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第244話 ライアンの回想

 ーーーライアン視点ーーー


 昼時だった


「そんな訳で、今日はもう休んでてくれ」

「……えっ?」


 玉座の間で、大将に言われる


「なんだ? 聞いてなかったのか? 今日はもう謁見も無いし、俺はこれからレリスと打ち合わせをするから、護衛はもう大丈夫だ」

「あ~了解」


 打ち合わせは、執務室とか応接室でやるんだろうな

 それなら、兵士達も居るし、何かあってもレリスが対処するだろうし……

 んじゃ、俺はこれで今日は仕事上がりだな


「あ、そうそう、10日後くらいにカイナスの方に行くから、身支度を済ませておいてくれ、少人数で行くつもりだから、必要な物をしっかりと用意しておくんだぞ?」

「必要な物ねぇ……」


 干し肉とかの携帯食くらいか?

 あ、髭剃り用のナイフがそろそろ切れ味が落ちていたか……

 ついでに何か買っておくか


「了解、今から早速用意しておきますよ」

「ああ、じゃあ今日はお疲れ様、ゆっくり休んでてくれ」


 そう言って、大将はレリスと一緒に玉座の間から出ていった

 俺は大将を見送ってから、玉座の間から退室した



 ・・・・・・・・


 このまま買い物に出ても良かったが……

 レリスから『お前の行動が、カイト様の名に傷をつける事もあるって事を肝に銘じておけよ?』

 なんて喧しく言われてるからな……


「鎧姿じゃあ駄目だよな……ナイフも回収したいし、帰って着替えるか」


 そんな訳で屋敷に戻って、鎧を脱ぎ、私服に着替える


「……少し埃っぽいか? 帰ったら掃除するか」


 俺は部屋を見渡してから呟く

 使用人とかを雇ってないから、屋敷は少し埃が積もってる

 自室や玄関とか、良く使う所は掃除してるが……

 客室やら応接室は全然使わないからな……

 大掃除するか?


「使用人を雇った方が良いとは言われてるが……なんか嫌なんだよな……」


 金はある

 親父が遺した物や、村から出る時にお袋が渡してくれた金

 大将の護衛として貰ってる給金

 必要な分しか使ってないから、ドンドン貯まっていってる


 だから、使用人を2人か3人は雇えるくらい金はある


「でも、俺はそんな偉そうな事を出来る奴じゃ無いしな」


 今の大将の護衛って立場は……ハッキリ言って親父の七光りだと思ってる

 ……自分の実力を否定するつもりはないが、大した事をしてないのも事実だ


 戦に出た事もない、名のある敵を倒した訳でもない

 そんな奴が使用人を雇って偉そうに指示を出すのはおかしいだろ?


