の町とかだとそうだった

 拘りでもあるのか?


 てか、ここって親方のおっさんと看板娘の2人だけだよな?

 俺、他の店員を見たことがないぞ?


「確か、看板娘はまだ鍛冶を任されてなかったんだっけ?」


 前、そう言っていた

 てことは、全部おっさんが作ってるのか……


「ライアンさん、いい加減あたしの名前を覚えてよ」


 看板娘がナイフを眺めながら言う


「俺、お前の名前を聞いたこと無いんだが?」

「あれ? そうでしたっけ? キュウですよ」


 そう言うと、看板娘……キュウはナイフの反対側を研ぎ始めた


「キュウね、覚えた覚えた」


 俺は飾られてる商品に視線を戻す


「おっ、このナイフ良いなぁ」


 解体用のナイフが目に入る

 狩りをした後、獲物を捌くときに重宝するんだよな

 まあ、すぐに切れ味が悪くなるが……


「へぇ、柄の部分の棒を抜いたら、刃が取れるのか……そして、柄の中に別の刃があると……」


 ひっくり返して、切れ味が落ちた方の刃を仕舞って、新しい刃でまた捌けるっと

 お、向きも変えれるのか! 良いねぇ、持ち方を変えれば良いだろって話になるが、それじゃなんか違うって感覚があるからなぁ……刃の向きを変えれるのは俺的には嬉しい機能だ


