第239話 アルスの成長・切欠
パルンに到着してから3日が経過した
スーは城下にある宿屋に、見張りをつけて泊まっている
流石に城に泊めるわけにはいかないからね
ついでに、僕も同じ宿屋に泊まってる
テリアンヌやメルノユには、城に泊まるのを勧められたけど……
遠慮しておいた
テリアンヌやマーレスは里帰りが目的なんだから、僕の事はあんまり気にしなくて良いのに……
それはそれとして……
「なんで、スーは当たり前のように僕の部屋に来てるの?」
「暇だから♪」
この3日間、ずっと付きまとわれてる……
僕が出掛けると、一緒に来るし
かといって、飯屋に入ったら相席はせずに、別の席に座るし
何がしたいんだ?
「それで? アルスはさっきから何してるんだい?」
「……鍛練」
身体も大分回復したし、簡単な鍛練を始めてる
このまま、何もしなかったら鈍っちゃうからね
「ほぉほぉ、それならアルスは左側をもう少し鍛えたら?」
「……はっ?」
スーは得意気に言う
「刀を使ってるんだろ? 左脚と左腕の力が右より弱いよ、重要なのは左側、利き腕とは逆の方だからね」
「……そういえば、ジュラハル出身だっけ? 詳しいの?」
「まあね♪」
そうは見えないんだけどな……
・・・・・・・・・
その後、刀の手入れをしていたら、テリアンヌがやって来た
「パルンの名所を案内しますよ!」
ここで断るのは悪いよね?
そう思ったから、案内して貰う事にした
スーも、一応誘ったけど……
「いやいや、流石に逢引の邪魔はしないさ」
「……逢引?」
なにそれ? ジュラハル大陸の言葉?
ってな訳で、僕とテリアンヌの2人でパルンの街を巡る
・・・・・・・
「ここがパルンで一番大きなお店ですよ、雑貨屋食品に調味料、色々置いてるんです」
「へぇ、珍しいね、野菜と魚、武器まで取り扱ってるの?」
行商でも、ここまで多種類を扱ってはないよ!
「おっ、塩の小瓶か……買っとこ」
「塩が好きなんですか?」
「いや、好きか嫌いかって感じじゃなくて、非常時に持ってた方が良いからね……西方から帰ってくる時に強く感じてね」
最初はそうでもなかったけど……数日も続くとキツいんだよね……
だから、今は調味料の小瓶を持ち歩いてるんだよね……
「それでしたら、こういうのもどうですか?」
「……これは?」
干し肉……じゃないよね?
「乾物です、これは海草を乾燥させた物です」
テリアンヌは乾物を1つ買って、半分にする
そして、片方を僕に渡す
「噛めば噛むほど、味が出てきて、満腹感も得られるので、非常食になりますよ」
そう言って乾物を口に運ぶ
僕も食べてみる
……固っ!?
あ、でも噛めなくはないか?
…………おお、柔らかくなってきた
……うん、干し肉と似てるかな?
味は全然違うけど……なんだろ、美味いんだけど……
っ!? 味が変わってきた!?
あ、美味しい!
「気に入ってくれました?」
「うん、いいねこれ」
小腹がすいた時とか良いかも
少し買っとくかな
「これってどれくらい持つの?」
「物によりますが……今食べたのなら半年くらいですね……あそこのは1年は持ちますよ」
テリアンヌのオススメを購入した
兄さん達への土産が出来た
・・・・・・・・
その後、パルンの人気の観光名所を巡った
前は知らなかった場所が多くて、新鮮だった
「あっ、もう夕方ですね」
「本当だ……」
空は真っ赤だ
楽しい時間は、過ぎるのが速いよね
「……良かった、アルス君、楽しんでくれたみたいですね」
「えっ?」
「最近、ずっと暗い顔をしてましたから」
「……そう?」
そう言われたら……帰ってきてから、ずっと悩んでいたなぁ……
今日は、久し振りに、楽しかった……
「……心配かけてた?」
「はい、ルミルちゃん達も気にしてましたよ?」
「そっか……戻ったら謝っとこう」
「謝るよりも、元気になってくれた方が、ずっと良いと思いますよ?」
「うっ……」
た、確かに……元気にか……うーん……
「何を悩んでるのかはわかりませんけど、相談してくれても良いんですからね? 私、これでも悩んできた経験は豊富ですから!」
そう言ってテリアンヌは胸を張る
……そういえば、彼女は領主をしてたんだよなぁ
兄さんと同じで……ずっと悩んで、苦しんで、背負っていたんだよなぁ
「そうだね、気が向いたら、相談させて貰おうかな」
「気が向いたらですか!?」
そんな風に話していたら……
ゴゴゴゴ!!
