第243話 国宝について
アルスがパルンから帰ってくる少し前の事
ーーーカイト視点ーーー
俺は執務室に向かっていた
普通に、報告書等の書類が一気にきたってのも理由の1つだが
これから、2人の人物と話し合いをするからだ
密談……になるのか?
まあ、あまり他人には聞かせたくない内容だからな
どこから情報がもれるかわからないから、警戒して応接室ではなく、俺の執務室で会うことにした
そして、執務室に到着した訳だが……
ノックするべきか?
人が居るってわかってるから、普通はノックするのが礼儀だが……
俺の執務室出しな……部屋の主人が自室に入るのにノックするのもおかしいよな?
密談の相手が女性なら、万が一のトラブルを避けるために、ノックをするが
2人共、男性だしな……あ、ヤンユがもてなしてるから女性も居るって事で良いのか?
……こうやって考えてても埒があかないか
これ以上待たせるのも悪いし、さっさと入るか
俺は扉を開けて、執務室に入る
「すまない、待たせたよな?」
「いえいえ、普段忙しなく動いてるので、久し振りに穏やかな時間を過ごせましたよ」
俺が謝りながら入ると、少し太った男性が椅子から立ち上がり、微笑みながら答えた
「私も、寛がせてもらいました、この焼菓子も絶品ですね」
もう1人の獣人がそう言って菓子をつまむ
そして、ヤンユが2人のカップに紅茶を注いで、俺の分の紅茶も用意する
「それは良かった」
俺は椅子に座る
目の前の円卓に、紅茶が置かれる
そして、俺から見て左側に太った男性が、右側に獣人の男性が座る
「さてと、もう自己紹介をすまされてるかも知れませんが……改めて、俺の方から紹介させてもらっても?」
俺が聞くと、2人が『どうぞ』と頷く
「では、彼から紹介しましょう」
俺は右側に座る獣人……シャンバルを手で指して
太った男性に紹介する
「彼はシャンバル、他の大陸の品を売ってくれてる商人です」
「改めまして、シャンバルです」
シャンバルが礼をする
男性も礼を返す
「そして、シャンバル、こちらが『ブラスイン』、カールサルス商会の当主だ……このノースブリード大陸で様々な商売をしている方だ」
「ええ、カールサルス商会の方とは、良い取引をしていただいていますよ」
「貴殿方の品は珍しいですからね、良い取引相手です」
なんだ、顔を繋ごうと思ってたが……もう商売での繋がりは出来ていたか……
「それで、カイト殿、何故我々を呼び出したので?」
ブラスインが聞いてくる
「1つは2人をお互いに紹介しておこうと思ってね……シャンバルが滞在してる時に、運良くブラスイン殿が都に来ていると聞いて、絶好の機会と判断しました」
「1つは……ということは他にも理由がありそうですね?」
シャンバルとブラスイン……2人の視線が突き刺さってくる
「ええ、レムレ! 入ってくれ!」
「失礼します!」
俺は、執務室の外で待機させていたレムレを呼ぶ
レムレが、俺達の側に来て……
「こちらです」
竜の弓を2人に見せる
「これは……」
「ふむ……」
シャンバルが少し眼を見開き
ブラスインは竜の弓をジーと見つめる
「これは、レムレがブライから譲り受けた物だ……何かわかるか?」
「普通の弓とは違いますね……」
ブラスインが弓の弦を触って言う
「……国宝、ですね」
シャンバルが答える
「シャンバルは国宝を知っていたのか?」
「他の大陸で、似た雰囲気の武具を見たことがあります」
「ほぉ、これが噂の国宝……成る程」
ブラスインは竜の弓を持って見ようと、レムレから受け取ろうとしたが……
持ち上げようもして、重たいと感じたのか、持つのを諦めた
「ふむふむ」
「ほうほう」
シャンバルとブラスイン、2人が竜の弓をじっくりと観察する
レムレは少し居心地が悪そうだ
さて、2人が竜の弓に夢中の間に、国宝について整理しておくか……
国宝は様々な品がある
武具だったり、骨董品だったり、馬だったり
ゲームでは、武力、知性、内政、カリスマ、各々のパラメーターに+の補正を与える道具だ
そして等級も存在する
下から
10等級
9等級
8等級
7等級
6等級
5等級
4等級
3等級
2等級
準1等級
1等級
の11段階だ
1等級は八龍から作られた『龍神器』だ
その下の準1等級の品も、凄まじい性能を持っている
パラメーターで言うなら+30とかな?
まぁ、それはゲームでの話だ……
実際に、レムレに竜の弓の威力を見せてもらった
あの時はビックリしたな……普通じゃ絶対に届かない距離でも、矢が届くんだから……
眼が、異常なレベルで良いレムレには最高の武器だろうな
さて、そんな竜の弓の等級は……
5等級だ
国宝は6等級以下は、同じ物が複数存在する物もあるが……
5等級以上は、1個しか存在してない
オンリーワンだ……何か違うか?