 ……これ買おうかな


「ライアンさんって左利きなんですか?」


 キュウが刃を眺めて、布で刃を拭いてから、ナイフを鞘に仕舞う


「ああ、元々はな、親父に鍛えられて、右手でも普通に戦えるけどな」


 キュウからナイフを受け取りながら答える

 俺は研磨の代金を払おうとしたら


「あ、お代は良いです、さっき助けてくれたお礼って事で」

「そうか? 気にしなくて良いんだぞ? 民を守るのは当たり前の事なんだし」

「いやいや、それでもですよ、格好から見て、ライアンさん今日は休みでしょ? なら私と同じ、オーシャンの民の1人ですし」

「って言われてもなぁ……」

「なんだったら私の事を好きにしても良いんですよ? 命の恩人なんですから」


 きゃ♪ とか良いながら言うキュウ

 あー、まあ、うん


「そう言うことを気軽に言うな、お前は確かに魅力的だがな」


 身体つきで言うと、胸とかでかいし、力仕事で鍛えられてるからか、細身でもしっかり肉がつくべき所はついてるし

 あの、作業着姿は妙に色気があるし

 普通なら興奮するような話なのかもな


「えっ? 本当に好きにします? ライアンさんなら良いですけど?」

「悪いな、俺の好みじゃないんでね、未来の伴侶の為に大事にしとけ」

「はーい」


 とまあ、ふざけた会話はここまでにして


「んで、閉店したところ悪いけど、これ買わせてもらえないか?」

「お、解体用のナイフですね! 毎度!」


 俺はナイフを購入してから、店を出た

 扉を閉めて、数歩進んだ時に、後ろから鍵を閉める音が聞こえてから、俺は屋敷に帰る事にした



「っと、ついでに晩飯を済ませるか?」


 気付いたら夕方だった


「んっ? ライアンか?」

「おっ、レルガ」


 訓練を終えたのか、軽装のレルガと会った


「お前なぁ、俺の方が目上なんだ、口の聞き方に気を付けろ」

「おっと、すんません」


 大将と奥方以外への敬語ってまだ慣れないんだよなぁ


「はぁ、まあいい……どっか行ってたのか?」

「あぁ、ちょっと鍛冶屋に」

「この先だと……彼処か」


 レルガはここからギリギリ見える鍛冶屋を見る


「そうそう、あっ、今日はもう閉店してるから、用事があるなら明日にした方が良いぞ?」

「特に用は無い」


 あっそ


「んで? 俺に何か用があるのか?」

「いや、見かけたから声を掛けただけだ、今からどうするんだ?」

「晩飯食ってから帰ろうかとね」

「そうか、お前もか、なら一緒にどうだ? 奢るぞ?」

「マジで? うっす先輩! ゴチになります!」

「調子の良いやつだな、ほらついてこい、お勧めの飯屋を紹介してやる」


 そんな訳でレルガのお勧めの飯屋で晩飯を済ませた

 いや~流石将軍、良い店知ってるなぁ

 安くて量が多くて美味い、俺も彼処に通ってみるかね


 レルガとは簡単に話をした

 思えば、レルガとゆっくり話すのは初めてだったな

 俺は村に居た頃の親父の話を、レルガはレルガから見た親父の話をした

 後はさっき買ったナイフの話しとかしたな


 ……てか、よく考えたら、俺、あの人を初対面でぶん投げてんだよなぁ

 その時の事を謝ってなかったな……


 今度会ったら謝っとくか


 そう考えて、俺は屋敷に帰った



 ・・・・・・・・・


 ーーーキュウ視点ーーー


 親方と晩御飯を食べて、親方が風呂に入ってる間に、片付けを終わらせる


「んー! 今日も働いたなぁ!」


 私は身体を伸ばしながら呟く


 コンコン


「んっ?」


 裏口の扉がノックされる

 誰だろ?

 外はもう真っ暗……こんな時間に人が訪ねてくるなんて滅多に無い


「…………」


 ふと昼間の事を思い出す

 人攫いの連中……全員捕まえた筈だけど……もしかしたら逃げ切った仲間がいたのかも……


 コンコン


「どうしよう……」


 親方は今お風呂だし……な、何か武器を持って……いや、居留守しちゃおう!


『そこに居るのはわかってる、悪いが開けてくれないか?』

「っ!?」


 扉の向こうから声をかけられた

 どうする? 居るのバレてる!?


『あー、警戒してるんだな? まあ夜中だしな……その方が都合が良いかと思ったんだが……』


 やっぱり人攫いの仲間だ!!


『俺はカイト・オーシャン様に仕えてるレルガって者だ、せめて応答はしてくれないか?』

「うぇ?」


 レルガって……将軍の?

 ほ、本当に?


「ほ、本当にレルガ将軍ですか?」

『お、その声は店員の子だな、ああ、本当にレルガ将軍だ……まぁ、証拠を見せろって言われたら……顔を見せるくらいしか出来ないが……』

「そ、その将軍様がなんの用ですか? 納めた武器に不備でもありましたか?」


 扉越しに話す


『いや、武器の品質に問題は全くない、今日訪ねたのは俺の個人的な用だ』

「…………」

『親方を呼んでくれないか? レルガが訪ねてきたと伝えて欲しい』

「えっと……」


 ど、どうしよう……

 そう悩んでいたら


「…………」


 親方がやって来た

 風呂上がりの寝間着姿だ


「お、親方……」


 私は小声で親方に伝えようとする


『ん、気配が増えたな……おい、居るんだろ? 俺だ、レルガだ……久し振りに話さないか? なぁ……『メシルーク』!!』


「……はぁ」


 親方が溜め息を吐く


「キュウ、風呂行ってこい、んでさっさと寝てろ」

「えっ、でも」

「さっさとしろ」

「は、はい!」


 私はその場を離れる

 風呂場に向かい時に後ろを振り向くと

 親方が扉を開けて、レルガ将軍を中に入れた所が見えた



 ・・・・・・・・・


 ーーーレルガ視点ーーー


 なんで今まで気付かなかったかなぁ


 俺は椅子に座る

 向かい側にメシルークが座る


「何故わかった?」


 メシルークが聞いてくる


「さっき、ライアンに会ってな……アイツの持ってたナイフが、昔お前が俺に話したナイフの特徴そのまんまでな」

「…………」


 メシルークは頭を抱えた


 メシルーク……俺やボゾゾと同じ……一度はカイト様を見放した元オーシャンの将だ


「……俺を捕らえるか?」

「何故だ?」


 メシルークが俺を睨む


「カイト様を裏切った男だ……」

「それなら俺やボゾゾも同じだ」

「お前達は戻っただろ……俺は……」

「メシルーク、カイト様はそんな事を気にしていない、寧ろ心配していたぞ?」

「…………」


 黙り込むメシルーク


「俺が聞きたいのは、何故カイト様に会わないかだ、俺やボゾゾが戻ってるのは知っていただろ? お前だけ罪に問われるなんて事がないのはわかってただろ?」

「……どの面をして会えと言うんだ?」

「なに?」

「お前やボゾゾは、まだオーシャンが小さい頃に戻った、オーシャンの東方統一に貢献した! 俺はどうだ! 隠れて剣を打っていただけだ!! そんな奴がどう会えと言う!!」