「…………てか、未だに人を殺してない奴がなに言ってんだって話か」


 殺したい訳ではない

 だが、軍に入って戦う事を選んだ

 人を殺す覚悟は出来ているつもりだ


 その時がきたら、躊躇いなく……殺せる……筈だ


「あ~、最近平和だからか、こんな事ばかり考えてらぁ」


 はぁ…………


「……『化物』ねぇ」


 俺は自室を出て、別の部屋に向かう

 扉を開け、中を見る


「…………」


 そこは親父が使っていた部屋だ

 親父が使っていた当時のまま、家具を置いている部屋だ


「…………」


 ・・・・・


 昔、1度だけ、親父が生きている時に来たことがある


 親父の部下だった『シュル』がお袋宛に親父の手紙を届けてきた


 その手紙には、親父の命が長くない事、もう村に帰ってくるのは無理なこと

 それとお袋への愛の言葉が書かれていた


 それを読んだお袋は静かに泣いていた

 それから1年程、時間が掛かったが旅支度をして、俺とお袋はオーシャンへ向かった


 そして、親父と再会した


『おお、セリナ、ライアン……来てくれたのか……』


 ベッドに腰掛けていた親父は立ち上がると、俺とお袋を抱き締めた


『貴方……身体の調子はどう? ちゃんと休めているの?』


 お袋が色々と親父に聞いていく

 親父は嬉しそうに答えていた


『…………ライアン』

『なんだよ……んな顔すんなよ……』

『すまないな……』

『なに謝ってんだよ……』


 俺は……当時はわからなかったが、今ならわかる

 親父の姿を見て、凹んでいた

 俺の知ってる親父は……ジジイだったが、たくましくて……力強く、覇気があった

 その時の親父は……とても弱々しく見えた


『ライアン、鍛練を続けてる様だな……逞しくなった』

『……親父は、弱ったな』

『ライアン!』


 お袋が俺に怒鳴る


『ははは! そうだな! ワシも老いた! だが……まだ生きていくつもりだ!』

『…………』


 無理をしてるのは俺でもわかった


『親父、俺は都を見てくる』

『そうか、ならワシも一緒に行こう! 家族で廻ろう!』

『いや、親父はお袋と過ごしてろよ、夫婦水入らずの時間を過ごせって』


 俺はそう言って、さっさと部屋を出ようとして


『まだくたばるんじゃねえぞ? 俺はまだ……あんたを越えてないんだからな!!』


 そう言って屋敷を出た


『……宿でもとるかな』


 親父は屋敷に泊まれと言うだろうが……

 そんな気分にはなれなかった


 宿屋『パンプキン』で部屋を取る

 そして、オーシャンの都を見て廻る



『でけぇな……』


 あちこちと見てみたが……親父の事で頭がいっぱいで……この時の事はあまり覚えていない


 たまたま入った飯屋で、他の客が親父の事を讃えていたのを覚えてはいるがな


『オルベリンは最高の将だ!』

『オーシャンの守護神だ!』

『流石化物だ!』


『…………』


 イラついた

 お前達が親父の何を知っているんだ?

 お前達がそんな風に期待するから……俺達は親父と離れて生きてきたんだぞ?


 そんな事が頭に浮かんでいた


 イライラしながら飯屋を出たところで……


『いっでぇぇぇぇぇ!! 腕が折れたぁぁぁぁぁ!!』


 女性に因縁をつけてる奴等がいた……

 俺はそいつをぶっとばした

 完全に八つ当たりだな


 その夜に、宿屋に襲撃してきたから、全員ぶっ飛ばしたんだよな……


 それから、お袋と村に帰って

 …………親父の訃報が届いた


 親父の葬式……お袋はオーシャンに向かった

 俺は断って、村に残った


 1人で過ごして……

 自室で泣いていた


 親父と一緒に過ごせた日数は少ない……

 それでも、親父は俺とお袋を愛してくれたのはわかっていた


『親父……あんたにとって、オーシャンってのはそこまで大事だったんだよな?』

 家族よりも……


『カイト・オーシャンか……』


 この時の俺は、大将の事を良く思ってはいなかった

 てか思いっきり嫉妬してた


 暫くして、お袋が帰ってきて、親父の遺骨はヘイナスに埋葬されると聞かされた


 俺は、墓参りくらいはしようと思って……ヘイナスに1人で向かった


 ヘイナスで、親父の墓を前にして……俺はただ立ってることしか出来なかった


『…………』


 1人の男が俺を見ていた

 今思えば、あれはアルスだったな


『……何か用か?』

『……いや……別に』


 アルスは墓地を後にした


『……親父、俺には、まだわからねえよ……』


 ・・・・・・・・・



「さてと」


 俺は身支度を終わらせて、屋敷を出る

 先ずは鍛冶屋で、ナイフの研磨……その後は適当に買い物でもするかな


 都を歩く


「…………」


 思えば、あの時はこうなるって思ってなかったな


 ・・・・・・・


『……負けたのか、カイト・オーシャンは』


 オーシャン軍が西方に負けた話は、すぐに広まってきた

 そんな時に……シュルが親父の最後の手紙を届けてくれた


『…………』


 俺はそれを読んで……決意した

 カイト・オーシャンに会ってみよう

 ふざけた奴だったら……ぶっ飛ばしてやろう


 お袋は俺の旅立ちに反対しなかった


『ライアン……元気でいるのよ? お母さんより先に死ぬなんて事……許さないからね?』

『わかってる……じゃあ、気が向いたら手紙でも出すよ』

『手紙よりも顔を見せなさい』

『はいはい、行ってくる』


 そして、俺はオーシャンに向かった


 時間は掛かったが、オーシャンにたどり着いて、城に向かった


『止まれ!!』


 城に入ろうとしたら、兵士に止められた


『貴様は何者だ!』

『あー、旅人』

『なんの用だ!』

『カイト・オーシャンに会いに来た』

『話を通しているのか!』

『いや何も……通してくれないか?』

『通すわけないだろ!!』

『……なら仕方ない、無理矢理通るか』


 どうせ、カイト・オーシャンを殴ったら逃げるんだ

 俺はそう思って、兵士達をぶっ飛ばしながら、玉座の間に向かった

 何度か道に迷ったが、何とか玉座の間にたどり着いた


 止めようとした兵士を投げて、扉を殴ってぶっ壊して


『ここが玉座だな? んで……お前がカイト・オーシャンだな?』


 ・・・・・・・


 初めて大将を見た時は……優男って印象だったな

 弱そうで、こんな奴に親父は尽くしたのかってイラついた


 俺は大将に斬りかかったが……大将は全く動じなかった


「あの時の大将の眼は……凄まじかったな……」


 俺が、大将を斬らないって確信してた

 初対面だぞ?

 そんな奴にあんな信頼したような視線を向けるか?

 んで、速攻で親父の身内だって気付いたしな……流石に息子ってのには驚いていたが


「だからって、普通斬りかかった男を雇うかね……」


 でも、一番驚いたのは……


「いつの間にか……大将への怒りが鎮まってたんだよな」


 だから、俺も大将の誘いに乗った……


「…………」


 なぁ、親父……いつか、親父の気持ちが、俺にもわかるんだろうかね?




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