そんな5等級の竜の弓であの威力……これ以上が存在してるのは脅威だ
だから、出来る限り、手に入れたい
もしくは、どこにあるのか、誰が持ってるのかを把握しておきたい
出来る限りの警戒はしておきたいからな
「成る程、これ程の物なら、国宝と呼ばれるのも納得できますな」
ブラスインが手に取ろうとして、重くて持てなかったのか、諦めてから言った
「いくつか心当たりがありますゆえ、少し探っておきましょう」
ブラスインはそう言うと、紅茶を啜った
「ふむ、見事な弓だな……レムレになら使いこなせそうだ」
シャンバルはそう言って、竜の弓をレムレに渡した
「私の方も、探しておきましょう……手に入れたら真っ先にお知らせしますよ」
シャンバルは微笑む
「ああ、2人共、頼りにさせてもらうよ」
俺はそう言って、レムレに『もう大丈夫』だと伝える
レムレは退室して、ヤンユが紅茶のおかわりを用意するために退室する
俺とシャンバル、ブラスインの3人だけになる
「さてと、2人の用件を聞かせてもらえるか?」
俺はシャンバルとブラスインを見る
さっきまでのは、俺の用件だった
それだけの為に、多忙な2人がこうして留まるわけがない
シャンバルもブラスインも……何か俺に用がある筈だ
今は3人だけだから、話してもいい筈だが……
「では私から……」
ブラスインが俺を見る
「カイト殿、近々エーリス家にてパーティーがひらかれるのですが……それに出席して頂けませんか?」
「エーリス家? ……あぁ、彼か」
エーリス家、カイナス地方に住む貴族だ
一度だけ会った事があるが……俺、ああいうの苦手なんだよな
何て言うか……欲望に忠実と言うか……
仲良くなれそうにないと感じたんだよな
「何故ブラスイン殿が誘うので? 普通はエーリス家から招待状を出すものでは?」
「多忙なカイト殿を確実に招くには、私を頼るしかないと考えたそうで……私も彼には商売で借りがありますので……申し訳ありませんが、私の顔を立ててくれませんか?」
「…………」
正直行きたくない
めんどくさい
おもいっきり断りたい……
でも……
「まあ、これからもブラスイン殿とは良い関係を維持したいですからね、構いませんよ」
カールサルス商会を敵に回したくはないんだよなぁ
全く……断れないってわかってて言うんだから……
そう言うところがあるから、ある意味信用できるんだよな
「では、私の用は済みましたので……シャンバル殿」
「これはこれは……では失礼して」
シャンバルが俺を見る
「カイト様、シャルスを暫く私に預けてもらえませんか?」
「シャルスを?」
どうしたの?
「どうやら、伸び悩んでるそうで……獣族としての訓練をやらせてみようかと……」
「あぁ、成る程な」
人と獣人は身体の構造が違う
似ているが……やはり鍛え方とかは違うみたいだ
「構わないよ、シャルスもたまには里帰りとかするべきでもあるし……暫くってどれくらい?」
「1年ですね」
「っこふ!?」
1年!?
1ヶ月とかじゃなくてか!?
「随分と長くないか?」
「えぇ、長くなります……しかし、その1年で……全てを叩き込もうと思いますので……」
「帰ってきた時……シャルスはもっと強くなってるって事か?」
「はい、確実に」
「そっか……なら許可する、皆には俺から伝えておくよ」
「ありがとうございます、それともう1つ……これは頼みでは無いのですが……」
「?」
どうしたんだ?
「近々、ジュラハルから仕入れている商品が少なくなるか、高騰するのを伝えておこうかと」
「ジュラハルの商品が?」
醤油とか?
「何かあったのか?」
俺が聞くとシャンバルは前のめりになりながら、俺とブラスインに近付くように合図する
俺達は顔を近付ける
「ジュラハルの『アズマ』と『テンマ』が決着をつけようとしています」
「アズマとテンマ?」
ブラスインが顔をしかめる
「シャンバル、アズマとテンマの事を簡単に説明してくれないか?」
「テンマはジュラハル大陸のほぼ全てを制圧している領です……規模はヤークレンと同等か、それ以上かと」
「アズマは?」
「ほんの僅かな領地しか持ってない領です」
「それは……もうテンマが勝つのでは?」
ブラスインが聞く
「そう思いますよね? しかし、実際は拮抗しているんですよ」
「何でだ?」
俺が聞くと……
「アズマは全ての四神を仲間にしているのです……オルベリン殿と同等の実力者が4人居ると思ってください」
シャンバルがブラスインを見ながら言う
「なんと!? オルベリン殿と同等!?」
四神……確かに強い連中だが……
オルベリンの方が強いから!!
「それじゃあ、戦いが長引く可能性があるわけだ……」
「そうなると、商人も外様に売るのは厳しくなるので……」
よそ者よりも身内って事か
「わかった、皆にも商品の事だけを伝えておこう」
そして必要なものは多めに仕入れておこう……
醤油とか醤油とか醤油とかな!!
そんな感じで話が進み
ヤンユが紅茶のおかわりを注いで、ひと息ついたところで解散した
その後、帰ってきたアルスと模擬戦をして……
ボコボコにされたのだった……