「ひゃあ!?」
「っと!」
地面が揺れた
結構大きな地震だ
バランスを崩したテリアンヌを支える
「あ、ありがとうございます」
「良いよ」
それにしても、揺れたなぁ……
建物は大丈夫みたいだけど……
「もう暗くなるし、城まで送るよ」
「ありがとうございます!」
また揺れたら危ないからね
僕はテリアンヌを城まで送る
・・・・・・・
城に到着した
中に入って、広間で別れようとした時だ
「あっ!テリアンヌ様!!」
兵士が広間に駆け込んできた
慌てている
「どうしました?」
「先程の地震で、落石が発生しました! 村の1つが落石に巻き込まれて!」
「!? 何処ですか! 直ぐに向かいます!!」
「僕も行こう、人手がいるだろ?」
「身体は大丈夫ですか?」
「無理はしないから」
「わかりました! お願いします!」
テリアンヌは兵士から落石の場所を聞き、兵を集める
その間に、メルノユにも落石の事を伝えて、必要な物を集めて
そして、村に向かった
・・・・・・・・・
「これは……」
「酷いですね」
村は悲惨だった
兵士は落石って言ってたけど、殆んど土砂だ
村の半分以上はのまれてる
「無事な人を広い場所に避難させて! その間に土砂を取り除いて、埋まってる人達を救助します!」
救助作業を始める
人手が多かったからか、作業は順調に進む
夕方で帰宅してた人が多かったのも幸いしたのか、家は潰れたが、瓦礫の隙間に入ってて、重傷だけど、命は助かったって人が多かった
今のところ、死者は見つかってない
「えっと、この村の人数は……避難した人と救助出来た人がこれだけで……」
救助を始めて、ある程度経った頃
空は真っ暗の中、テリアンヌは書類を見ながら、状況の再確認をしている
「あと2人! あと2人ですよ!!」
テリアンヌが顔を上げて叫ぶ
兵達が返事をして、救助活動を続ける
僕も土砂を取り除きながら捜す
「……うん?」
何か聞こえた?
「……ぁん……おかあさぁん!!」
「!! テリアンヌ!! 子供の声だ!!」
「本当ですか!!」
テリアンヌを呼ぶ、そして声のした方に行くと……
「おかあさぁん!!」
「うっ…………」
「!?」
子供が母親を必死に引っ張っていた
母親は両足が大岩の下敷きになっていた
「居たぞ! 子供と女性! 女性が岩の下敷きになってる!!」
僕は叫んで人を呼ぶ
数人の兵士が駆けつけてきた
テリアンヌが子供を説得して避難させる
その間に僕達で大岩を押す
『うぉおおおおおお!!』
くそ! 重い!
もっと人を呼ぶか?
「うぅ!」
女性が辛そうに呻く
ヤバい、下手に動かすと女性の足が……でも退けないと!!
もっと人を集めるか?
「それじゃあ駄目だね、岩を動かすと両足が完全に潰れるよ」
「……スー!?」
何故かスーが近くに居た
いつの間に!? てかなんでここに!?
いや、そんな事よりも!!
「じゃあ、どうしたら良いんだよ!! このままじゃ助からない!」
僕がそう言うと
「簡単簡単♪ 岩を斬れば良いんだから」
「はぁ!? ふざけてる場合じゃないんだよ!!」
「ふざけてないって、真剣だよ、てな訳で借りるよ」
「!?」
いつの間にか、スーは僕の刀を取っていた
「はい、退いた退いた!」
スーは兵士達を退ける
「おい! 何を……っ!?」
僕はスーに駆け寄ろうとした
しかし、直ぐに立ち止まった……
スーの気配が変わった
とても禍々しい……そんな気配に……
そして……
「……『閃』」
ヒュン!
風を斬る音
一瞬ぶれるスーの姿
次の瞬間に、大岩がバラバラになった
「!?」
「はい、返すね、ほらほら、呆けてないで彼女を助けないと!」
「あ、ああ、誰か! 彼女を医者に!!」
その後、救助活動を再開して、夜が明ける頃には土砂を取り除いて、生き埋めの人が残ってないかの確認が終わった
被災した村人はパルンまで輸送されて、村が復興するまで保護される事になった
「死者が居なくて、良かったと思うべきか……もっと防災対策をしておくべきだったと悔やむべきか……」
テリアンヌはパルンからの迎えの馬車の中で呟いた
泥だらけの姿から、彼女が必死に救助活動をしていたのがわかる
「取り敢えずは、死者が居ないのを喜ぼう……生きていれば何とかなるんだから」
「そう……ですね、そうしましょう! でも帰ったらお父様に村の移動を提案しなくては……」
「少しは休みなよ、疲れたでしょ?」
「そうですけど……でも…………」
「着いたら起こすから、少し眠りなよ」
「……は……い……」
テリアンヌは眠った
…………凄い子だな、民の為に、必死で……
「……君は立派な領主だよ」
僕はテリアンヌの顔についてる泥を拭った
さてと……次に気になるのはスーの事だ
いつの間にか、村から姿を消していた
……宿に戻ってるんだよな? 逃亡とかしてないよな?
「それに、あの力は……」
一瞬で岩をバラバラに斬った
岩を斬るのもとんでもないのに、更に素早い剣速……
「何者なんだよ……」
僕はそう思いながら……パルンに到着するのを待つのだった