「だから、ずっとこそこそしてたのか?」

「ああそうだよ! カイト様に合わせる顔がないんだよ!」

「……気持ちがわかるが、いつまでも隠せる事じゃないだろ? この都に住んでるなら、いつかバレるんだぞ?」

「…………」

「お前、迷ってるのか?」

「……はぁ」


 メシルークは溜め息を吐く


「俺も……よくわからん」

「…………」


 メシルークは呟くように話す

 カイト様の元を離れてから、オーシャンの都に来るまでの事を


 実家に帰ったメシルークは、稼業の鍛冶に専念していた

 元々、軍に入る前も鍛冶をしていたメシルークは、すぐに親方に腕を認められた

 しかし、実家は彼の兄が継ぐことが決まっていた

 メシルークもそれには納得していた、そのまま、兄の元で働くつもりだったらしい


 しかし、ある日、あの娘、キュウと出会った

 親に捨てられたのか、出会った時の彼女は死にかけだったらしい

 メシルークは彼女を保護した、そして、幼い彼女が自立できるまで、面倒をみようと考えていた


「だが、兄貴はそれを認めなかった……」

「他種族を認めない思想だったのか?」

「あぁ……死にかけていたキュウを殺そうとしやがった……」


 メシルークを兄を殴り倒した

 その事を彼の両親や職人達が責めたそうだ


「肌の色が違う、耳が尖っている、それだけの理由で……死にかけの子供を殺そうとした」

「だから、実家を離れた訳か……」

「ああ、幸い、俺の鍛冶の腕は親父や兄貴よりも上だったから、他の村で仕事にありつけた」


 その後、暫くは滞在した村で働きながら、食い扶持を稼いでいたそうだ


「それで、この都の話を聞いて……店を持つことにした」

「金はどうしたんだ?」

「稼いだ分と、持っていた物を売って何とかな」

「……それで? その後は?」

「ああ、ここで暮らし始めて半年くらい経った頃か……レリスがやって来てな」

「レリスはお前を見付けていたのか?」


 アイツ……隠してたのか?


「アイツを責めないでくれ、俺が黙ってくれと頼んだんだ……」


『わかった、貴方の意思を尊重しましょう……いつかカイト様に会ってください』


 そう言ってから、レリスはメシルークに仕事を頼んだらしい

 オーシャン軍の装備の一部をここで造るように


「そのお蔭で、不自由なく暮らせている」

「そっか…………なぁ、カイト様に会わないか? お前の今までの話を聞いたら、カイト様はお前を普通に褒めると思うぞ?」


 責められる可能性は元々無かったが

 メシルークの事情を聞いたら、寧ろ讃えてくれるだろ?


「……いや、それは無理だ」

「まだ悩むのか?」

「違う……そうじゃない、合わせる顔がないんだ」

「それはさっき聞いた……だから」

「違うんだ!」

「!?」


 メシルークは項垂れる


「さっき言ったよな? 兄貴達がキュウを殺そうとしたって」

「? ああ……」

「その時の兄貴達を見てな……重なったんだよ……弱ってるカイト様を見捨てたあの頃の俺が……恩義のあるオーシャンを見捨てた俺が!」


 ダン!

 メシルークが机を殴る


「その時……俺は自分のやった事を理解したんだ……俺はただのクソヤロウだ……」

「……それは違うだろ? お前はあの娘を助けたんだろ? そして、間接的に今もオーシャンを支えている、そんなお前が……」

「いや、どうだろうなぁ……俺は、キュウを放っておけなくって育てていた……実の娘の様に想っている……鍛冶の方も……支えになりたくてやっている……そのつもりだ……」


 メシルークは俺を見る

 力が無い瞳で俺を見る


「だが、もしかしたら……それは俺が昔の俺を否定したくてやってるのかも知れない……罪滅ぼしのつもりでやっているのかも知れない……ずっとそう考えてしまうんだ……」

「…………」



 自己嫌悪から自分を追い詰めてるのか……

 それは違う、お前は立派だ

 そう言うのは簡単だ……だが……

 それを聞かされた俺は何も言えなくなった


 メシルークの気持ちがわかるからだ


 俺も、オーシャン戻ってからはずっと同じ様に自分を責めていた

 そんな俺を救ってくれたのは…………やはりカイト様だった

 パストーレとの戦でトルリでの出来事……

 あれが有ったから俺は前を向くことが出来た……



「………わかった、メシルーク、もう会えとは言わない、いつか……いつかお前が前を向けた時に……」

「…………」


 今のメシルークには何を言っても届かない

 無理矢理カイト様と会わせるのは逆効果だ

 ……そうか、だからレリスは隠していたのか


「邪魔したな……また会いに来る、次は酒でも持ってくるから、飲もう」

「ああ、歓迎する……」


 俺は裏口から出ていった


「…………はぁ」


 俺は暗い気持ちのまま、帰路についた



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